第2話 スキルとスリング
次の日の夜、またウインドウを開いてよく見ると、ステータス画面の能力値の所には上下ボタンがある事に気づいた。
筋力の上ボタンを押すとパラメータ値が2→3になった。
同時にスキルボーナス値が2→1に減った。
どうやらスキルボーナスはステータス値も上下させることが出来るようである。
それで、ちょっと実験してみた。
とりあえず、数値は元に戻し、ベッドの上で腕立てをしてみた。
回数3回。
情けない。
死にたい。
恥ずかしい。
腕立て3回しか出来なかった。
そこで、筋力パラメータを2増加させると、腕立てがなんと10回出来た。
「スゲぇ」
3回から10回にアップした。
つまり、ボーナス値を振り分けると能力も簡単に向上するということであろう。
ただ、男子のプライドとして、これから毎日腕立て・腹筋・背筋・スクワット・ランニングのトレーニングはしようと心に決めた。
ちなみに1ヵ月経って筋トレの結果、腕立てが10回に増えた。
そして、ステータスは2→4に増加していた。
つまり、鍛えれば徐々にではあるが増加することがわかった。
また人通りの多い所に出てわかったことがある。
ステータス表示スキルをONにした状態で人を見ていると、人によりかなり大きな違いがあることがわかった。
村の警察官の役割をしている、派遣騎士団員のジェイソンさん24歳はLV5でスキルボーナスは10である。
同じく騎士団のカインさん19歳はLV2でスキルボーナスが4となっている。
ざっくり平均計算すると、どうやらLVがあがるとスキルボーナスが1~3の範囲で上昇するようである。
ただし、せっかくスキルボーナスがあるのにも関わらず、皆それを使えないこともわかった。
というか、そもそも自分のようにウィンドウ画面が表示するということ自体できない。
シスターに聞いても、
「あんた、何、意味不明のことを言っているの?」
という顔をされた。
つまり、通常の人は自分の能力を数値化してみることなど出来なく、どうやら自分だけの能力みたいであった。
正直、「もったいねぇ!」と心底思った。
この町で一番LVが高い人はざっと見た感じだと、神父さまである。
LV10でスキルボーナスは33もある。
これだけあればかなりいろいろな能力が使えるはずだが、触れなければ無いのと同じである。
宝の持ち腐れ状態。
まあ、通常は努力と根性と才能で能力は上昇させるものであるから、仕方がないといえば仕方がない。
正直使わないなら、俺にくれと思った。
それでスキルボーナスを上げるために、どうやってレベルを上げればいいのか考えた。
そこで、神父さまにそのままレベルの話を聞いてみた。
神父さまからの答えは
「レベルとは何でしょう?」
であった。
つまりレベルの存在すら知らないということである。
それで、これ以上レベルなどのわけわからない話をしても、アホの子状態なので、とりあえず神父さまの過去の大雑把な経歴を聞いてみた。
ざっくり言うと、昔神父さまはもともとは冒険者として旅をしていて、あちこち魔物を倒して生活していたということである。
つまり、剣と魔法の世界のセオリーを外さず、レベル上げにはやはり危険を冒して魔物を退治する必要がありそうだ。
村の人A (カールさん)に村の近場の魔物について聞いてみた。
主には、三種類 1.スライム 2.ホーンラビット 3.ゴブリン がいるらしい。
スライムは予想通り非常にひ弱な魔物で、大人なら足で踏んで終いである。
ホーンラビットはうさぎの額に小さな角があり、人を見るとジャンプして体当たりしてくるらしい。
角は短いが、とがっているので当たりどころが悪いと致命傷になる。
ただ、肉は柔らかくて美味しく、毛皮は結構な値段で買い取ってくれるということだ。
問題はゴブリンである。
大きさは、身長120cmくらいで、醜悪な面に、ごつごつした体をしている。
手にはどこで拾ったかわからないが、ショートソードか手斧か弓を持っており、服は粗末な布をまとっているらしい。
人を見るとすぐに襲ってくる。
武器を持っているので、大人でもなめてかかると大怪我をする。
毎年、村人の何人かがゴブリンに襲われて死亡しているということである。
一応村ではゴブリンを倒して右耳を村長に持っていくと、1匹退治するごとに100ゼニー(1ゼニー=10円くらいの感じ)が支払われることになっている。
俺はそのとき「これだ!」と思った。
ただ、どうやってゴブリン退治をすればいいかわからず、とりあえず村を回って考えていると、村のゴミ捨て場にこぶし大のなめした皮と麻の紐が捨ててあった。
とりあえず、それを拾って教会に帰り、包丁を使って皮を適当なサイズに切って、両端に穴を開けて紐を通し、紐の片側を手首に巻いた。
皮を紐の真ん中に配置して小石を挟み、紐のもう一方を手に握って遠心力でぐるぐる回して石壁になげた。
予想通りに石は石壁にぶつかり、四散した。
スリングの完成である。
この武器は非常に単純ではあるが、かなり古代より存在し、遠心力を使うので人が投げるよりはるかに威力がある。
頭に小石が当たれば、頭蓋骨骨折は確実である。
後は、的に当てることが出来るかどうかが問題である。
いかんせん自分は非常に運動神経が悪い。
腕立て3回(今は10回)は伊達ではない。
とりあえず、村の裏手の斜面を登って、自分がこの世界に初めてきた場所で練習することにした。
頭の大きさ程度の的を作り、最初は1mの距離から的にめがけて当てる。
10回やってようやく、的に当たるようになった。
誤差は5cm前後
2m3m4mと徐々に離れていく。
5mになって、的に当たらなくなった。
いや、正確に言うと3回に1回しか的に当たらず、幾ら練習しても上達しない。
そこで、ステータスの器用さにスキルボーナスを2つ振った。
とたんに、さっきまでの下手さが嘘のように無くなり、的の真ん中にバンバン当たる。
スキルボーナス様様である。
結果10m離れても的に当てることが出来るようになった。
10m以上を練習しなかった理由は、これ以上は離れると威力が落ちすぎるからである。
とりあえず、適当なサイズの石を左右のポケットに詰め込み、いざという時の為に丸太の棒を棍棒として持ち村の外に出た。
いざ、ゴブリン狩へ出発!