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第三の話 皆で行きたいホームセンター! ~前編~


 今日は日曜日!


 空は快晴!

 

 風は心地よく!


 太陽からは柔らかい光が緑を活気づける!


 日頃家族サービスが疎かになりがちなお父さんは家族を連れてピクニック!!」


 そう、今日は絶好のハッピーデイだ!!!




「さぁ、申し開きを聞こうか……」

「イ~エ~イ」

「「「ごめんなさい……」」」




 ただし荒木邸は除く。




「謝罪なんざ聞いてねんだよコラ。俺が聞きてぇのはこれだよこれ」


 ビッ! と龍二が指差したのは、日頃龍二が洗濯物を干したり、時には精神統一するために利用したりするベランダ……が、あった場所。

 元ベランダは地面の芝生がところどころ燃えて灰になっていたり、地面が抉れて土が丸見え状態になっていたり、家を囲む塀が崩れて瓦礫になっていたり、花が吹っ飛んで地面に植木鉢やプランターの残骸と共に無残にも横たわっていたり……そりゃあもうひでぇってもんだった。


「これ、ちょ~っとやりすぎじゃぁないかなぁ……ねぇ?」


 仁王立ちしている龍二の顔の横では、真っ赤に燃え盛る炎のような赤の光を発しながら羽をヒラヒラと動かして飛ぶフィフィ。綺麗なその顔は鋭い目でまっすぐ、目の間にいる二人を射抜き、口の端は無理に釣り上げているのかヒクヒクと引きつっている。ついでに頭にはこれまたお約束の血管が浮き出ているマークが幻視できた。

 早い話、今まで甲斐甲斐しく世話をしていた花達をめっちゃくちゃにされて、ものっそいブチギレていた。


「え、えっとこれは、その」

「これにはふか~い訳がありまして、あの」


 そんなブチギレた笑顔を浮かべるフィフィと能面のように無表情のまま仁王立ちする龍二の前で正座し、ダッラダラと冷や汗かきまくっているアルスとクルルは、目を泳がせながら言葉を探す。余談だが、二人の頭にはタンコブが数個と目の周りに青痣、ついでになんか炎で炙られたかのように綺麗な髪の毛が所々チリチリになっていたりと、傍からみたらめっさ悲惨な状況だった。

 では、何故このような状況になってしまっているのか……わかりやすく説明しよう。



 いつものようにアルスとクルルが喧嘩

      ↓

 ベランダで決着つけようと提案

      ↓

 ベランダがフルボッコ←今ここ



 つまり二人はバカだということである。


「ア、アルスがいけないんだよ!? 私謝ったのに許してくれなかったから!!」

「謝ったって何回謝って同じこと繰り返してると思ってんの!? ボクのプリン食べたの魔王じゃん!!」

「プリン一個で文句言わないでよ!!」

「これまでボクのプリンどんだけ食べたと思ってるのさ!!」

「賞味期限切れかけてるプリン置いとくからだよ!!」

「楽しみに取っといたから期限ぎりぎりになってたんだよ!!」

「わかんないよそんなの!!」

「何ぃ!?」

「やんのきゃコラー!」




「「シヌガイイ」」

「「ンア―――――――ッ!!!!」」




 今日は日曜日。


 空は快晴。


 風は心地よく。


 太陽からは柔らかい光が緑を活気づける。


 日頃家族サービスが疎かになりがちなお父さんは家族を連れてピクニック。


 そして自業自得の勇者と魔王は修羅と化した男と妖精の炎の鉄拳(比喩にあらず)による阿鼻叫喚の日。


 そう、今日は絶好のハッピーデイとブラッディデイだ。






「けどよ、ホントこれどうしようか」

「う~ん、一応花はまだ大丈夫だけど、プランターと植木鉢はもう使えないわね」


 勇者と魔王を始末し終えた龍二とフィフィは、外に広がるベランダという名の惨状に再び頭を抱える。抉れた芝生は土を戻して草を植え直さないといけないし、壊れた植木鉢やプランターは再利用できないくらい破壊されているから使えない。瓦礫と化した塀はしょうがないからまた今度考えるとして、とりあえずこの状況は見た目的にも気分がよくない。


「……しょうがねぇ。ホームセンター行って必要なもん買い揃えに行くか」

「家にあるのじゃできないの?」

「生憎、スコップとかそういう道具は錆びついちまってて使い物にならんし、植木鉢とかプランターとかも家にはない。ま、買い直そうと思ってたし、ちょうどいいな」


 メンドイけど、とため息交じりに付けたし、頭を掻く龍二。今日は恒例のラーメン屋巡りをしようと思ってたところで、とんだ災難である。


「さて、じゃとっとと起きろこのポンコツども」


 そう言って龍二は足元で黒焦げになったまま転がってる物体Aアルス物体Kクルルを起こしにかかる。しばらく目を回したまま動かなかった二人だったが、龍二に声をかけられてガバリと身を起こす。


「い、今なんか川の向こうで弟のアランが呼んでた気が……!」

「私思いっきり川に飛び込もうと準備体操してて……!」


 危うし勇者と魔王はもう少しであの世に行くところであった。特にクルルはマジでヤバかったっぽい。

 因みにアランとはアルスの死んだ弟の事である。詳しくは前作『第百三十一の話~第百四十三の話』を読んでみよう。露骨な宣伝がいやらしい? さぁ、知らんな。


(え……それはヤバかったな。すまねぇ、やりすぎた。今度から自重しよう)

「あんな折檻であの世に渡ろうとするとは軟弱者どもめ。本気で送ってやろうか貴様らフォルア」

「「本音と建前が逆ぅ!!」」


 ちょっとしたミスに少し顔を赤らめた龍二は、取り繕うように咳払いをして続ける。


((ちょっとしたミス……!?))


 地の文にツッコミいれないでいただきたい。


「ほら、いいから準備しろオメェら。ホームセンター行くぞ」

「え、リュウジさんも行くんですか?」


 てっきり龍二のことだから「責任取ってお前らだけで行ってこんかいこのボケナス殺すぞ」みたいな事を言うのかと思っていたが、自分から行くという龍二に不思議そうにアルスは聞く。


「ああ。あそこちょっと遠いし道複雑だし、地図だけ渡してお前らだけで行かせるのは不安だしな」


 と言ってからフイと顔を逸らして、


「……もっとも、それが最大の理由じゃねぇけど」

「ほぇ?」

「なんでもねぇ。ほら、準備しろ準備」


 ボソリと呟く龍二の言葉に首を傾げたクルルだったが、準備を促された龍二によってその先を聞くことはなかった。





 もっとも、聞いていたとしても避けられなかっただろう……あの恐怖の体験は。







「自転車漕いで20分、天分ホームセンターに着いたぞー」

「すごーいリュウくん! なんか省略された感が半端ないね!」

「いや実際省略してますねこれ」


 右肩にフィフィを、両脇にアルスとクルルを従えて呑気な声で言う龍二の目の前には、元は大きな倉庫だったのであろう物を改造した巨大なホームセンターの前に立っていた。ホームセンターの見上げるほどの大きなガラス製自動ドア付の入り口の上には、『天分ホームセンター』と青いゴシック体の文字で書かれた看板が掲げられている。

 因みにだが、ここに至るまでの道のりは、単純に曲がる道が多かっただけというだけで大した事はなかったため描写は省かせていただいた。


「にしてもすごかったねーさっきの。橋の上で仁王立ちして『俺は時の流れに抗ってみせる!』って叫んでから川に飛び込んでそのまま流されてっちゃった男の人、結局どうなっちゃったかな?」

「さぁなぁ? 俺はそれよっかスクーターに乗ったまま空中きりもみ三回転ジャンプ決めた後にイナバウアーかましたおばちゃんが気になる。あのまま何故かあったジャンプ台に乗ってどっか飛んでったけどどうなったんだろうな」

「私としては何か全身真っ黒な服来た人が突然出てきて『ドーモ』って挨拶された時はどう反応したらいいのかわかんなかったわ」


 もう一度だけ言う。大したことはなかったから描写は省かせていただいた。ホント。マジで。


「え、えっと……そ、それにしてもおっきい店ですね! ボク、ホームセンターなんて初めて来ました!」


 話の流れを変えようと必死なアルスは、目の前に聳えたつホームセンターを見上げて感嘆の声を上げる。元いた世界にも、こういった日用雑貨や生活設備等を取りそろえた店はあるにはあったが、それは市場で開かれる小さな露店で売られていて、品ぞろえも決していいとは言えなかった。ゆえに、ここまで巨大な建物でそういった物を売っているというのは、アルスらにとって珍しい物だった。

 もっとも、スーパーマーケットやデパートといった城並のどでかい建造物は今でこそ見慣れてはいるが、生まれて初めてそれらを見た時の驚きといったら、あまりに驚きすぎて龍二にやかましいの一言と同時にアイアンクローかまされたのはいい思い出だ。


「……でも……」


 が、表情を一転、困惑気味に周囲を見回す。そして言う。





「何でだーれもいないんですか?」





 そう、誰もいない。ガラーンとしている。普通、こういったホームセンターには下手なスーパーよりも多く日用品が売られているため、休日など多くの客で賑わっているものなのだが、龍二達以外誰もいない。ヒューと吹く風がなんかうすら寒く感じた。

 寂れたホームセンターなのかとも思ったが、見た感じ建物は新しく感じるところもあったり、不景気の煽りを食らって客足が遠のいたという印象がない。

 一体何故……そんなことを考えたアルスは龍二に聞いてみようと振り返った。


 いなかった。


「あ、あれ?」


 いつの間にかいなくなった龍二にアルスが面喰ってる、別方向から声がした。


「おーし、んじゃ俺らはここで待ってるかんなー」

「頑張ってよねー」


 探していた人物はいた。自販機前の木製ベンチのところで、缶ジュースを飲みながら寛いでいる龍二とフィフィが、アルスとクルルを見送る雰囲気で手を振っていた。


「え、え、リュウジさん? フィフィ?」

「一緒に行かないの?」


 そんな光景を目にしたアルスとクルルはますます困惑する。なんせ、こういう買い物をする時は、かならずといっていい程、龍二が主体となって動くからだ。合計金額がオーバーしないよう品物の量を調整したり、クルルが変なお菓子買わないか見張ってたり、アルスが迷子にならないか目を光らせたりと、龍二が動くのが普通なのだというのが彼女たちの共通認識だ。


 が、その当の本人はというと、どこか爽やかな笑顔を浮かべながら、




「死んで来い」

「「はいぃぃぃぃぃぃぃっ!!??」」




 突然の暴言。二人は叫ばずにはいられなかった。


「いやまぁ冗談なんだがな? なんせ……あー、あれだ。なんか疲れた。だから先に休憩しとくわ」

「つ、疲れたって、そんなボクらより数百……いや、数万倍スタミナあるリュウジさんがそんなのありえないでしょ!?」

「そうだよ! リュウくんバカみたいに体力あるし!」

「それは俺に対する宣戦布告と見てよろしいですね?」

「「よろしくないですごめんなさい」」


 勇者と魔王が全くズレのない華麗な土下座を披露した。ここ最近、二人の土下座にますます磨きがかかっている気がしないでもない。


「まぁ、色々あんだよ。大体今回の原因はオメェらが原因だろうが。責任取って目当てのもん買ってくるついでに、ホームセンターがどういうもんか、ここでいろいろ学んで来い。」

「うう、それを言われると……」


 二人としても、ベランダをめちゃくちゃにした責任を感じているらしく、龍二にそう言われると何とも言い返しにくい。

 少しして、何かを諦めたように小さく息を吐いた二人。


「……わかりました。ボク達だけで行ってきます」

「買う物間違っても怒らないでね?」

「おう、頑張ってきな。これメモな?」


 改めて行く気になった二人に、龍二は買い物リストが書かれたメモと財布を手渡す。それを受け取ったアルスは、クルルと一緒にホームセンターの入り口へと歩いて行った。


「あ、言い忘れてた。二人ともー?」

「はい?」

「ほえ?」


 自動ドアがガーッという音をたてて開き、二人が入店すると同時に龍二が大きな声で二人を呼びかける。その声に反応した二人は振り返った。


 ドアが閉まる寸前、龍二はサムズアップして言った。





「骨は拾ってやる」





 ピシャリとドアが閉じた。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



「「へ?」」



言ってる意味を理解するのに数秒を要した二人。

 そんな感じに硬直していると、どこからともなくブツンという電子音が聞こえてきた。



『フシュゥゥゥゥ……』



 そして次に聞こえてきたのは、スピーカー越しから聞こえる、鼻息か吐息かわからない、マスク越しから聞こえるようなくぐもった感じの呼吸音。



『いぃぃぃらっしゃいますぇぇぇぇぇぇぇ……あなた方は本日最初の悪却叉魔おきゃくさまでいらせられますぅぅぅぅぅぅ……』


 やけに間延びした威圧感溢れる口調と、一般男性よりはるかに野太い声で話すスピーカーの向こう側の人物。お客様のニュアンスがなんか違う気がするアルスとクルル。


「「……はい?」」


 が、そんなツッコミができる余裕もなく、ただただ突然の謎の声に戸惑い、硬直するしかない二人。その間にも声は続ける。


『それでは只今よりぃぃぃぃぃ……この店長である俺様が俺様による俺様の為の当店自慢のセェェェェェェルスタイムと入らせていただこうかぁぁぁぁ……』


 そう言い終わるや否や、ピッという電子音が聞こえた。瞬間、



 ガシャン。



 そんな音と共に、アルスとクルルの目の前にあった棚が左右に分かれ、その中央に真っ黒なバスケットボールサイズの穴が開いた筒が六本束ねられ、一つの棒となった物がアルス達に向けられる。




 ぶっちゃけた話……あり得ないくらいの大口径のガトリング砲である。



『ではではぁ、俺様の商品を手に入れられるかどうか、最初の試練で腕試しさせていただく……』

「え、え、あの、ちょ……」

「何? 何? どゆこと?」


 いまだ理解が追いつかない二人をほっぽり出して事態は進む。目の前のガトリング砲がゆっくりと回転を始め……、


『さぁて……』


 なんとなく喜色を含んだ声がして……、






『死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!』

「「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅにゃああああああああああああ!!??」」






 殺意ギンギラギンのガトリング砲による一斉照射を食らった二人の絶叫が、店内飛び出し、どこまでも深い青い空の向こうにまで響いたのだった……。







 そんな絶叫を余所に、ベンチに座りながらジュースを飲んでくつろいでいる龍二とフィフィはというと。


「あ、そういえば龍二。なんか言うことあるんじゃないの?」

「ああ、そうだな」


 ジュースの空き缶をダストボックスへ向けて投げつけてシュートし、くるりと振り返って一言。




「後半へ続く」

「グダグダでごめんねー」



 店長はCV・若本でお願いします。

 で、こんにちはコロコロです。今回は長い話になるので前後編という構成でいかせていただきます。単純に編集能力がないというようなツッコミは無粋だと思われるので心の中ででも思っといてください。

 最近、愛犬のご飯買いに行く時、行きつけのホームセンターで「こんなホームセンターがあったらおもしろいんじゃないか……?」と思いついたので書いてみたんですが、どこをトチ狂ったらこんなんになるんでしょうか。我ながら謎です。

 ちゅーわけで、前編でした。次回は後編。また見てコロコロ。

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