第七の話 シンデレラと魔法の本 ~その1~
いっけねー☆ 書いてたらなんか結構な量の話んなっちゃったー☆
というわけで、長編始まります。行き当たりばったりでどこまでいけるか。
むかしむかし、あるところにとても優しく、美しい娘がおりました。けれど悲しいことに、娘のお母さんは早くに亡くなってしまいました。
やがてお父さんは二度目の結婚をし、新しい母親と二人のお姉さんが家族になりました。ところが、新しい母親と二人のお姉さんはとても意地悪で、つらい仕事を娘に全て押し付けました。かまどの掃除をして頭に灰を被った娘を、母親とお姉さんたちは灰かぶりという意味の『シンデレラ』という名前で呼ぶようになりました。
ある日、お城の王子様が舞踏会を開くこととなりました。それは、王子様が結婚相手を見つけるための武闘会ということで、招待状を受け取ったお母さんとお姉たちは大はしゃぎ。しかし当然、シンデレラはお留守番。きれいなドレスを着たお母さんとお姉さんたちを見送った後、一人しくしく泣いてしまいます。
「私もきれいなドレスがあれば、舞踏会に行けるのに」
しかし、シンデレラにあるのはボロボロに汚れた洋服だけ。これでは舞踏会には行けません。シンデレラは泣くことしかできませんでした。その時声が聞こえてきました。
「シンデレラ、お前はつらいのを我慢して、今までよく頑張って来たわね。そのご褒美に、私があなたを舞踏会へ連れて行ってあげましょう」
声をかけてきたのは、妖精のおばあさんです。おばあさんは、シンデレラの服に魔法をかけてあげました。すると、シンデレラの汚れた服が、それはそれは美しいドレスへと変わったのです。そして、シンデレラの小さな足に合った、綺麗なガラスの靴も用意しました。さらにおばあさんは、畑で取れたカボチャに魔法をかけてカボチャの馬車に、ネズミに魔法をかけてネズミを馬にしました。
「さぁ、これで舞踏会へお行き。ただし、この魔法は夜の12時には解けてしまうから、それまでに帰って来るんだよ」
「ありがとう、おばあさん」
おばあさんの注意を聞いてから、シンデレラはカボチャの馬車に乗って舞踏会が開かれているお城へ向かいました。
お城で開かれた舞踏会では、綺麗なドレスを着た女性が大勢いました。けれども、舞踏会にシンデレラが現れると、その美しさに誰も彼もが言葉を失ってしまいました。それは王子様も同じでした。
「僕と踊っていただけませんか?」
「ええ、喜んで」
王子はシンデレラをダンスに誘いました。王子はひと時も、シンデレラの手を離しません。シンデレラも王子も、この時間をとても楽しんでいました。
けれども時計の針が12時を指すまで15分しか無くなってしまいました。
「大変、もう帰らなきゃ。ごめんなさい、王子様。おやすみなさい」
シンデレラは丁寧にお辞儀をして、急いで大広間から出て行きました。階段を下りる途中でガラスの靴が脱げてしまい、そのままにしてシンデレラは馬車に乗って帰ってしまいました。
次の日。王子は階段で見つけたガラスの靴をもって、その靴のサイズが合う女性を探し回りました。国に住む大勢の女性が、自分こそがとガラスの靴を履こうとしましたが、当然誰も合うことはありません。
とうとう王子様は、シンデレラが住む家へとやってきました。当然、お母さんはお姉さんたちはガラスの靴を履けば王子のお嫁さんになれることを知っていたので、ガラスの靴に足を押し込もうとします。が、やっぱり靴は入りません。がっかりした王子は家を出ようとしました。
「私もその靴を履かせていただいてもよろしいでしょうか」
家の奥から現れたのは、汚れた服に頭に灰を被った娘でした。彼女を見て、お母さんとお姉さんたちは笑います。あなたのはずがないと。履けるわけがないと言います。
けれども、ガラスの靴は娘、シンデレラの足にぴったりです。誰もが驚き、口を開く中、王子は喜び、言いました。
「ああ、ようやく見つけた。私のお嫁さんになってくれないか?」
「はい、喜んで」
王子の差し出された手を取り、シンデレラは美しく微笑みました。
こうして、シンデレラは王子と結婚し、いつまでもいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
――――――――――
――――
―――
―
「はぁぁぁ、やっぱいい話よねぇ、シンデレラって」
「…………」
うっとりとした表情で頬に手を添えるのは、小さな妖精フィフィ。目の前に広げられた本を読んでから、思わず感想が口から出る。いつもはお姉さんぶっている普段の姿と違い、その表情は夢見る少女そのものである。そんなフィフィの頭上から、どことなくうんざりした声がした。
「……お前な。立ち読みするのに俺の胸元からってどうなんよ」
フィフィの現在地、龍二の胸元。龍二が手に持っているのは、フィフィが先ほどまで読んでいた本。それを広げた状態で、龍二は面倒くさいという気持ちを隠そうともしなかった。その腕には、野菜やらが入った買い物籠がぶら下がっている。
龍二が今立っている場所は、とある本屋。龍二を取り囲むように、背の高い本棚に数えきれない程の本が収められている。本棚と本棚の間は、龍二一人分の幅しかなく、誰かが通ろうとするならば、龍二が本棚に体を押し付けなければならない程だった。
「しょうがないじゃない。私は見ての通り、あんた達人間と違って体が小さいんだから。こうやって誰かが本を広げてくれないと、立ち読みなんてできないでしょ?」
「それ以前に妖精っちゅーファンタジーの塊のような奴がごく普通に立ち読みしたいだなんて言うこと自体めっちゃシュールだと思うんだけどな」
珍しく龍二がツッコミに回る。そりゃ確かに本の立ち読みをするのに、フィフィのような掌サイズの妖精が本を開くことはおろか、持つことすらままならないのは見てわかる。
じゃあ魔法使えよ、とも龍二は思ったが、この現代社会でそんな光景が見られるようになったら一発でテレビ出演して怪談話のネタにされるか、怪奇現象を取り扱ったバラエティー番組の人気者になる。それはそれで面倒だった。
「……にしても、なぁんでこんなところにこんな店があったんかね」
そして龍二がげんなりした表情をしている理由の一つである店内を見回して不満を口にした。
龍二とフィフィがいるのは、誇りっぽい薄暗い本屋。きっかけは、フィフィと一緒に買い物へ行った帰り道、ふとビルとビルの間に挟まれるようにして、まるで忘れ去れたかのような古臭い本屋が視界に入ったことだった。その本屋は、この場合は古本屋とも言えるような、外壁は煤で汚れ、扉すらない出入り口からも伺える店の暗さと、何より本屋の名前を書いた看板すら無い、胡散臭さが形となったかのような店構えをしているのが特徴だった。
こんな店あっただろうか? そう疑問に思いながらも、何となし、龍二は好奇心から店に足を踏み入れてみると、まず鼻についたのは、インクと埃が混じった独特な臭い。陳列されている本に関してだが、大体は背表紙にタイトルは、龍二の知ってる物も幾つかあったが、中にはタイトルすら書いていない怪しい本もあったりした。それも、どれも古臭いような物ばかりで、龍二が知っているタイトルの物も、年代を感じる物ばかりだった。最近話題になっている本や漫画は一切置いていないことが確信できる程。
読書は嫌いではないが、別に趣味にはしていない龍二は、店内をざっと見てから興味を無くし、帰ろうとした。が、その前にフィフィが本棚の中の一つに、龍二にも馴染みのあるタイトルの本を目敏く見つけた。
それがシンデレラの絵本だった。実は密かに童話といったお伽噺のファンでもあるフィフィは、龍二に立ち読みをすることをせがんだのだった。
「大体、シンデレラとかお前、アニメでもよく見てたから内容知ってんだろ。ちょっと前に実写映画も上映されたし、今更絵本ってなぁ……」
「なぁに言ってんのよ。テレビはテレビ、絵本は絵本。それぞれ違う良さがあんのよ」
「あぁあぁそうですかいそうですかい」
「あ、どうでもいいって思ってるわね? いいわ。私がシンデレラのよさを一から教えてあげ」
「調子乗ってんじゃねぇぞ蚊」
「すんませんでした」
即平謝りするフィフィに、龍二はため息をつきつつ本をパタンと閉じた。
「……で? 買うんかこれ?」
「あったりまえでしょ。シンデレラの本は前から欲しいと思ってたし、ちょうどよかったわ!」
「まぁどこで買おうが別に構やしねぇけどよ。まったく、うちの居候どもは総じてわがままな奴ばっかだわ」
やれやれと言いつつ、龍二はシンデレラの本をもって店の奥へ向かう。それに伴って、フィフィも隠れるように龍二のジャケットの胸ポケットに入った。レジカウンターの前に立つも、肝心の店主がいなかった。
「店の人いねぇな」
「奥にいるんじゃない?」
胸ポケットから顔を出したフィフィは、カウンターの奥の暖簾がかかった奥を指さす。奥は店内より暗く、中をうかがい知ることはできない。
「しゃあねぇ、呼ぶか……すんませーん!」
店の奥にいるだろうと予測して、龍二は声を張り上げる。それから数秒、龍二は反応を待ってみた。が、返事が返ってくることはない。
「留守か? ……すんませーん! 誰かいますかー!?」
先ほどより大きな声で呼ぶ龍二。それでも反応はなく、やはり留守かと思い、フィフィにあきらめようと声をかけようとした。
「はいはい、少々お待ちよぉ」
しわがれた声が、暖簾の奥から聞こえてきた。やがてしばらくすると、暖簾を潜って一人の白髪の老婆が出てきた。皺くちゃの顔に、腰は90度近くまで曲がっており、所々解れたエプロンをかけたその姿は、どちらかというと昔ながらの駄菓子屋にいるような、そんな出で立ちだった。
「いらっしゃい、お兄さん。本をお買い上げですか?」
カウンターに立った老婆は、皺で覆われた顔で笑いながら龍二に聞く。温和な雰囲気が漂うその老婆に、龍二は「おう」と言いながら本を差し出した。
「これ、ください。つか、婆ちゃんもしかして忙しかったか? もしそうなら邪魔してすまんかったな」
口調は尊大だが、その口調は老婆を気遣う物が含まれていた。それを察して、老婆は笑いながら手を振った。
「いえいえ、もう私も年だからか、耳が遠いもので。お待たせしてごめんなさいね」
「気ニシナーイ。まぁ、あんま無理しなくていいぞ婆ちゃん。体大切にしなよ」
初対面だが、老婆の雰囲気と龍二の本来の気質がそうさせたのか、親し気に会話する二人。老婆は気遣ってもらったのがうれしかったのか、ほこほこ笑った。
「ええ、ええ、こんな老いぼれを気遣ってくれてありがとうねぇ……ああ、会計ですね。500円です」
「お、安いな。ほい、ちょうど500円」
ふつうの本屋ならば1000円はくだらないはずの本だが、半額の値段だったことに龍二は少し驚きつつ、硬貨を差し出して老婆に渡す。紙袋に本を入れてもらい、龍二はそれを受け取ってから礼を言って踵を返そうとした。
「あ、お兄さんちょいと」
「んあ?」
が、老婆に呼び止められて龍二は立ち止まって振り返る。老婆は温和な笑みをそのままに、カウンターから少しだけ身を乗り出していた。
「お兄さん、少しお尋ねしますが、よろしいですか?」
「ああ、いいけど。どしたよ婆ちゃん」
もはや孫と祖母のようなやり取りだったが、それを疑問に思う物は誰もいない。龍二の胸元にいるフィフィも二人のやり取りを見て、まぁ龍二だからなぁ、と漠然と思っていた。
「お兄さん、童話の絵本を買われましたが、ひょっとして童話はお好きですか?」
「俺? まぁ、そこそこ。これは身内のために買ったもんだからな」
「あぁ、そうでしたか……なるほど」
龍二の無難な返答に、老婆は納得したように頷き、少し沈黙する。その様子に、龍二は首を傾げた。
「婆ちゃん?」
「…………お兄さん」
しばしの沈黙の後、老婆は再び口を開く。が、次の老婆の言葉に、龍二とフィフィの二人は疑問符を浮かべることになる。
「物語の世界を、体験してみたくありませんか?」
「……は?」
突拍子のない質問に、龍二は思わず声を上げた。フィフィも声を上げそうになったが、何とか踏みとどまった。
そんな龍二にお構いなく、老婆はカウンターの下をゴソゴソと漁る。やがて、老婆はそこからある物を取り出した。
「本?」
それは、一冊の本。幾何学的な模様が彫られた黒革で装丁された表紙をした、洋書並に分厚く大きく、そして店の中にあるどの本よりも、遥かに歴史を感じさせる程に色あせている本だった。
老婆はこの本をカウンターに置き、話し出す。
「これは魔法の本でね。お兄さんが物語の中にお兄さんが入り込んで、その物語の一人の登場人物となることができるという、不思議な本なのよ?」
ニコニコと話す老婆に、龍二は眉をひそめた。
「なんだそりゃ? 俺が登場人物の一人に?」
「ええ、そう。あなたが物語の世界の住人になることができるのよ?」
それを聞いて、龍二は胡散臭い目で本を見る。決して目の前の老婆を悪く思うつもりはないが、正直胡散臭い。いきなり魔法の本と呼ばれている古臭い本を持ち出され、しかも物語の世界に入ることができるなど、到底信じられるような物じゃなかった。
そこでふと気付いた。
(……って、すでに魔法は身近に感じてたんだった)
胸元の妖精はもちろん、勇者、魔王、相棒の剣。あとついでに親友の家に居候している魔導士と魔王の配下の双子。しかも、結構でかい事件にも何回か巻き込まれている時点で、今更現代社会の中で魔法があってもなんか割と信じてしまえる龍二であった。
(……まぁ、嘘臭いけどなぁ)
とは言っても、やはりここは現代社会。世の中には詐欺やら何やらの犯罪は腐るほどある。この魔法の本というのも、インチキな可能性がとても高いと思うのは、至極当然の考えだった。
そんな龍二の思考を読み取ったかのように、老婆は笑顔のまま続けた。
「もちろん、お兄さんが疑う気持ちもわかります。だから、もしこれがインチキだと判断したら、返しに来てくれても大丈夫ですよ」
「…………」
龍二は顎に手を添え、少し悩んだ。嘘だと思ったら返しに来てもいい。まぁ、こっちにデメリットは無いとは思う。だが、そこに何か潜んでいるのではないかと疑ってしまう。
「……これいくら?」
まず値段を聞く。法外な値段なら、さっさと店から出ていく。安ければ、一考の余地ありとして少し考える。が、返って来たのは意外な答えだった。
「お代はいりませんよ」
「……は? いいのかよ?」
呆気らかんと言う老婆に、龍二は一瞬呆けた声を出した。
「ええ、私はお兄さんにそれを譲りたいの。ダメかしら?」
「いや、それ以前に何でだよっていう感じなんだが。何故に俺?」
「そうですね……こんな古い本屋で本を買ってくれた上に、老い先短い老人を気遣ってくれるようなお兄さんになら、この本を譲っても構わないと思った……というのはどうかしら?」
それだけで、こんな高そうな本を譲るという老婆の心中を、龍二は測りかねた。
(……曰くつき、とかじゃねぇだろうな?)
本をじっと見つめ、龍二は考える。だが、龍二の眼からしてみても、本からは邪な物は感じ取れず、たんなる古い本というようにしか映らない。
害はない……かもしれない。ただ、なんとなく。そう、この本屋にフラリと立ち寄った時のような好奇心が、龍二の迷いを払った。
「……そこまで言ってくれるんなら、いただくわ」
龍二がカウンターの上の本を手に取るのを見て、老婆は嬉しそうに笑った。
「そう。受け取ってくださるのですね」
「まぁ、せっかくもらえるんだし、突っぱねるのも勿体ないかなーって思ってよ」
龍二が絵本の入った紙袋に本を入れると、老婆は一枚の四つ折りの紙を龍二に手渡した。
「これは、この本についての説明が書かれた紙です。ちゃんと読んでから開いてくださいね?」
「あいよー。サンキュー婆ちゃん」
受け取った紙をズボンのポケットに入れると、老婆は小さく頷いた。
「……あなたに―――がありますように」
「ん?」
「いえ、何でもありませんよ。お買い上げ、ありがとうございました」
老婆の小さな呟きに龍二が聞き返すも、何事もなかったかのように老婆は龍二に相変わらずの笑顔を送った。少し気になった龍二だったが、詮索することもないだろうと、龍二は老婆へ会釈してから店を後にした。
薄暗い店内。老婆は龍二が去った出口をしばらく見つめていたが、やがて小さく一人ごちる。
「……ごめんなさいねお兄さん。あなたに、大変な役割を押し付けてしまうような形になってしまって」
その老婆の表情は、憂い。先ほどまで見せていた笑顔とは違う、どこか虚しさを感じさせる物だった。
「もう、私にはどうすることもできない……だからこそ、あなたのような人に頼らざるをえなかった……」
少し話しただけだったが、老婆は龍二に、ある可能性を見出していた。
誰かを気遣える人間。決して優しさを見せる自分に酔うような物ではなく、ごく自然に相手を労わることができるような、そんな人間。だからこそ、老婆は龍二にあの本を託した。
失敗すれば、取り返しのつかないことになりかねない。だが、もはや老婆が自分にできることは何もなかった。
「……あなたに、魔法のガラスの加護がありますように」
だからこそ、もう一度祈る。あの本を受け取った、老婆が名も知らぬ青年の行く末を。
因みに今回の長編で登場するレギュラーメンバーは龍二とフィフィ。それ以外はほとんどありません。
あとタイトルでわかると思いますが、書く切っ掛けとなったのは実写映画見たから。アニメとは違った煌びやかな映像に結構ハマりました。気分はまさに
私2「私1が実写映画にハマったようだな」
私3「フッ、所詮奴は四天王の中で最弱……」
私4「実写映画如きにハマるとは……」
私5「四天王の恥さらしよ」
私234「誰だテメェ」
な感じでした。
続きは近々。また見てコロコロ。