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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第一章『デッドエンドオンライン―豹変世界―』
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(1)『DeadEndOnline』

 世界は閉ざされ、狂える支配者は高みにて待つ。

 全ての現実から目を背けて。歪んだ心から目を背けて。

 迷っている暇はない。悲嘆の声も焦燥の心も、瞳を閉じた彼女には届かない。心を閉ざした彼女には届かない。高みの果てには届かない。

 世界を救え、仲間は今此処にいる。

 [Freiheit(フライハイト)Online(オンライン)]ユーザの内、かなり多数の人数が参加を強いられただろう新たなVRMMO[DeadEnd(デッドエンド)Online(オンライン)]。

 少なくともその首謀者の一人――『最強』の称号を得ておきながら表に姿を現さなくなったベータテスター[(ハカナ)]が口にした二つの制約。

 一つ目は、(いわ)く“現実逃避(ログアウト)の禁止”。

 二つ目は“自演の輪廻デッドエンド・パラドックス”。

 デッドエンド時のペナルティとして、全ステータスの初期化(フォーマット)と同地点での蘇生処置(リカバリー)を実行する。

 蘇生処置(リカバリー)と言えば聞こえはいいが、高レベル層でライフを全損した場合、そのままレベル一で高レベルモンスターの前に放り出されることを考えれば、むしろ逆。

 考え出した奴らの人格を疑うほどに残酷だ。

 (ハカナ)やクロノスが所属しているという≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫という組織。ミッテヴェルトの第五百層にいるという話だったが、四百九十九層どころか、折り返し二百五十層にすら達していないのに五百層にプレイヤーが存在するはずはない。加えて、今回の()()()()の際のプレイヤーの強制転送、[DeadEnd(デッドエンド)Online(オンライン)]への移行のためのシステム書き換え。

 どれをとっても、プレイヤーの権限を大きく逸脱している。

 (ハカナ)と直接会ったのは、どうやら俺と刹那だけだったらしい。

 他の大多数のプレイヤーたちと同様に強制転送されたらしいリュウとシンの話では、巨大なスクリーンウィンドウから(ハカナ)の姿が消えるまで呆然と静まり返っていたプレイヤーたちは、ウィンドウが消えると同時に騒然とパニックの嵐となったという。

 ちなみにプレイヤーたちが集められたのは、視覚化された座標軸だけが浮かぶ広大な空間で、二人(いわ)く、まるでこのためにのみ作られた場所のようだったとか。

 そして直後、そのエリアと中堅クラスのプレイヤーが拠点とするラウムという街の間に道ができ、騒ぎに巻き込まれる前に二人は脱出したため、誰よりも早く合流できた。


「近い内に何かやらかすだろうとは思ってたが、まさかこの世界を根幹からぶち壊しにしてくるとはな」


 リュウがそう呟いて、ちらっと俺に視線を向けてくる。こうなってしまうと、(ハカナ)が接触してきたのを刹那とシンに話さなかったことが完全に裏目に出ている。

 四人で集まったのはトゥルム内にある≪アルカナクラウン≫の活動拠点(ギルドハウス)の二階ロビーだ。下のエントランスホールが見下ろせる開放的な空間で、これだけ大きいギルドハウスを持てるのも≪アルカナクラウン≫の力あってのものだろう。

 しかし、ここの一室を(ホーム)にしている刹那以外の三人は中まで入るのは久々だ。

 (ハカナ)が抜けてからはギルドらしい活動はしていなかったのもあるが、主な理由は(ハカナ)の痕跡から少しでも遠ざかるためだった。


(今となってはアイツのことを考えるなって方が無理だけどな……)


 (ハカナ)がやったことは現実でのテロ行為に等しい。ログインしていたユーザ全員を人質にとって≪道化の王冠(クラウン・クラウン)≫が何をする気は知らないが、プレイヤー側に与えられた選択肢は『搭攻略』しか存在しないのだ。それならアイツのことを弱点を攻略法を、とことん考え抜いてやればいい、と人知れず心に決めていた。


「今のところわかっている情報はこんなところね。あとは、この馬鹿げたゲームを終わらせるにはミッテヴェルトを攻略しなきゃいけないってこと」


 空気作りのためか、アクセサリー〈*スマートグラス〉をかけた刹那はホワイトボードをパンと叩いた。

 そこに書かれているのは現状をわかりやすく整理したもの。

 (ハカナ)という名前の下に幽霊みたいな絵が書いてあるのはご愛敬といったところだろう。こんな状況では、刹那のそんなユーモアが多少の精神的な余裕となってくれている。

 その時、パッと目の前にメッセージウィンドウが現れた。


『[スリーカーズ]さんからメッセージが届きました』


「トドロキさんからメッセージだ……」

「スリーカーズ? 何て書いてあるのよ」


 怪訝そうな表情で訊いてくる刹那に促されてそれを開くと、


『[スリーカーズ]いまどこにおるん?』


「何処にいるか訊いてきてる」


 と俺が内容を伝えると、


「何となく意図はわかるわね。早い内に合流しましょ」

「ついでに何人来るのかも聞いておけ、シイナ」


 刹那とリュウが言うままに返信を打ち込む。


『うちのギルドハウスです。何人連れてきますか?』


 それを送信すると、すぐに返信がきた。


『[スリーカーズ]俺とアンダーヒルとネアちゃんの三人や。女の子との約束忘れんのはあかんやろ。ウチが拾っとらんかったらまだあの騒ぎの中やったと思うで?』


 ――返す言葉がない。騒動が大きすぎて余裕がなかったのも確かだが、水橋さんもといネアちゃんのことは完全に忘れていた。


「例の物陰の人影(シャドウ・シャドウ)とネアちゃんを連れてくるってさ」

「あの二人は頼りになりそうだから、助かるわ。ていうか、やっぱりネアも閉じ込められたのね。まだレベル1みたいだったし、それならそれで保護しなきゃ――」


 不自然に言葉が途切れる。

 顔を上げると、刹那は下唇に鉤状に曲げた人差し指を添えて、何かを思案しているようだった。

 そして、ウィンドウを操作し始める。


「……天使(エンジェル)霊獣器(ホーリー)……光精霊(ブライトネス)か……マイナーなのばっかりね」


 呟く内容を聞いて、刹那が何を考えているのか理解できた。

 おそらく彼女が見ているのは、チュートリアルで配られる『種族総覧(しゅぞくそうらん)』だろう。ほぼ全ての種族の特性と初期ステータスが書かれた巻物(スクロール)データだ。

 [Freiheit(フライハイト)Online(オンライン)]には一般的にいう職業(ジョブ)は存在せず、その代わりに種族(レイス)システムが据えられている。

 人間種(ヒューマン)獣人族(ビースト)古民種(エルフ)竜人種(ドラゴニュート)などの一般的なものを始めとして、鳥人種(フェザード)戦鳴鳥(レイヴン)雷精霊(ボルト)雷霆精(ギガボルト)なんてのもある。他のVRMMOには到底登場しないような種族ばかりが取り揃えられていて、開発者の正気を疑うようなものまであるのだった。

 そして今刹那が言った種族は、おそらく《エンハンス・ヒーリング》の種族資質(タレント)を最初から持っているものだろう。

 特に天使種(エンジェル)系の派生種である熾天使(セラフィム)極天使(ジャッジメント)なんて種族は回復最強と呼ばれている。近接戦闘能力をほぼ持たない代わり、《エンハンス・ヒーリング》に加えて進化の度に回復魔法の詠唱を省略できるようになったり、光・神聖魔法の効果を強化できたりする種族資質(タレント)が解放され、後方から回復魔法をばらまき、強力な砲撃魔法やどかどか打ち込む後方支援(フルバック)型の回復要員。強いギルドで必須とされる種族の一つだ。


「いっそのこと≪アルカナクラウン≫の入団資格を変えて志願者を募った方が早いのかも……。あー、でもあまり大きくなりすぎても一枚板にならなくなる可能性もあるし……」


 ≪アルカナクラウン≫のリーダー、俺じゃなくて刹那の方がいいんじゃないのか、と思うほど頭が高速回転しているようだった。

 シンのお株を奪い、最も速く最も効率的なクリアまでの大まかな流れを模索しているのだろう。


「現実問題、今の前線メンバー全員を投入しても塔の攻略なんて――」

「何年かかるかわかりゃしないわ」


 間髪入れずシンの意見に同意した刹那は思案顔で足をタンタンと踏み鳴らすと、メニューウィンドウに睨み付けるような視線を送る。

 そして、おもむろに打鍵(タッチ)し始めた。


「何してるんだ?」

「シイナってホント子供みたいに何でも聞いてくるわよね。私のフレンドユーザから手を貸してくれそうなのに片っ端から声かけてんのよ。ほとんど搭の攻略に興味なかった奴ばっかりだから何人集まるかはわからないけど、何もしてないよりかはマシでしょ」

「「「え!? お前、他にフレンドいたの!?」」」

「アンタら……よっぽどレベル1まで叩き落とされたいようね……?」

「ごめんなさい。本気で怖いから静かに言うのやめてください」


 閑話休題(それはおいといて)


「それなら俺も知り合いに声をかけてみるとするか」


 リュウがソファーにドカッと腰かけ、刹那と同じようにメニューウィンドウを開く。


「じゃ僕もやるかね。タチトモばっかりだから少ないけどな」


 シンも椅子に腰掛けるとメニューウィンドウを開き、操作し始める。

 ちなみにタチトモというのは『太刀(ブレード)大刀(セイバー)魔刀(イーヴィル)などの太刀系統の武器を使うフレンドユーザ』という意味だ。


「どうした、シイナ。お前も知り合いに連絡しとけよ。攻略の手伝いができなくても物資の援助ならいいっていう奴もいるかもしれないから慎重にな」

「お、おぅ……」


 シンの現実的な意見に後押しされるように一人用のソファーを少し引き、隠すようにメニューウィンドウからフレンド一覧を呼び出す。


 ・[竜☆虎(りゅうこ)

 ・[†新丸(あらたまる)†]

 ・[スリーカーズ]

 ・[刹那]

 ・[ネア]


 ダラダラダラ……と嫌な汗が全身から噴き出してくる気がした。スクロールするまでもなく一ページ分だけでまだ余裕がある。

 連絡できるヤツがいると思うなよ? などと虚勢(?)を張ってみるものの、現実問題これは悲しすぎる。


(もしかして友達少ないのって……俺だけなのか……?)


 メニューウィンドウを()る三人が眩しくて直視できず、俺は思わず数歩下がって二階ロビーの端にある手すりにもたれかかった。

Tips:『ギルドハウス』


 ギルドの所有する活動拠点であり、基本的にはギルドメンバー全員の集合住宅の側面も持つ。ギルドであればその規模によらず例外なく、ギルドリーダーの操作一つでギルドハウスを建造することが可能。ギルドのグレード次第でギルドハウスとしての建物の規模も変化する。市街エリアの道路・広場以外の空いている土地はほぼ全て建築可能なスペースとなる。ギルドリーダーはギルドメンバーの中で二人まで施設管理者を指定でき、リーダー本人を含めた合計三名がギルドハウスのリフォーム権限を持つ。リフォーム権限には家具の設置、撤去、間取り、内装、外観等ギルドハウス内の建物に関する全ての管理権が含まれる。各部屋のリフォーム権限も本来はリフォーム権限者に帰属するが、個人のホームとして登録された部屋は部屋の主にもリフォーム権限が与えられる。

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