第31話 運び屋 その3
馬車は、その日の夜に中継のペル村に着いた。
宿屋では、昼間のことで気持ちが高ぶり眠れなかった。
次の日、眠い目をしたまま馬車に乗り込んだ。
今日の夕方にはムスファ新王国のアレスに到着する。
馬車にごとごと揺られて、昨日は居たストックのことを考えていた。
彼はなんだったんだろう?
俺と話しているときは非常に気のいいおやじそのものだった。
道中の会話でも、何かしでかすようなタイプには思えなかった。
持っていたものはなんだったんだろう?
そして、逃げるあの足の速さにはびっくりした。
考えれば考えるほど疑問しかわかないが、今更幾ら考えても結論は出ないので考えることをやめた。
午前と午後に一度ずつゴブリンの襲撃があったが、護衛の冒険者たちがあっさり片付けて俺の出る幕はない。
午後は流石に疲れて、馬車の揺れるリズムが気持ちよく寝てしまった。
起きたらアレスの街の前で街に入るための検問の順番待ちのため馬車はとまっていた。
「ふぁぁ~ぁ、よく寝た。」
席は木のいすのためあちこち体がこってしまっていたので、馬車から降りて軽く柔軟体操をした。
「後はあの検問を通れば、仕事はほぼ終わりだな。」
国境の検問の件もあるので、俺は再度必殺技を用意し直して心を落ち着かせて順番を待った。
「よし、次、入れ。」
やっと俺の番が来た。
扉を開けて武器・盾・荷物を台の上に置く。
「名前は?」
「ヨージです。」
「仕事は?」
「冒険者です。」
なぜかいやに細かいことを聞く。
「ここにきた理由は?」
俺は、冒険者証と依頼書と手紙を渡してから、
「俺は、バレスの街からギルドの依頼でその手紙を運びに来ました。」
「そうか。じゃあ、その手荷物の中身を広げろ。」
「わかりました。」
俺は、片掛けのリュックの中身をすべて出した。
検問官は一つ一つ確認していく。
そのとき、後ろの扉が開き別の検問官が一枚の羊皮紙を持って入ってきた。
そして、2人で羊皮紙を見ながら話をし、今度は俺の顔と羊皮紙を見比べるような行為をし始めた。
直感的にいやな感じがしたので、やばいと思い皮の小袋をすっとだし、
「検問官様、日々お勤めご苦労さまです。ちょっとした気付けです。」
俺は、必殺技の・そ・で・の・し・た・を使った。
「なんだ貴様ぁー!俺を馬鹿にしているのかー!」
検問官は急に大きな声で叫んだ。
オーマイガー。
最悪だ。
国境ではうまくいったのに!
「これは、おまえだな!衛兵、入れ!こいつを拘束しろ!」
そういうと、羊皮紙を机の上にバーーンと置くと、そこには俺に似た顔の男が描かれていた。
「えぇぇぇぇぇ、俺、な、何もしていないです。む、無実です。ご、ご慈悲を!」
俺はとっさにわけのわからないことを口走ったが、なだれ込むように入ってきた衛兵に取り押さえられてアッサリ捕まってしまった。
「ま・じ・でぇぇぇぇ・・・・。だ・れ・かぁ・た・す・け・てぇぇぇぇ。」
俺はあっという間に縄でぐるぐる巻きにされて、そのまま地下の牢屋に投げ入れられた。
ぴちょん、ぴちょん。
初夏なのに地下の牢屋は肌寒い。
周りはレンガのような石が積み上げられて、前には鉄格子で閉じられている。
体は麻の縄でぐるぐる巻きにされて、指一本動かすことが出来そうにない。
「やばいな。どうしたものか?」
取り敢えず、すぐに殺されるような感じではないので冷静になり安心したが、いつストックのようになるかわからない。
それより何より、ぐるぐる巻きされているこの状態がきつい。
俺はウインドカッターの呪文を唱えて、縄に切れ込みを入れて何とか蓑虫状態から解放された。
「はて、どうしたものか?」
俺はぶつぶつ独り言を言う。
目の前は鉄格子、それ以外は石壁、そしてここは地下牢、上には衛兵がいっぱいだ。
逃げるに逃げられない!
正直、ある意味人生の中で最大のピンチだ。
取り敢えず、俺は鉄格子の間から頭だけを突き出して周りを確認した。
通路は一本道、左の一番奥は壁になっておりその通路を挟んで4つの牢屋が並んでいる。
右を見ると、階段があり上につながっている。
どうやら抜け道のような気の利いたものは無いらしい。
鉄格子を抜けても、階段を登って上の階に行くしかないようだ。
俺は、目いっぱいの魔力を込めて、鉄格子に思いっきりウィンドカッターを当てた。
ぱしゅん
ウインドカッターは鉄格子に当たる直前にはじけて消えた。
「えっ、なんで!?」
そのとき、前の牢屋から声が聞こえた。
「はぁ、兄ちゃん。そんな事しても格子は切れねぇよ。」
「えっと、どちら様で?」
「わしは、ドノバンという。3日前に喧嘩で捕まったんだ。」
「あっ、ヨージと言います。」
「兄ちゃん、牢屋には魔法に対抗する術が仕込まれているから中からは魔法ではでられないぞ。」
「あっ、そーなんですか。ご忠告ありがとうございます。」
「なぁ、なぁ、それで、兄ちゃんはなんで捕まったんだ。」
「・・・いえ、それが皆目見当がつかないもんで。」
「ふ~ん。まあいい。取り敢えずここはおとなしくしておくことだな。あまり牢屋内で騒ぎをおこせば酷い折檻がまってるからな。」
「再度、ご忠告ありがとうございます。」
「いいってことよ。」
俺は、そのあと少しドノバンと話をし何もすることがないので冷たい石の上に寝た。
ぎぃーっ、ばたん。
こつ、こつ、こつ。
人が来る音に気づき起きる。
「ん、お前、勝手に縄を解いたのか。・・・まあいい。ほら、飯だ!食え。」
四角い金属製のお盆にパン1個といかにも薄そうなスープが入った皿があった。
「ありがとうございます。あのー、そのー。」
「なんだ。」
「俺はこれからどうなるんでしょうか?」
「さぁ、知らん。」
「えっ!?知らんって!」
「知らんものは知らん。俺はただの牢番だ。なにか決定したら、通達が来るだろう。それまでおとなしく待っていろ!」
それから、あっという間に一週間が経った。
衛生的には非常に悪いが、いつの間にかこの環境に慣れてしまった。
自分で、自分の適応能力の高さに驚いた。
牢番が牢屋の前に歩いてきた。
なぜか食事を持ってきていない。
「おう、お前、疑いは晴れた。釈放だ!」
「・・・へ!?」
俺はイマイチ状況がつかめず、ぽかんとした表情で牢番を見た。
「だから、釈放だと言っているんだ。さっさと出ろ!」
「わっ、わっかりましたー。すぐに出ます!」
俺は何が何やらわからない状態だったが怒らせない方がいいと思い、言われるままに牢屋を出て上の階に向かった。
「よかったなぁ。にいちゃん。」
「あっ、ども、ども、じゃあお先に失礼します。」
「がんばれよーーー。」
囚人ドノバンの言葉を背に受けながら地下から地上に上がった。
そこで、自分の荷物を受け取ってそのまま建物の外に出た。
すると、なんとそこにはにっこり笑ったエルスタットが立っていた。




