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魔王が居る世界  作者: GT
1章 新しい世界
3/25

03


 転生すると、そのキャラクターのレベルという物は初期化される。

 そして、所持スキルもまた同じく初期化され、また一からのやり直しとなるのであるが、その初期化に関係ないのが所持品と所持資金である。

 とはいえ、手元に残る武器防具も、それに呼応した技能がなければ装備は出来ても散財するだけであるが。


 装備品には耐久度という物が設定されている。

 その数値がゼロになると、『破壊された――』となり、修復しようとすると、それに必要とされる素材を集めてこなければならない。

 そうなる前に修理に出す、という選択肢があるのだが、その疲労具合によって修理費は増減する。

 魔具も併用された装備となると、それに見合ったアイテムが更に要求され、維持するだけでかなりの苦労が強いられる。


 例えば、両手剣を例にして、両手剣技能取得済みの場合と、未修得の場合でそれを使い続けたとする。

 習得済みの場合は、五十回の使用でも疲労度が半減したとして、未修得では三十回使用した時点で壊れてしまう、くらいには差がでてしまう。

 防具は被ダメージ時に判定が掛かるため、回避時にはその影響を受けない。

 が、重鎧、軽鎧等の高防御値のあるものは、技能なしで装備すると俊敏値にマイナス補正が入るため、回避にもマイナス補正が入るのである。




 現在、山田 信士(18)のプレイヤーキャラは悪魔とのハーフであり、其のレベルも九十五と高い。

 廃人プレイヤーと呼ばれるトップ層には至らないが、其の一団を別次元と考えてみた場合は、上位に食い込むくらいにこのゲームに入れ込んでいた。

 効率重視のパーティー活動をそれなりにこなす一方で、ソロ活動を主軸に単身でのダンジョン攻略、世界探索をも数々こなして来ていた。それこそ必要と思われないクリア報酬を持つ技能取得ダンジョンであろうと、そこを単身でクリアできるかどうか、ただそれのみを旨に突貫する等、我武者羅に、貪欲にそのプレイヤースキルの練磨に明け暮れたのである。


「星の切れ目、地下遺跡ゲマニエ。お前さん、あそこがどんなところか知ってるのかい?」


 信士が告げた行き先は、転生者限定、レベル規制九十以上という特殊ダンジョンであり、人数上限が二人。

 人数規制があるダンジョンは、基本的に難易度が高い。其の上で一人限定のダンジョンよりも、ボスモンスターの強さはワンランク高い。

 今回指定した場所は、其の中でも上位に思われている場所。

 クリア報酬は、特殊ダンジョンである以上、最上位技能を取得可能な場所である。


 それだけに、目の前の情報屋の人物には一人で来た信士を『何こいつ? 馬鹿なの? 死ぬの?』的な胡乱な目つきでみている訳である。すごくウザ――失礼だと思う。

 かといってそれを回避しようにも、現状知り合いと連絡はおろか、漸くこんな説明のしようもない現状を受け入れ始めたばかりである。


 そりゃ確かにここはめんどくさいから誰か居れば保険もかねて一緒に云々とは思うものの。

 別段ソロが難しいところでもないし、でも九十以上とか結構探すのもねぇ、てよりも自分以外にもこっちに迷い込んじゃってる人いるの? 等考えてみて、結局探しようがないのだし、とりあえずあそこは金策としても優秀だから行っておきたいと考えを纏め、早く鍵を頂戴的なことを告げた。


「…まぁ、死んでもいいか。一応レベル確認をする。そこを知ってるなら九十以上なんだろ?」


 そう失礼な台詞を告げられ、信士は不機嫌なという表情を浮かべしつつも腕を差し出す。

 右手首に嵌る腕輪。これがステータス確認用の特殊魔具であるらしい。銀色の無骨なデザインであるこれが、ゲームを始めたころからの相棒であるのかと思うと、どことなく親しみすら覚えさせられる。


「確認した。キーコードも埋めておいた。此れで入場は可能だ。さて情報料をもらおうか」


 すっと示された二本の指に、あぁこれだけあればパンが一日分(食パン一斤程。安い男なのである)買えるのになと思いつつ銅貨を二枚、目の前の男に差し出した。

 目の前の男はそれを掴むと、親の敵を睨む恐ろしい目つきで信士を睨みつけ、ひぃっと情けない悲鳴を上げる目の前の哀れな男に、其の握った銅貨を渾身の力で投げつける。

 それで幾らか怒りが収まったのか、また再び指を二本立てて見せた。


 ですよねあはは、と苦笑いを浮かべつつも、そこまで怒られると思わなかったためドキドキしながら懐を漁る。

 あぁ、これだけあれば簡素な旅の宿なら七泊くらいはできるのになと思いながら銀貨を二枚、目の前の男にそっと差し出した。

 目の前の男はおもむろに立ち上がると、信士の肩をぽんぽんとたたき、不意に見詰め合った二人は、困ったように互いに微笑むと、信士の鳩尾に拳大の何かの衝撃が走った。

 渾身のストマックブローである。

 もんどりうってのたうつ信士。それを眺めつつ再度席に座りがぶりを振る男。


 なんとか平静を取り戻した信士は、じょ、冗談ですよ~等と引きつった笑顔を懸命に浮かべながら、渾身の思いで虎の子の金貨二枚を握り締める。

 これだけあれば二月はニート生活ができるのに、いやそれだけではない、もう少し食費やらを切り詰めればひょっとしたら夢の三ヶ月ニートもいけるのではと、そんな事を考えながら、其の手を前に出しては引き戻し、前に出してはと百面相を繰り広げた。

 

「……まいどあり、もうくんな」


 そんな言葉に見送られながら、重い足取りでその場を後にした信士に残されたのは、酷く空しい寂寥感と、残高銀貨五枚と銅貨八枚という、泣いてもいいくらいの現実だけだった。





 地下遺跡ゲマニエ。取得経験地もよく、其の上金策も兼ねる点を考慮して選び出された、最も此れ池荘から近いダンジョンである。

 クリア報酬である取得技能は魔術書使用技能の最上級技能開放という物であり、『魔術書こそ究極兵器』と言って使う人が極めて少ないだけに、其のダンジョンに関する情報はあまり掲示されていない。

 実際赴いた際も、この難易度で其の技能って、これじゃ誰も来ないわなと思えるほどに、ダンジョンの入り口を潜ると既に高難易度という仕様である。

 しかし、そんな入場後の高難易度地帯を抜けてみると、そこからダンジョンボスまでの間はそれほど難易度は高くない。単体レベルは高い敵が多いものの、分布密度を他の高難易度ダンジョンと比べれば薄い方である。

 ソロではやや厳しいものの、ペアで潜る分にはレベル制限的にもそこまでは難易度が高くは無い、というのが一時期足しげく通っていた信士の見解。

 そのRePOP(再出現)時間も緩めであり、入り口付近との往復を繰り返してみると、適度に休むなどをしたとしてもそれなりの効率で経験地稼ぎができることを知った。

 其の上ボス部屋付近にPOPする敵は、地道に稼ぐのに適したアイテムをDROPする。

 そんなわけでそこは信士のお気に入りの場所であり、また無くてはならない重要な場所でもあった。




 暗い路地を慣れた足取りで進む先。

 此れ池荘の門柱の手前に、何か得体の知れない物が転がっていた。

 見たことのある薄汚れたローブに包まれたそれは、打ち捨てられたようにぴくりともせず、遠めにはただの粗大ゴミにさえ見える。

 信士はそれから視線を外すと、さて明日からの準備をしよう先程見たものはきっと幻だと心の奥底に押し込み、門柱を抜けると自室を目指すべく歩を進める。


「あら? お帰りですか。お早いですね」


 そんな言葉に視線を振ると、左から聞こえた足音に体の向きを変える。

 一度視線を此方に向けたリヴィアさんは、その後周囲を探るように視線を彷徨わせる。


「ただいま帰りました。何か探し物ですか?」


「えぇ、余りに煩かったもので、この辺りに埋め―――追い出したのですが、どこへ行ったのやら…」


「あぁ、それなら門の外に捨てられてましたよ。なんでしたら運ぶの手伝いましょうか?」


「いえ、それには及びません。また埋めておきますから」


 そうですか大変ですねあははではこれで、とその場を辞した信士は、先程聞こえてしまった恐ろしい言葉をゴミ箱にぶちこみ、削除削除と脳内マウスポインタを滑らかに動かし、神速の速さでダブルクリックすると、今日もいい天気だなぁ、と晴れ渡る青空を見上げ、いつも通りの嫌な音で迎えてくれる階段を上り、自室へと足を進める。


 時折聞こえる何かを右から左に、誰も待つ者のいない自室へ帰還の言葉を告げ、其の戸の内へと姿を消した。











「ちなみに、レンタル料ってどのくらい?」

「一日で金貨二十枚だそうです」

「あきらかにぼったくりだよね? え、あれ?何これいじめ?」

「保険料もあります、まぁどれだけ暴れてもいい、ということらしいので、修理維持費込みということですね」

「あぁ、なるほ…でも高いよ…じゃぁあれは? 悪魔の軍団みたいな、良くぞここまで辿り着いた的演出に必要な軍隊もそのレンタル料に入ってるの?」

「そこは自前で準備だそうです」

「…そうか。ちなみに、今サタン軍団的な人員はどれ位いるの?」

「………」

「え? あれ、何でそこで沈黙すんの?」

「サタン様、あなたは給料も払わず人を雇えるとお考えですか?」

「えっ! そこは忠義でどうとかそんなんじゃないの?!」

「あなたの何処にそんな忠義を誓える部分があるのですか?」

「あれっ!? 魔王だよねっ! 魔族の王的な立場だよねっ!」

「え、ああ、まぁ、名前だけは? いや、でももしかしたら…」

「いやいやいやちょっとちょっと!」

「うるさいですね。もう少し静かにできませんか? あ、できませんか、では静かにさせましょう」

「はいすいません! いやもうほんと勘弁してください! 自分、生言いました! あ、ほんとやめて! やめっちょ!!」

 こうして今日もいつも通りに悲鳴が響き渡りました、まる


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