第29話 運び屋 その1
俺は今豪華な屋敷の前にいる。
「へぇ~。すげぇな。これが貴族様のお屋敷か。」
そのまま屋敷の中に入り、一室に通された。
「こちらのお部屋でお待ち下さい。主人を連れてまいります。」
テーブルには紅茶とチーズケーキがあり、使いの人が促す。
俺は、いすに座り一口紅茶を飲む。
そして部屋を一瞥するとエルスタットが部屋に入ってきた。
「お待たせしました。」
「ええ、待ちましたよ。」
俺は全然待っていなかったが、ワザとちょっとイラッとした態度をとった。
「これはこれは失礼しました。」
「それで、今日はどのようなお話ですか?」
俺は単刀直入に話を聞く。
「そんなに、早急にことを進めなくてもよろしいでしょう。どうぞ、お菓子でも食べながらお話をしましょう。」
エルスタットがにっこり笑って促すので、仕方が無く俺はテーブルにあるチーズケーキをパクパク食べ、紅茶もごくごく飲んですぐにおかわりした。
「最近、かなりお稼ぎになったのに、大変おつらい目にあったとか。心中お察しします。」
エルスタットはどうやらバッファロー狩りのことも知っているようで、更に俺がふさぎこんでいたことも知っているようだ。
「まぁ、そうですね。ただ幸い身近に親身になって聞いてくれる人たちがいて半分以上解決しましたが。あとは俺自身の中の問題です。」
「そうですか、それは上々です。では今回お願いしたいことをお話します。」
俺は想像していた通り、なにか厄介ごとをやらされるはめになるんだ思った。
「まず、ヨージ様は隣国のムスファ新王国についてご存知ですか?」
「ええ、ちょっとだけですけど。5年前の内戦時のドサクサにまぎれて、ここバレスに攻め込んだ隣国という程度ですが。」
タレス村での教会にいた孤児の子供達の一部はアルバニアの内戦時にちょっかいをかけてきた隣国の兵によって親を殺された子供もいたからだ。
「そうなんです。その際はガーレン伯爵様自らが指揮をとり、追い払いました。ただ現在ちょっと気になる動きがありましてね。」
「はぁ、そうですか。俺も知り合いからちょっと嫌なことを聞いてます。」
「・・・どういうお話でしょうか?」
「一番近い隣国の街のアレスで大量に小麦の買取をしているそうです。あと、未確認ですが、武器の売買もしているとか。」
「ほぅ」
どうせエルスタットも知っている情報だと思うが、俺自身の今後のためを考えてあえてこの情報を言ってみた。
エルスタットは目を細めて意外なものを見るかの様子で俺を見て、にっこり笑った。
「そこまでご存知とは、感服しました。」
「いや、ただ知り合いから聞いただけのことです。」
「いやいや、そういった伝手は非常に重要な力ですよ。まあ、そこまでご存知ならある意味話は早いですね。それでこの手紙をそのアレスにあるエルマ商店で働いているバムスという商人に渡してほしいのです。」
「えっ、俺がですか?」
「ええ、あなたが適任です。」
「なぜに?」
「それは現在あなたがF級の冒険者という身分がちょうど良いのです。」
「どういうことで?」
「F級の依頼の中に手紙などのちょっとしたものを運ぶものがあります。その依頼の1つに紛れ込ませて持って行ってもらいたいのです。」
「俺はその街に行った事がないんですけど。」
「大丈夫です。乗り合い馬車が定期的に出ていますのでそれに乗っていかれるとよろしいかと思います。もちろん旅費や必要なものはこちらでそろえます。あと成功したあかつきには報酬として5万ゼニーお支払いしますので。」
「ちなみにこの手紙の中身はどのようなことが書かれているのですか?」
「それは、お知りにならないほうがよろしいかと思います。余計な情報を持つと、無駄な危険を伴いますので。」
俺はその話を聞いて、う~んと考えた。
手紙を持っていくだけで5万ゼニーは魅力的だ。
必要経費などを加えて考えると、バッファロー1頭の値段と変わらない。
そして、馬車に乗って移動するだけなので楽ちんだ。
しかし、どう考えても危険な香りがする。
「危険な香りがたっぷりするんですが。」
「大丈夫です。絶対に危ないことにはなりません。ただ手紙を届けるだけです。」
「世の中絶対とか無いと思うんですけど・・・。拒否は出来ないんですか?」
「・・・拒否されても良いですが、今後いろいろとご不便なことになるとはおもいますよ。」
「またそれですか。」
問答無用のようだ。
俺はエルスタットから手紙を受取り、仕方なくその依頼を受けることにした。
「じゃあ、明後日に出る乗り合い馬車ということでお願いします。これがそのための往復のチケットです。」
「用意のいいことで。わかりましたよ。行ってくればいいんでしょ。」
「あと、こちらに3000ゼニーあります。旅の費用としてお使いください。」
エルスタットは、皮の袋を俺に渡した。
「ではよい旅を。」
エルスタットはそう言って席を立つと俺を玄関のほうに促す。
そのまま、俺は先ほどの使いの人に先導されて貴族の門を出て街に戻った。
「はぁ~。めんどくさいことになったなぁ。」
俺は宿に戻って、部屋の中で思案する。
「まぁ、知らない街に行けば余計なことを考えなくていいと思えばいいか。」
気分転換に少しバレスを離れてみるのもいいだろうと思った。
また、あれこれ考えても仕方ないので、夕食をとって風呂に入った後、すぐに寝ることにした。
俺は起きて朝食をとったあと、すぐに明日からの旅の準備を始めた。
宿屋の部屋はいろいろ雑貨を購入してそこそこ私物があり、三ヶ月分を前払いしているのでそのままキープということにした。
隣国の国境を越えて、隣の街アレスまでは馬車で片道3日だ。間に村と国境があるため野宿する必要はなさそうだが、取り敢えず3日分の携帯食糧を確保しておこう。それ以外は必要なものはなさそうだ。
「おおっと、ギルドで手紙を配達する依頼を受けておく必要があるな。」
俺は冒険者ギルドに行き、アレスに向けた手紙の配送の依頼を3つ受けた。
「とり合えずこれで、準備万端。あとはなんとかなるさ!」
俺はそう言い聞かせ、宿屋の夕食を食べて今日も早めに寝た。




