第11話 宿探し
いきなりボッチになってしまった俺は、とりあえずギルドの中に入って再度かわいい受付嬢の前に座った。
「あれ、どうしましたか。何か疑問でもありましたか?」
受付嬢はまだ新人のようで、何か手違いがあったかもしれないと思いアタフタしていた。
「いえ、ちょっと教えていただきたいことがあるんですが?」
「はい、私が知っていることであれば何でもおっしゃってください」
俺はそこで貴方のお名前と彼氏はいるのか?と聞きたいという気持ちをグッと抑えて、
「ここで、比較的安くて、治安のよさげな宿屋を紹介してもらいたいんですが」
「ああそういうことですか。バレスははじめてですか」
「そうなんです。なのにあいつら俺を一人にしやがって・・・」
受付嬢には関係ないが、愚痴ってしまった。
私に言われてもという顔をした受付嬢は、
「ちょっと待ってください。その辺のことについて詳しい人に聞いてきますので」
受付嬢は席を立ち、先ほどの先輩職員のところに行ってあれこれ話をしてすぐに戻ってきた。
「えーっと、安くて、治安がよければよろしいんですよね」
「ええそうです。いい宿屋はありますでしょうか?」
俺はなるべく丁寧口調で相手の気分を害さないように下手下手な口調できた。
「北門の近くにある宿屋のエルバンがよろしいと思います」
「ほうほう」
「お値段もこの都市で最低ランクの250ゼニーの朝食付きで、周辺の治安も悪くありません。バレスの平均的な宿屋の値段は一泊500~600ゼニーくらいなので半値ですね」
250ゼニーというと2500円程度、俺の予算では500ゼニーを考えていたのでかなり安い。
そうか、でも何で安いんだろうと疑問に思い、それが顔に出たみたいで、すぐさま受付嬢が、
「えーっと、その宿はかなり利便性が悪いんですよ。場所は北門にあり基本北門は平民の使用が制限されていているので出入りが難しいです。それでここから都市の反対側なんで歩いて1時間くらいかかるんです。更に近くは居住区だから・・・」
すこし申し訳なさそうな感じで受付嬢は俺に話した。
「他を紹介いたしましょうか?ただ他はどこも値段的には同じくらいになってしまいますが」
「わかりました、じゃあそこにするので道を教えてもらえますか?」
受付嬢はなぜかうれしそうな顔をして詳しく道を教えてくれた。
テクテクテク、俺は冒険者ギルドを出ると宿屋に向かって歩いている。
ちなみに冒険者ギルドの受付嬢はセリーヌさんというお名前で、22歳の独身だそうだ。
受付嬢になって3ヶ月の新人さんだそうだ。
道を聞く際にドサクサにまぎれて聞いたら案外簡単に教えてくれた。
あれ、ちょっと脈ありか?
もしかしてよくいうフラグってやつ?
俺って悪い子。
今後のクエストの際の受付はセリーヌちゃんに固定だなと心に誓った。
テクテクテク、テクテクテク、テクテクテク、うーん遠い。
電車やタクシーがあるわけではないのでひたすら歩くしかない。
結局言われたように到着までに1時間かかった。
宿屋に入ると1Fはすべて食堂になっていた。
食堂の隅に申し訳なさそうな感じに宿のカウンターがあり、そこにいかつい顔をした男性が座っていた。
「すみません。ここに泊まりたいんですが?」
「おう、めずらしいな。お客か?」
あれ?俺って客だよね。
この態度なくね?
そう思ったところ、
「悪い悪い。仕切りなおし。いらっしゃいませ。何泊でしょうか?」
イマイチ釈然としないが、
「とりあえず10泊でお願いします」
「えっ、10泊も連泊してくれるですか。そりゃありがてぇ。よろしくお願いします。俺はこの宿の主でエルバンです」
なんか、会話の要所要所で引っかかるところがあるが、
「よろしくお願いします。一泊250ゼニーと聞いてきたんですが?」
「ええ、その通りで」
「じゃあ、とりあえず10日分で2500ゼニーです」
そう言って袋から2500ゼニーを出して、カウンターに置いた。
宿屋の親父のエルバンはびっくりしたようすだ。
あれ?なんかまちがった?
「お客さん、宿代は1泊ずつでかまわないですけど」
どうやら、通常こういった安宿はまとめて払うということはあまりしないようだ。
まあ、その日暮らしが使うのが大半なのでそういうものなのだろう。
自分の感覚とちょっと違うことを垣間見た瞬間であった。
「いえ、いいんですよ。あと、この辺で風呂屋はありますか?」
「悪いな。ここらはそういったものはないよ。商業区に行けばあるが」
「そうですか。残念」
「お客さん、でも大丈夫!うちは小さいが風呂があるんでそれを使っていいよ」
「そうなんですか」
「まあ、客用ではなく家族用なんで通常は無しなんだが、お客さんは気前がいいのでこの際タダでいいよ」
もう、エルバンは丁寧に話すのが面倒になったのか、普通にタメで話し始めた。
「ふぅ~、極楽極楽」
俺は宿屋のおやじのエルバンが、本人と家族のためだけに、趣味で造った自前の風呂に入っている。
こちらの世界に来てからはじめてたっぷりの湯で全身を洗い、丁度いい温度の湯船に浸かってこれまでの疲れを癒した。
ちなみに、こちらの世界では一般的に風呂に入るという習慣は無い。
通常は、水につけたタオルで体をふくか、川などで水浴びをする程度である。
湯を張った風呂に入るのは王侯貴族様のような身分の高い人の特権のようなものになっている。
まあ、日々の生活に追われているので風呂に入るのは贅沢だと考えているみたいだ。
正直宿賃が安いが、ギルドからかなり遠いので長期滞在はどうするべきか考えていたが、もうこの宿は手放せないと思った。




