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第40話 学習

 俺は宿屋に戻り夕食を食べて、手が空いたエルバンと話をした。

 2人して食堂のテーブルに座る。


 「パーティメンバーってなんでしょう?」


 「えらく漠然としたことを言い出すなぁ。」


 俺は今回の出来事をエルバンに話した。


 「う~ん、そりゃ、なかなか大変なクエストだったな。」


 「そうですねぇ。」


 「ただ、そのダナンっていうやつが言っているようにお前には信頼できる仲間が必要なのはたしかだ。」


 「そんなもんですか?」


 「そりゃそうさ。仲間は単に戦力というだけの存在じゃぁねぇ。冒険者の仕事をしていればこれからもいろいろ嫌なことは山ほどある。」


 「はい。」


 「そういったときに最後の最後、助け合えるのは苦楽をともにして自分のことを理解してくれる仲間だ。」


 「・・・そうですか。」


 「そうだとも。俺もいまはこうして宿屋のおやじをやってられるが、それはすべて冒険者として一緒にやってきた仲間の支えがあったからこそだ。」


 「う~ん。」


 「何も難しいことを言ってるんじゃねぇ。ただ自分と一緒の方向を見てくれる奴を探せばいいだけのことだ。」


 「そんなもんですか?」


 「そんなもんだ。まあ今回は失敗したみたいだが、しかし自分から一歩前に出なけりゃそれは得ることは出来ねぇ。」 


 「はい。」


 「まあ、これも時間をかけてじっくりやっていくしかねぇなぁ。」


 「わかりました。ありがとうございました。」


 「いいってことよ。これは先輩冒険者としての後輩へのアドバイスだ。」


 俺はエルバンとの人生相談が終わると、疲れた体を風呂で癒しその日はぐっすり寝た。



 次の日、今俺は商業地区にある古書店の前にいる。

 今回の件で俺自身に足りないもの考えたときに文字が読めないことが1つの問題だということにたどり着いた。

 パーティ加入についてゲイルに任せたのも、文字が読めないから無意識に避けた部分がある。

 今後も読み書きが出来ない場合、いろいろ不具合がでるのはわかりきっている。

 そこで、俺は読み書きが出来るようになる方法をエルバンに聞いてみた。

 それによると普通は5才~12才くらいの時分に私塾に通って読み書き計算を学ぶそうだ。

 しかし、27歳の俺が子供に混じって勉強するのはいろいろ無理がある。

 大人が学習する場合を聞いてみたが、その時分に学習していない場合は特にしないということだった。

 日常で困るだろうと思ったが、その場合は読める人に読んでもらうだけだそうだ。

 なので全体的な識字率はかなり低い。

 特に街を離れると村単位で読める人は数人程度だそうだ。

 必要性がないということも大きな理由だろう。

 そこで俺はいろいろ考えた結果次のようにした。


 1.本屋で子供用の書籍を手始めに買う

 2.羊皮紙を大量に購入する

 3.ギルドで読み書きのできる人間を雇う


 以上の方法で子供用の書籍から始めて、自分用の辞書を作ることにした。

 

 俺は本屋の中にはいると、はたきを持った頭の禿げて痩せたおっさんが黒いふちのメガネ越しにギラッとした目で俺を見る。

 

 (いや、万引きはしねぇよ!)


 俺はこころで突っ込みを入れた。

 棚にある本をザーッと見る。

 どれも年季の入った本ばかりだ。

 1冊手に取ってみて中身を見ると、中はどうも手書きで書かれているようだ。

 カバーも革張りで刺繍のような模様が入り、デザインもこっている。

 手に取る本すべて似たような感じだ。

 

 (う~ん、安そうな本がないなぁ)


 どれを見ても1つ1つ丁寧に作られていて、印刷された大量生産という感じがしない。

 俺は1つ手にとってカウンターに持っていく。


 「あのー、この本は幾らですか?」


 「・・・17500ゼニー。」

 

 「えっ!?」

 

 「17500だ!」


 「まじですか!?これそんなにするの。」

  

 剥げたおやじはチッというような表情で、値下げはせんぞという雰囲気だ。

 つまり、1冊17.5万円ということだ。

 2ヵ月近くの生活費と同じ計算になる。

 俺は適当にいろいろ本を取って値段を聞くが、どれれも10000ゼニー以上でそれ以下がない。

 

 「お前さん、さっきから適当に本をもってきて値段を聞いてくるがなんなんだ。」


 本屋のおやじは、いぶかしげに俺に聞いてきた。

 中身を確認せずに値段だけアレコレ聞いてくるので不審に思ったのだろう。

 

 「ええっと、なんといいますか・・・」

 

 「なんだ!はっきりしろ。」


 このおやじえらく短気だ。


 「よし、はっきりいいます。俺は文字を勉強する教材を探しにきたんです。」


 もうこの際恥も外聞もなく俺は言い放った。


 「・・・なら早く言え。ちょっと待ってろ!」


 おやじはそう言うと店の奥に入りガザゴゾやっていたが、しばらくして5冊の本を持って戻ってきた。


 「保証金5万ゼニーを出せば、それを1日1冊10ゼニーで貸してやる。」


 「えっ?」


 「だから、お前さん読み書きを習いたいんだろ!」

 

 「ええ、そうですが。」


 「それは、私塾で使っている子供用の物語式の学習本だ。5冊を読めるようになればある程度読み書きできる。それが終わればまた次のレベルの本を俺が選定してやる。」


 「はぁ、・・・あ、ありがとうございます。」

 

 「ふん。」


 本屋のおやじは意外に良い人だった。


 おやじの説明では保証金は本を返せば全額戻すということだった。

 ちなみに貸本は、おやじが気に入った奴だけやっているそうだ。

 俺が恥を忍んで思い切って言ったことが良かったみたいだ。

 俺は5冊の本を借りたあと、文具店で羊皮紙とペンとインクを購入しギルドに向かった。

 ギルドに入ると、ちょうどそこにはカイン達パーティがいた。

 俺はちょうどいいと思い、彼らに話しかけた。


 「なぁ、お前たちちょっと小遣い稼ぎをしないか?」


 「よう、久しぶり、兄ちゃん。なんだ?」


 「それでな、これ読めるか?」


 俺は手に持った本を見せる。


 「あ~、懐かしいな。私塾で使ったやつだ。」

 

 カインは一冊手にとって中身ぱらぱらめくる。


 「もちろん、読めるよ。」


 「良し、じゃあな1日交代制で1人半日300ゼニーでこの本を使って俺の先生にならないか?」


 「えっ、・・・そうだな。350ゼニー!」


 「良し、決まった。」


 「えっ、ホントにいいの?」


 「ああ、かまわない。お前たちなら安心できる。これからギルドに依頼を出すからお前たちがそれを受けてくれ。仕事は明日からだ。場所は俺が泊まっている宿屋だ。」


 「わかった。」

 

 カイン達の同意を得ると、俺はすぐにギルドに冒険者の依頼を作り、それをその場でカイン達が受けることになった。 

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