第12話 バレス平原
「兄ちゃん、えらい長風呂だったな」
・・・あっという間に俺はお客さんからタメ語になり、現在は兄ちゃんになってしまった。
もうこれ以上考えるのはよそう。
そして受け入れよう。
エルバンとは仲良くして風呂を確実に確保しよう。
「ええ、とっても気持ちよかったんですよ。ちょっと長すぎてすみません」
「いやいやいいんだ。そうか、そうか、そんなに気に入ったか。いやー、俺も大金つぎ込んでつくったかいがあったってもんだ」
「え、なんかあるんですか?」
「いや、近所の連中には贅沢だ、貴族のまねすんな、なんだ、かんだ、と陰口を叩かれていて、正直少し凹んでいたんだ」
エルバンはしょんぼりした表情だ。
「そいつらわかってないですね。この風呂のよさは最高ですよ。俺は一家に一台必要だとおもいますよ。俺が家を買ったら速攻で作りますよ」
俺は、エルバンをよいしょするために少し大げさに風呂のよさを話した。
「そうだろ、そうだろ、うーん、話が合うな!お前ほんとに良い奴だな」
エルバンは風呂をほめてくれたことを非常に喜んでくれたみたいだ。
こいつもかなりチョロイな。
内心俺は心のなかで大きくガッツポーズを決めた。
「それで、話は変わるが、兄ちゃん、明日からの朝食の件だが、えーっと朝の6時から8時までの限定になるんで注意してくれ。それ以外は一切受け付けられないんでな」
「わかりました。それじゃ・・・明日は6時にお願いできますか?」
「おっ、えらい早いな。大丈夫だけど・・・」
「今日はもうこのまま寝て、明日は朝一でギルドに行って魔物狩りに行きますから」
「そうか。わかった6時には食べれるようにしておく」
「よろしくお願いします」
「じゃあ、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
俺はそのまま部屋に戻り、一応装備とアイテムを確認して、まだ夜の7時を回ったところだが寝ることにした。
昨日はかなり早く寝たので、自然に朝の4時ごろには目が覚めた。
部屋の窓を開けるとまだ暗い。
窓近くにいすを持ってきて、外をボーっと眺める。
目線の先には、ガーレン伯爵の城が見える。
「はぁー、なんだかんだいって、あっという間の4ヶ月だったな」
いきなり異世界の地に来て、あれよあれよいう間にここまで来てしまった。
そんなことを考えながら、朝食の時間までバレスの街並みを宿屋の一室から眺めていた。
6時になり1Fに降りると、エルバンは待ってましたという感じで朝食をテーブルに置いた。
「おう、おはよう」
「おはようございます」
「時間ぴったりだな」
「ええ、本当はかなり前に起きていたんですが。窓からずーっと外を見ていました」
「ふーん、そうか。それじゃ、食ったら食器はそのままでいいから一声かけてくれ」
「わかりました。じゃあ頂きます」
「おう、どうぞ」
朝食はミルクとベーコンと目玉焼きにバターがぬってあるフランスパンだった。
簡単な食事だが昨晩は自前で持っていた干肉で済ませたので非常に美味しく感じた。
完食して、一言かけて部屋に戻り装備を着込んで、部屋の鍵をエルバンに渡す。
「じゃあ、がんばれよ」
エルバンは出かける際にそう言って俺を送り出した。
ギルドに向かうが、時間がもったいないのでスキルポイントを体力と素早さに半々振り分け走ることにした。
おかげでギルドまでらくらくな感じで、20分で到着した。
冒険者ギルドは24時間体制である。
朝の2時や3時に出発するパーティもいるのでいつも開いている。
とりあえず、受付カウンターを見るとセリーヌちゃんはいなかった。
「残念、ちょっと早すぎたか」
仕方ないので、男性受付員の人の前に座る。
「あの、魔物討伐のクエストをしたいんですが、ちょっと教えてもらえますか?」
ちょっとダンディな受付員さんはにっこり笑って対応してくれた。
「わかりました。冒険者証をお見せいただけますか?」
俺は首にかけた冒険者証を見せる。
「ふむふむ、G級ですか。魔物討伐はF級からになりG級だとちょっと危険ですがよろしいですか?」
「ああ大丈夫です。登録前にあれこれ討伐しているので」
「そうですか。ではそのあたりは自己責任ということでお願いします。それで一応依頼はご自身のランクの上下ワンランク差まで受けることが可能ですので、F級のバレス平原に住む、ゴブリン・オーク・コボルトになります」
「わかりました。じゃあそれでお願いします」
「それで、これらは皆無期限討伐依頼という形式になりますので、各種右耳を持ち帰れば、ギルド本部で換金という形になります」
「わかりました。右耳をもってくればいいんですね」
「そうです。じゃあ再度冒険者証をお渡しください。討伐開始の記入を書き込みますので」
俺はダンディ受付員に冒険者証を渡して、クエスト開始のチェックを入れてもらった。
「バレス平原は西門から出て、そのまま道をまっすぐ進んで、麦畑が切れた先になります」
「わかりました。じゃあそれではいってきます」
「お気をつけて」
俺はその声を背中に受けてギルドを出た。
西門はギルドを出るとすぐのところにある。
門の警備兵に冒険者証を見せると、さっさと行けという感じで簡単に出ることが出来た。
門前のかけ橋を渡ると、目の前にはまっすぐ伸びた道があり、左右には麦畑が広がっている。
そこから、とっとこ駆け足で道沿いに走っていく。
3kmくらい進むと、麦畑が無くなりあたり一面の草原に出た。
「よーし。午前午後で40匹を目標に頑張るぞ」
気合を入れて、鷹の目で哀れな獲物を探し始めるのであった。




