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続きをと考え始めると、投稿分の見直しも必要な気がし始めて……。
細々とではありますが、見直しと続きの展開、構想なんかをしていければと思います。
2/24 序盤設定部分加筆修正
MMORPG 『天上転華』の世界とは、巨大な中央大陸がメイン舞台であり、剣と魔法の在るファンタジーな世界を舞台としている。
天上世界の支配を目論む魔王の軍勢。
其の軍勢が突如地上に現われるや地上世界を蹂躙しはじめ、天上世界を目指すべく活動を始める。
その天上世界の神々は、其の侵攻を阻止すべく地上に住む者へと力を授けるべく各地の遺跡を解放した。
急遽湧き出るようにして現れ浸透し始めた魔族の数々に対応するように其の世界において技能を与える試練の間や遺跡の数々にはその場所の守護者として相応の者達が配されるようになった。
其の強さもまた重要な技能を持つ場所を優先して強いものから配置され、その場の荒廃を避けるべく今尚鎮座している。
それに対し魔族の軍勢もまた侵攻を開始しだすと同時、その技能がはいされる場所?や遺跡郡へと大挙して押し寄せ始めたのである。
試練の間に在る技能取得認証台は如何な力が働いてか、魔族の軍勢はそれを壊すにはいたれず、しかしそれを放置することも出来ないという考えからそこを根城に来訪者を出迎えるべく出来うる限りの数をその場へと住まわせ始める。
そうして。
守護者はその技能を使うに値する人物か見定めるために辿り着くことの出来た来訪者の腕を試し。
占拠することに成功した魔族の軍勢はその地に訪れる招かれざる客に牙を剥き。
天上世界の神々の力を借り受け、地上を魔族から守り抜く。
それがこのタイトルをプレイする人達に与えられた設定である。
大陸中央に在り、王都としても名高いそこは『中央都市 ミルドサレム』
その街の中、一際大きな建物の中に呆然と立ち尽くす一人の少女が居た。
面倒なことになった。
そんなことに頭を抱えても、それで現実が好い方向へ向かうはずも無く。
気がついてみたら知らない場所に居た。
いや知らないとは言っても何処か見慣れた感じのする光景の中に。
混乱する頭が情報を求め、その欲求を満たすべく足が動く。
視界に飛び込む光景に、覚えた きしかんは、ひとつのゲームのタイトルを告げる。
そんな馬鹿なと思いつつも、真っ先に探したのは銀行の施設。
長い時間を掛けて集められたそれは、ストレージ容量を埋め尽くさんばかりの武器の数々。
それを確認して、はっきりと認識した。
――― あぁ、ここは『天上転華』の世界なんだ
と。
街へと足を向けてすぐ、ふと視界の端で嘆く見覚えのある装備をした男性の姿。
自身と同じ、機動性を重視されたそれと、獣人として特徴的な獣耳が視界に映り、彼もまたこの世界へと落とされてしまった一人なのだろうか? と興味を引かれる。
呟くように繰り返されている「醒めない悪夢だ」という言葉に、成程まさにその通りだと頷いてしまった。
と同時に、悪夢などという生易しい物であるはずもない、と頭の中では叫んでいた。
現実であった、最早過去の世界になってしまったそこでの暮らしと同じように、腹も空けば喉も渇く。歩いて疲れることは無いが、睡魔は当然のごとく押し寄せてくる。
街にて見かける人も、ゲーム時代に見た服装、人姿。
聞こえる声には、音が乗り、型にはめたような定型では無くなっており、其の上表情までもが動いている。
これを悪夢の一言で受け入れる?
それは無理だと理性が叫ぶ。
どこまで再現されているのかと、最早癖とも言える程繰り返していた地図の確認動作をと視線を右上へ滑らせてみたところで、そこには広がる青空が見えるのみ。
チャット機能は、と考えるも。
パーティーチャット、ギルド、フレンドと確認しようとして、メニューの表示が何処にも無い。
普通に声が出て、それで話しをしているのだからそれも無くなってしまったのだろう。
自分は孤立無援となってしまった、という絶望が胸を締め付ける。
食事時に何気なく目に付いた右腕に嵌められている見たことの無い無骨なデザインのそれに、何とはなしに疑問を覚え、それに軽く触れてみると仄かな光を放った後、腕輪の上部に長方形のボヤケタ何かが表示された。
その光景に映画等で見たことのある近未来的な技術を思い浮かべ、そこに表示されているものを視線で追い始め―――― 戦慄した。
自身のキャラクターを示すステータス表示。
それはゲーム時代と変わることなく表示されていた、のだが。
そこに表示されていたプレイヤー名は、ゲーム世界の自身のキャラクター名である『ウサミッチ』という名前ではなく。
現実世界での自分の名前。
『高木 由香利』
という文字が刻まれていた。
それからというもの。
何かをしたいという意欲も沸かず。
もしかしたらという思いからそこを動かず過ごしていた。
そんな思いは淡い期待で終わることなく。自分への来客という報告に顔を出してみると、そこに現われた人物を見てふと首を傾げた。
私の顔を見るなり「ウサミッチ本人?」という言葉に、曖昧ながらに頷くと、安堵したように表情を緩め始める。そうして告げられた名前に覚えはあったが、はてどんな人物だったかと思い出そうとしていると
「俺だけじゃなかったのか……なぁ、この状況どう思う? てか何でこんなことになってんだ?」
弱弱しく、しかし口早に捲くし立てられ始めた疑問の数々に、私がわかる訳がないだろうとウンザリしながら判らないと答えていくと、徐々に肩を落としはしたが、それでも自分だけではないということに思い至り、幾分かは元気を取り戻しこれからどうするのか?という話題に変わり始めた。
私は、と自分はどうするか考えていたことを話す。
この人物のように、私と仲の良い友人達は、私がここにいるというのを知っているだろう。
王都ミルドサレムの銀行のすぐ隣、そこにある大きな宿の一室。
ならば下手に探しに動くよりも、自分の知り合いの誰かしらが此方の世界に来ているのなら、もしかしたら思い出してここを訪ねにくるのではないかという期待。
願わくば、と誰かの顔を思い出しそうになり、それだけは寧ろあってくれるなとその思考を振り払う。
その後二、三言葉を交わすと、誰かに出会ったら私もまた此方に来ていることを伝えておこうという言葉を残して、その人物はその場を辞した。
どうしてあの時それを制止しなかったのかと、今となっては思わざるを得ない。
それから日を置くにつれ、来客は増えていった。
予想を遥かに超えて、ではあるが。
確かに友人知人の来訪の数々には戸惑いこそしたものの。
その語られる内容には一喜一憂。
自分はどこから来て誰を見た、魔法も使用可能、其の上ダンジョンのゲートもゲームのままだとか。
この場から動いていない為に知らなかった情報を教えて貰えるというのはありがたかったものの、それ以上に面倒な話題が徐々に増えはじめていった。
「そういえば『氷槍 ブリューナク』って誰のDROPだっけ?」
「お願い! 『黒剣 エクスキュージョン』持ってたら売ってくれないっ!」
「『魔爪 ガルム』って『地下霊廟』のBOSSだっけ?」
「光属性の武器ってどんなのある?」
「よろしければデートでも」
「杖で魔力補助高い武器欲しいんだけど、何処にどんなのあるか知ってる?」
この世界に馴染み始め、何をすればいいのかを考えずに済むようにか、今まで通りのスタイルを貫こうとでもいうように、この世界で生きるための活動を始めだしたのである。
それはきっとただ塞ぎこむよりはいいのだろう、とは思う。いいのだろうけれど…。
最初のうちこそあぁそれならばと、応えることの出来る物には対処はしていたのだが。
今となってはそれがいけなかったのだと、後悔したところで後の祭り。
気がついてみると友人知人だけではなく、そこから広まった噂の力で見知らぬ人達すらも押しかけて来るようになっていた。
時折耳にした会話にも、何処かに居た人達が、同じ境遇の人が居るのではとミルドサレムへと集まってきているという話もあったため、その影響もあったのかもしれない。
それに多少孤独を紛らわせることが出来ていた当初と違い、最早災害と言ってもいいのではという程にこの状況にうんざりとし、毎日来客に怯えては気疲れを覚えていた。
最近では情報を渡す代わりに対価として目新しい情報を何か寄越せ、という噂を流しているので、その来訪を告げる足音も寂しいものになり落ち着きを見せているが。
それでも親しかった友人達は、時折顔をみせ何気ない会話をする為に訪ねてくれている。
漸く落ち着き始めた生活に開放感を覚えると同時、少し芽生える寂寥感に、どこか浅ましさを覚えつつもこれはしょうがない事だろう、と自嘲気味につぶやいた。
朝起き、部屋に備えられた洗面台で顔を洗う。
そこにけたたましく響き始めた足音が自身の部屋の前で止み、ついで荒々しいノックの音に誰が何の用で?と首を捻りつつ、来訪客を確認すると。
「大変大変! 今ね! 知の上位霊核がオークションにでてるそうなの!」
おはようと挨拶をすることもさせて貰えず詰め寄られ、浴びせかけられたその言葉にこの慌て振りはそれが理由かと、未だぼんやりしたままの思考でそれに納得していた。
急な来訪と共に強行な家宅侵入を果たした其の人物は、エルフのハーフであり現在レベル八十になったばかりの『ラピスラズリ』という、魔法を主体としている人物。
知り合った経緯は人伝という物ではあるが。
何をしたらいいかということに悩んでいた『カーリン』というキャラクター名を持つ人物に、リアル繋がりから発動される強制権力で自分の弟子扱いとし色々教えることになったその弟子の、これまたリアルの友人という、どことなく近い位置にいる人物である。
それだけでこの世界で出会えたことに涙ながらに抱きつかれたときは、自分としても何処と無く嬉しいような、何もしてあげられることがなく、悔しいような。
「それでね! 二日間でのオークション形式になってるんだけど、朝から凄い賑わいになってて!」
それは、そうだろなぁと、のんびりそんなことを思う。
知力の霊核は、DROPするモンスターが少ない上に、倒すのが難しい。
そんなレアアイテムであるだけに求める人が多い。
知力はSP上限を引き上げることもできるために、近接攻撃主体の人だとて恩恵がある。
それ故に自身が使う武器へ組み込みたいという人が多いのだから拾ったところで売る人はまずない、というような代物である。
上位を拾ってこのように簡単にトレードに出す人物となると、最上位を持っている人物か、という風なことを考えてみるも、さてこれまで会った人物にそんな者が居ただろうか? と首を捻る。
「一緒に見に行きません?! どんな人がそれを持ってきたか興味ありません?」
あぁ、それでこの来訪かと一人納得しながら考えてみるも、結局そのお誘いは辞退する。
残念そうにはしていたものの、依然興奮冷め遣らずという感じでぶんぶんと振られる手に苦笑を返しつつ、どれだけの人がその場に居るのだろうかと、数々の来訪者の顔を思い出しながら朝食を貰うべく部屋を後にした。
「おはようございます、ウサミッチ様。先程来客の方がお見えになっておられましたが」
「おはようございます。あぁ、先程部屋で会いましたよ」
「あ、いえラピスラズリ様ではなく、その他にも二名程訪ねてこられまして」
食堂にて料理を待っていると、宿の支配人さんにそんな事を告げられた。
二人も、誰だろうか? と思いつつ、今までに見かけたことの有る人物か尋ねてみると、共に初めて見る人物で、悪魔のハーフである男性が今朝早くに、純エルフの少女がつい先程、という返答。
名前は?と聞いてみると、其の両名共にまた訪れると言い残して去ったらしい。
ふむ、また中央へ辿り着いた誰かが噂でも耳にしたのだろうか? と考え込んでいる間に運ばれてきた料理に考えるのは後でいいか、と目前にある元気の素へと食指を伸ばし始める。
朝食を終え、満足気な足取りで部屋へと戻ろうとした時。
「あ、ウサミッチ様。先程お伝えした内のエルフの少女の方が見えてますが、いかがいたしましょう?」
その声に振り向いた先。
尋ね人というその少女と視線がぶつかると、まるで金縛りにでも逢ったかのように体の感覚が抜ける。
それとは対照的に顔中にぱっと満面の笑みを浮かべ、駆け出し始めたその少女は可憐そうなその体躯に似つかわしくない速度で迫り、其の勢いのままに抱きついてきた。
「やっと会えた! 久しぶり! お姉ちゃん!」
其の言葉に返すべき言葉は何故か浮かばず、それでも沸き起こり始める感情のまま、愛おしそうにその頭を撫で始めていた。
―――あぁ、あなたも来てしまってたの。
「久方ぶりです、沙丹殿。只今戻りました」
「あれま、ずいぶん久しぶりな気がするね。無事帰ってきたんだね。おかえりなさい、ティラミスさん」
「それで、旅先にてこのような物を見かけまして、どうぞお受け取りください」
「あー、わざわざありがとうねぇ。食料はほんと助かるよ」
「何の、あの時拾ってもらえなければと思えば、このくらいのこと。
それにしても…随分奇抜な玄関に成られましたねぇ」
「…うん、あんまり見ないで……ベヘ=モドっていうやんちゃな子がね、なんか暴れまわってるとか、そんな話は耳にしなかった?」
「寡聞には…その者がこれを?」
「そうなんだよねぇ、もうホント。ちょっと出かけて帰ってきたらこうなっちゃっててさ」
「ちなみに、そのベヘ=モドという者は強いのでしょうか?」
「あ、うん…まぁ、かなり強いね、ぇ? あの、ティラミスさん? 何でそのぅ、嬉しそうなんでしょうか?」
「え? いえいえ嬉しそうなどと。私の恩人たる沙丹殿の住居にこのような不始末をしでかす者がいようとは何とも許しがたい、是非手合わせ、懲らしめねばと。えぇそれだけです」
「そ、そんなことしなくていいですよ? あの、ほんとこんなのどうってことないですって!
僕が我慢すればいいだけであって! やめてそんな『クククッ』とか! 漏れてるよ笑い声!」
「おっと、これは失礼…逆に気を使わせてしまいまして。私もまだまだですね。
あ!そういえば私少々用事があるのを今急に思い出しましたそれではこの辺で失礼を」
「………」
「ただいま帰りまし…どうしましたサタン様、そんな犬みたいなお顔をなさいまして?」
「………」