第28話 つらい気持ち
俺はいま宿屋のおやじエルバンとガフィの3人で一緒に歓楽街にある酒屋バルに来ている。
ダン達の一件の後、俺は一週間ほど部屋に閉じこもる生活が続いた。
ダン達は俺を裏切り、俺の注意を無視した結果で当然といえば当然だ。
「でも、死ぬことは・・・。死んだら何にもできないんだぜ・・・。」
俺は自分が基本は弱い人間で、特殊な能力の恩恵があるから今までうまくやれて来れた。
そのことがなぜか俺のこころにちくちく刺さる。
そして、何が良かったのかグルグル思いがめぐり、ドつぼにはまっていく感じだ。
そんな俺の様子を見かねた2人が飲みに行こうと誘ってくれて、今酒場のテーブルで男3人酒を飲んでいる。
エルバンが話し始める。
「エミリアも心配していてな。いつもは飲みに行こうとするとどやされるんだがな。」
「はぁ、お女将さんがですか。心配かけてすみません。」
「いいってことよ。あいつも元冒険者だからな。察するところがあるんだろう。さっきお前から聞いた話と、似たようなことは俺たちも一度通った道だ。今日は宿屋のおやじとしてではなく、長年冒険者をしてきた先輩としてアドバイスしてやるよ。なあ、ガフィ。」
「そうじゃな。こいつは多少適当なところがあるが、わし等がパーティを組んでいたときはリーダーじゃった。そういう意味では非常にいいアドバイスが聞けるじゃろう。」
2人はエールを飲みながらから揚げをパクパク摘んで食べた。
俺はあまり食べる気がしない。
そうして、エルバンがまた俺に教えてくれる。
「冒険者をやれば必ずどこかで何らかの身近な死を経験することになる。慣れろとは言わないが、耐える方法は知っておくべきだ。」
「どうすればいいですか?」
俺は助けてほしいという表情でエルバンに聞いた。
「簡単だ。考えるな。」
「でも、勝手に考えてしまうんです。あの時ああすればいいんじゃなかったのかと。」
「そうだな。でもいまさらどうしようもないだろ。」
「そうです・・・。」
「一番問題なのは今のお前の状況だ。」
「どういうことですか?」
「部屋にこもって考え続けている。これが一番最悪だ。人は悪いことを考え始めたら、キリが無い。そして、最悪それを受け止めてしまう。」
「?」
「つまりな、そのような精神状態で魔物と戦闘になったときに、お前はたやすく死を受け入れてしまうようになる。考えるのに疲れて、それでいいんじゃないかと。」
「いやそうはならないですよ。俺も死にたくないですし。」
「いや、人間の心はそううまく出来ていない。俺は似たような奴を何度も見ている。普段はわからなくなっても特にピンチになったときにそれが顕著にでる。」
「そういったもんですか。」
「ああ、冒険者は戦いが基本だ。戦闘中にピンチになることは多々ある。それを跳ね除けるには強い心が必要だ。今のお前は非常にそのあたりが脆い。パーティを組んでいればフォローもしてくれるが、お前はソロだ。そのままだと人知れず死ぬぞ。」
エールを飲んで黙って会話を聞いていたガフィがそれに続いて話す。
「エルバンの言っていることは本当じゃ。わしも同じように死んだ仲間を見た。更にな、エルバンはパーティのリーダーだった。仲間の精神状態や連携には常に注意しておった。それが生死をわけるからな。だからこそ人一倍そのあたりが敏感なのだ。」
エルバンはガフィの話の間、エールをごくごく飲んでそれに続ける。
「それでだ。じゃあどうすればいいかということだ。」
「どうすればいいですか。」
「そうだな。忘れよう、考えないようにしよう、とするのは無理だ。俺にも出来ねぇ。俺は、パーッと飲んで食って遊んで好きなことをした。ガフィはどうだ。」
「わしはな、当時から鍛冶屋の方向を考えておったのでな。新しい武器や防具のアイデアを一心不乱に考えた。」
「そうですか。」
「そうだ。つまり他の事考えるのさ。そのことを考える時間が無いくらいにな。そうしていくうちに時間が勝手に解決してくれる。あの時はしょうがなかったんだとな。心で納得するのさ。そういうもんだ。」
「そういうもんですか。」
俺はまだよくわかっていない状態だが、長年冒険者をしていた2人の重要なアドバイスとして、心に刻んだ。
「さぁ、飲め飲め。ここはパーッとやるのが一番だ。しかしお前なかなか良い店しってるな!」
「そうでしょう!おれのお気に入りなんです。」
「飯はまずいけどな!」
「いやいや、おやじさんの料理と比べるとかわいそうですよ!」
「おっそうか、お前もちょっとは元気になってきたな」
「そうですか?そうですね。教えてくれたことはこういうことですか。」
「そうだ、考えないようにしてもだめだ。こういうときは別のことを考えろ。」
「よし、飲みますか!」
「おお、飲もう!」
3人は朝方まで飲み、宿屋に帰ると女将さんにいくらなんでも遅すぎるといって怒られた。
次の日、俺は二日酔いでぐったりし、正午まで部屋でゴロゴロした。
そんななか、宿屋にエルスタットの使いの者という人がやってきた。
俺は二日酔いで少し気持ちが悪いのを堪えて、使いの者の先導で貴族の門を通りある屋敷に訪れた。




