第7話 魔王、初めてのお姫様抱っこ
昼休みが終わる頃、教室内にざわめきが走った。
「ユウト!? 大丈夫か!?」
ふと見ると、照人の隣に座っていた親友・ユウトが、机に突っ伏していた。
「う、うお……目の前チカチカする……立ちくらみってこういうこと……?」
「ま、まじか!? 誰か、保健室行くか!?」
その時――スッと、ある影が立ち上がった。
「我に任せるがよい」
東雲いの。正確には、その身体を借りた魔王・ヴェルネスだ。
彼女は何のためらいもなく、ユウトの椅子の横にしゃがみ込んだかと思うと――
「はわっ!? ちょ、ちょっと!?」
――そのまま、お姫様抱っこ。
ふわり、と軽やかに持ち上げられたユウトの顔が、いのの胸元にずぶっと埋まり――
「ふわっ……ふわふわ……あれ……天国……?」
放心顔で呟くユウトの頬が、ほんのり桜色に染まっていた。
周囲からは悲鳴とどよめきが入り交じったような空気が流れる。
「い、いのちゃん、力持ち!?」「マジ!?軽々いったぞ!?」「……あれ、男前……?」
教室の窓から差し込む春の日差しの中――
ヴェルネスは、まるで姫を救う騎士のような顔で言い放った。
「こやつを癒やすのが、今の我の使命じゃ。
……照人、治癒のための場所は案内せい」
「……いや俺もパニックなんだけど!?」
こうしてユウトは、文字通り“胸を借りて”、保健室へ搬送されたのだった。
ーー
保健室の窓から差し込む光は、やけに柔らかかった。
ユウトはベッドの上で、目をしばたたかせながら目覚めた。
「……ん、ここ……は……?」
視界がぼやける。
だが、目の前には――
ふんわりと微笑む、東雲いのの姿があった。
「おお、目覚めたか。よきことじゃ」
――なぜか、やたら尊い声で話しかけてくる。
ユウトの脳裏に、さっきの出来事が蘇る。
ふわふわの感触。
ふんわり香るシャンプーの匂い。
お姫様抱っこ……。
(……あれ、夢じゃなかった……)
そして今、隣の椅子に腰かける彼女が、そっと額に手を当ててくれる。
「熱は……少しあるな。無理はするでないぞ、戦士よ」
「せ、戦士!?」
謎ワードが飛び出したが、それすらも美しさにかき消された。
(かわいい……なんか、変なこと言ってるけど……それもまた、いい……)
ユウトは頬を赤くしながら、喉を鳴らす。
「お、俺……その……助けてもらって……ありがとう、いのちゃん」
すると、いのは、にこりと笑って――
「ふふっ。お礼など要らぬ。……我の民を守るのは、当然のことじゃからな」
「やっぱちょっと変だけど、やば……まじ可愛い……」
照人が聞いたら全力で止めに来るだろうが――
ユウトの中で何かが確実に芽生えた瞬間だった。
(……俺、推すわ。いのちゃん、命に代えても推す)
その日の夕方、ユウトは速攻で「@いの様非公式応援アカウント」を開設。
**『#女神降臨 #今日のいの様語録』**がついた謎ポエムがSNSを賑わせるのは、もう少し後の話である――。




