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魔王が居る世界  作者: GT
1章 新しい世界
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「成程、メインクエストか…確かに、現状では…それが一番可能性が高いか」


「俺も最初は違う路線で考えてたけど……やっぱそう思うよなぁ」


 会話の為に、料理を掃討した後もその場に居座ろうとしていたら、店の親父にぺいっと放り出されてしまい、結局は人の少ない往来を歩きながらの会話となった。

 オークションに知力の上位霊核を出している以上、二日は動けないことを伝えると、「即決を決めているなら終わらせる」と事も無げに言われ、げんなりしながら即決無しとした理由を教えた。

 

「今日これからの予定は?」


「ん、あぁ、それでさっきの話に戻るんだけどさ。メインクエに詳しい人だれか知らない?」


「ふーむ」


 信士が知っているのは終了させている10章まで。その記憶も虫食いでしかない。

 何章まであるかは知らないが、攻略サイトにて載せられていた情報には20章以降の文字は見かけなかったはず。

 移動等はクエスト会話どおりに進めればいいだけなのだが、人数指定、必要アイテムの入手、また入手場所など、足りない情報は数多くある。

 自分の知り合いにそんな人物は思い浮かばないのだが、この変人ならばと期待しての相談。


「もし詳しい人物が居たとして、それからはどう考えて?」


「できれば一緒に行動、無理なら所在確認かな。居場所が解れば聞きにいくことできるし」


「成程。一緒に行動、というのはそのもう一人も承認済み?」 


 まぁ、事後承諾になるだろうけどねといいつつも、理由を話せば納得するだろうとは思う。

 

「そうか、なら私が共に行こうではないか」


「は? リーさんメインクエなんてやってたの? え、ちなみにどこまで進めてる?」


 ふふふん、とその問いに満足気な表情を浮かべると、此方の様子を伺うようにチラ見し


「19章の後半だ!」


 と。

 どうだと言わんばかりに胸を張った後、またチラ見してきた。

 どんな暇人だよ、と突っ込みたかったけれど、それを言う前にそんな顔が気に食わず思わず手が出てしまっていた。

 綺麗に弧を描く軌道は、そのまま肝臓の有る辺りへと吸い込まれ。

 もんどりうってのたうつそれに、「ごめん、やっちゃった」

 と可愛げな表情で謝っておいた。

 復帰した途端、それならば準備しておこう、と連れ立って店を巡り歩き、日も暮れたときにはまた明日、という言葉で別れた。






 一日が過ぎ、再びトレード場へ足を運んでみると。

 そこは混沌とした一種異様な空間と化していた。

 

 溢れかえる人、殺気走る視線、絡み合う思想、探りあう目線、むせび泣く敗者、平静を装う眼鏡。

 

 その只中に足を踏み入れる勇気が沸かず、こっそり売値の上昇具合の確認に向かう。

 そこに表示された金額に、自分も彼らの仲間入りを果たしそうになった。


『知力の霊核 上位』

現在  金貨四十三枚  残り時間 22H

現最高入札者  『炭酸飲料』 様

 

 呆然とそこに表示された文字を追い、二度見、三度見して漸くそれを認識した。

 あぁ、今日はなんと爽やかな朝だろう。



 

 



 カーリンは姉の部屋にお世話になることが決まり、今後のことを話し始める。

 そこで何を思い出したのか、姉は少し待っててと言い残して部屋を出ると、再び戻ってきた時その手に見たことの無い弓を持っていた。


「これはね、純エルフ用最終兵器の一つ。『ルナ・ボウ』」


「へぇ、名前は聞いたことあるけど、どんな効果なの?」


 良くぞ聞いてくれましたとばかりに大仰に頷く姉の姿に、あ、何かスイッチ入ったと口元を引きつらせてしまう。


「純エルフ用、とはいったけれど、これは知力値が高ければ高いほど火力が上がる、という特性がある。普通の弓は力と器用値で火力が決まるだろう?其の点これは知力と器用という変わり種でね。

 純エルフの特性は知っているだろう?

 そうだ、知力と器用にボーナスが付く。だからこそこれはまさに純エルフ用といっても過言ではない。

 さて、これは誰から拾えるか―――」


 こうなっちゃうとなぁ、と苦笑しつつも、楽しそうな姉の姿に、思わず笑みがこぼれてしまう。

 それだけに、昨日出会ったばかりの時の疲れた表情を思い起こすと、やはり胸が痛くなる。

 確かにここに居れば、自分の様に『もしかしたら』と訪ねてくる人には出会えるかもしれない。

 でも。

 それでも、やっぱりあんな姿になるくらいなら、強引にでも一緒に連れ出すべきだと思ってしまう。


「--―――なわけだ。幸いにもこの効果はレベル九十以上から真価を発揮すると言われている。カーリンはもう九十を越えたのだろう? …うん? カーリン?」


「え? あっごめん! うん、九十の、今五十%だね」


「なら、今日からはこれも持っていたほうがいい。火力が知力依存と言ったが、攻撃判定はまほう攻撃ではなく物理攻撃となるからな。ゲマニエにもこれがあれば大丈夫だっただろうが…まぁ、これはなかなか見かけることがない以上、入手の面で厳しい…どうした?」


 言って、断わられたら。

 信士さんは、知り合いが居るならその人と行くのが一番いいと言っていた。でも、頼めばきっと一緒に行ってくれる気もする。

 ただ一人増えるだけ。

 それに、二人はクラスメイトだとも言っていたし。


「ねぇ、お姉ちゃん。昨日の話は覚えてるよね?」


「どの話?」


「メインクエストを進めてるって。それでね、お願いがあるんだけど」


 一緒に行こう、という言葉に。

 身動ぎする音は聞こえたものの、それ以降は静寂に包まれる。

 それから聞こえた微かな音に、姉に視線を移すと、緩く、首を左右に振っていた。


「嫌、というわけじゃないんだよ。ただ、それでも私は、ここに居なければいけない」


「誰か、を…待っているの?」


 もしかしたら、と思ってしまう。

 だけれど、返ってきた答えは、わからない、という曖昧な物だった。


「なら、さ。明日その人に会ってから考えて欲しい。それでも考えが変わらないなら、無理にとは言わないから」


 なお食い下がるように粘った私に、相変わらずだねぇ、と苦笑しつつも、それでいいならそうしようという返答に確かな一歩を感じられ、今はこれだけでいいんだ、とそれからは先程から気になっていた『ルナ・ボウ』について解りやすく教えて、と上の空で聞いていた講釈を気力で頭に叩き込み始めた。 


 それから一息ついたタイミングで。

 旅に入用なものを買い出しておこうと姉と別れる。

 さて先ずはどの店からと考え、何となく気になっていたオークションの状態を確認してみようと足を運んでみるかな、と。


「……どうしたんですか? こんなところでボーっとして」


 平静を装う眼鏡の男性の斜め後ろ。見知った姿を見かけ、其の姿が余りにも心ここに在らずな状態に呆れて声をかけてみるも、表情の抜けた其の顔が此方の姿を認めた後、ゆっくりと腕を持ち上げ何処か一点を指し示した。

 一種異様な程の人だかりではあるが、計画通りと得意顔を向けられると思っていた手前、その反応を訝しげ思いながらも、何が言いたいのかとその指し示された先へと視線を向ける。


『知力の霊核 上位』

現在  金貨五十二枚  残り時間 13H

現最高入札者  『うす塩』 様


 という文字……はぁ?! 何その五十二枚って数字!!

 あぁ、神様こんな理不尽なほどの明確な格差をつけられていいのでしょうか、いやよくないだろうぅ!

 嘆きたくなるほどの実力差、知識量を見せ付けられ、其の上富までこれほどに差をつけられては私の存在価値は只のお荷物になるのではあぁどうしようと、そんな被害妄想すら覚え始めた。


 負けてなるものか、と何に対してかはあえて考えないようにしながらその場を辞し、泣きそうになりつつも今後必要になりそうなものを探しに店を回り始めた。


 買うものを買い終え、姉の部屋へと重い足取りで戻ってみると、そこにはラピスが居た。

 感動の再開とばかりに抱き合う二人の姿に、姉は少しだけ影のある笑みを浮かべていたが、それから三人で過ごした時間は、とても楽しいものとなった。


「カーリンはあいかわらずだね。まぁ変わりなくてよかったよ」


「ラピスは、最近どうしてたの?」


「うーんとねぇ。実は固定PT組んで色々連れて行ってもらってる」


 ほー、と驚きつつも、彼女ならそれもと納得もしていた。

 私よりもゲーム知識もあるし、明るく元気、其の上私と違って人見知りしたり物怖じもしたりしない。

 こんな状況になっても知ってる姿が変わってないというのは、やっぱり嬉しいものだなと思いつつ、それなら一緒にと誘うのは遠慮したほうがいいだろうと考えた。

 

「カーリンは何時まで居るの?」


「うーん、早ければ明日には出るかも。ラピスはずっとここに居るの?」


「どうだろう、一応リーダー的な人はいるんだけど、結局は総意確認してから何処かにって感じだから」


 会えるのも次は何時になるか、とは口にせず。

 飲み込むように笑顔を作ると、それじゃぁまた、と元気良く手を振ったラピスは、別れの言葉を残してその場から消えていった。

 それに寂しさを感じつつも。


「若いわねぇ」


 等と呟く姉に。

 ご飯にしますかと言われ、曖昧な笑みを浮かべてお姉ちゃんも若いでしょと返してみるも、それに対する返答は返ってこなかった。 










「大変ですサタン様。魔王城に魔王討伐パーティーが向かっているそうです」

「そうか、それは急がないとな」

「えぇ、速やかに此方に誘導しなければ」

「早速魔王城に……あの、リヴィアさん?」

「何でしょうか? 急ぐべきだと思うのですが」

「うん、急ぎたいんだけど…ベクトルが違うというか…あの、僕が城に向かえば万事解決するんじゃないかなぁ、とか? ほら、これでも…くっ…これ、これでも! 魔王だし!」

「え? あぁそうですけど、それで魔王の居所がやっぱりあそこかって知れ渡ると、ほら、ねぇ?

 レンタル料一回金貨二十枚、移動経費、その他諸々。サタン様、所持金は?」

「現実のつらさが胸に痛い……」

「思い知りましたら急ぎましょう」

「うん、待ってね。もう少し、動けそうにない……」

「……しょうがありませんね、今回だけは魔王城をレンタル致しましょう」

「えっ!! ほんとに! ほんとにいいの!!!」

「えぇ、ですので急ぎましょう。アムには私のほうから話を通しておきます」

「ありがとう!! リヴィア大好き!! それじゃあ急ごう!」

「………(あぁ、其の言葉のなんと甘美な)……げふんげふん。えぇ、では行きましょうか」

「あれ!? リヴィアも嬉しそうだね! ふふん! 魔王の恐ろしさを知らしめに行こうではないか!」



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