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プロローグ「一匹狼」


────ポタ、ポタ

 

 どこか、酷く無機質で、それでいて致命的な何かが流れ落ちる音が聞こえた。

 耳朶を打つその音がいったい何の終わりを告げる雨だったのか、当時の幼い自分には分からなかった。

 

 もしも、それが何だったのかを理解していれば。

 歪なほどに尖った知性を持つ今の自分であれば、きっと何かしらの行動を、否──起こすべき行動など、その時点で決まっていたのだから、迷わずそれを選択していただろう。

 

 だが、分からなかった。当時の浅はかな自分には、それだけのことがどうしても分からなかったのだ。

 その幼い容姿に見合った、あまりにも乏しく、あまりにも無力な理解力では、目の前の凄惨な現実を噛み砕くことすらゆるされなかった。

 

 だからといって、「もっと早く産まれたかった」などという、吐き気を催すほどに愚かな恨み言を、運命に吐き散らすつもりなどないが。

 

 とにかく分からなかった。

 理解が追いつかず、思考が灰になり、指先一つ動かすことすら忘れ果てて。

 

 だから、ただ呆然と見つめるしかなかったのだ。


 

 ──暗闇に佇む美しくも儚い、孤独な黒狼を。




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