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魔王が居る世界  作者: GT
1章 新しい世界
8/25

08


『もう、会わない方がいい』


 辛そうにゆがんだその表情には、後悔というより慙愧が強く見え、そんな顔にさせてしまったのが自分であると思うと、ひどく居た堪れない、と思うよりも強く、鋭く心に痛みを齎した。

 それでも、ここで泣いてはいけない、と、その感情の暴走だけは必死に押し留めなければいけないと、力いっぱいに握られた両の手に、歯を食いしばるしか出来なかった自分には、何も返事をすることができなかった。

 ただただ、頭に乗せられたその手の大きさに、懐かしい安堵を覚えると同時、それもこれで最後であると、これ以上甘えることはできないと、そう考えるだけで手に入る力はより一層と増していった。


 無視されるだろうとも思っていた。

 笑顔を浮かべて会話ができるかもとも思っていた。


 それでも、結局迎えた結末は、お互いにひどく傷つけあっただけという、予想通り過ぎた結果だった。

 しばらく続いたその沈黙に動きがあり、それがこの再開の終わりを悟らせる。

 釣られるように見上げた先、見受けられるものはすでにその後姿だけ。それに込上げてきた寂寥感は、必死に押し留めた双眸を決壊させ、一筋の道を作り始める。


『さよなら。―――――、きっと大丈夫。―――「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!刺さってる! 刺さってるから!」




―――刺さってる?


 はて、それはどんな意味だったかとぼんやり思案していると、再び悲鳴が響き、あぁそうだこれは朝の、と意識が覚醒し始める。


「ごめんなさい!! もう逃げませんから! ちょっ足! 刺さってるから! ほら血がこんなに!」


 むくりと起き上がり、ぼんやりと周囲に視線を向ける。

 先程までの光景が霞むように思考の片隅へと消え去り、あぁ、夢を見てたのかと思うと、ひさしぶりに思い出したな、と呟いた。

 億劫そうに体を起こし、このままいつまでも考え込んでいられないと顔を洗うべく井戸へと向かう。

 何でまたあんな思い出を夢にみたのかと考えつつ、そういえば昨日、久しぶりに他人と長く会話をしたからきっとその影響かもしれないと考えながらふらりふらりと歩いていた時、階段がそれまで以上の悲鳴を上げた所で意識が現実へと引き戻される。

 今日は断末魔がずいぶん続くなぁ、と思いつつも、待ち合わせに遅れないよう戻って準備をしようとそれからはきびきび部屋へと歩む。


 準備をすませ、そろそろ店を開ける時間だろうし食料でも買って置こうかと部屋を出ると、断末魔の終焉と共に206号室の玄関が開かれた。


「あら、おはようございます。…旅の準備ということは、何処かへ?」


「あ、おはようございます。そうですね、しばらく部屋を空けることになりそうです。これからその挨拶にと思ってましたので、ちょうどよかったですよ」


「それはそれは。それで、どの位になるか等の予定は?」


「そうですね、はっきりとは。昨日知り合った人と暫く行動するかもしれませんので。途中近くによる事が有ったら、という風に考えてます」


 わかりました。私から伝えておきますのでお体にお気をつけて、というお見送りの言葉に会釈を返し、街を目指して歩き始めた。


 買うものを買い終え、街の出口を目指す途中、宿の前を通りかかったところで掛けられた声に視線を移すと、昨日であった純エルフの少女が手を振っていた。

 お互いに準備が終えていることを確認し、それじゃぁ行きますか、と街の出口へと足を向けた。




「おや? どうしましたサタン様」


「ん? あぁ、山田君も行ったんだなぁ、と思ってね。僕としては、彼に結構期待してるからねぇ」


「…彼が辿り着くと?」


「可能性は高いだろうね。リヴィアも近くでみてたし、そう思ってるでしょ? さて、願わくば……」


 それに答える声は無く。見上げた視線の先には広がる青空が映るのみ。

 






「そういえば信士さんは中央に着いたらどんな予定を考えてます?」


「うん? 俺はとりあえず…街ぶらついて、プレイヤーがそれなりに居るのがわかったら…これをね」

 

 そう言いつつ取り出されたものは、手の平大の大きさで、銀色に輝く宝玉に見えるもの。


「銀色、で、その大きさって…あの、もしかして、知力の霊核の、上位ですか?」


 ごくり、と喉から手が出るのを飲み込むように、まじまじと向けられた視線に気づくことなく、得意げに頷きつつ肯定の返事を返す。


「そ、それで。ど、どのような形式で?」


「そうだなぁ、プレイヤーがそれなりに居るなら、二日のオークション形式で即決無し、かな」


 そうですか、とがっくり肩を落とし、自分にはやはり縁が無い物なのだと諦めを見せた。

 中央都市ミルドサレアと、商業都市ハルムーンには、プレイヤートレードを支援する店がある。

 装備品やレアアイテム、自作魔具などの売買を代行してくれる代わりに手数料を戴く、というシステムである。

 上限日数は二日で、販売形式も即決金額掲示か、オークション形式のどちらかを選べる。

 オークション形式の場合、開始値は1銅貨の固定と安く買い叩かれるリスクもあるものの、手数料を安く済ませることができるというメリットもある。

 即決形式の場合、手数料が一律で掲示金額の一割。オークション形式は銅貨二十枚と安いのである。

 稀に見かけることも無く且つ有用な品はオークション形式で出されることが多く、だからこそその噂が広まるとその競り合いを制すべく終了時間前には購入を賭けてプレイヤーがそこを占拠する。


「まぁ、そんな訳で俺も噂を流しつつどれくらいプレイヤーが居るか調べようかなとね。即決で直ぐに物が消えるよりも、人が集まるまで売れない形式にしようかとね。

 まぁ、稼ぎも大きいほうがいいってのが正直なとこだけど、それよりもその中に知り合いが居れば儲け、居なくてもその噂に人が集まってくれれば目的達成ってとこかな」


 はぁ、とそこまで考えているとは思って居なかっただけに、先程までの物欲しそうな視線は消えてしまっていた。

 まぁ、ほんとはあげちゃってもいいんだけど、今回はごめんね、という言葉に、ぶんぶんと首を振ると、噂を広めるの手伝います! と気合の入った元気な声を張り上げた。


「あはは、まぁそんな気負わなくてもいいよ。まぁそんな訳で俺はその間適当に時間を潰す予定だから、その時間でカーリンの尋ね人探すの手伝おっか?」


「あ、そうですね。ミルドサレムは広そうだからなぁ。お願いしてもいいですか?」


「うん、名前はなんて言う人? 有名な人?」


「えっとですね、ウサミッチという名前の「え?」…知ってます?」


「…ミルドに居て、ウサミッチ? あー、もしかしてウエポンマニアだったりする?」


「あ、はい。そうですそうです。有名なんですか?」


「あー、うん、有名、だねぇ…その上思いっきり知り合いだねぇ…」


 他には?という問いに、二、三人の名を上げてみても、聞いたことはないという返事が返ってくる。

 一応の特徴は教えておき、もしオークションを見に来ている中に其の姿があればという感じでの協力を頼み、それからまた話題が戻った。


「じゃぁ、取り合えずはウサミを探すってことで。あとはオークション二日目に様子見てからにしよっか」


 あいつが居る場所は決まってるし、という信士の言葉に、二人は同時に苦笑を浮かべた。

 

「居るとしたら、やっぱり……動いてないですよね?」


「あいつがあそこから? どっかダンジョンに行く以外はあそこしかないね」


 呆れたような声音で断定したように話すその言葉に、どこか付き合いの深さを感じ興味を覚え、好奇心のままにその疑問をぶつけてみると、言い触らすなよという呟きの後、観念したように答えてくれた。


「まぁ、不本意ながらクラスメイトだよ」


 といい、見つけたら教えるからと締めくくった。

 目前に見え始めるミルドサレムの姿を前に、少し歩調を速めるその後姿を呆然とみつめた。




 この人がお姉ちゃんの?






―ゴンゴン

「おーい大将ぅ。おーい」

―ガンガンガン

「おーい、いねぇのか? おーい!」

―メキョッ


「あ……まぁ、いいか。んー、いねぇみてぇだなぁ。どうすっかな……。まぁ、書置きでも残してくか」




「え? あれ、何で玄関壊れてんの?」

「そうですね、出かける前はまだ現役でしたね」

「うん、だよね? その表現もどうかと思うけど、そうだったよね?」

「えぇ…サタン様、これは書置き、みたいですね。……成程、サタン様、どうぞお読みください」

「ええっと、何々。

『暇になったんで適当にぶらついてくる。  By モド

 PS 玄関壊れてたぞ? 何があったんだ? もっと頑丈にしておいたほうがいいんじゃね?』

 ぶらついてくるって、暴れまわるってことだよね?」

「そうでしょうね。まぁ、良く今まで我慢できたと、褒めてもいい位だとおもいますが」

「あー……でさぁ、この壊れ方って、どう考えてもそうだよね?」

「はい。モドが強引に空けようとしたのでしょうね。帰ってきたら請求しておきましょう」

「何かね、胃が痛くなってきた……」

「大丈夫です。時期に慣れます」

「………」



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