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幻想再帰のアリュージョニスト  作者: 最近
第4章 傷つけるのはハートだけ、口づけるのは頬にだけ
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4-61 狂姫と狂犬




 言理の妖精、語りて曰く。

 虚ろな世界で歌われる、暗い色した影は幻。

 ねずみ色した魔竜の上、大理石の玉座に背を預けるリールエルバの周囲を、半透明の影が踊っていた。緑色の豊かな髪、均整のとれた肢体、妖艶さの漂う美貌。

 その姿は彼女と瓜二つ。真紅の瞳に映し出された、もうひとりの『リールエルバ』である。


 実在はしない。『狂い姫』にだけ見える、彼女の頭の中にしかいない架空のリールエルバ。代替品である『トリシル一号』がいつの頃からか見るようになった、『本物のリールエルバ』の幻覚、あるいは妄想だった。


 囁きかけてくる本物の狂い姫はいつもリールエルバ然としていた。

 地下に幽閉されて正気を失った、それでいて一貫した理性を有する真性の魔女、生まれながらの穢れた魔物。

 亡霊のように背後に浮かぶもう一人の自分は、常に不気味で、それでいて頼りがいのある存在だった。それは偽物にとっての指針だったから。


 リールエルバは『彼女』を摸倣して狂気を演じているにすぎない。

 ほんとうは臆病で平凡な、背伸びをしているだけの子供。

 そのはずだ。そうであるはずだった。

 だが偽物として長く地下に幽閉され、本物と同じ言動を繰り返すリールエルバに、一体どれほどの正気さがあったというのだろう。

 狂人の真似を誰よりも真剣に行い、狂人の役柄に誰よりも深く入り込んだリールエルバが狂人で無いと、誰が言えるだろう。


 いや、そもそも。

 正気の者は、狂人の幻覚など見ないのだ。

 だから、彼女は。


「終わり――お終い」


 『断章』の大半を手中に収め、敬愛する師の力を受け継いで事実上の『死人の森の女王』となり、好敵手と見定めた相手から最高の使い魔まで奪ってみせた。

 過剰と言えば、過剰。

 暴走と言えば、暴走なのだろう。


 リールエルバとて理解している。

 これは子供じみた抵抗に過ぎないと。

 誘拐劇は終わった。ドラトリアに帰還し、トリシューラたちとも以前通りの関係性を維持していけばそれでいい。このような暴挙に出る必要がどこにあるだろうか。理性はしきりにそう主張している。

 だが、そこでもうひとりのリールエルバがこう囁くのだ。


「馬鹿みたい。ようやく解放されたのに、また囚われにいくというの? いい加減に認めなさいな。ドラトリアは私たちの牢獄だった。あの暗い暗い奈落の玉座は、私の生涯を閉ざす檻なのよ。生まれた時から攫われていた。また誘拐されにいくの? 自分から、進んで? くっだらないわぁ!」


 だがそれがリールエルバであるということだ。

 カーティスは、リィキ・ギェズは、そのようにして規定された聖なる贄。

 その境遇は苦しかったけど、誇りでもあった。

 リールエルバは、自分の誇りを捨てたくはない。

 ドラトリアの王女でいたかった。

 だってそれは、形のない泥であった彼女の礎なのだから。


「――は。現実に屈した挙げ句、自分を納得させてるだけじゃない。白いのに聞かれたら鼻で笑われるわよ、ついでに失望されるかしら」


 苦痛を感じた。

 それは嫌だと、そう思う自分がいた。

 驚いたことに、自分はまだ幼馴染みたちのことを気にしているらしい。

 彼女たちにどう思われるのか、どう評価されるのか、そんなことばかりをびくびくと恐れている。なんて情けなく、自分らしいことだろう。リールエルバはそんなふうに考えながら、口の端に笑みを浮かべた。


「だいたいね、王族としての責務を履き違えてるわよ、私。穢れの王、閉じ込めの檻としての私たちはね、『隔離』という『穢れ』なの。解き放たれた時点で、もうただの壁や檻じゃない。私たちにはその本質に従う義務があるわ」


 そう、そう。そうよね?

 自分に言い聞かせるように独りごちる。

 もはや誰と話しているのかも定かでは無い。解放されてもなお、暗い地下室に反響する言葉を会話する癖が抜けていないのだ。

 彼女にとって世界は地下千メフィーテの奈落だった。

 闇には、自己との対話しか無い。

 狂人の世界には、他者が存在できない。

 だから『狂姫』という有り様は必然だった。


「本国に戻ってもどこに私の敵が潜んでいるかわからない上、現在国内の政情は不安定。だからこそ戻るのが王族の務め――ああ、なんて馬鹿らしい!」


 いつもの調子が戻って来た。狂った姫君は目を見開いて大声で叫ぶ。

 暗殺に怯えながら自国に戻って務めを果たすか、親リールエルバ派が多い地上の吸血鬼コミュニティに身を寄せるか、あるいは紛争中の友好国に留まるか――道は幾つもあるようで、実のところ答えは一つきりだ。


 リールエルバの魂が欲する道は唯一無二。

 彼女は、貴種であり続けたかった。

 狂い姫と呼ばれようと、忌まれ聖姫と位置付けられようと、王女という形式は暗闇に閉じ込められた彼女の魂に慰めを与えてくれた。それは砂漠に垂らされた一滴の水ほどに貴重で尊いもの。ささやかながら大切なひとしずく。


 だから――飢えた喉は、更なる潤いを求めた。

 もっと。もっともっともっともっともっと――もっとたくさん欲しい。

 欲しいのは賞賛。

 雨あられと降り注ぐ賛辞。

 絶対的承認、際限のない好意、無限大に広がり続ける尊敬。

 自分の王国が欲しい。王として君臨したい。支配をどこまでも広げたい。

 暗い檻だけでは嫌だ。声と視界だけが届くネットの海だけでは満足できない。

 狂気の女神礼賛はどこまでも、天地と槍を突き抜け星の彼方まで届けと叫ぶ。


「王族としての責務――吸血鬼としての欲望――穢れとしての本性。私たちの病の形は『隔離』――ああそうか、これもまた瘴気の在り方」


 広がる。

 リールエルバの前身から吹き出すのは漆黒の靄、霧、曖昧模糊とした瘴気。

 呪い、穢れ、よく分からない悪い空気や雰囲気、それら全てを孕む闇だ。

 急速に増大した呪詛が世界に浸透、拡散していく。

 

「人は愚かで忘れっぽいもの。王は人民を正しく導き、時に適切な教育をしてあげなければならないわ。そう、世界とは過酷で、時に優しき慈母は我が子を喰らって荒ぶる怪物になるということを思い出させてあげなくては」


 目に見えぬがゆえに人は『それ』を恐れ、隔て、遠ざけ、神として奉った。

 『それ』は神聖なる儀式にして忌むべき呪い。

 表裏一体の畏怖は、いつしかそこに本物の神と魔を生み出していた。

 普段『それ』は民を目に見えぬ脅威から守る。

 強き王、恐るべき穢れ、地下の魔物として頼もしい存在ですらあった。

 やがて世代を経るにつれて庇護は当然のものとなり、畏れは薄れ、儀式は形骸化していった。王権は衰退し、それに伴って呪力も――『隔離』という名の封印も弱まっていく。だからきっと、これは必然の結果だ。


 『隔離』に失敗すれば、致命的な感染爆発が起こる――そんなこと、自明の理でしかないというのに。

 リールエルバは閉じ込めておかなければならなかった。

 彼女を解放してはいけなかったのだ。

 しかしもう全てが遅い。

 解き放たれた災厄は『穢れ封じの王』としての性質に従い、際限のない瘴気を振りまいていく。『隔離』たるリールエルバが内包するありとあらゆる吸血鬼因子が彼女の配下として形を為し、史上最悪とも呼べる吸血鬼の軍団が目を覚ます。


「それじゃあ――感染を始めましょう」


 いつしか声は揃っていた。

 もうひとりのリールエルバは変わらずに目の前に。

 否、それどころか絶えず聞こえる声は次々と増えて、彼女を取りまく自分自身の姿はますます増えていくばかり。

 リールエルバの世界は、もうリールエルバでいっぱいだった。




 魔竜の降臨、『女王』の復活、第五階層の新たなる支配者の君臨。

 絶望と闇を切り裂くようにして現れたのは、新人アイドル。

 氷のマイクを手にする彼女の名はコルセスカ。

 涼やかな声が呪文のように世界を駆け巡った。


「ステージ、それは夢の頂。歌、それは夢の囁き。ドレス、それは夢の輝き。全ての夢が叶う時、憧れは未来に向かって弾け出す! アイドルの時間、始まります」


 第五階層を支配する濃密な『夜』の気配。

 穢れに満ちたその『夜』が一瞬にして朗らかな色に染め上げられていく。それは紛れもない『朝』の清々しさであった。

 空間を、世界を改変するコルセスカのことば。

 それを聞いたトリシューラが何かに気付く。


「あれはもしや、週末の朝にやってるアイドルアニメ番組、その冒頭アバンタイトル台詞の改変ネタ――」


「これまでの『氷血のコルセスカ』!」


 力強い言葉だった。氷の義眼に一切の迷いは無い。

 揺るぎない確信が彼女を突き動かしているのだ。


「私、コルセスカは女神養成機関、『星見の塔』に通う女神候補生。全ての女の子の憧れ、『未知なる末妹』になるため毎日頑張っています――第五階層に地下アイドル迷宮が出来てからというもの、世間の話題はアイドル一色。そんな時、突然現れたのはドラトリア公国のプリンセス、リールエルバ。彼女は私の『ノーライフクイーンズコーデ』を奪うと、地下アイドル界のトップに立ったのです。こうなったら、私も地下アイドルデビューして大切なコーデを奪い返してみせます!」


 時間と空間の全ては凍り付いていた。

 いや、正確には凍結されたのだ。突如として現れたひとりの魔女――怒濤の勢いで迷宮を制覇し、これまでに数々の魔将を下してきた英雄の呪力によって。


「そっか。アルト・イヴニルが倒され、『死人の森の女王』もリールエルバに奪われたから、セスカが中から弾き出されて自由になったんだ」


 第五階層の空を舞う氷の竜が肯定するように一声鳴いた。

 竜はビルディングの屋上に立つトリシューラの下まで一直線に滑空してくると、そのまま着陸する。ガラスの靴ならぬ氷のサンダルが涼やかな音を鳴らす。軽やかに降り立ったのは馴染み深い姿だった。


 きらきらとした装飾で彩られた光のドレス。

 星と瞳のイメージを散りばめたミルキーウェイ・リユニオンコーデを身に纏ったその姿はまさしく舞台のお姫様。

 ステージ衣装の非日常感を軽々と着こなして、アイドルに変身したコルセスカが目の前に立っている。それを見たトリシューラはコルセスカに駆け寄って、


「それウチのじゃなくて『セレスティアルゲイズ』の衣装じゃーん! でも可愛いから許す! セスカのステージ早く見たい!」


 とはしゃいでみせた。それを受けたコルセスカもいつもの冷静な表情をいくらか色付かせてこう返した。


「ありがとうございます! とりあえず手持ちのカードがこれしかなかったので急いで着替えましたけど、次は『きぐるみ妖精』の衣装で出ますからね! かわいくてかっこいいのお願いします!」


 この状況で真っ先に出て来る言葉にしては随分と平和だが、それは必要なやりとりだった。二人は視線を一瞬だけ絡ませると、すぐにやるべき事を見定めた。

 すなわち、聳え立つ巨大な魔竜の威容を見据えたのである。


「随分とお待たせしてしまいましたね、トリシューラ。ですが私が来たからにはもう大丈夫。私が抱えてしまった罪ゲーは私の手で濯ぎます。リズムゲームで鍛えた私の指先が至高のダンスと歌で魔竜を打ち砕く――そこにトリシューラのコーデが組み合わされば百人力です。フルコンいけます」


「うん、だいぶ何言ってるのかわかんないけどいつものセスカだね、安心した」


 突然のコルセスカ乱入にリールエルバは沈黙を保っている。どう対応すべきかを思案しているのだろう。ここで相手の出鼻を挫いたのは大きい。この流れのまま一気にリールエルバを打倒できれば巻き返しを図れる。

 だが、トリシューラは少しだけ項垂れてこう言った。


「ごめんね、セスカが留守のあいだアキラくんのしつけ頑張ったけど、悪い病気うつされちゃった。お世話ちゃんとしなくちゃだったのに」


「予防接種を嫌がったアキラが悪いですね、それは」


「そうかなあ」


「そうですよ」


 トリシューラの迷いは脆さのあらわれだ。

 彼女の壊れやすさ、不安定さはそのプライドの高さと反比例している。今、彼女の傍にいることができるのはコルセスカだけ。だというのに二人を繋ぎ止めてきた腕はあの魔竜の上に攫われたままだった。


「取り返しましょうね」


「アキラくんは、わたしたちのだもんね」


 二人は視線合わせて言葉を交わす。歪な義眼と緑色のカメラアイ、作りものの瞳に映った互いの姿を見つけようと探るように視線を触れ合わせる。

 自分自身を、強く確かめるために。


「というわけでまずはライブです。私はアイスリンクを作るので、トリシューラは照明や念写機などのセットを『創造クラフト』してください」


 コルセスカは言いながらしゃがんで両足に手をかざした。光と共に靴裏に生成されていくのは鋭利なエッジ。その大きな瞳が見据える虚空には巨大な氷の舞台が構築されつつあった。

 策を弄さぬ真っ向勝負。

 純粋にアイドルとして、ライブのパフォーマンスのみでカーティス=リールエルバを打倒することをコルセスカは選択した。


「頑張って」


「最善を尽くします」


 激励への応答には幾らかの緊張が含まれていた。

 もちろんコルセスカには勝算がある。あるからこそこうして真正面から挑もうとしている。だが、彼女に確実な勝利などというものはない。

 それが冬の魔女にとってのゲームのルールであり、フェアネスだからだ。


 ひとつ間違えば外界全てを無視する自己中心性の小鬼に堕落しかねないのが邪視者という存在である。コルセスカをぎりぎりの所で踏み留まらせている要因は幾つかあるが、そのうちひとつが『対戦』という世界認識だ。

 『ゲームの世界』は対戦要素が要請する『外部』によって堕落を免れるが、同時に確実な勝利もまた放棄することになる。


 あらゆる勝負がそうであるように――コルセスカの戦いに絶対はない。

 だが、それでも彼女は戦いを選ぶ。

 彼女には、ひとつの信仰があるからだ。


 自ら作り上げた氷の空中回廊を、重力を振り解きながらスケート靴で駆け上がっていくコルセスカ。流れるような滑走に瞬間、世界が凍る。

 トリシューラは残された創造権限を最大限に活用し、照明で舞台の主役を照らし出す。今の彼女にできるのは、そうやって祈ることだけだった。

 そして、冬の魔女のステージが始まり――


「聴いて下さい――『アンスロピック・プリンシパル』」


 ――無造作な闇が、終わりの幕を下ろしていった。


「いいえ、うたはおしまい。夢はねずみが終わらせる」


 ネズミが鳴いた。七つの頭に七つの叫び。それだけで、氷のステージは粉々に砕け散った。落下するコルセスカを氷の竜がキャッチする。

 その様子を見下ろしつつ、リールエルバが巨大ネズミの頭部に立ちながら傲然と言い放った。


「威勢のいい新人ね。けどあいにくと私のスケジュールは埋まっているの。相手をして欲しければ、相応の実績を積み重ねてランキングを駆け上がってきなさい。この第五階層のアイドルたちはみなそうしている。あなただけ特別扱いはできない」


 場のルールに則って戦うのであれば、正論には従う必要がある。

 リールエルバは現在アイドルランク一位。

 対するコルセスカはほぼ無名の新人でまだランクインすらしていない。大物食いを狙う新人をいちいち相手にしていられないというのはごく自然な対応だ。


「それに。王権を手にした私がわざわざ勝負などをする必要は無いわ。私はただこう命じるだけ――目障りよ、消えなさい」


 夜の女王が手を一振りすると、巨竜の咆哮が何重にもなって世界を震わせた。

 大音声は呪文となって世界に満ちた文脈を改変し、新たな女王に都合の良い展開へと作り替えていく。抗いようのない激震が第五階層を粉砕・再構成する。掌握者による大規模な『創造クラフト』――かつてガロアンディアンであったものが、『死人の森』であり『ドラトリア』でもある闇の王国へと変貌していった。


 誰もが、その変化に言葉を失う。

 ありふれた変化だった。誰もがよく知る、すぐそばにある、けれど未知なるもの。恐ろしいもの。どこまでも静かに佇む、糸杉の群れ。

 林立する死。

 都市の中心に、森が出現していた。


 前触れ無く現れ、都市を内側から食い破るように溢れ出していく木々はいっそ暴力的ですらあった。巨竜の咆哮が生み出した呪力の衝撃波によって魔女姉妹が森の中に吹き飛ばされていくのを見送りながら、リールエルバは傍らの従僕に問うた。

 

「アキラ。アルト・イヴニルとして、配下の将どもを支配できる?」


「いや。どうやらこの身体の主はお前に敗れると見て第六階層あたりに戦力を移動させたみたいだ。こっちからのコントロールは受け付けない――もしかすると、他に『下』側に戦力を集中させたい理由があるのかもしれないが」


「そう――まあいいでしょう。私にはあなたがいるし、『私たち』がいる」


 足下のネズミが自己主張するように一鳴きする。魔竜の頭を労るように撫でるリールエルバに、今度はシナモリアキラから問いかけがなされた。


「これからどうするんだ?」


 しばしの間があった。その間、リールエルバは細い手指を手繰るように動かしている。魔竜と共に第五階層の改変を実行しているのだ。

 世界そのものを組みかえる大事業――それはある種の創作活動にも似ていた。

 ややあって、リールエルバが口を開く。


「かつて天地を引き裂いた『大断絶』の際、人類の世界に対する認識は非常に曖昧だった。世界は平面説と球体説、天動説と地動説の狭間で絶えず揺れていた」


 唐突に語られた過去がどう現在と繋がるのか、話の筋が見えないシナモリアキラだったが、そうした魔女の語り口に慣れているのか口を挟むことは無い。


「その混乱につけ込んだ何者かが存在した。恐ろしく強力な言語支配者、あるいは言語魔術師の集団によって、古びた『空洞説』が無理矢理ねじ込まれた――地底にはもう一つの世界がある、そんな幻想を」


「荒唐無稽だが、信じられた以上それは事実になったんだな?」


「ええ。地底異界神話――影世界とは別の、すぐそばの世界。トカゲの人、レプティリアン、古代天眼の民、ジャドナゲンなど、複数の呼び名を持つ種族の王国」


 そうしてリールエルバが語ったのは、今では子供向けの絵本や教科書にも記載されている出来事だ。

 『主犯』がどちらであるかについては双方で意見の相違があるものの――例えば『上』で一般に流布している歴史的事実はこうなっている。


 当時から今に至るまで、世界は巨大な勢力によって二分されていた。

 アルセミットを中心とした槍神教国家群――義国圏。

 ジャッフハリムを中心とした反槍主義国家群――鈴国圏。

 偉大なる槍神の意思を現世において代行する教皇機関及び大神院は、鈴国圏を異なる文明として切り離した。地底という異界に放逐・上書きしたのだ。

 その後、地底を襲った異界どうしの融合に伴う衝撃と混乱に乗じて義国圏は修道騎士たちに聖罰という名の大義を与え、侵攻を開始した。

 異界と異界を貫き繋ぐ、世界槍が史上初めて使用された歴史の節目。

 『大断絶』――多くのものが失われた、野蛮の時代の幕開けである。


「――そして鈴国側も保有していた世界槍で反撃を行い、合計九本の『戦場』となって今も争いは続いている。世界槍はね、世界の穿孔と侵食を行う装置なの。ある世界観である世界観を攻撃するための兵器。私はこの全てを掌握したい」


「この槍を使えば、世界を破壊的に上書きできる?」


「そうよ。私は『死人の森ドラトリア』を天地双方の世界に拡大、侵食させる。猛威を振るう病と瘴気、席巻する死、大地を塗りつぶす闇――憎しみと断絶すら飲み込む圧倒的な暗黒時代が幕を開ける。その時、あらゆる人類は天地上下の区分など忘れて恐れおののく。圧倒的な死と脅威を前に、人々はひとつになる」


「病による大量死が蔓延すれば戦争どころじゃなくなる――なるほど、瘴気の王が求める平和としては理に適ってる。繁栄と世界平和が同時に実現できるんだから、やらない手はないな。わかった、病でも殺せない相手は俺が物理的に破壊しよう」


「ありがとう、アキラ。あなたは私にとって最高の使い魔だわ」


 休日の予定を立てるかのごとく愉しげに終末について語り合う二人には、およそ生者の理性など欠片も残っていない。二人は狂っている――あるいは、尋常な意味での生と死から外れてしまった者として、正しく在ろうとしている。

 

「ふざけないで!」


 叫びと共に銃声が鳴り響いた。

 リールエルバの長い髪を掠めていく弾丸。

 広がる森の闇の底から飛翔する氷の竜、その背に乗った二人の魔女がリールエルバを睨み付けていた。穂先付き小銃を構えたトリシューラが言った。


「死への恐怖と生への渇望からリビドーと承認を集めるつもり? 確かにエロスパムより広い層に届きそうではあるし、呪術医としての私個人も儲かりそうだけど――全体としては損失と停滞を招くから最悪。断固反対だよ」


「そもそも、死だけの世界というのはナンセンスですよ。吸血鬼だけの世界もね。あなたの野心ははじめから破綻しています、リールエルバ」


 コルセスカもまた、冷ややかな口調で指摘する。

 だがリールエルバの瞳に宿る意思は魔女姉妹の言葉では小揺るぎもせず、かえって燃え上がるように奮い立ったように見えた。

 広がり行く死人の森、その侵食が加速していく。


「恐怖は隔離を純化する。聖なるものへの畏れがカーティスという王の起源。私は本来の己に立ち返っただけよ。俗人は聖域を崇め、穢れへの畏怖は神を宿す」


「ならばその紀竜もどきは何なのですか!」


「答える必要があるかしら、竜殺しの魔女さん」


 コルセスカの貫くような邪視を真っ向から抗呪するリールエルバの瞳は濡れたような情欲に染まっている。リビドーに溢れた熱と蕩けるような快楽の邪視が、凍える氷の呪力を無効化しているのだ。


「生意気な視線ね、冬の魔女フルブライト。そういえば私、あなたを一度くらい自分の力だけで倒してみたかった。完成品トリシューラ理想型コルセスカを失敗作の私が打ち負かす。ああ、とても素敵」


 うっとりとした口調。

 そんなやり取りの間にも七頭の魔竜は口から絶え間なく衝撃波を放っており、魔女姉妹を乗せた氷の竜は必死になって回避していた。

 

「まあ、格付けは済んでいるようなものだけど――そうだ」


 いいことを思いついた、というふうに目を輝かせ、リールエルバはシナモリアキラの方に近付いていった。

 当の使い魔はと言えば、かつての主人たちが目の前で窮地に陥っているというのに特に何の感慨も湧かない様子で成り行きを見守っている。

 これまでに積み上げてきた絆――価値ある全てが代替可能と割り切って、新たな価値に生きがい全てを預けると決めたシナモリアキラに迷いは無い。スイッチ一つで切り替わる機械的な価値基準は正しくシナモリアキラ的であると言えた。

 もっとも、そのスイッチを囲う魔女姉妹のプロテクト全てを解除してのけた力はリールエルバ単独のものではなかった。


 魔竜が吼える。恐ろしく高密度に圧縮された呪文の吐息が、魔女たちが発動させようとするあらゆる呪術を片端から解体・消滅させる。

 二人だけでは無い。先程から第五階層の危機に立ち向かおうと各々の意思で行動を開始した幾多の呪術師たちが、絶望的な技量の差に打ちのめされていた。

 魔竜レーレンターク。

 伝承によれば、豊穣と繁栄を喰らうとされている穢れや瘴気に関係する紀竜であるが、具体的に何を司る存在なのかについては詳しくわかっていない。


「ああもう最悪! 瘴気とかいう『よく分からないもの』を司る存在だから能力の詳細がよく分からないとか、そんなのあり?!」


「落ち着いてください、トリシューラ。あのネズミは物理的実体を伴って顕現している。であれば、干渉の余地は必ず有ります」


 反撃の糸口を見つけようとする魔女姉妹を尻目に、リールエルバはそっと細い指先をシナモリアキラの顎に触れさせた。

 指を滑らせて頬を撫で、耳をくすぐる。空中戦を繰り広げる魔女たちに見せつけるかのようにシナモリアキラの背後から首筋などを撫でてみせる。


「なにあれ、挑発のつもり?!」


「いえ、あれは――! リールエルバというか、リールエルブス――?」


 普段冷静なコルセスカの声に動揺が現れていた。 

 仕方の無いことではある。なにしろシナモリアキラの背後に立つリールエルバの姿が黒い靄に包まれたかと思うと、一瞬にして鮮やかな変貌を遂げたのだ。


 男装の麗人。そうとしか言いようが無い、妖艶さから凛々しさへの転身。

 豊かに波打つ緑色の髪は先の方で束ねられ、片方の肩の前に流されていた。メイクの方向性が変わり、目の強さと眉の印象がきりりとしたものになっている。軍装のようなモノトーンの衣装は肩から胸まで複雑な飾緒で覆われ、外側が黒、裏地がワインレッドのマントを羽織り、まるで演劇における男装用衣装のように煌びやか。クラシックな装いも堂々とした振る舞いには良く生える。


 リールエルバはカーティス一世を名乗り王として振る舞うことで、人格の根幹とも言える『狂姫』の有り様を覆してみせた。魔女としての本質、『死人の森の女王』を継ぐ者としての役目を担ったまま男王の役もこなそうというのだ。


「ゲームのカーティス、最初は性別が薄いんですけど選択肢次第でああいうイメージにもなるんですよね。性が曖昧な存在が『男装』とか『女装』するのって可愛いなって思うんです。思いませんか?」


「知らないよそんなのー」


 コルセスカのうきうきとした視線は傍らの魔女にも向けられていたのだが、トリシューラにしてみればそれどころではない。

 二人が手を出しあぐねている間に、『カーティス』はシナモリアキラへの蛮行を続けていく。その過激さは際限なしに増していき、とうとう魔女姉妹が看過できない領域に到達した。


 カーティスは人形のように無抵抗なシナモリアキラの頭を傾け、無防備な首筋に舌を這わせた。無造作に長い牙を伸ばし、柔らかい肌に突き立てる。溢れる鮮血。淫靡に動く舌が赤い雫を舐め取る。


 魔女姉妹は声も無い。コルセスカなどは何かを言おうとして口をぱくぱくと開閉させ、絶句して腕を振り回すことを繰り返していた。動揺のためか見当外れの場所が凍結し、遙か下方で悲鳴が上がっている。


 カーティスによる吸血行為は、まるで精気を吸い取る口づけだった。

 舌をねじ込み、口腔に侵入するのは肉体を融け合わせる儀式に等しい。

 個と我は死に、性と生を実感する。

 欲動のままに貪るエロスとタナトス。

 吸血行為とは侵入と吸収を同時に行う両性的な性行為くちづけである。

 男装して略奪した男に吸血し、それを奪った相手に見せつける――この上無く分かりやすい意図。カーティスはちらりと二人を見た。嘲弄と余裕に満ちた視線。


「こ、ころ、ころろ――」


「セスカ、バグってるバグってる。落ち着いて。クールに殺そう? ううん、殺してって泣いて頼むまで爪をハンマーで割って剥がして中身をヤスリがけして」


「トリシューラ、落ち着いて下さい。流石にこわいです」


 リールエルバは動揺する二人を更に侮るような行動に出た。

 吸血行為の直後でぐったりとしたシナモリアキラを魔竜の背から突き落としたのだ。コルセスカは急いで氷竜を急行させた。間一髪、地面に墜落する前にシナモリアキラを拾い上げる。


「アキラ、大丈夫ですか?!」


「あ――コルセスカ、か――?」


 コルセスカの腕の中で薄く目を開けるシナモリアキラ。

 意識が朦朧としているらしく、その身体には力が無い。


「私がわかるんですね? もしかして、支配が緩んでいるのですか?」


「セスカ、主人と使い魔の関係性を再構築しよう! セスカの『生命吸収』でリールエルバの吸血による穢れを清めれば、アキラくんを取り戻せるかも!」


 トリシューラが勢い込んで言った。

 高速で飛翔する氷竜の背でトリシューラが呪符で障壁を構築する。全ての希望をコルセスカに託すつもりなのだ。

 使い魔の治療も奪回も、本当は彼女自身の手で行いたいはずなのに。

 任せてくれたという認識がコルセスカの瞳を熱く燃え上がらせた。

 そのとき、男の瞳が目の前の魔女を捉えた。

 それはまるで、いつかの再現で。


「コルセスカ――俺は、二人を――けど、リールエルバが」


「何も言わないで。いま、あなたを取り返します」


 コルセスカの犬歯が氷に覆われ、長い牙へと変貌していく。

 透明な氷の牙がシナモリアキラの首筋、リールエルバが蹂躙した傷痕へと差し込まれていく。沈み、貫く。

 氷の槍は男の内部へと深く侵入し、命を熱に変えて略奪していく。

 だが。


「――コルセスカ? どうしたんだ、吸わないのか?」


「え」


 どうしたことか、激しく牙を突き立てられているというのにシナモリアキラの反応は鈍い。意識が朦朧としているのだとしても、これは異様だった。


「アキラくん? もうセスカは、その」


「え、そうなのか――? 悪い、分からなかった」


 コルセスカの表情がはっきりとこわばる。

 シナモリアキラの顔には何の色彩も表れていなかった。二人の間を何かが行き交ったということはなく、熱も命も消えて静寂だけがそこにある。

 虚しい沈黙のあと、横殴りの衝撃が氷の竜を襲う。

 魔竜の吐息を受けて空中に放りだされたシナモリアキラ。脱力した身体を攫っていったのは、マントを翼のように変化させて飛翔するカーティスだ。


「無駄だ。彼の報酬関数は既に切り替えてある」


 冷淡に言い放ち、再びシナモリアキラの首筋に牙を埋めるカーティス。

 今度の反応は劇的だった。

 稲妻に打たれたかのように背筋を反らし、身体を走る衝撃と衝動に身悶えするシナモリアキラ。必死に感情を抑制しながらも、口から漏れる吐息には熱が混じっていた。コルセスカとの時には存在しなかったものだ。


「お前の主人は誰だ、シナモリアキラ」


「カーティス様です」


「私とあの二人の魔女、どちらが大切だ?」


「それは」


 シナモリアキラは言葉にしようとして、息を止めた。

 ためらいを打ち消すように、カーティスがさらに牙を深く押し入れる。


「正直になれ。私とあの短小吸血鬼、どっちが気持ちいい?」


「――あ」


 理性、制御、抑制――シナモリアキラが望んだ、彼を規定する本質がトリシューラとコルセスカとの繋がりをかろうじて守っていた。

 だが、それはリビドーを統べる狂気の担い手とは相容れない性質だ。

 調和できないなら、塗りつぶすしか無い。

 押し込まれた牙から、瘴気が溢れ出す。

 そして、堤防が決壊する。あとはもう押し流すような衝動に身を委ねるのみ。

 

「リールエルバだっ、コルセスカよりリールエルバの方がいい!」


「っはははは! 聞いたか冬の魔女、気分はどうだ春の魔女!」


 快楽に溺れるシナモリアキラを抱きながら、カーティスは空中を軽やかに踊る。

 敗北の事実に身体を震わせる魔女姉妹を見下ろして、愉悦に満ちた笑みを浮かべ、言葉を続けた。


「彼の身体はもう私の牙しか受け付けない。紛い物の吸血鬼の惨めで小さな牙では入っているかどうかわからないそうだ」


「みじめ、ちいさい、はいってるかどうかわからない――」


 コルセスカは虚ろな目で呆けていた。トリシューラが肩を掴んで揺さぶるが反応が無い。危険な精神状態だった。


「セスカしっかりー! 傷は浅、くはないけど、むしろ深そうだけどまだ放心するには早いよ! かっこよく登場したのにまだセスカのライブ披露できてないよ!」


「たんしょー、そーろー、ひんそーでひんにゅーで――」


「それはアキラくんの話でしょ! もー、こんなんじゃグダグダだよー」


 劣勢と見たトリシューラはコルセスカの氷竜の操縦権を奪ってカーティスと魔竜から距離を取った。牽制の銃撃は濃い瘴気に阻まれて届かないが、銃弾に込められた戦意は確かに相手に向けられたままだ。トリシューラは勝負を投げていない。


「おとなしく平伏するがいい、負け犬の魔女。これ以上の抵抗は惨めなだけだ」


 カーティスの投降勧告に、トリシューラは挑発で答えた。


「惨めなのはそっちでしょう? ラットと人形が迷路を彷徨って自分を獲得したつもり? 馬鹿みたい」


「負け惜しみを」


「リールエルバ。負け惜しみを言い続けているのはそっちだよ。あなたはシナモリアキラを全く理解できていないし、だからこそ十二人はアキラくんから切り離されたのに。あなたにお似合いなのはせいぜい『鎌鼬』か『火車』あたりでしかない」


 冷徹な緑の瞳は銃弾よりも鋭くカーティスを貫いた。

 アンドロイドの魔女にとって瞳はただの光を受容する感覚器でしかない。

 呪的な視線などというものを投射する機能など最初から備わっていない。

 にもかかわらず、その無機質な瞳からは吸血鬼王の全てを見通し、暴き立てるかのような力が感じられた。


「黙れ。お前たちに敗北を理解させるのはもう止めだ。速やかに消えろ」


 ざわり、と森が身動ぎした。 

 闇の奥底から溢れ出てくる漆黒、魔竜の影から溢れ出す靄、それら全てがカーティスの支配する瘴気となって第五階層の空を満たしていく。

 無尽蔵の瘴気は次々と形を為し、カーティスと同規模の呪力を内包した人影へと凝縮されていった。世界を埋め尽くす吸血鬼王の群れ。


「うわ、これは流石にやばいかな」


 無表情で言いつつ氷竜を反転させるトリシューラ。全速力で逃げようとするが、夜空の星明かり全てを掻き消すかのような吸血鬼の大軍勢には為す術もない。

 津波のような闇がトリシューラたちを飲み込んでいく。

 そして、その闇ごと目に見えぬ巨大なあぎとが飲み込み、食らい尽くした。


 あらゆる命を終わらせる闇の波濤、その終端を引き千切ったのは、双掌を重ねて獣の口腔を模した構えをとる白い僧衣の老人だった。

 と見えたその姿が見る間に年端もいかぬ少年へと変貌する――否、重なり合っているのだ。彼は老人でありながら少年でもあった。

 宙に浮かぶ老オルヴァ少年は布で目隠しをされていたが、トリシューラの方を真っ直ぐに見据えてこう言った。


「ここはボクに任せて行って下さい。今の私では時間稼ぎくらいしかできぬが、その間に別の道に辿り着く事はできるはずです」


「ありがと、髭大夫(バルバリッチャ)


 本体の支配こそ奪われたが、『マレブランケ』と名付けられたシナモリアキラのバックアップたちは無事だったのだ。

 トリシューラが万が一の事態に備えて確保していた冗長性――『シナモリアキラが内包する他者』が無事ということは、『オルヴァの中のシナモリアキラ』も今だ健在ということでもある。全てのシナモリアキラが奪われたわけではないのだ。


「おおブレイスヴァよ!」


 お馴染みの叫びと共に激闘が始まったのを合図に、トリシューラは戦場から離れていく。と、そこで氷竜と並ぶ影があった。

 水で構成された大蛇が空中を泳いできたのだ。

 その上にあったのは馴染み深い姿。


「イツノ姫! あとカーインもいるのは何で?」


「付近の人を吸血鬼から守ってたら合流した」


「可能な限りの人命救助と言った所だ。レオ様ならそう命じられるだろうからな」


 見れば、二人の背後から複数の水流の大蛇が続いてきており、その背には大勢の戦えない者や負傷者が乗せられていた。吸血鬼と瘴気の群は必死に追い縋ってきているが、その度にカーインが操る瘴気に撃退されている。

 それを確認し、トリシューラは声を張り上げて目的地を告げた。


病院きょてんに戻るよ! あそこには取り戻した厚生シューラを常駐させてあるから、瘴気に対する守りが堅いの! 水流使いと瘴気使いがいればしばらくは持ち堪えられるはず!」


「招かれなければそうそう入れないというわけだ――承知した」


「体勢立て直してはやくわたしにーさまを殺しに行こう」


 トリシューラは今だに放心しているコルセスカをしっかりと掴まえたまま、真っ直ぐに針路を南にとる。

 言い訳のしようも無い敗走だ。

 しかし、まだ戦いは始まってすらいない。


「今度こそ、ちゃんとした舞台を整えてみせるからね」


 ぼうっと宙の一点を見つめるコルセスカに語りかけるトリシューラ。

 彼女の言葉に揺らぎは無い。

 必ず彼女をステージに立たせる。

 それこそが選ぶべき道だと、既に見定めているのだった。


「だって、勝負から逃げたヤツなんかにセスカが負けるわけないもの」





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