第30話 運び屋 その2
俺は朝早く宿を出て、南門の乗り合い馬車が集まる場所に来た。
馬車は3頭だてで大きく、二列に座席が並んでいる。
「アレス行きはどの馬車ですか。」
俺は受付員らしき男性に声をかける。
「ああそれなら、あの2番の看板があるところです。」
「ありがとう。」
俺は指示された2番の馬車の前で受付をしている女性にチケットを渡す。
「ご利用ありがとうございます。なにか大きな荷物がありましたらお預かりします。」
「この大きさの手荷物は大丈夫ですか。」
「それでしたら、大丈夫です。頭上の棚においてください。」
「あと、この槍も持ち込みOKですか?」
「それも棚においてください。」
あからさまな武器を持ち込むのは現代日本ではありえないが、魔物が跋扈するこの世界では最終的に身を守るのは自分の役目なので持ち込みOKみたいだ。
「では、お好きな席にお座りください。もうじき出発します。」
俺は、そのまま馬車の中に乗り込む。
やはりこういう場合一番後ろがなぜか落ち着く。
俺は、一番後ろの席に座り、手荷物と槍と剣を頭上の棚に置き盾をすねの前に立てて出発を待った。
客は全部で3人だ。
8人乗りの馬車に3人とはえらく少ないが、道中楽で良い。
「それではアレス行き出発しまーす。」
御者の合図とともに馬車は後ろに別の3台の荷馬車と護衛の冒険者を従えて南門から、アレスの街に出発した。
「いやー。旅はなぜか毎度わくわくしますな。」
席は空いているのにわざわざ俺の横に商人風の男が移動してきた。
馴れ馴れしい様子で話しかけてきた。
「いや失礼。私は商人のストックと申します。今日から3日間アレスまでの道中よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ヨージといいます。冒険者をやっています。」
「ほう、これは頼もしいですな。なにかあったらよろしくお願いします。」
「大丈夫だと思いますよ。ほら後ろに8人の護衛のパーティがついていますから。私なんか出る幕ありません。」
「まぁ、そうですね。途中村もありますし、街道沿いでは魔物も出にくいですし。」
俺は当たり障りの無い感じで、受け答えをした。
季節は初夏、少し強くなった日差しの下で3頭の馬がリズムよく進んでいく。
馬車は小麦畑を抜け、少し荒れた大地を真っ直ぐ進む。
遠くには一直線の地平線が見える。
「それで、ヨージさんはどのようなご用件でアレスに。」
「俺は知合いの頼みで届け物です。ストックさんは?」
「私は商品の買い付けにです。」
「お互い、仕事というわけですね。」
「そうですねぇ。自由気ままな旅行だったらどれほど良いか。」
そんな会話を楽しみながら、馬車は1日目の目的地であるリーン村に到着した。
その日は、民宿のような旅館に泊まり1日中ほとんど同じ姿勢で疲れたのですぐに寝た。
そして2日目、正午ごろに国境に差し掛かった。
国境をはさんで、検問所がアルバニア側とムスファ側に2カ所ある。
みな一列に並んで検問を受ける。
アルバニア側の検問は冒険者証を見せるとすんなり通してくれた。
しかし、国境を越えてムスファ側に行くと行列が出来ていた。
俺の前に並ぶストックはなぜか急に黙りこみ、神妙な面持ちになりじーっと検問員を見ている。
やっと俺たちの順番になり、ストックが先に検問を受ける。
「お前のたびの目的はなんだ?」
「アレスにて雑貨の買い付けでございます。」
「お前、その手荷物を見せろ。」
ストックはおずおずと手荷物を検問官に渡す。
検問官が中身を取り出し、1つの高級そうな箱を前にする。
それをあけて、
「なんだこれは!!」
「くそ!」
そういうと、ストックは見た目の年齢とは明らかに異なる速さで走り始める。
「弓兵かまえよ・・・。放て!」
検問官はそばにいた5人の弓兵に命じストックに向かって一瞬で弓を放った。
ドス、ドス、ドス
5本のうち3本の弓がストックの背中に刺さり、ドサッとその場で倒れる。
俺はあまりのことの展開の速さについていけず、ただ呆然と眺めていた。
そして弓兵たちは射殺したストックの遺体を別の場所に移動させ何事も無かったかのように検問が再開され、次の俺の順番が来た。
俺は一気に冷や汗たらたらになり、検問員の質問を受ける。
「お前のたびの目的はなんだ。」
「は、は、はい、そ、そちらにあります。手紙の配達でして、これが冒険者ギルドの依頼書です。」
俺はかなり顔が引きつっており、ばれないようになるべくうつむいたままで冒険者証と手紙と依頼書を渡した。
検問官は依頼書を読み、手紙と冒険者証を一瞥したあと、
「お前は先ほどの奴と同じ馬車に乗っているようだが、知り合いか?」
「い、いえ、と、とんでございません。 この旅で初めて一緒になっただけです。本人は商人と話していたのですが・・・。それ以上のことはよく知りません。」
「ほう。」
「何か、ご不審なことがありましたら、どうぞ、バレス冒険者ギルドに問い合わせていただけると幸いです。」
俺はちらっと顔を挙げ検問官の顔を見ると、明らかに不審な顔をしている。
そこで、
「あと、毎日ご神経を使われるお仕事の癒しになればと、これをお納めください。」
俺は、相手がかなり疑っていてこのままだと危険だと思い、いちかばちかの最後の手段として用意していた必殺の・そ・で・の・し・た・をつかった。
検問官はそれを受取り、中身を見るとにんまりして、
「そなたは冒険者の割りになかなかわかっておるな。いいだろう。通れ。」
何とか正解を導き出せたようだ。
俺は今、心臓がばっくんばっくん脈動している。
そして何とかムスファ側の検問所を出ることが出来た。




