『チョコレートリリーのスイーツ事件簿2nd 第14話 デーツ・ミーツ・ナッツ』
銃声、閃光、飛び散る火花。
ふわり、はらりと虹いろ気配。
舞って散るのは紙吹雪――松明のしるしで祝別された聖符が燃える翼のフェーリムたちの幻影を映し出すと、空に大きな虹がかかった。
見上げればどこまでも高い青空。幾つもの花火が上がって、歓声と共に祭りの空気が地上に広がっていく。天気の良い休日の朝、素敵な一日の幕開けだ。
この場所が、誰にとっても良い思い出になるといい。
私はそんなことを願いながら、喧噪の中へと一歩足を踏み出した。
剥き出しの土に落葉の絨毯、イチョウ並木が整えられたここは今日も穏やか。
右に向かえばメリアス、左にはマロニエ、奥の区画にプラタナス、楡、そして菩提樹と、街路樹の種類によって空間の色合いは変わってくる。心地よくて穏やかで、ゆったりとした気持ち。ここでは時間が緩慢に流れているように思う。氏族トーテムである樹木から索引された精霊の加護が、空間のアストラル流を最適化しているのだ。
自然公園として開放されている中央広場はこの区画の住民にとっては交流の場であり、市場でもある。そこかしこで敷物を広げて品物を並べている姿が見られた。
全身をすっぽり覆う黒衣もここではさほど目立たない。私のような装いをした『夜の民』たちはそこらじゅうにいるからだ。まだ黒衣に慣れていないのか、裾を踏んづけたり地面に引き摺ったりしてしまう人もいたけれど――おおむね、彼らは太陽の下でも影と調和できているようだった。
道行く人々の顔ぶれもちょっと変わっている。地上では珍しい、樹皮の肌と蔦に覆われた身体を持つ人々――ティリビナの民たちがお祭りを楽しもうと街に繰り出してきていた。花冠やビーズで着飾っている彼らはとても楽しそう。
ここは過酷な地上における彼らの安住の地。そのことに、少し安心する。
大樹の如き世界槍、そこから分かたれた枝の一つ。
葉のような足場に乗った都市と葉脈のように枝分かれする街路を、クロウサー家の技術を用いた環境保全結界が覆っている。
エルネトモラン特別区――雑誌やニュースなんかでは、都市の中にある異界なんて言われてる新市街地。過去の魔将侵攻で破壊、放棄され、スラム化していた区画を整備復興することで生まれ変わらせた新しいエリアがここだ。
地上の新参者、ティリビナの民やドラトリア系夜の民を受け入れるために急遽整備されたこの特区は、槍神教の建前とアルセミット・ドラトリア間の外交問題との鬩ぎ合いの中に『星見の塔』による介入と裏工作が絡むことでどうにか成立した。
薄氷の上に砂の楼閣を築いて象の卵を見つけて積み上げるが如き偉業――って私のお師様は言っていたけれど、ちょっと意味がわからない。とにかく大変な苦労の上にこの場所は成立しているわけだ。
――それは成立だけじゃなく、維持についても言えることだけれど。
「アズーリア、こっちこっち」
聞きなれた呼びかけ。声のした方を向くと、朗らかな笑顔がまぶしい、花を模したワンピースに身を包んだ妖精が立っていた。六枚の花弁は白と黄色に彩られ、ほっそりとした胴を包む咢と花柄は素朴な緑に覆われている。深緑の長髪は服の色と被らないようにかアップでまとめられており、トレードマークとなっている大輪の花はヘッドピースのように優雅に髪を飾っていた。
「エスト」
ティリビナ系市民のまとめ役であり宗教的な象徴『ティリビナの巫女』――若くしてその大役を任されているエストことプリエステラは、そうした立場以上にまず私の友達だ。ちょこちょこと駆け寄って手をあげる。
「無事に開催できてよかったね、エスト」
「うん。アズーリアが手伝ってくれたおかげ」
二人、音を立てて手を合わせる。背が低い私はちょっと背伸び。プリエステラの手指は私よりずっと大きくて少しびっくり。当たり前だけど、黒百合宮の頃から成長しているんだ。妙な所で歳月を感じてしまって少ししんみり。
「セリアとリールエルバは?」
「あの二人なら、奥の方にある本部でうちの長老たちに挨拶してるよ。ドラトリア系の代表者たちも一緒みたい。結構忙しそうね」
「そっか。じゃあ合流は後になっちゃうね」
今回のお祭りはチョコレートリリーのみんなで企画したものだ。
先日、私のちょっとしたユーモアから着想を得たリールエルバは、プリエステラと協力して夜の民とティリビナの民との親睦を深めることを思いついた。
新参者の両種族同士、エルネトモランに馴染んでもらうためのお菓子作りイベントを開催することにしたのだった。
名付けて『立春アズチョコ祭り』――街を救った英雄の名前を冠することで、エルネトモラン全体のお祭りにしたかったからだとか。ちょっぴり気恥ずかしいけれど、楽しい催しになるならいいか、という感じ。でも次やるときはリーナ祭りにするから覚えてろー。
リーナとミルーニャがクロウサー本家の用事、ハルベルトとメイファーラ、それにピュクシスが『智神の盾』のお仕事で来られないのは残念だけど、そこは仕方無い。いつもみんながスケジュールを合わせられるわけじゃない。
せめてお休みを貰った私がめいっぱい楽しんで、お土産をいっぱい持ち帰ろう。さっきから甘い匂いが漂ってきているし、露店には素敵な手作りお菓子が並んでいる。うん、わくわくしてきた。
「エストはこれから挨拶回りとかイベントの顔出しとかあるの?」
「見回りがてらあちこち顔出そうと思ってたんだけど――急に呼び出されちゃって。ごめん、午前中いっぱいは身動き取れないと思う。また後で連絡するね」
案の定、プリエステラは相当忙しいようだ。
樹妖精の少女はおとがいに指先をあて、小首を傾げて言った。
「『松明』の偉い人が視察に来るみたい。『事前に承諾はもらったはずなのに難癖つけてくる気なの?!』って思わず拳握っちゃったけど、なんかお祭りを見てみたいんだってさ。珍しいよね、こういうこと」
「ホントだね。『智神の盾』ならともかく、『松明の騎士団』、特に上の方はあんまりこっちのこと良く思ってない感じなのに」
他人事のようだけど、いちおう私も『松明』の所属だ。今はほとんど『盾』の預かりなんだけど、そこのところがどうなってるのか自分でもよくわからない。
なんの裏も無く、ただ友好的な意図でお祭りに参加してくれるのならいいんだけど。私とプリエステラは顔を見合わせて、祈るように呪文を紡いだ。
「言理の妖精」
「語りて曰く」
不安と期待を込めた、形だけのおまじない。
具体的な願いがないからことばはすぐに解けて消えてしまったけれど、今はそれだけで良かった。私たちは手を振ってそれぞれ別方向に進んでいく。
さて、一人になってしまった。エストと歩くのは午後になりそうだし、しばらくはリールエルバの所に行っても邪魔になるだけかも。セリアがフシャーって怒りそう。どうしようかな。ふらふらと歩きながらあちこちを見渡す。
新しいお祭りはまだ手探りの雰囲気が強く、独自の色や文化といったミームは生まれていない。それぞれが知っているそれらしいイベントの感触をどうにか再現しようと努力している最中という感じだった。
主に見られるのは手作りお菓子の販売と、参加型のお菓子作り。
チョコだけじゃなくてカラフルなメレンゲ菓子や白い雲のようにふわふわ浮かぶ空の綿菓子、定番のクッキーなんかもよく見つかる。きらきら光る宝石箱には金平糖が詰まっていて、そこかしこが甘味の楽園といった様相だ。
メインは夜の民が大好きなお菓子だけど、それだけというわけではない。
民族衣装やアクセサリを並べた蚤の市や絵画や木彫り像などの展示物、エスニックな色彩を前に押し出したパフォーマンスなど興味を惹かれるものは色々ある。
私はあっちに行っては飴を貰い、こっちを訊ねてはチョコを貰い、たまにロクゼン茶をすすりながらティリビナ流の大道芸におひねりを投げたりしてお祭りを楽しんでいたが、ふと路上に雰囲気の違う一団が現れたことに気付く。
ティリビナ系でもドラトリア系でもない、しかしエルネトモランでもあまり見ないタイプの種族。声を上げてしきりに署名や募金を求めている様子だった。
「草の民に大地の民、それからントゥガ族ね。また聖地奪回の要求か」
不意に、背後から静かな声がした。低く、深く、沈むような濃い響き。
喧噪の中、その言葉はなぜかすっと私に届いた。
振り返る。道端に設営された展示スペース。白いパネルに黒いアート、それから長机に幾つかの民芸品。飾り気を足すように置かれた花瓶には薄紫の燕子花――安っぽいパイプ椅子に、姿勢の良い少女が座っていた。
同い年か、私より少し上くらいだろうか。背丈は私より頭二つ上くらい。
下だけフレームのない眼鏡の奥には夜を抱いた瞳。落ち着いた黒目がじっと前を見つめている。
ひときわ目を引くのは、吸い込まれるような黒檀の肌。
厚い唇には薄い紅、縮れた頭髪は編み込んでから幾つもの房にして後ろに流している。ダークブラウンの堅苦しい立襟の祭服に、黄色っぽい天然ガラスの首飾りを合わせているのがお洒落な感じだった。
少し、いやかなり驚いた。
服装からして教会の司祭――それも私のような戦闘系の僧職者じゃなくて、儀式の主導、説教、布教、告解を執り行う式職者だ。
槍神教の司祭、それも黒檀の民がここにいるのは、かなり意外なことだった。
実際、彼女を見たティリビナの民たちは嫌なものを見た、という感じで目を逸らし、露骨に舌打ちするものさえいる。エストとイルスという実際の和解例があるとはいえ、歴史的な因縁のある両者の関係は未だ多くの困難を抱えている。夜の民もそうした雰囲気を感じ取ってか近寄ろうとしない。
「ここで署名を集めても無意味。それに不用意」
周囲からの視線にも構わず、気怠げに呟く黒檀の民女性。
確かに彼女の言うとおり、署名運動はあまり捗っていない様子だ。
少数民族たちは世界槍内部に『再生』された古代世界、そこにある彼らの失われた聖地を自分たちの手に『取り戻す』ことを望んでいた。
第五階層の隣接異界『風の吹く丘』、第五・第六階層間に『泡の異界』として発生した噂される『ラフディ王国』の種子、第四階層の裏面『ントゥガの断崖』――いずれも彼らが求めて止まない故郷、安住の地。
居場所を求める切実な感情はティリビナの民やドラトリア系夜の民こそ理解してくれるはず、という狙いがあるのかもしれない。
だが彼らの叫びは切実であるがゆえに少し威圧的で、他人を寄せ付けないところがあった。後ろの方で巨体を縮こまらせているントゥガ族が恐ろしげな風貌をしていたこともその傾向を強めていたかもしれない。
そんなとき、誰かがこんなことをつぶやいた。
「犯罪者予備軍の猿野郎が、祭りが台無しじゃねえか」
聞くに堪えない罵倒。空気が凍る。
確かに、ントゥガ族は異獣とされているヴァナラやエイプキンと種族的には近い。彼らは拳を地面に突いた四足歩行を行うが、器用に手先を操って独自の文明を築いている。毛深い巨体を持つ彼らをプレヒューマンと呼ぶ者もいた。
単純な膂力では霊長類を凌ぎ、その上で原始的な古代呪文の神秘をそのままの形で保っている滅びに瀕した種族――それがントゥガ族だ。
彼らは好戦的な種族でもあり、第二衛星イヴァ=ダストより飛来した『来訪者』が一柱、『虫王ダレッキノ』の眷族たる鎧蟲たちに蜜を与え、育て上げ、訓練し、農耕と戦闘に用いる。
地上において二十位以下の眷族種とされる彼らは第四階層に再生された『聖地』を取り戻すことを願っており、何度か『松明の騎士団』と衝突してきた。第四階層を掌握している部隊と衝突し、流血沙汰にまで発展したことすらあったという。
そうした気質が、この時も遺憾なく発揮された。
公然たる侮辱に黙っている彼らではない。
咆哮し、雄々しくドラミングを行うと、自分たちに侮蔑の感情を向けた無礼者に獰猛な視線を向ける。殺意と血の気配。
まずい。このままだと楽しいお祭りが台無しになってしまう。プリエステラやリールエルバ、セリアック=ニアが頑張って開催に漕ぎ着けたイベントで悲しいトラブルなんてことは何としてでも避けたかった。
黒衣の中でぐっと手を握り、フィリスの発動準備を行おうとした時だった。
歌が響いた。それともこれは、流れるような言葉だろうか。
振り返ると、あの黒檀の民女性が良く通る低めの声で呪文を紡いでいた。すると不思議なことが起きる。ントゥガ族が呼応するかのように声を合わせてきたのだ。リズムが重なり、離れ、また触れ合う。意味のはっきりしない音符の流れが大気を震わせてダンスを踊る。
いつかお師様が言っていた。言語と音楽は『呪文』という系統を学ぶ上で決して避けては通れないものだって。『言語と音楽、これらの前段階として共通の先駆態があったのではないかとハルは考えている。絶対言語と今ある言語とを繋ぐ、いわばプレ言語とでも言うべき中間の呪文が存在していたのでは』とか何とか。
黒檀の民とントゥガ族との不思議な交流は、それを思い出させるような幻惑的で、しかし力強い原始的響きを兼ね備えていた。大自然さながらの素朴さ、単調ながらも奥行きのある繰り返しのリズム。風の囁き、波のざわめき、木々の笑い声――あたりまえの美しいもの、すべて。
私の目には、虚空で触れ合う二人の霊体が見えていた。
ントゥガ族のアストラル投射による精神感応ネットワークは近代化された通信網に匹敵するという。彼らは現行の主流文明が定義するような言語を持たない代わりに、精神感応と音楽的な音声を用いたコミュニケーションを行う。
日常的に鼻歌を歌い、胸を平手で叩くドラミングによってリズムを刻む。
原始的な音楽が彼らの呪文だ。
やがて歌が終わると、場の空気は一変していた。
もはや誰もかの種族を野蛮とは思わない。否、たとえ野蛮であってもそこには確かな文化と意思が存在するのだと、今の一幕が証明していた。
周囲からは場を収めた黒檀の民に賞賛の視線。
ントゥガ族はすっかり心を落ち着かせ、透き通った瞳で黒檀の民女性を見つめ、穏やかに声を上げた。それから周囲にいた草の民や大地の民たちと一緒にその場を離れていく。女性はというと、何事も無かったかのように自分の展示スペースに戻っていった。端末を取り出してぼんやりと弄っている。
私はと言えば、すっかり感心してしまっていた。
とことこ黒檀の民女性に近付いていくと、おずおずと話しかける。
『呪文使い』としての好奇心が不安を打ち消していた。
「あのっ、すごかったです、今の。どうやって彼とお話したんですか」
なんとかしてあの歌のような対話方法の秘密が知りたい――ともすれば失礼にもあたる質問だが、とにかく私は無我夢中だった。もしかしたらハルベルトの役にも立てるかもしれないし、呪術師としての本能が疼いてしょうがない。
ところが女性の反応は鈍く、「ん」と曖昧な言葉が返ってくるだけ。
私はどうにかして関心を持って貰おうと色々と言葉を捻り出そうとした。
多分、勢い余って前のめりになってしまっていた。
だから失敗した。
「やっぱり、黒檀の民だから精霊や自然に属するものとお話する方法が伝わってるとかですか」
途端、はっきりと空気が変わった。
眉根を寄せて不快感を露わにする女性。
あ、しまったと思うけれど、思考が凍ってしまって何がまずかったのかわからない。あたふたと困惑して、どうにかしなくちゃと言葉が空回りする。
「えっとあの、あ、そうだ名乗りもしないで失礼でしたよね、私はスーって言います。あなたのお名前を訊いてもよろしいですかっ」
しかも無意識に良くない癖が出てしまった。ちかごろ名前が売れてきたせいで名乗ると面倒だからアズーリアじゃなくてスーって名乗るようにしているのだ。
黒檀の民女性は目を細めてこう言い放った。
「影喰いに名前を漏らして魂を奪われるのは嫌」
その言い方はとても嫌味っぽくてわざとらしい悪意に満ちていた。
胸がざわざわして、向けられた敵意に身体が勝手に緊張して、楽しいはずの日が一瞬で色褪せていって――それから女性が最新式の携帯端末を、つまり『杖』の機器を持っていることに気付いて、思考が正常に回り始めた。
「ごめんなさい、考え無しでした。私は先入観だけであなたたちと特定のイメージを勝手に結びつけてしまった」
黒檀の民はかつては精霊信仰を持ち、自然と親しんでいたけれど――現代社会においてそこにはある種のイメージとレッテルがつきまとう。私は人種的な偏見でものを言ってしまったのだ。
女性は表情を緩めた。
「わかってもらえたならいい――私も性格が悪かったね。あなたに酷いことを言ってしまった。ちょうど『石炭どもの犯罪まとめサイト』で私たちが『土人』とか『野蛮人』とか言われているのを見てイライラしていたものだから――」
なぜそんな悪意と偏見に塗れたウェブページを自分から見に行くのだろう、と不思議に思ったけれど、むしろそういうのって避けがたいものなのかもしれない。勝手な推測は良くないと思いつつ、少し心配になった。
黒檀の民女性はそんな心配など不要とばかりに澄んだ表情でこう言った。
「私はタマル。よろしく、スー」
「タマル? へえ、私の先生がタマラって言うんだ、なんか似てるね」
と言っても、タマちゃん先生にとって名前なんて幾つもある普段着のひとつみたいなものなんだけど。どっちかっていうとエミリニェロギッポロネーシャとかクリアケンポロイドとかジ・アモリファセル・メディアテーク・アラとかのほうが通りがいいし。とりとめのないことを考えている私に、タマルはこう返してきた。
「多分同じ由来よ。棗椰子のことだから。ああそうだ、これ食べる? お菓子のお祭りって聞いてたから一応用意してたんだけど、あまり人が寄りつかなくて余ってたの」
タマルが差し出してきたのは、透明な個包装の中に入ったドライフルーツだ。
茶色くて楕円形をした、プルーンやレーズンのような感じの見た目。
話の流れからするとこれはもしやナツメヤシの果実。
「これデーツだよね? ありがとう! いただきます! おいしい! 甘い! もうひとつ下さいな! 素敵! もうひとつ! うまー! おかわり!」
「どうぞ。ずう、遠慮ないね――いいよ、この袋のやつは全部あげるから」
「やったー!」
何が『やったー!』なのか自分でもよくわからなかったが、とにかく心の声がそう叫んでいた。同時に確信する。甘い物をくれる人はいい人。だからタマルはいい人に違いない! ずっとついていきます! デーツおいしいです!
「気に入ってもらえたなら良かった。ついでにこれ、試作品なんだけど。デーツとチョコを組み合わせて――」
「ありがとー! 超あまーい! 夜の熱帯を切り裂く甘さのスコールだよもー! 激烈ー! 猛烈ー! 超鮮烈ー!」
「――みたのはいいけど、少し甘味が強すぎるって身内では評判悪くて――その、夜の民にはちょうど良かったみたいね?」
差し出されたチョコは確かに甘過ぎのきらいはあるし、バランスを考えると苦味のあるお茶かコーヒーが欲しくなるところではあるけれど、甘過ぎなら甘過ぎで楽しめてしまうのが夜の民なのでへいちゃらなのでした。あんまり参考にならなくて申し訳無い。それにしてもデーツはおいしいなあ。はむはむ。
幸せいっぱいの気分でお菓子を堪能する私を興味深そうに見つめるタマルは、ふと思い出したように話題を切り替えた。
「そうそう、さっきの話だけど。私がントゥガ族と対話できたのは、過去の観察と経験から導き出した『ちょうど良いやり方』が上手く行ったから。私の肌色と生まれは関係無いわ。そもそも私、アルセミットから出たこと無いし」
聞けば彼女は今は砂漠となっている亜大陸に行ったことが無いのだという。
私と同年代という時点で気付くべきだった。黒檀の民たちが槍神教に恭順して以降、彼らの多くは槍神教圏に移住した。
タマルはその次の世代――この場所しか知らない黒檀の民なのだった。
「過去の観察と経験って?」
私はタマルの来歴については深く突っ込まず、当初の興味の方を優先した。黒檀の民たちの事情は、そういうものでしかない。それは今ここに当たり前に存在していることだ。
「調査と研究が主な役割だから。ントゥガ族と接触する機会が多かっただけよ」
「もしかして、『智神の盾』?」
「いいえ。『松明』の方でも独自の研究機関を持ってる派閥があるってだけ」
『智神の盾』があるのに、そんなものが必要なんだろうか。そういえば、ピュクシスが前にそんなことを言っていたような気がする。
当時の記憶を掘り返す。確かこんな内容だった。
『塔』が末妹選定の本格化に伴って積極的に世界槍に介入しようとしていることに『松明』は不満を抱いている。『塔』の出先機関である『盾』を遠ざけつつ、独自の調査機関を使って世界槍での影響力を強めようとする動きが活発化しているのだとか。それを主導しているのは、えっと、確か――。
「ねえ、私からも質問をしていい? 夜の民からの意見が聞きたいの――ここにあるシルエットアートなんだけど」
タマルが指差したのは、ホワイトボードに展示されている幾つもの黒い切り絵だった。多分、私たちの種族が影絵を独自に発展させてきたことからコメントを求められているのだろう。しかし。
「うん、えっと、そのー、げーじゅつてきだね!」
「ごめんなさい。勝手な偏見であなたたちを決めつけたわ。許してくれる?」
「うん。こちらこそ期待に応えられずごめんなさい」
夜の民だからといってみんなが影絵芸術に造詣が深いわけではないんだよう。
正直、タマルのシルエットアートはよくわからなかった。
衣装、横顔の形、ある種の記号的なパターンに沿って配列されていることはわかるけれど、どういうお約束があるのかまでは読み取れなかった。それに何と言うべきか、所々に『怖さ』を感じる絵があってコメントしづらかったのもある。
寂しさ、もの悲しさ、不穏さ、そして不吉さ。
崖っぷちに立つ二人の女性、連なって縛られた女性たち、鳥籠の中にいる少女、紙きれをもった群衆、床を掃除する女性、沢山の子供たちを世話するふくよかな女性、着飾った女性、全てが黒塗りの人々だけれど、そこには明確な記号的差別化が図られているように思われた。
「ねえ、これ、タイトルはなんて言うの」
「これ? 『他者の中の他者』よ」
タマルの言葉を私は捉え損ねた。
けれどそのタイトルはとても寂しく、人を退けて疎外してしまうような過酷な響きを感じさせた。
とても――とても恐ろしかった。
私はそれからしばらくタマルと雑談を交わし、連絡先を交換してその場を離れた。しばらくはこの展示スペースにいるというから、あとで誰かと寄ってみようと思う。新しく出来た知り合いのことを、私を構成する私以外の目でもっと知りたいと思ってしまったのだ。チョコレートリリーは彼女をどう思うのだろう。
ふと思い立ち、道の端に移動してから端末を操作する。
検索――黒檀の民が出ている広告幻像。
端末の上に立体的に表示されたのは黒檀の民。有名な陸上競技選手の姿だ。躍動感溢れる疾走で、運動靴が最高のパフォーマンスを発揮していることを示す。
音楽に乗せて謳われる文句は『ワイルド』『パワフル』『野性』『力強い』などなど。他にも遙か彼方を見通せる視力を強調したり、自然と共生する姿を肯定的に描いて農業や林業を振興、野菜を美味しそうに囓る姿をアピール、といった性質の広告が目立つ。
先ほど言葉を交わしたタマルは線が細く、度が強そうな眼鏡をかけていて、最新型の携帯端末を操作していた。だからどう、ということではない。
そもそも、こうした広告映像はどれもポジティブで罪のないものだ。
けれど、私にはそれらの連関がとても不思議で、強い呪力を有しているように思えてならなかった。
ぴこんと音がして、端末の画面上にメッセージが表示されていく。
まずは箒アイコンとカラスアイコン。
「いーなー、私もアズチョコ祭り行きたいよーねえ先輩午後から行こうよー」
「ええい私だって行きたいですけどこっち放り出すわけにもいかないでしょう! いいから口より手を動かす! さっさと終わらせますよ!」
いつも賑やかな二人の後には、目玉模様の宝石アイコンと植木鉢アイコン、それからお姫様のお人形が姉妹揃ったアイコンが続く。
「おハルさんとピュクシスせんせが喧嘩しっぱなしでこわいよー」
「よしよし、メイはがんばってる。終わったらこっちおいで、ティリビナマロンケーキをご馳走するよ」
「『それ私も欲しいわ。ニアも好きよね? ご一緒してもいいかしら』と姉様は仰っています。セリアもそう思います」
お昼ごろになると、チョコレートリリー専用のグループチャンネルがにぎやかになってくる。お祭りの方もお昼時ということで、お菓子は一休みにしてランチに切り替えたり店番を交代したりといった動きが見られた。
私は昼食も甘いもので平気なんだけど、ここは流れに乗って屋台で何か買おうかな――そんなことを考えていると、通話アプリ上でウサギアイコンが点滅。私は即座に反応した。
「ハル、お疲れ様」
「まだ終わってない」
黒ウサギアバターはどうやらご立腹の様子。かつてない勢いでおこりんぼエモーションを多用して憤慨していた。
「午前中ぜんぶ無駄にした。散々待たされるし、ピュクシスはうるさいし、手続きに時間かかるし、そのくせ肝心の調査対象は野外での試験運用だとかでもう移動したとか言われるし、時間稼ぎが見え透いててイライラする。アズ、場合によっては明日以降に手を借りるかもしれないから覚悟しておいて」
「わかりました。なんだか大変だったんだね。兵装の基準検査だっけ」
「ん。『松明』が独自の技術部門に開発させたっていう新型兵装の検査と承認。けど、実際にはそれだけじゃない。派閥間抗争の火種になり得る案件」
なにやら物騒な話になってきた。
お師様によると、先だって『智神の盾』が保管していた神働装甲の設計図が何者かに盗まれるという事件があったのだという。異様なのはネットワークから遮断されたスタンドアロンのデータベースに侵入されていたという点。現場はほとんど荒らされた様子も無く、『塔』が設計した鉄壁の物理セキュリティに守られた建物内に誰にも気づかれず忍び込みことを済ませたらしかった。
「凄腕の――それこそ『司書』級のクラッカー。未だ犯人の足取りすらつかめていない。その事件からしばらくして、『松明』は『独自技術』によって新型兵装の開発に成功した。それも、公開されているカタログスペックや試運転の様子を伝え聞く限りは――」
黒に近い灰色。ハルベルトのウサギアイコンの表情はひどく重苦しかった。
綺麗な天眼石が話に飛び込んで来る。メイファーラは能力のせいか『智神の盾』ではプチ諜報員として重宝されており、『松明』の内部事情にかなり詳しい。
「近々第四階層に配備されるって噂だよ。確か例によって異界神話からの名付けで、『ハルピュイアシリーズ』って言うんだって。全部で五機配備されるみたい」
当然の如く、神働装甲の開発責任者であるピュクシスは激怒した。
それはもう、大変な荒れようだったらしい。メイのアイコンが涙目になっていることからも苦労が偲ばれた。可哀相に。
もちろん、可哀相なのはピュクシスもだ。自分が開発に関わった『作品』が盗まれた上に無断で手を加えられて『独自の技術』なんてことにされているのだから。
『盾』が今回の調査に乗り出したのは疑惑を明らかにするためだったのだが――どうものらりくらりとかわされてしまったらしい。その時点でもう怪しい。怪しいけどまだこの時点では強硬な手段をとることはできない。もどかしい。
それにしても、『松明』の研究機関――少し、気になる。
「なんだかもやもやするね」
「『松明』はチョコレートリリーという力を手にした『盾』を警戒している。ある意味では当然」
私たちがかつてのように結束したことで、周囲からの敵意を呼び込んでしまっている。それは悲しく、そして正しく理解しなければならないことだと思う。
私たちは外側と内側を切り分けた。内側は楽しく心地よい居場所。だからこそ、そうでない外側ともどう付き合っていくかを考えていかなければならない。
きっと、『使い魔』という呪術はそういった事柄について考えていくことなんだろうと思う。
このお祭りも、きっとそういうたたかいで、まじないなのだ。
私の目の前で、ティリビナの子供が黒衣の子供とお菓子の交換をしていた。
こんな光景が、たくさん生まれるといいな。
そんなことを思いながら、ふと思いついてチョコレートリリーのみんなにある相談を持ちかけてみた。すると予想外の反応が起きた。
「アズーリアがそんなことを気にする時が来るなんて、天変地異の前触れ、いやそれよりおハルさんの精神が危ない」
「マジで! 春の気配じゃーんやっぱり文通から始まるピュア恋はあったんだ!」
「ちょっとリーナどういうことですかアズーリア様に限ってそんな」
「いいえミルーニャ、これはきっとご両親へのギフトオチよ! 愛は愛でも家族愛! これ、重要ね!」
「『真面目に返すと、使徒様が真剣に今回のイベントに参加してくれているようでうれしいわ。お菓子コンテストのレシピ一覧があるけど、参考になるかしら』と姉様は仰っています。セリアもそっちの端末にデータを送ります。あ、間違えましたこれはブラクラでした」
「えっと、とりあえずみんなありがとね。いろいろな意味で」
よくわかんない嫌疑をかけられた挙句、セリアからのひどい嫌がらせがあったけど私はめげない。ハルが何でか沈黙しているのがちょっと気になるけど今は置いといて、ドラトリア姉妹から送られてきたお菓子レシピに目を通す。
どれもよく工夫されていて、見た目も触感も味わいも素敵になるようにデザインされているみたいだ。参考になりそうなものが無いか、と目を眇めてリストとにらめっこ。しばらくして、これはと思うものを見つけた私は早速試してみようと近くの調理場を借りようと移動を始めた――そんな時だった。
自然特区を揺るがす爆音が轟いたのは。
閃光、衝撃、それから悲鳴。遅れて警報と避難指示。
爆破テロ――そんな言葉が脳裏に浮かんで、体の奥に氷を突っ込まれたような気分になる。せっかくエストやリールエルバたちが警備体制を整えていたのに、それでも万全とはいかなかった。最悪の事態が起きてしまった。
並木道の中心を、違法改造されたと思しき杖で武装した一団が陣取っている。
係員たちが避難誘導を試みるが、『恐怖』の呪文が彼らの意気を根こそぎ挫いていく。不安をまき散らし、威圧によって感情を揺さぶる。呪術テロリストが用いる典型的手口。民間人の被害を拡大させるための精神攻撃だった。
なんて――卑劣。
怒りが弾けると同時、左手首を裏返す。跳ね上がった金色の鎖、その環が私の口元に到達すると同時、私は大口を開けた。素早く噛み砕く。お菓子のようにぱりんと砕け、言の葉の妖精が世界を改変する。
対抗呪文――『静謐』が発動。空間を満たしていた恐怖が打ち消され、静謐な時間が戻ってきた。あとは、敵呪術師を捕縛するだけ。
敵集団は街路中央に集まって陣を敷き、守りを固めているいる。
警備員たちが装備している衝撃杖ではテロリスト集団の展開している呪術障壁を突破できない。非番だけど、ここは修道騎士として私が対応するしかない。
端末経由で『盾』と『松明』の本部に武装の使用許可を申請――相変わらず『盾』の方が早い。足元の影と黒衣の内側から広がった闇が私を覆いつくし、漆黒の装甲となってアズーリア・ヘレゼクシュを一騎の英雄へと変質させていった。
黒と青を基調とした全身鎧、頭部を雄々しく飾る鹿の角飾り、右手には厚みのない手斧――新型装甲は一瞬で私の動きに同調、最適化。非力な私のパワーアシストを実行。足裏がスキリシアとの境界面を認識すると、逆向きに出力された私の鏡像が影世界と反発し合い、物理的実体を前へと運んでいく。
今まさにティリビナ人の子供に手を上げようとしていた大地の民男性に肉薄し、足払いで転倒させる。影から伸ばしていた束縛呪文で草の民の杖を取り上げ、清掃用使い魔の管理者権限を取得して逃げ遅れていた子供たちを運ばせる。
そこまでを一瞬のうちに終わらせた私に、真上から襲い掛かる巨大質量。
荒れ狂う猛威を斧で迎え撃つ。漆黒の刃が激突したのは生身の拳。呪文が乗せられたハンドジェスチャーの打撃を鎧の出力に任せて弾き飛ばす。
相手は飛び退って体勢を立て直すと、大きな両手で胸を激しく叩いた。
威嚇と敵対のミームが放散されるのと同時、両手に集約されていくのを感じる。
「ントゥガ族の、肉体言語魔術――!」
吼えるような歌が暴風となって吹きつけてくる。
衝撃波と共に彼の感情が翻訳され、私に伝播してきた。
――どうして我々だけが。
――どうしてティリビナやドラトリアだけが。
――どうして。どうして。どうして。
怒り、悲しみ、寂しさ、羨望――与えられなかったという苦しみ。
行き場が無い、安らぎが無い、未来が無い――欲しいものが手に入らない。
手に入れている者が、目の前にいるのに。
何故という疑問と、選別されたという痛み。選ばれなかったという嘆き。
内と外――ティリビナの民とドラトリア系夜の民が親睦を深めるためのイベントは喜びを生み、未来へとつながっていく。けれど、その影に埋もれた感情がある。
彼に向けていた刃を下げ、代わりに左手を向けた。
きっと、今この時にフィリスを使うために私はここにいる。決意を込めて金鎖を砕こうと意識を集中し呪文を構築、魂を影の中へと沈ませていった。
けれど。私のそんな現実への抵抗が実行に移されることは無かった。
舞い降りた白い雪。小さな粒が毛皮に触れた瞬間、赤々と燃え上がる。烈火のような粉雪は毛皮に覆われたントゥガ族の血肉を一瞬にして焼き焦がした。
続いて振り下ろされたのは銀色の刃。鮮やかな血が飛沫を上げた瞬間、私の願いは完膚なきまでに砕け散る。
突如として現れ、無慈悲な斬撃を叩きつけたのは見たこともない鎧姿だった。
純白。まずその印象がどこまでも鮮やかだった。
だがその白は血塗られている。返り血だけではない、機体の肩や腰、関節部など至る所に赤色が用いられ、細長い呪石眼窩は燃えるような炎の色だ。
高速機動を重視した軽装甲型で、ほっそりとしたシルエットは優美ですらある。だがけして美しさだけではない。鳥のくちばしのように尖った頭部と、その両脇から背後へと長く伸びた鳥の翼を模した飾り、両腕と両足の側面に取り付けられたかぎ爪が華麗さと獰猛さを両立させていた。
識別信号は私と同じ『松明の騎士団』への所属を示していた。
つまりは味方。同じ修道騎士として、事態を収拾するために駆けつけてきてくれたのだろう。そのことには感謝するが、明らかにやり過ぎだった。
白騎士は長槍を持ち上げ、傷付き倒れたントゥガ族に止めを刺そうとしている。言葉では届かない。気付けば私は振り下ろされた槍を斧で受け止めていた。
「止めるな黒騎士。それは既に異獣堕ちした『エイプキン』であり討伐対象だ。市民に被害が及ぶ前に――」
スピーカーを介したくぐもった声と『上』的な切断処理。理性的だけど、残酷な判断だった。私は無駄と予想しつつも反論する。
「捕縛すればいい、ここで即断すべきことじゃない。もう戦意は消えてる」
叫ぶや否や、槍を押し退けて束縛呪術による牽制。斧による一撃は流れるような槍捌きで凌がれて、束縛呪術もあっさりと射程外へと逃げられて失敗。
黒と白が空間の主導権を奪い合う。斬撃と刺突、影の触手と呪力障壁が激突してアストラルとマテリアルの境界がゆらぐ。影の上を滑りアストラル界を経由した私の追撃を、白騎士は足裏の空圧機構による多段跳躍を駆使して回避する。
予想より遙かに運動性能が高い機体だ。
「違う。血液から血族同胞を参照し、殺害を伝播させる方が先だ。族誅系の呪いで共犯者どもを炙り出せば敵と味方が判別できる。貴様も『使い魔』の目を開け、急がないと手遅れに――」
白騎士は私が思っていたよりも遙かに理性的に言葉を紡いできたけれど、私がその意味を理解するよりも早く怒声と悲鳴が上がった。
私たちが対峙している場所からかなり離れている。神働装甲の強化視力で拡大すると、草の民に大地の民、ントゥガ族といった種族で構成された一団が祭りの参加者たちに襲撃されていた。
彼らは結束してテロリストへの反撃を叫んでいる。『サイバーカラテ』を身につけていた一般市民たちがあの辺りには多かった様子で、もはや無力ではない平凡な一般人による暴力が少数民族たちを打ち据えていく。
襲われている方はほぼ無抵抗で、必死で私たちは何もしていないと叫んでいる。彼らの手から署名用紙と募金箱が落ちて地面に散らばった。
白騎士の舌打ちが響く。私は自分の判断が遅きに失したことを理解した。
襲われている集団は平和的な活動で居場所を獲得しようとしていただけで、テロリストとは無関係だ。しかし、テロリストと同じ少数種族であるというだけで誤解されている。自分たちの安全が脅かされているという実際の恐怖に直面し、一般市民たちは攻撃に走る。その手段があれば心理的な枷も容易く外れてしまう。
白騎士は速やかに敵味方を識別し、殲滅によって流れる血を最小に留めようとしていた――私はそれを邪魔したのだ。
「――違う、悔いるな」
対面からの声で我に返る。
そこに白と赤の理性があった。
燃えるような瞳がこちらを貫く。
それでも、犯罪者を法廷に立たせることなく殺害することは間違っている。
このアルセミットの司法がどれだけ歪んでいたとしても、最低限の形式すら取り繕えなくなればお終いだ。そして、白騎士がどれだけ正しい目的を指向していたとしても、手段の正しさは別の問題。白い修道騎士はこの状況でも私の行動を否定せず、自分のとった行動を正当化していなかった。
なんて厳しい在り方だろう。
「――正しさは個別に問われるべきだ。法と道徳を優先した貴様を責めはしない。だが肯定もしないぞ、黒騎士」
私たちはほぼ同時に走り出し、繰り返される暴力を止めて回った。
それは途轍もなく不毛で、気の滅入る作業だった。
エスカレートする集団の暴力は全て自衛のため、恐怖とパニックから要請された反射的なものだった。人は危機に瀕した時、出来る限りのことをしようとする。
これはただそれだけの出来事だった。
暗く染まっていく気分に呼応するように、空が翳っていく。
こんな世界槍の上部で珍しいと空を見上げて、異変に気付いた。
血塗れのントゥガ族をサイバーカラテユーザーから庇い、リールエルバに救援を要請しながら叫び、呪力障壁を展開する。
「敵襲! 上空からの爆撃に備えて!」
立て続けに事態が動いていく。
区画のあちこちで爆発音。更には区画全体をドームのように覆う環境保全結界の制御が乗っ取られ、世界が闇色に染まっていく。
呪文による爆撃を繰り返しながら影の翼で飛翔するのは、私そっくりなフォルムの黒い神働装甲たちだった。その数は十機にも達する。
ところどころ急ごしらえな箇所が露出しており、違法改造した粗悪な鎧であることがわかった。あんなもの、一体どうやって――。
状況は進む。現れた黒騎士たちは拡声器を使って信じがたい声明を出した。
「我らは祖国アルセミットを憂う者たちである! 新たに認められし眷族たちよ、この都市に寄生する犯罪者予備軍、劣等たる猿、最低位の眷族種どもを駆逐し、諸君らが真に地上の同胞であることを示すのだ! 仲間を守りたいなら戦え! 魔将どもを引き裂いた黒騎士アズーリアのように! いざ叫べ、発勁用意!」
言葉を失う。
私が――私の名前が、姿が、行いが、あんな風に使われていることに。
そして、彼がもたらした力がこんな光景と地続きになってしまっている事実に。
飛翔する偽りの黒騎士たちは『アズーリア勇者団』を名乗り、この区画を占拠してティリビナの民やドラトリア系夜の民たちに下位眷族種の虐殺を行わせるつもりなのだ。その身勝手な理屈を押し通すためだけに。
一連の流れに、誰かが書いた筋書きを感じた。
これは悪辣な物語だ。間違い無く裏で呪文を紡いでいる者がいる。
止めないと。私がやらなければ、私が責任をとらなければ。
怒りや悲しみよりも恐怖が私を動かしていた。
けれど、ここでも私の機先を制して動いたのはいつのまにか隣にいた白い神働装甲だった。足裏から衝撃波を放ち、白い鎧が虚空を飛び跳ねていく。
「イリス、射撃モードに移行――虹弓を展開」
白騎士が左手を伸ばすと、左腕を貫くように輝く虹が広がって弓の形になった。虹の端、消失部から伸びた光の弦が張られて、五色の矢が番えられる。
それぞれ別の性質を有した呪力の矢だ。高密度のミームを感じる。
「放て」
短い命令と共に閃光が空を駆け抜けた。
矢はテロリスト集団のリーダー格らしき黒騎士に命中し、撃墜。
敵集団が浮き足立ち、こちらに気付いて騒ぎ立てる。
敵意、それから、私に対する偽物認定。
私は向かってくる神働装甲の群を迎撃すべく斧を構えた。
同時に、私の横で白騎士も槍と弓を構える。
敵集団はそれ自体が自律的に呪文を紡ぐ水晶型の魔導書を出現させ、稲妻の呪いで弾幕を張ってくる。私と白騎士は街路樹の影に隠れてやり過ごす。稲妻は樹木に吸い寄せられる呪術的性質がある。この場所でそんな呪術を使うテロリストたちは明らかに戦い慣れしていなかったが、厄介なことに攻撃の威力は本物だった。
神働装甲が素人同然の集団に圧倒的な力を与えているのだ。
私は影を伸ばして下から敵の動きを阻害し、白騎士は弓による射撃で上空への移動を制限。白騎士は私の知らない系統のミームを広げ、渇いた地面から砂埃を巻き上げて砂塵へと変え、小規模な砂嵐で敵集団を撹乱していく。
「燃え盛れ」
更に、赤い呪石瞳がかっと閃光を放った。
白騎士が槍を一振りすると、その軌跡に沿って一条の赤いラインが広がっていく。大地に刻まれた溝に、沸々と煮えたぎる炎と血が流れ、灼熱の川となっているのがわかった。そこから飛び散った火の粉が異様なまでに高く舞い上がり、火の雪となって空から舞い落ちてくる。
触れただけで破壊をもたらす赤い雪――熱による上空の制圧と爆撃で敵集団が頼みとしていた水晶魔導書が砕け、そこに私の呪文が介入。制御を乗っ取られた水晶が崩壊しながらテロリストたちに稲妻を放つ。
敵集団はあっけなく壊滅し、私はほっと胸を撫で下ろした。
油断もいいところだった。
倒れ伏し、戦闘不能になっていたはずのテロリストたち。
彼らは突如として起き上がり、一斉に呪いを解き放つ。
狙いは私たちではなく、怪我をして逃げ遅れていた一人の市民。
サイバーカラテユーザーたちに暴行されていたントゥガ族だった。
激しい爆発音。
巻き上がる粉塵が晴れる。そこに腹部装甲に亀裂が走り、膝を突いた白騎士がいた。身を挺してントゥガ族を庇い、その代償として高密度の呪詛をまともに喰らってしまったのだ。
復活した敵集団は明らかに理性を失っていた。
その頭部を侵食するのは歪な水晶で、視界を完全に覆い尽くしている。
生物のように蠢く石英の集合体は、時間経過と共にテロリストたちの肉体を石化させて我がものにしようとしている。透明な結晶体の周囲を光と電子によって構成された呪文が走り、何らかの指令を下しているのだ。
間違い無い、彼らは何者かに操られている。
一度倒したにも関わらず復活したのはほとんど操り人形同然に操作されているからに違いない。既に意識は無く死に体に近いが、黒幕は彼らがどうなろうと限界まで兵隊として酷使して使い捨てるだけだ。
怒りが込み上げる。だが今は目の前の相手を倒すしかなかった。
戦闘は更に続いたが、すぐにこちらが劣勢になった。
機体性能ではこちら側が遙かに上だったが、数はあちらが上で、損耗を省みずに無謀な突撃を絶えず敢行してくる。
その上、敵はお構いなしに呪術を乱射してくるから私たち修道騎士は逃げ遅れた人々を守らなければならなかった。回避性能に優れた白騎士は何度も敵の攻撃を受け止めたために傷付き、とうとう敵の神働装甲に捕まってしまう。
白騎士の細い腕を掴み、嬲るように殴りつけ、稲妻を叩きつける。
怒りが込み上げるが、私は他の神働装甲の相手で助けに入れない。
その時だった。
白騎士の兜、その赤い呪石の瞳が輝いたかと思うと――『char str[256];』――淡い光を放つ呪文がその装甲の上を走っていった。
そして、言葉が紡がれる。
「レイシズム変数――『エキゾチックな黒い肌』『野性的かつパワフル』『天性のばねを持つ』『彼らは生まれながらのアスリート』」
白騎士の腕が、黒く染まっていく。
何かが強引にへし折られ、鋼鉄が引き裂かれるような音。
直後、絶叫が響いた。
今や全身を黒く染めた白騎士――否、そこにいたのはもはや野性的な生命そのものだった。野獣となった神働装甲は怪物的な膂力を発揮して出来損ないの劣化品の腕をへし折り、ねじ切り、叩き伏せていく。
流麗な槍術などもはや不要。獣は四肢のかぎ爪を縦横無尽に振り回して周囲の全てを出鱈目に破壊していった。
遠距離から浴びせかけられた呪術の集中砲火を神懸かった反射速度で回避したかと思うと、爆発的な加速と疾走、そこからの多段跳躍で飛び上がり、一撃必殺の蹴りで神働装甲を粉砕。暴力に次ぐ暴力、単純明快な力任せ。
あれは神働装甲の能力ではない、装甲が強化する前の着用者の基礎性能が単純に向上したのだ。先ほどの奇妙な呪文は肉体強化の暗示か何かだろうか。
瞬く間にテロリスト集団を残骸に変えた獣の狂奔は止まらない。
暴走する輸送箒のように勢い良くこちらに向かってくる。
激突。先程までとは比較にならない勢いで爪が振り降ろされ、影の斧と拮抗。
出力で勝っているはずの私の神働装甲が押されている。影の触手も束縛の罠も全て回避され、暴走して理性を失った相手を止める術はもはや無いものと思われた。
その時、歌が響いた。
悲しく切なげな、嗚咽にも似た切実な叫び。
わかりやすい言葉はそこには無く、信じられる祈りも示されない。
けれど、シンプルな感情がそこには込められていた。
傷付いたントゥガ族が、リールエルバの部下たちに大きな担架で運ばれることを拒否して必死に歌い、叫び、呪文を唱えていた。
あれは先ほど白騎士に救出されたントゥガ族だろう。
暴徒と化した市民に痛めつけられていた、ただ居場所を欲していただけの同じ市民だ。歌とも言葉ともつかない綺麗な響きを文化とする彼らの、少しだけ風変わりな呼びかけ。それを聞いた白騎士の動きが次第に緩慢になり、やがて止まった。
心を磨り減らすような戦いは終わった。
私は鎧を纏ったまま、その場に膝を突く。
後はリールエルバに任せて良いだろう。私にできることは無い――もう、何もしたくなかった。私そっくりの残骸たちがどうなるのかはわからないけれど、彼らについて考えるのすら嫌だった。その名前、その形、全て忘れてしまいたい。
逃げたい、みんなに助けて欲しい。
この世界は、どうしてこんなに呪いに満ちているのだろう。
問いに答える者はいない。
漆黒に覆われていた空が晴れていく。透き通るような青空はどこまでも続いていくけれど、そこに続くのは圧倒的な空白で、答えと呼べるようなものはきっと大地の上にしかないのだと思えた。しがらみと呪いに満ちた、束縛だらけの地上でしか私たちに居場所はない。少なくとも、今はまだ。
ふと、正面で同じようにしゃがみ込んでいる白騎士が視界に入った。
ぼんやりと上を向いている。血のような瞳には力は無い。
既に強化呪文を解除したのか、全身を覆っていた漆黒は晴れて美しい純白が戻って来ていた。奇しくも同じようなタイミングで空を見上げたこの修道騎士は、何を思っているのだろう。あの厳しい理性と、もう一度対峙したい――ふとそんなことを思った。もしかしたら、それは相手の厳しさへの甘えだったのかもしれない。
しばらくすると、そんな静かな時間も終わりを告げた。
迎えが来たのだ。それも、奇妙な形で。
遅れて到着したプリエステラは見慣れない集団を伴っていた。数は四人。揃いの祭服を着た黒檀の民、それも皆が女性という構成だ。
四人はそれぞれ水晶のようなアイバイザー、花のヘッドピース、木と砂の義肢、穀物が詰め込まれた角という特徴的な品を身につけている。
リーダー格らしきアイバイザーの女性は感情の窺えない声で白騎士に言った。
「状況を報告せよ、リビュエー05――いや、速やかに帰投し、機体の修理と貴様の治療を行うべきだな。リビュエー03、運べ」
「んだよ、俺の出番は無しかよ。折角ガチの殺し合いができると思ったのによ-。戦国乱世育ちの殺人鬼ちゃんが荷物運びとか、使い所間違ってるぜ、ウネム隊長」
「黙ってやれ」
「へいへい」
不平を零しながらも、『リビュエーゼロスリー』と呼ばれた女性は命じられた作業を実行してみせた。白騎士に近付いた黒檀の民女性は大柄で、地上では珍しい木と砂の呪動義肢を身につけている。彼女は軽々と神働装甲を持ち上げ、頭上で保持したまま歩み去っていった。運搬用の絨毯か箒でも持ってくるのだとばかり思っていたので、これにはかなり驚かされた。
「あなたたち、一体」
思わず、問いかけていた。
そして、すぐに後悔することになる。
「挨拶が遅れたな、『盾』の黒騎士。私は『守護の九槍』第七位――」
そこまで聞いて、私の思考は停止した。
表情が神働装甲で隠れていて、本当に良かったと思う。
私はその名前を聞いた時、多分人に見せられない顔になっているから。
「――ヴィティス特任司教閣下直属、リビュエー隊隊長を務めるウネム・リビュエーだ。功を焦った部下が迷惑をおかけした。正式な謝罪は後ほど。部下と機体の回収をさせていただくが、よろしいか」
質問の形をとっているが、有無を言わせない口調だ。
隣にいたプリエステラは戸惑うように問い返す。
「構わないけれど、えっと、さっき言っていたお祭りの視察っていうのは――」
「その目的ならば既に果たされた。興味深い光景も確認出来た故、問題は無い」
アイバイザー越しに、得体の知れない視線を感じる。
ぞっとした。
これは、あの男直属の部下だという。
凄まじい嫌悪感が込み上げてきて吐きそうだった。
ウネムと名乗った女性は仲間を引き連れて早々に引き上げていった。
プリエステラが迎えにいった槍神教からの使いというのは彼女のことだったのだろうか。だとすれば、とても嫌な感じだ。
敵意と嫌悪が湧き上がってきて止まらない。
理屈なんて何も無かった。
『守護の九槍』第七位――あれは、私の敵。
かつて私たちキール斑を、否、より正確には小隊規模であったキール隊を敵側に売り、故意に壊滅に追い込んだ最悪の裏切り者。
それが奴らなのだから。
彼女たちの顔を、もう思い出せない。
頭にあるのは、敵対したときに困らないための記号だけ。
あれらは全て敵でいい。歪みに気付きながらも私は憎しみを捨てられない。
それからしばらくの間、私はプリエステラやリールエルバの呼びかけに応えることができなかった。
「もう帰っちゃったのかな」
きょろきょろと辺りを見回す。
もうすっかり日が暮れて、お祭りは既に片付けが進んでいた。
一時は開催が危ぶまれたイベントは、安全確保のため日程を延期するという決定が下された。今度は警備を強化して万全の体勢で挑む予定だ。
それはそれとして、鎧を脱いだ私は無理を言って空いた調理場を借り、言理の妖精の力まで使って大急ぎであるお菓子を完成させた。
届けたい人がいたからだ。
けれど、シルエットアートが展示されたスペースはもぬけの殻。
あの眼鏡の黒檀の民女性、タマルの姿は既にない。
やっぱり、あの時の騒ぎで避難してしまったのだろうか。
「もしかして、巻き込まれて怪我とか――」
思わず不安に駆られて動揺してしまう。
すると、背後から声がした。
「ちょっと用事があっただけ。もう終わりだから、片付けて撤収するけど」
振り返ると、そこにタマルがいた。
午前中に出会った時と同じように、落ち着いた佇まい。
どうやらテロの被害には遭わなかったらしい。ほっと胸を撫で下ろす。
「どうしたの、スー。え、私にくれるの?」
戸惑ったように包みを受け取るタマル。私がどうしても渡したかったのは、手作りのチョコレートなのだった。
包みを開けると、そこには見よう見まねで完成させた試作品チョコ。
デーツとチョコは甘すぎる。なら、甘過ぎを調和させる組み合わせがどこかにあるのではないかと思ったのだ。
「そこで登場するのがナッツというわけです」
実は他人のレシピを参考にしたのだが、何となく胸を張って威張ってみた。
タマルはチョコレートを口に運び、しばし味わった後でふむと頷いて見せた。
「美味しいわね」
「でしょ? 今日の催しは邪魔が入ってしまったけど、こんな風に程よい仲立ちを見つけることができれば人と人の関係って上手く行くんじゃないかな。こういうイベントが、また人の環を繋げて行ければいいと思わない?」
「思わない」
にべもなかった。冷たすぎて凍えそうだ。
涙目になって質問する。
「なんでー」
「ちょっと、泣かないでよ。デーツとチョコの甘さを緩和するナッツ。確かに良い組み合わせ。お菓子の組み合わせとしてはね。けどそれだけ。それ以上のアナロジーは不用意。現実はお菓子のように甘くない」
それはそうだけど。
タマルは論理の人みたいだ。『杖』と相性良さそう。流石、最新式の端末を操るだけはある。比べて私は大好きなおこたの原理もわかっていない。圧倒的な差だ。
それでも、と私は思う。
「甘さもお菓子も夢物語も、現実に存在する言葉と想いだよ。不用意なんかじゃない。慎重で綿密な、現実で戦うための理想――私はそう考えてる」
「そう。呪文ね、それは」
「うん、そう。私は呪文に希望を託すの」
「その希望が、あなたを呪縛しないことを願うわ」
タマルは祈るとは言わなかった。
多くの言葉は交わさず、それきり私たちは別れた。
彼女とはこれきりになるだろうか。
そうはならない気がした。
タマルはティリビナの民に疎まれると知っていてあえてこの場所に足を運んだのだ。なら、そこには確かな意思がある。
きっとまた会える。だって彼女の胸にも希望が、期待があるはずだから。
厳しい理性に支えられた心――そこに、私と同じ甘さがあることを信じてる。
あの時食べたデーツの美味しさ。
それがこの日に得た大切な思い出だった。
「で、アズ。何かハルに渡すものがあるんじゃないの」
「うん、お待たせ。デーツとナッツのコラボレーション、黄色い粉砂糖をまぶして月面の海をイメージしたチョコだよ」
「――弟子がわかってきたようでハルとしても安心」
帰宅した私は、全てお見通しといった表情のハルベルトに出迎えられた。
お師様は厳しい振りをしながらもいつもの倍くらい私に甘くて、お姉ちゃんみたいに私に優しくしてくれたから、今日ばかりは我慢できずにその温もりに縋ることにした。多分私は、この日はじめて自分の限界を知ったのだと思う。
そして改めて感じたのだ。
私に必要なもの、チョコレートにとってのナッツを。




