第35話 おいてけぼり その1
「この、くそ!」
俺は目の前の体長4mほどある大とかげにショートソードで上段から口先に向けて切りつける。
ザシュ。
口先がパックリ割れて、赤い血が滴り落ちる。
大とかげがお返しとばかりに突進してくる。
俺は、ラージシールドを地面に突き立てるようにし、その後ろで衝撃に耐えるようにしっかり盾を持つ。
そして、スキルボーナス値21すべてを筋力に振り直す。
ドガン。
ものすごい衝撃がきたが、何とか耐え切った。
盾の隙間から大とかげを見ると、逆にふらついている。
すぐに、俺はステータスでスキルボーナスを筋力+3、器用さ+7、素早さ+11に振り直してショートソードを地面に置き、背負っている短槍にもちかえて、大とかげの目玉に向かって突き刺す。
ドスッ。
目玉を貫き更に奥に押し込む。
直後に短槍で、のノ字を描くように回して内部をかき混ぜる。
大とかげはその攻撃を受けたあと一声奇声を上げると、前後の足が力を失い腹這いになって倒れた。
俺は、念のためもう一度目を突き刺しえぐる。
しかし、大とかげはピクリとも動かなかった。
「よっしゃ。倒した。やったぞ、ゲイル。」
俺は後ろを振り向くが、誰もそこにはいない。
横も見るが人気すら感じない。
「・・・あれ?」
辺りを見回すが、大とかげの死体が3匹あるだけで立っているのは俺一人だけだ。
「おーい。ゲイルどこだ。ハンナ、とかげは倒したぞ。みんな、どこいった。」
誰も返事が無い。
俺は無い知恵を絞って考える。
「・・・、・・・、これって、文字通り俺を盾にしてあいつ等逃げやがったか?・・・、まじか!?」
俺はバレスの南東にあるダンジョンの10階層でいきなりボッチになってしまった。
時をさかのぼること1週間前、俺は今日もバレス平原で適当に低級の魔物を討伐して換金のため、冒険者ギルドに戻っていた。
いつもように、換金を終えて宿に戻り酒場で一杯やろうと思っていたところに男が声をかけてきた。
「おい、お前さん景気がいいな。今日も大量じゃねぇか。」
馴れ馴れしい感じで1人の冒険者が声をかけてくる。
年は俺と同じくらい、痩せ型で弓を背負っている。
俺は軽く会釈をしてその場を立ち去ろうとすると、
「おいおい、待ってくれよ。同じギルドのメンバーじゃねぇか。そんな警戒すんな。そうだ、一杯おごるよ。だから、そこのテーブルで待ってな。」
そういうと、その男はギルドのテーブルのいすを1つ引いて、ここに座れとばかりに促す。
俺もあまり邪険にするわけにも行かず、渋々という感じでいすに座る。
「ちょっと、待ってな。酒を持ってくるから。」
そういうと男はギルドカウンターのほうに行く。
ギルドでは受付カウンターの横に小さめの売店があり、酒などのちょっとした飲食品が売っている。
男はすぐに戻ってきて、ワインのボトルと木のカップを持っきた。
そして、ワインをカップに注いで俺の前にスッと出す。
「俺の名前はゲイル。C級冒険者のパーティのリーダーをやっている。お前は最近ギルドに入ったヨージだよな。」
「ええ、そうだけど。」
俺は、自分の名前を知っている人間がギルドにいることに違和感を覚えながら答える。
「お前、ここ1週間程度ずーっとバレス平原で毎日40匹近い魔物を狩っているよな。」
「ええまぁ。」
「聞くところによると、まだF級でそれもソロでやっているとか。」
「そうだな。」
「更に聞くところによると、低級だが魔法も使えるとか。」
「そうだ。」
「ふーん。じゃあ、情報はすべてあっているということか。」
男は納得したような様子で考えている。
ここまで俺の情報を知っているにはわけがある。
冒険者ギルドには情報を売り買いする場所があり、ある程度の金を払えばたいていの情報を入手することが出来る。
つまり、この男は俺の情報を金でギルドから買ったのだろう。
「なぁ、お前、いまどこかパーティに入る予定はあるか?」
「パーティ?・・・ないが。」
「そうか、そうか。なぁ、良かったらうちに入らないか。今、盾職の奴が抜けたんでそのかわりがほしいんだ。」
「・・・でも、俺はF級だ。C級のパーティは無理だろう。」
「それは大丈夫だろ。おまえ、バッファローをソロで倒せるっていう話しだしな。」
俺は内心チッという舌打ちをした。
ギルドには一切報告はしていないが、やはりかなりの数を倒しているのですでに情報はあるのだろう。
俺は逆にゲイルという男に聞く。
「俺があんたのパーティに入るメリットは?」
「おっ、言うね~。まあいい。あのな、曲がりなりにもC級のパーティに入ればいろいろ出来るぞ!」
「たとえば?」
「例えば、C級の依頼を受けること出来る。」
「それで?」
「それでって。・・・あのな、F級がC級の依頼を達成できればランクもすぐに上がるし、何より報酬はバレス平原の低級魔物を倒すのとは桁が違う。つまり、効率よく働けるということだ。」
「ふ~ん。」
「更にな、危険な依頼もいざとなったときに仲間からのフォローがあり、生存率も大きく高まる。」
俺は顎先に手を当てて、しばし考える。
ゲイルの言っていることは間違ってはいない。
弱い魔物を幾ら大量に倒しても、時間の割りに得られる金も少ないし、レベルも上がらない。
レベルはやはりある程度強い魔物を倒していかないと向上にはならないのだ。
「俺が言うのもなんだが、これはなかなかいい話だぞ。C級がF級を誘うなんてそうは無いぞ。」
「う~ん。」
「じゃぁ、取り敢えず暫定的にパーティを組むのはどうだ?どうしても嫌なら抜ければいい。それならいいだろ。文句は絶対言わない。」
「・・・、・・・、よし、わかった。いいだろう。あんたのパーティに暫定的に加入するよ。」
少し不安な気持ちはあったが、現状を打破するためには仲間は必要だ。
実際の実力は一緒に戦ってみればすぐに分かる。
気に入らなければ抜けても、文句は言わないという条件付だ。
「よし、話は決まった。じゃあ、今日からメンバーだ。登録はギルドに俺が申請しておく。」
「わかった。」
「それでな、さっそくで悪いんだが、いま依頼を1つ受けていてな。数日後に南東にあるダンジョンに行くことになる。」
「どんな依頼だ?」
「ここから、3日歩いたところにあるダンジョンの中の10階層奥にバッファムという薬草がある。それをとってくるという寸法だ。だから、そのための旅の食料などの準備をしていてほしい。」
「わかった。」
「よし、じゃあ、出発は明後日の昼とする。集合はこのギルドだ。」
「わかった。」
そういうと俺達はワインを飲み、解散した。
2日後の昼俺は10日の旅の準備をして冒険者ギルドにきた。
そこには、ゲイルのほかに男1人と女2人がテーブルに座って待っていた。




