お帰りなさいと言いたくて
初投稿になります。
ノリコがまた来る日まで‘カフェノリコ’をこの王都の城下町で続けてくれ、ノリコが帰ってきたらすぐにわかる場所で続けてくれ…
じいちゃんはそう言って1年前に夜空の星の1つになった。
ノリコさんというのはじいちゃんとばあちゃんにとって大切な友人で異世界人らしい。ノリコさんはある日突然王城の厨房近くの裏庭に現れ王家に保護され、一時期は王城内の客室に住んでいたという。
当時じいちゃんは王城の厨房で見習いとして勤めていて、たまたま厨房見学に来たノリコさんともっと美味しい料理が食べたい・作ってみたいと意気投合し、ノリコさんに教えてもらった様々なレシピやちょっとした技を知るうちに、いつかは自分の店を持ちたいとこれまで以上に仕事にも熱が入るようになり、特にパンの焼き加減が絶妙で上手いと料理長にも仕事を任せられるようになった。ノリコさんに教えてもらったレシピの中でも、今も揚げパンはカフェノリコの一番人気だ。
ばあちゃんはなんと当時の第3王子の婚約者だったのだがありもしない罪を着せられ、婚約破棄からの身分剥奪、公爵令嬢から平民に落とされたのだという。後に第3王子のやらかしと新たに婚約者となった浮気相手の子爵家令嬢の虚言や子爵家と裏組織とのつながりやらが露呈したのだが、その時にたくさん助けてくれたのがノリコさん。生きる気力も失って身も心もボロボロ状態のばあちゃんを引き連れて、『心に優しくて美味しいご飯を作りなさい』とじいちゃんの住んでいた寮の部屋に突撃したノリコさん。じいちゃんはこの時ばあちゃんに一目惚れをしたらしい。
王家は信用できないからと自身も王城を出て街で暮らすと決め、公爵家で軟禁状態だったばあちゃんに一緒に暮らすことを提案、ついでにじいちゃんを料理人兼雑用係として引き抜き、ばあちゃんの実家の公爵家が密かに渡してくれた金貨で王都の端に住宅を借り、3人で屋台でパンを売りながら2年程一緒に暮らしたそうだ。
ノリコさんとじいちゃんはその2年の間に第3王子と浮気相手のことを調べあげ、ノリコさんのそのコミュニケーション能力の高さから知り合った信頼出来ると判断した記者に情報をリークした。市民は王家不審を募らせ、やっとここで皇帝陛下が重い腰を上げた。調べれば調べるほどに嫌になる息子と新たな婚約者のあれやこれや、叩けば出てくる埃のようだった。
ばあちゃんは冤罪だったと王家が謝罪をし身分を回復したのだが、その時にはもうじいちゃんが好きになってしまっていたから、公爵家には戻らずにこのままの生活を選んだ。だが、公爵家が平民のじいちゃんとの結婚に猛反対。しかしここでもノリコさんが大活躍。
王都の端から公爵家のタウンハウスに程近い一等地の城下町に店舗兼住宅に引っ越す、ノリコさんが公爵家に向こうの世界のことを話したり、異世界に興味津々の公爵家お抱えの術師の研究や実験に付き合う等々条件はあったものの、じいちゃんとばあちゃんは結婚できたのだという。
「ノリコの話術っていうのかしら、交渉術はすごいのよ!どうやってお父様を落としたんだかわからないんだもの!しかも仲良くなっていたし…
明るくて好奇心旺盛で正義感が強くて、人の縁を繋ぐのも上手で…本当に不思議な人なのよ、ノリコは」
♢
じいちゃんとばあちゃんの結婚が決まってから、ノリコさんは裏通りの路地を抜けた先の集合住宅で暮らし始めた。この部屋も未だ公爵家が借り上げ、たまに遠方に住むじいちゃんの親戚が王都に来たときに貸している。ばあちゃんも月に数度ここへ来ている。
ある日ノリコさんは興奮気味にこう言ったという。
「術師のアルさんがニホンとこの国を行き来できる術がついに完成したって!だからね、私ちょっと明日から1ヶ月くらい里帰りしてくるわ!お土産期待してて!」
翌日、いつも以上に明るい笑顔で『行ってきます』と手を大きく振ったノリコさんに、二人も笑顔で『行ってらっしゃい、気をつけてね』と、また絶対にここに帰ってくると信じ手を振り返した。
あの日から30年過ぎた今も、ノリコさんが住んでいた部屋のリビングにある薄手のラグマットの下には魔法陣が描かれている。
魔法陣を考えたアルさんも嬉々としてノリコさんと共にニホンという所に行ってしまった。また、詳しい仕組みと論文は無事に戻ってからと弟子たちに伝えていた為に誰もがどうしたらいいのかわからない。ただ魔法陣が薄れないように守ることしか出来ない。
本当にノリコさんの生まれ育った国へ行けたのか、他の国や世界に行ってしまったのか…
生きているのか、夜空の星になってしまったのか…
僕もいつかノリコさんに会えるだろうか。じいちゃんとばあちゃんを出会わせてくれたお礼を言わなくちゃいけないし、日本がどんな所なのか聞きたいし、僕が考えた新作のパンも食べてもらいたい。会えたら毎日が今よりももっと楽しくなる予感がする。
♢
今日はばあちゃんと新商品のクッキー生地を使ったパンを持ってノリコさんの部屋に来た。
僕は3人分のお茶を入れ、ばあちゃんからノリコさんとの思い出話を聞く。
ばあちゃんは寂しげに笑いながら僕に言った。
「ノリコが帰ってきた時、笑顔でおかえりなさいって言えるかしら、泣いて何も言えないかもしれないわ。
それよりも…おじいちゃんに会うのとノリコに会うの、どちらが先になるかしら」
窓の外が夕焼けに染まり始めた頃、ばあちゃんと僕は『また来るね』とラグマットの下の魔法陣に向かって声をかけ部屋を出た。
扉が閉まる一瞬…魔法陣が淡く光を放った気がした。
end
お読みいただきありがとうございました( ´ ▽ ` )




