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説得

作者: はな
掲載日:2026/09/12

艦隊戦は、すでに決着していた。


 宇宙空間には無数の艦艇の残骸が漂い、敗北側の艦隊で航行能力を維持している艦は、わずか数隻しかない。


「敵旗艦から通信です」


「繋げ」


 大型モニターに、敵艦の通信司令官が映った。


『こちら連合艦隊。貴艦隊は完全に包囲されている。これ以上の戦闘は無意味だ。降伏せよ』


「……断る」


『なぜだ?』


「我々には、まだ戦う理由がある」


『理由?』


「我々は、この国を守る」


 敵司令官は静かに頷いた。


『分かった。ならば、最後まで戦おう』


 しばらく沈黙が続いた。


「……ところで」


『何だ?』


「卿は目玉焼きには何をかける?」


『……何?』


「目玉焼きだ」


『聞こえている。なぜ今、その話をする?』


「重要な問題だからだ」


『戦争よりもか?』


「場合によっては」


 敵司令官は額を押さえた。


『……醤油だ』


「醤油?」


『そうだ』


「卿は醤油派なのか」


『そうだ。それがどうした』


「我々は塩だ」


『……そうか』


「我々は、目玉焼きに醤油をかけるなど考えられない」


『こちらも、塩をかける意味が分からん』


「素材の味を引き立てる」


『醤油の方がご飯に合う』


「朝食だからご飯に合う必要はない」


『朝食ならご飯だろう』


「パンの可能性もある」


『……』


 敵司令官の顔から、先ほどまでの緊張感が消えていた。


『卿は、目玉焼きをどの程度焼く?』


「半熟だ」


『……私もだ』


「だが、黄身には触れない」


『当然だ』


「白身の端は少し焦がす」


『それも当然だ』


「フライパンに蓋はするか?」


『……しない』


「我々はする」


『そこは譲れないな』


 通信室の兵士たちは、誰一人として口を挟めなかった。


 艦隊戦の最中である。


 敵味方合わせて何万人もの命が失われている。


 なのに、二人の司令官は目玉焼きについて真剣に議論している。


『……卿』


「何だ?」


『我々は、なぜ戦っているのだろうな』


「分からない」


『私もだ』


 モニターの向こうで、敵司令官が苦笑した。


『だが、目玉焼きの焼き方については、我々は決して譲れないらしい』


「そうだな」


 そのとき、通信室に報告が入った。


「敵艦隊、最終攻撃態勢に入りました!」


 司令官は目を閉じた。


「……そうか」


 そして、敵司令官に向き直った。


「我々の敗北だ」


『降伏するか?』


「いや」


 司令官は机の引き出しから拳銃を取り出した。


『待て!』


「我々は負けた」


『ならば降伏しろ! もう戦う必要はない!』


「いや。私は、最後まで責任を取る」


 拳銃をこめかみに当てる。


『やめろ!』


「……卿」


『何だ!』


「最後に一つだけ聞きたい」


『何だ?』


「目玉焼きにソースをかける人間を、どう思う?」


『……』


 敵司令官は絶句した。


「答えてくれ」


『……許せない』


「そうか」


 司令官は満足そうに微笑んだ。


「我々は、最後まで同じだったな」


 銃声。


 通信画面の向こうで、敵司令官はしばらく動かなかった。


 やがて、小さく呟いた。


「……ちなみに私は、半熟ではなく固焼き派だ」

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