第二の話 一日はラーメンで終わる
前作のキャラをちょろっと紹介ついでに
荒木龍二。
見た目は十人中一人か二人程度が振り返る程度か、あるいは誰も振り返らないようなどこにでもいる平々凡々な特徴の顔立ちをした高校生。
だが、彼には普通の高校生とは全く違った、特異な事情がある。
家族が海外を飛び回っている間の実質一人暮らしの家の中に、勇者と魔王、そして妖精の少女を住まわせているという、摩訶不思議な事情だ。
それ以外は、これといって特徴はない。あるとしたらせいぜい、拳一つでビルを破壊したり、蹴り一つで海を割ったり、デコピン一つで不良を遥か彼方までぶっ飛ばしたり、本気で走れば新幹線を楽に追い抜いたり、垂直の壁や水面を事もなげに走りきったり、下手したらどこかの世界すらも何かのきっかけでぶち壊したり、また別の異世界から転移してきたという人格を持つ雷を操ったりできる剣と大昔から伝わる家宝でもある日本刀を持ってたり、その剣を包丁代わりにして料理したり、友人でもある幼馴染の少女をサンドバックと称してフライングクロスチョップかまして気分で吹っ飛ばしたり、大好物のラーメンを大食い選手権も真っ青の記録を叩き出すほどの量を余裕で食ったり、ドSだったりするだけである。
そんな彼の朝は、居候させている勇者と魔王と妖精、この三人を起こすところから始まる。
まず初めに、彼は三人が寝ている和室に起こさないように静かに入ってから優しく手を上げて、
「やれ」
グリンと親指を下に向けて軽い電気ショックを三人に流した。
「「「アババーッ!?」」」
電気ショックによる痛みと痺れで比喩表現なしに飛び起きた三人は、四肢をバタつかせて身悶えた。とりあえず人に害がない程度の威力だったため心配は無用っぽいのであしからず。
「はい、目覚まし時計が鳴り響いていたのに10分もグースカ寝息たてていたので罰を流しましたがいかがでしたでしょうかおはようございますこの寝坊助三人娘」
「ででで電気ショックはやややややりすぎぎぎぎ」
「あばばばばば」
「(痙攣してる)」
……ホントに威力はないですよ? 魔王痙攣してる陸に打ち上げられた魚みたいにビックンビックンしてるけど大丈夫ですよ? ホントダヨ?
「さ、とにかくさっさと起きて着替えて顔洗ってこいよー。そんでもってエル、電気ショックお疲れ」
『ああ』
電気ショックの原因である雷の力を持った人格持つ剣、エルフィアン(愛称エル)を持った手をプラプラさせて三人が寝ている和室から出ていく龍二。三人が復活するのはそこからさらに10分後のことであった。
「オメェらのせいで遅れちまったじゃねぇの全く……」
「いやそもそも原因リュウジさんですよね? 電気ショック流したのリュウジさんですよね?」
「気ニシナーイ」
「いや気にしないさいよこのおバカ」
「うぅ、まだちょっとフラフラする……」
『軟弱者め。あの程度の雷に耐えれなくてどうする』
あれから朝食のトーストを平らげた龍二達は、玄関で焦り気味に靴を履いていく。時刻はすでに8時25分。遅刻ギリギリだ。
靴を履き終え、それぞれの荷物であるリュックサックとエル入りスポーツバッグを持って、お決まりの「いってきます」を言ってから、学校へと駆け足で向かう。その通学路の途中、見慣れた後ろ姿を発見した。
「おお、サンドバッグ!」
「誰がサンドバッグよゴハァッ!?」
龍二がその人物の名前を呼んだ。全くもって掠りもしていない名前で呼ばれた、黒い長い髪を後ろでポニーテールにした少女、龍二の幼馴染である高橋花鈴は走りながらも首をぐりんと後ろに回してツッコんだ。そして視界が後ろへ向いたせいで後頭部が電柱に直撃して大ダメージをもらった。
ついでにそのまま見る者を魅了する程の素晴らしいフォームで投げた何かをくらって4m程先へ吹き飛んで追加ダメージをもらってアボーン。
「な、何故に……」
「いや何か『花鈴を介抱しろ』という脳内の声を無視した結果がな」
「それは、無視、しないで……」
頭からブロック塀に突っ込んでめり込んでしまっている状態のまま、登場してまだそんなに経っていないにも関わらず満身創痍となった花鈴に龍二はサムズアップして答えた。
「どーでもいいが、こんな時間に走ってるっつーことは学校遅刻しそうなんだろ? いいのかよこんなところで油売ってて」
「いやアンタのせいでしょうが!!」
「うわ、カリンさん血まみれのまま復活してきた!?」
「さすがリュウくんの幼馴染だねー」
グァバァッ! と勢いよくブロック塀から抜け出して手の甲で龍二に向かって叫ぶ花鈴の頭からは滝の如く血が流れ出ていた。にも関わらず随分と元気だった。幼馴染とはすごいものである。
「ほれほれ、とりあえず時計見ろ時計。オメェの目の前にあっから」
「へ?」
そう言って龍二が指差した先には、ブロック塀の破片と一緒に転がっている何か……龍二がさっき投げつけた目覚まし時計。龍二のバカ力のせいでヒビが入って壊れてしまっているが、その針は投げつける前の時間でぴったり止まっていた。
その時刻は……『8時28分』。
「…………」
「…………」
「…………」
「な?」
「な? じゃぬぇえええええええええええええええ!!??」
「ち、遅刻ですよぉぉぉぉぉぉ!?」
「チョーク嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
次の瞬間には遅刻を恐れた少女×3が土煙を上げながら学校へ向かって爆走を始めた。その速度はさながら風のごとし。突風に吹かれて舞い上がったスカートを抑えてマリ○ン・モンローの如く「オゥ!」と叫ぶ主婦の岡田さん(56歳)や、驚いた犬が数秒後には冷静になって「ふ、いい走りじゃねぇか」と呟き、すれ違ったお爺ちゃんが「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!」と叫んで猟銃持ち出す始末。後にお爺ちゃんは銃刀法違反で警察の方々に連れて行かれた。
「……やれやれ」
ふっ、と笑って肩を竦めてクールに呟いた遅刻の元凶は、その三人の後をまったり乗用車並の速度で追いかけて行った。
全速力で突っ走った一行は、程なくして彼らの学び舎であり、世間から存在だけでやかましいということで有名な学校、『私立天和湾屋高等学校』に無事到着。すごい勢いで校門をくぐり、すごい勢いで靴を履き替え、すごい勢いで階段を駆け上がり、すごい勢いで歩いていた金髪の男子を弾いて窓から外へダイビングさせ、自分達のクラスである教室の扉を開いた。
「「「遅れて申し訳ありません!!!」」」
「絶対許さん死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「「「アッーーーーーー!!!」」」
開いた瞬間、怒声と共に弾丸が如く飛んでくるはチョーク、響き渡るは絶叫。そして三人の後ろから普通に入ってきた龍二は飛び上がって教室の天井を蹴って勢いをつけて落下。爆発したような音をたてながら床を粉砕し、チョークを投げた張本人の前に着地した。
「イヤーッ!」
「なんのっ!」
ビシィッ! そんな音が聞こえるような勢いで突きだされたチョークを平手で受け流し、その人物の顔前を殴る寸前でピタリと止めた。
そこまでに至る時間、僅か0.5秒! タツジンッ!
「……腕を上げたな、神楽さん。だがまだまだだ」
「フ、どうやらそうみたいだな。だが次はない」
「やれるもんならやってみな」
不敵な笑みを浮かべて龍二の実力を改めて認識する、流れるような長い茶髪をした女性教師、神楽真弓と、ますます腕を上げたことに心の中で密かに感嘆する龍二。
時が止まったように静まり返った教室で、二人の会話のみが響く。互いの実力を認め合った者達の、不敵な笑みを含んだ会話に、もう一つ、静かな声が割り込んだ。
「いや朝っぱらからバカやってんじゃねーよ」
ほぼ毎朝繰り返される真剣にしてアホな展開に動じない声色で静かにツッコむ、龍二の親友にして苦労人、茶色の髪をした楠田雅なのであった。
「リュウちゃぁぁぁぁぁぁぁぁいやぁぁぁぁァァァァァッ!!」
授業の全てが終わり、夕暮れ時になって教室をオレンジ色に染め上げた空間の中、一人の女生徒の歓喜の声と絶叫が一緒くたになって響き渡った。
声の主は、この学校の生徒会長である斉藤香苗。黒髪のロングストレートと愛嬌のある童顔から、学校内で人気が高い。それに対して龍二に対する反応が残念極まりなく、今回も龍二にルパ○ダイブかまそうとしたら龍二に後ろ回し蹴りを食らって勢いよく飛んでいき、いくつもの机と椅子をなぎ倒したついでに壁に頭からめり込んで止まった。こんなのが生徒会長で人気あるとか世も末である。
「まぁ、毎度のことながら……君には容赦というのが相変わらずないな」
「オメェに言われたかねぇべや」
呆れた様子で龍二に歩み寄るのは、金髪のショートが眩しい女子生徒、立花・久美・アンドリュー。名前からしてわかるが、アメリカ人の母と日本人の父を持つ、いわゆるハーフという少し変わった生まれを持っている。香苗と同じくらい人気のある彼女。こんなこと言って常識人っぽいこと言ってるが、彼女も彼女なりに変な性格であったりするから、龍二からの扱いも結構悪い。
「…………」
「んあ? どったよ?」
「いや、なんか、無性に腹が立ったというか」
「はぁ?」
世迷いごとを口走った久美に、龍二は首を傾げた。が、すぐに興味を失って、鞄を持ち上げた。
「じゃ俺さっさと帰るわな。今日は気分がとんこつラーメンなんでな」
「そんな気分で早く帰るんかい」
龍二の意味不明な理由に雅が冷静にジト目でツッコむ。そんな彼も鞄を持って、彼のラーメン屋巡りに付き合うつもりでいた。ていうか付き合わされるのは目に見えていた。財布的な意味で。悲しくなった。
「あ、リュウちゃん私も一緒に帰るー!」
「「「そうはいかんざき!!」」」
今日も今日とて龍二と一緒に帰ろうとした香苗だったが、突然周囲から……教室の入り口の扉はまだしも、何故かゴミ箱からとか窓の外からとか……龍二達のクラスメイトではない生徒達が飛び出して叫んだ。
「げっ、生徒会役員達……!?」
そしてそれを見て驚愕する香苗。
「毎度毎度私達から逃げられると思ったら大間違いですよ会長! いい加減常識を弁えてください!」
「お前それゴミ箱から出てきて同じこと言えんの?」
さらにツッコむ雅。
「ち、ちょっと待って! 私今日は用事があって」
「その言い訳は過去何回も聞きました!」
「え、えっと、美紀と美香が病気に」
「さっき電話したら元気よく返事してました!」
「え、えっとじゃあ今日はタイムセールスが」
「今日はタイムセールスありません!」
「えぇっとえぇっとじゃあ」
「どうでもいいから……とっとと来んかいオラァァァァァァァァァッ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁリュウちゃぁぁぁぁぁ…………」
メガネをかけた理知的な印象の女子とスラリとした長身の男子が両脇から香苗を抱えて引きずって教室から出て行った。彼女の絶叫が人が少なくなってきた校舎の中に虚しく響く。
「さ、帰るか」
そしてそれを普通に無視する龍二。非情。
「ああ、あたしも今から部活があるから、今日はこれで……ではま龍二」
「おう」
「ばいばいクミちゃーん」
「では、また明日」
スポーツバッグを抱えて教室を去る久美に、龍二とクルル、アルスは手を振って見送った。
「……じゃ、俺らも行くか」
「はい」
「はーい」
「いいけど、食いすぎんじゃねぇぞ龍二」
「言っても無駄だと思うけどね」
龍二達も意気揚々と教室から出ていき、その後ろをついていくアルス、クルル、そして雅と花鈴。今日も今日とて、龍二のラーメン伝説が始まろうとしていた……被害はラーメン屋の店主の疲労と材料費、そんでもって雅と花鈴の財布。龍二の財布もダメージは食らうだろうが、ラーメン狂の龍二にかかれば痛くもなんともないのである。
そんな一日が、龍二の普段の一日。彼を取り巻く友人達と織りなす、普通で、それでいて刺激的な日々である。
因みに。
「…………俺、こんなところで何してんだろうな…………」
朝に何かが背中から衝突して窓からダイヴして木に逆さまの状態で引っかかった、毛染め剤で金に染めた髪をツンツンに立たせた青年、佐久間恭田は、己の不遇に涙した。その涙はなんとなくいつもよりしょっぱかった。
前作のレギュラーキャラを出してみようの回。まだ他にもいますゆえ、もうちょっとだけ続くんじゃ。
とりあえず、一つ。投稿できました。もっかい言います、投稿できました。日曜日に投稿するつった手前、投稿せんといかん! という使命感に突き動かされた私は、急きょ今日のためにとっておいたプリンを急いで食べて仕上げた次第。いかがでしたでしょうか? 個人的な感想はなんかもちょっとテンポよくいきたいと思ったのですが。五七五みたいな感じに。無理か。
ちなみに本文中に出てきたタツジンッ! は人気SF小説『ニンジャスレイヤー』からパクもとい借りてみました。興味があれば検索かけてみてください。それで本を購入して読んで「アイエエエエエエッ!」と叫んだら君も立派なニンジャヘッズだ。
そんなわけで二話目でした。次回も、不思議発見。また見てコロコロ。