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第三の話 皆で行きたいホームセンター! ~後編~

駆け足気味注意。


「「…………」」


 ガラス製の自動ドアがガーッと音をたてて左右に開くと、中からは黒煙と共に頭がここへ来る前に食らった龍二の鉄拳制裁と同じようなチリチリヘアーへとなったアルスとクルルが、無言のままおぼつかない足取りで出てきた。顔と服も煤だらけだ。


「あ、お疲れ様ー」

「おっつー」


 二人を出迎えたのは、さっきと変わらないベンチの上でゆったりくつろいでいる龍二と龍二の頭の上で寝そべるような形でいるフィフィ。アルスとクルルは、さっきの事もあって、その光景でものごっつ殺意が湧いた。


「……リュウジさん?」

「んあ?」

「……知ってたんですか? これ?」


 震えながら問いながら背後のホームセンターを指差すアルス。


「YES」


 即答する龍二。


「「…………」」


 どこからともなく剣を取り出すアルスとクルル。


「えーっとチェーンソーを作動させるにはっと」

「「…………」」


 どこからともなくチェーンソー(なんか刃に赤い液体っぽいのがべっとり付いてる)を取り出した龍二に、アルスとクルルは静かに剣をしまった。


 泣いた。






「いやぁ正直悪いとは思ってたぞ? ぶっちゃけお前らがこの状況をどう切り抜けるのか気になったから、つい、な?」

「おかげで死にかけましたが」

「ついでに本日二回目の真っ黒くろすけになっちゃいましたが」

「あははー」


 悪びれるように(謝罪度0%)言う龍二と笑うフィフィに、アルスとクルルは拗ねた態度を隠さずに抗議した。


「とりあえず説明するとだな。このホームセンターはちょいと特徴的でな」

「ちょいとの域を飛び抜け過ぎです」

「なんか店長、元自衛官でな。昔はスパルタ訓練で有名だったらしくてよ。あの人の部下の数人が訓練に耐えきれずに行方不明になったっていう」

「洒落になりませんよねそれ?」

「で、引退した今じゃそういうのないし、『それだったらそういうのを売りにして店開けばよくね?』とか言ってこの店開いたらしくってよ」

「根本的にいろいろ間違えてます」

「ちゅー感じで、このホームセンターで物を購入したければ、目当てのもんが置いてあるそれぞれのコーナーの試験を突破しなけりゃならんとのことらしい。最後は店長自らが試すってよ」

「絶対物売る気ないでしょ」

「ぶっちゃけないらしい」

「それはぶっちゃけちゃダメだと思います」


 予定調和のように淡々と繰り返される龍二とアルスの説明という名のボケとツッコミという名のツッコミ。そして明かされるホームセンターの謎。ぶっちゃけ店として終わっている。


「そーゆーわけだから、ここで物買うのは一筋縄ではいかないってこったな。まぁ何回もチャレンジできるし、諦めなけりゃ行けるっしょ」

「……因みに拒否権は……」

「ベランダ」

「わかりましたよ行きます!!」

「行くよもう!!」


 なんかもう理不尽すぎる。こんなホームセンターだなんて聞いてなかった二人は半ばキレ気味に再チャレンジの決意を固める。

 そんな二人を見て、龍二は少しバツが悪そうに頭を掻く。


「……んー、仕方ねぇか」


 そう呟いて、龍二は手元に置いてあるビニール袋の中を漁り、それを取り出した。


「ほれ、アルス」

「え? うわわ」


 ポイっと“それ”を投げ、アルスは慌て気味に受け取った。


「……なんですか? これ?」


 受け取ったのは、手に平サイズの黒い物体。平たい円形の部分から、くの字に内側に曲がっている。よく見れば、円形の側面の一部分に何か小さくて細い筒状の物の先端に、透明な……いわゆるレンズがはめ込まれていた。

 この世界に来てそれなりに長いが、これは二人とも見たことがない。そんな二人に龍二は説明を始める。


「それ、カメラ付きインカム。電源入れて耳に嵌めると、口元部分のマイクで声を、んでインカム本体部分のカメラからは映像がこっちに送られるようになってる」


 そう言って、龍二は二人に自分のスマホ(こないだ買い換えた)を二人に見せる。


「今回は二人とも初めてだからな。こっからアドバイスくらいはしてやる」

「うぅ、一緒に来てくれるという選択はないんですね……」

「バーロー、社会勉強だ社会勉強」


 アルスの願望に龍二は歩く死亡フラグっぽい台詞で返した。龍二の素っ気なくとも一応の温情である。誰が何と言おうが温情である。


「ねぇねぇ私のはー?」

「ただでさえバカたけぇんだから一つだ一つ。二人一緒に行動すんだろ? んじゃ問題ねぇべ」


 ブー、と膨れ面になるクルルだったが、龍二が手を振って二人に“行け”と促す。


「さ、とにかく行って来い。日が暮れんうちにな」

「……わかりました。頑張ってみます」

「えっと、失敗しても怒らないでね?」


 再チャレンジともあって、今回は慎重に慎重を重ねて突入を開始する二人。龍二は相変わらずのほほんとした感じに手を振って見送った。


「……さて、じゃこっちも」


 と、気だるげにスマホのロックを解除し、設定をいじくっていく。二人の耳に付けられたカメラから送られる映像を、スマホに映すためだ。


「……なんだかんだで甘いわよね、アンタも」

「ほっとけ」


 呆れと一緒に、なんとなく嬉しそうな頭の上に乗った妖精の言葉に、龍二はいつものような素っ気ない口調で返すのだった。


「……ところで、あんな高価な物、どこで買ってきたのよ?」

「んあ? どこってそりゃ……あ」








 所変わり、ホームセンター内の入り口。自動ドアを開け、二人は先ほど猛攻を受けた場所へと足を踏み入れた。店内は高い天井に設置されている蛍光灯によって明るく、一見すると普通の店にしか見えない。

 だがここはある意味別世界。もはや二人に油断はない。


「えっとこれを……」


 店に入るや否や、先ほど龍二からもらったカメラ付きインカムを耳に装着する二人。電源を入れ、インカムのつけ具合を確認する。


「あーあー、リュウジさん? 聞こえます?」

『聞こえねえ』

「聞こえてるじゃないですか!」


 龍二のわざとらしいボケのアルスはツッコミを入れた。


『……うむ、感度良好。カメラも問題なし。ちゃんと映像が届いてるぞ』

「はい。アドバイス、お願いしますね?」

『まぁ期待しないでくれよなー』

「アルスー。リュウくんなんてー?」

「ちゃんと機能してるって。それと期待しないでって」

「いや、期待しないと私達危険なんだけどね……」


 電子機器が存在しない異世界から来たアルスだが、それなりにこの世界にいるのが長いおかげで、操作方法さえわかれば何とか使いこなすことができる。こういったどこにいても通信することができるという道具が、魔法を使えない一般人でも使用できるというのが、改めてこの世界の技術力の高さを痛感する。


 と、そんなことを考えていたアルスであったが、ここへ初めて来た時と同じように、どこからともなくスピーカーのスイッチを入れる音が聞こえてきてから表情を引き締める。


『フシュルルルルルルルル……まぁぁぁたオメェ達かぁぁぁぁぁ……あんましつっこいお嬢ちゃんはおっちゃん嫌いだよぉぉぉぉ?』


 相も変わらない野太い声。だがアルス達は最初と違い、何が来るのかわかっているために無言で身構える。


『まぁぁぁいい。しつっこいのは嫌いだがぁぁ、根性ある奴ぁおっちゃん大好きだからなぁぁぁぁぁぁぁ……』


 そして聞こえてくる起動音。棚が左右二つに分かれ、中央から大口径のガトリング砲がせり上がってくる。

 あそこからどんな攻撃が来るのか。それをアルスとクルルは、先ほど身を以て知った。


((今度は、避けてみせる……!))

『でぇぇぇぇぇはぁぁぁぁぁぁ…………』


 声が大きく息を吸ってから、




『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!』




 叫ぶ。すると、ガトリングが回転を始める。やがてあの銃口から、バスケットボールサイズの砲弾が無数に飛んでくるだろう。


『アルス、お前は右へ走れ! クルルは左だ!』

「は、はい! 魔王、ボクとは反対方向へ! 走って!!」

「ふぇ!?」


 画面越しからそれを確認した龍二はアルスに指示を飛ばす。それを聞いたアルスは、クルルとは逆方向の右側へ向かって走り出す。クルルも慌てて、言われた通りに走り始める。瞬間、高速回転をするガトリング砲から、無数の砲弾が飛び出してきて、先ほどまで二人がいた床に連続でぶち当たっていく。

 砲弾自体に殺傷能力はないため、床を砕くとまではいかないが、それでもあの速度であの数の砲弾を受け続ければ、確実に再起不能になるだろう。


『あのガトリング砲は一つしかない。つまりどちらか一方しか狙えん。そこをつけばいい』

「な、なるほど」


 龍二のアドバイスにアルスは納得する。確かに強力なガトリング砲ではあるが、数は一つしかなく、そして狙えるのは直線状にいる物だけ。ならばバラバラに逃げればどちらか一方を狙わざるをえなくなり、結果的にもう一人は不意をつくことが可能になる。

 が、それはつまるところ、一人が囮になるということであり……。


『アルス、お前を狙ってんぞ』

「うえぇ!?」


 ガトリング砲がグイーンとアルスへと砲身を向ける。標的を絞られたことによって、アルスは集中的に狙われるようになった。


『とにかく避け続けろ。下手に接近したらボコボコだぞ?』

「え、え、でもいつまで逃げ続けてれば……!?」

『ガトリング砲の後ろにスイッチがある。それを押せばオッケーよ。クルルにも伝えろ』

「はい! 魔王! あの砲台、後ろの方にスイッチがあるからそれを押して!!」

「わ、わかった!」


 攻略方法がわかったことで希望が持てたのか、アルスは砲弾をかわすことに専念する。


『アルス、右だ』

「はっ!」

『左へ。避けろ』

「せいっ!」

『後ろへ跳べ』

「たぁっ!」

『上から来るぞ、気をつけろ』

「うえっ!?」

『なんだこの階段は』

「ちょ、今どこにいるんですか!?」


 龍二の的確(笑)なアドバイスと、アルスが本来持っていた俊敏さを合わせて、迫りくる砲弾を余裕を持って回避していく。

 それを一定時間繰り返していたが、やがてガトリング砲の銃身が急にガクガクと震えだした。


「お、終わりですか?」


 ようやく終了か、とアルスは安堵しかけたが、次の龍二の言葉に硬直することになる。


『いや、ラストスパートだなこりゃ。やたらめったらに砲弾飛んでくるから、ちゃんと避けろよ?』

「はいっ!?」


 ガトリング砲は大きく上下左右と、傍からみたら故障しているのではないかと思えるような動きをしているが、あの状態から砲弾が放たれた場合……無数の砲弾が一直線ではなく、弾幕となって襲い掛かってくる。

 それは、回避が困難になってくるということであるに他ならない。


「ど、どうしましょう!?」

『どうもしねぇよ。とにかく避けろ。俺も指示してやる』


 頼もしい龍二の言葉に、狼狽えていたアルスは落ち着きを取り戻す。とにかく避ける。それでここは終わる。勇者としての誇りが、彼女を奮い立たせる。


 そして、ガトリング砲の砲身が高速回転を始め……、


『アルス!!』

「はい!!」





 弾幕となってアルスに襲い掛かってくる。





『下下上右上下左下上左左右上上斜め右上下左縦横右上上斜め上右上下左下上左上上ABAAB上下BB右左斜め斜めAB上下BB上上下下右右左上上上上下下下下縦縦横横斜め上横左下下右上下左下上左AAB上下BB右左斜め左下上左左右上上斜め右上下左縦横右上上斜め上右上BAA!!!!』

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!???」


 格ゲーのコマンド表ばりの指示(というかすでに方向とかじゃないのが多数混ざってる件)にアルスは勇者としての誇りとか後恥とかそんなものは全てかなぐり捨てて回避に専念。自身の直感とか反射神経とかを活かして避けまくる。傍から見ててグニャングニャンといった擬音が付きそうなくらい柔軟な動きをしながら避けまくる。ぶっちゃけキモイ。


「あああああああああああああああああああああああああああっ!?」

『うおおぅ、すげぇ画面ぐにゃんぐにゃんしとる。何がどうなっとんのかさっぱりわからん』


 必死こいて絶叫しながら避けるアルス。カメラの向こうで呑気に感想述べたりしている龍二。龍二の呑気さにアルスはツッコミを入れたかったが、避けるのに精一杯なため、それができない。なんたる歯がゆさか。


「魔王おおおおおおおおおおおお!! 早くスイッチ切ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」

「ちょっと待ってー!」


 必死に避けながら叫ぶアルス。対し、クルルはガトリング砲の射線から大きく離れ、砲台の背部へと無事移動できていた。

 が、クルルは目の前の光景に頭を捻ることになる。確かにボタンはあった。ガトリング砲を支える支柱の後ろ側に、龍二の言う通りにボタンが設置されている。




「え、えっと……ど、どのボタンなんだろ?」




 が、ボタンが縦に並ぶ形で三つあった。上から赤と青と黄。ボタンを押せば止まると聞いたが、どれを押せとは聞いていない。


「あ、アルスー! ボタンあったけど三つあるー!! どれ押せばいいの!?」

「三つぅぅぅぅぅぅ!? り、龍二さんどれ押したら!?」

『適当に押せばいんじゃね?』

「どーしてそこで無責任発言んんんんんんんんんんん!!??」


 あまりにも呆気らかんと適当なことを抜かす龍二にアルス絶叫。体力と精神がゴリゴリ削られる。


『しゃーねーだろ、それ毎回ランダムで変わるんだからよ。どの道押さねぇと始まらんだろが』

「えぇぇぇっと、ま、魔王! とにかくボタンを押して!! どれか一つが正解だから!!」


 そんなやりとりをしてる間にも、砲弾はアルスに食らいつかんと止まることがない。もはや体力も限界に近いのか、幾つかの砲弾がアルスの体をかすめていく。直撃するのも時間の問題だ。


「えぇっと、えぇっと……よ、よし! これ!!」


 アルスを見てクルルも焦りを感じつつ、勢いよく三つあるボタンのうち一つを押した。カチリと小気味のいい音をたてながら、ボタンが沈む。

 そうすることにより、アルスを狙っていたガトリング砲台は、プシューという音をたてながら、




 ――――――ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボッ!!!!


「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!??????」

「アルスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!???」




 さらにものっそい量の砲弾がアルスを襲う。具体的に言うと、発射間隔が短くなった上に、砲弾の速度、威力が増していた。


「魔王おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 一体何押したのおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」

「な、何って普通にボタン押したよ!? 黄色いの!」

『あ、そりゃ外れだわ』

「何でですか!?」

『だってクルルの髪とおんなじじゃん』

「魔王のバカあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

「うるしゃああああああああああああああああああああい!!!!」


 インカムを持っていないクルルが知る由もない理不尽な理由が失敗の原因だった(龍二談)。その間にもアルスは高速で砲弾を避ける避ける避けまくる。手足を振って体を縦横斜めに高速回転させ、心なしか床から若干浮いてるような気もする程。傍から見た人達からしてみれば、ふと脳裏にゲッダン♪ というフレーズが浮かぶ。


『……ゲッダン』


 その場にいない龍二が浮かぶ以前に口に出していた。


「も、もう一個! 早くもう一個押してくださいっ!! 限界! もう限界ですから早くぅぅぅぅぅぅっ!!」


 そんな状況にありながらも叫ぶ余裕はまだあるアルス。クルルはふと「大丈夫なんじゃないかなぁ?」と漠然と思ったが、やっぱ後が怖いため、早くボタンを押して停止させようと再度試みる。


「……よし、これ!!」


 どの道、正解は初めからわからない。ならばどれを押しても確率は五分五分。クルルは迷わず、今度は青いボタンを押した。すると、



 ――――ガガガガガガッ……!



 ガトリング砲が射撃を止め、内部から軋むかのような音が響いてくる。少しの振動の後、ウィーーン……という蚊の鳴くような電子音と共に、銃身を下げて項垂れる形となって動きを止めた。


「や、やった! やったよアルス!! 止まったよ!!」


 砲台が停止したのを確認したクルルは、喜色の笑顔で砲台の横から顔を出す。


「うあああああああああああああああああああああああ早く止めてえええええええええええええええええええ!!!!」

「いや止まってるんだけど……」


 そこには必死に体を動かすあまり、ものすごい勢いで回転して止まらないアルスが叫んでいた。それを見てクルルは戸惑うしかない。


『……おーいバカアルス。もう止まってんぞ』

「うあああああああああああああああああ…………ぁ?」


 インカムから龍二の声がし、アルスはようやく停止した。跳んでる最中、頭を下に向けた状態で。


 ゴヅン。


「~~~~~~~~~っ!!!」


 当然、物理法則が働くこの世において頭を下に向けたまま浮いている人間はエスパーとかくらいしかいないわけで、ごく普通に落下。頭頂部を強打したアルスは鈍い音をたて、その場でゴロゴロと転がった。


『おーいアルスー。大丈夫かー?』

「~~~~~~~っ、だ、大丈夫、で、ず……」


 龍二の応答に、どうにか蹲りながらでも応えるアルス。


『そうか、そりゃ残念』

「どーゆー意味ですかー!!」


 ツッコむためにガバッと身を起こして即復活する辺り、体質が伺える。


『まー、何にせよ無事突破できてよかったじゃねぇの。ほれ、少し休憩してでもいいから早く行けよー』

「うう、他人事だと思って……」

『他人事だし』

「恨んでやるー!!」


 哀れ、その恨みは龍二には届かない。

 けれど、何にせよ最初の難関は突破できた。まずはその事について安堵してもいいはず。とりあえず一時休息を取ってから、クルルと一緒に店の奥へ行って、目当ての品を入手しよう。アルスはそう考え、冷たい床に手をついて立ち上がろうとした。


「ねぇリュウくん、もう一個のボタンは何ー?」


 そんな中、クルルが疑問の声を投げかける。そういえば、ボタンは三つあると言っていた。それをアルスはとりあえず伝えておく。


『んあ? えーっと確か一つ目はパワーアップ、二つ目は機能停止、三つ目はぁ……』



 カチリ。



「あ」

「え」


 小気味のいい音。そしてうっかりといった感じの声。思わず返すアルス。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……ねぇ、もしかしなくても一応聞いておくけど……」

「……」

「魔王、押した?」

「……ごめん、押しちゃった」

「……」


 テヘッやっちゃったぜ☆ そんな感じに言うクルルに、アルスは頭を抱えようとした。


『……二人とも。そっから逃げろ』


 が、龍二の冷静でありながら、珍しくもどこか焦燥を含んだ龍二の物言いに、アルスは硬直する。


「え……な、何でですか?」

『ああ、それなんだが……』


 アルスは、なんか嫌な予感がした。例えるなら、昔魔物の巣窟である砦で、砲弾や様々な武器を収めた火薬庫から焦げ臭い臭いがしたそんな時の予感。


『それ、自爆スイ』





 予感は現実となり、アルスの視界は光で覆い尽くされた。










 それから数時間後。


「あーあ、結局こうなっちまったか」

「しょうがないんじゃない? 初めてにしてはよくやったと思えるし」


 夕日に染まる帰り道、自転車を押しながら、龍二は呆れたように一人ごちた。その頭の上を、フィフィがくつろぐように肘をつきながら乗っかっていた。

 その龍二の背中にはアルスが、そして自転車の後ろ部分に設置された籠の中にはクルルが、それぞれ髪の毛チリチリの真っ黒こげになった状態で乗っていた。目がぐるぐる回っているところを見ると気絶しているだけのよう。今日だけで三回黒焦げ状態になった二人である。


「んー、まだ早すぎたかねぇ? あそこのホームセンター」

「まぁ普通あんな店ないでしょ? 寧ろあそこ選ぶ普通?」

「いや、社会勉強で」

「どんな社会勉強?」


 そんな社会勉強は嫌だ。


「……まぁ、何はともあれ」


 呟き、龍二は自転車の前籠を見る。


「買うもん買ったし、目的は達成したな」


 籠の中には、プランターやスコップといった園芸用品が、ビニール袋の中に一杯になって入っていた。


「……ねぇ、ふと思ったんだけどさ?」

「ん?」


 フィフィが言いにくそうに口ごもるが、意を決して口にする。




「これ、やっぱ二人とも怒るわよね? 近くの電化製品専門店と併設された別のホームセンターで買ったって言ったら」




 目当ての品の入った袋には、アルス達が行ったホームセンターとは違う店名のロゴが入っていた。


「……あー、うん。しゃーねぇじゃん? まさかあのインカム買った店の隣に別のホームセンターあったのすっかり忘れてたわけだし」

「しかもそのホームセンターが、アルス達が行ったホームセンターの真後ろの店にあるなんて、これ絶対喧嘩売ってるようにしか見えないわよ?」

「で、インカム買ってオメェに指摘されるまでそのことすっかり忘れてた、と」

「…………」

「…………」


沈黙。




「……ま、気ニシナーイ」

「……そうね」




 夕餉は二人の好物でも作ってやろう。夕焼けの向こう側へ歩いていくように、2割の詫びの気持ちからそんなことを決意する龍二なのであった。






「……今回の客……最初の時点で終わっちまったが……」


 暗い室内。目の前のモニターの明かりのみが照明となり、その前に座る人物の顔をぼんやりと照らす。

 モニターに映る二人……アルスとクルルが、懸命に突破しようともがく姿をモニター越しに見つめるその顔が、ニヤァ……っと大きく歪んでいく。


「ガッツあるじゃねぇの…………次来た時どこまでやれるか……楽しみだぜぇぇぇぇ」




 その呟きの後、どこかで悲痛の叫びが聞こえた気がしないでもなかった。


駆け足で終わらせた感が半端ない件。けれどあざといまでに伏線描写。

先週は投稿できず申し訳ない。いけると踏んだのに結局間に合わずでした。だからあらかじめ下書きとかそういうのを書いておけと。

で、今回も日付変更まであと約一時間というギリギリな件。やばい。私やばい。いろいろとキツイ。

が、次の話はいける。いけるはずだ。いけると思う。いけるんじゃないかなぁ? そんな曖昧な私。

はい、では後編でした。味付けさっぱり後味さっぱりなお話でしたが、お楽しみいただけたのならば幸い。

あと投稿して僅かな日数にかかわらず、コメントくださった方々ありがとうございます。毎日読ませていただいてます。そして励みにしています。誰がハゲだ。


それでは、また見てコロコロ~。

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