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第38話 おいてけぼり その4

 俺はガバッと上体を起こす。

 周囲を見回すとどうやらダンジョンの外の森の中にいるようだ。

 

 「おお、気がついたか。」


 俺に声をかけてきた人を見る。

 その人は、焚き火の前で上半身裸の状態で体をタオルで拭いていた。

 その全身は黒い毛で覆われていて、犬のような顔をしている。

 その正面に黒髪褐色肌で細身の見るからに美しい女性が本を読んでいる。

 

 「おう、状況はわかるか?」

 「ええ、なんとか。助けて頂いてありがとうございました。」

 「ああ、良いってことよ。まあ、礼はいま水汲みに出ている奴に言うことだ。右足はズダズタで体全身あちこち骨折し、更に血を流しすぎていて普通ならもうとっくに死んでいる状態だった。」

 「本当にありがとうございます。」


 再度お礼を言うと、後ろの森の中から人が歩いてくる音がする。


 「おう、怪我人が気がついたぞ。」

 「ほう、それは良かった。このまま目を覚まさないんじゃないかと思っていた。」


 水桶を持って歩いてきた男は回復職の装いをしていた。


 「今回はありがとうございました。俺はヨージといいます。バレス冒険者ギルド所属のFランク冒険者です。」


 俺は3人に何も包み隠さず自分の名前と所属を言った。


 「じゃぁ、俺たちの後輩ということだな。俺はダナン。バレス所属のAランクの戦士だ。」


 黒毛の犬の顔をした男はそう名乗った。


 「そして、あっちの女が魔法職のエルダ。そしてこっちのお前の治療をした回復職がルーンだ。」


 俺はステータス表示スキルをONにしてそれぞれのステータスを見る。


 戦士職 ダナン 男 犬族 42才 LV65 ランクA リーダー

 魔法職 エルダ 女 黒妖精族 132才 LV67 ランクA 

 回復職 ルーン 男 人族 37才 LV59 ランクA 


 レベルを見て納得した。

 俺が死にかけた大とかげを一刀両断したのはダナンだろう。

 そして、巨大な炎はエルダが使った火炎の魔法だ。


 「それにしても、無茶するな。Fランクが1人でダンジョンに挑戦したのかい?」

 

 ルーンは俺にありえないという表情で聞いてくる。

 

 「いえ、10階層の入り口まではCランクパーティと一緒でした。俺は盾職なんですが、戦闘中に仲間が俺を囮にして逃げたんです。」


 「なに!?詳しく話せ。」


 ダナンは急に怖い表情になり、強い口調で聞いてきた。

 俺は、ゲイルという男から誘われてパーティに今回初めて参加したこと、

 10階層入り口で3匹の大とかげと戦闘になって倒したときにはすでに誰もいなくなっていたこと、

 10階層の休憩場所にたどり着き目的の薬草を回収したこと、

 ダンジョンを脱出する際に3匹の大とかげに囲まれて絶体絶命の状態だったことを細かく説明した。


 「う~ん。許せんなそいつら。冒険者の風上にも置けない奴らだ。これは盾職がいてのパーティ編成だ。それを使い捨てるように囮にして逃げるなど言語道断だな。」

 

 ダナンは非常に厳しい様子でうなっている。

 

 「それにしても災難だったね。でもよく1人で10階層出口まで行けたね。あの階層は大とかげがうじゃうじゃ湧いて、すぐに囲まれるだろう。」


 「ええ、そうですが、俺は低レベルですが召喚魔法が使えるので先行偵察し、大とかげをうまく回避しながら進んでいたんです。ただ、予期せぬところから大とかげに襲われて結果この有様です。」


 「ほぉ~、君召喚魔法が使えるのか。盾職なのに!ちょっと変わってるね。」


 ルーンはものめずらしそうに俺をじろじろ見る。


 「あと大とかげに風の魔法の攻撃痕がありました。」


 それまで、黙って本を読んでいたエルダがボソッとつぶやく。


 「へぇ~、他の魔法も使えるの。ほんと面白いねぇ、きみぃ~。」


 「いえ、すべてまだまだ低レベルで単なる器用貧乏状態です。」


 俺は今回の件でそれをつくづく思い知らされた。

 1人で出来ることはたかがしれており、何でも出来れば良いというわけではないということだ。

 

 「なんにせよ。俺たちがたまたま通りかかってよかったな。まぁ、運も大切な要素のうちだ。」


 ダナンはそういうと横に置いていた真っ黒いプレートメイルを装備した。

 

 「それで、歩けるか?」

 「ちょっと待ってください。」


 俺は立って体中を確認する。

 右足は完治しており、体中どこにも異常はない。

 しいて言えば、少しだるいという程度だ。

 あれだけの傷だったが、ルーンの回復魔法がそれだけ優れているのだろう。


 「大丈夫です。移動できます。」

 「よし、夜が明けたら、バレスに戻ろう。」


 俺達は装備類を確認し、荷物をまとめて夜が明けてから移動を開始した。


 ダナンと一緒に3日かけて街に戻り、俺はそのまま依頼の品を届けるため受付カウンターに向かう。

 ダナン達も依頼の報告のために俺の後ろで待っている。

 受付嬢のセリーヌちゃんはいなかったため、男性の受付員に報告を行う。

 

 「ヨージですが、薬草の回収の依頼の報告に戻りました。」

  

 「・・・えっと、困りましたね。ヨージ様はゲイル様たちから死亡届けが出ています。」

 

 「えっ!?」


 「報告書によると、5人でダンジョンに入ったが10階層で強敵に出会い、ヨージ様が錯乱してバナッシュ様に斬りつけて味方を攻撃し始めた。4人では手に負えないので、一旦避難するためにダンジョンを出たということです。」


 「いやいや、俺はここにいるし、混乱なんかしていないし、味方を攻撃するなんて事はありえない。」


 「しかし、ゲイル様以下3人も同じ証言をしています。」


 「そんな・・・。」


 「それで、ダンジョン外で1日待ったが出てこなかったので魔物に倒されたと判断し依頼続行不能ということで断念したということです。」


 「ありえない。クエストの成果はここに持っている。」


 俺は5つの薬草を出す。


 「そういわれましても、パーティメンバー全員が証言してますし、別の件でヨージ様は過去にギルドに必要なことを報告しなかった事例もあります。更にCランク4人の証言とFランク1人の証言では残念ながらこれを覆すことは難しいですね。」

 

 俺は意味がわからないという表情で受付員を見る。

 更にトドメに最悪なことをこの受付員から聞くことになる。


 「あと、パーティ加入の際の契約で、ヨージ様が死亡した場合は全財産をゲイル様に譲渡するということになっていますので、ヨージ様がお預けになった所持金はすべてゲイル様が引き出されました。」


 俺は受付が何を言っているのか理解できなかった。


 「なっ!?俺はそんな契約にサインはしていない。」

 「そういわれましても、こちらの書類がそれになります。」


 そういうと受付員は契約書類を俺の前に出す。

 もちろんそこに書かれているサインは俺のサインではない。

 

 「ほぉぅ、これは面白いことになった。」


 俺の後ろでそのやり取りを見ていたダナンは、目を細めてなぜかにやりと笑った。


 そのとき、ギルド出入り口からゲイル達がタイミングよく入ってきたのだった。 

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