第5話 魔王初登校
桜がふわりと舞い散る朝。
制服のブレザーを羽織った俺―― 東雲照人 ――は、校門をくぐる直前で足を止めた。
(…なんでだろう。胸の奥が妙にざわついてる)
幼稚舎から通ってきたこの学園。
いつもの登校路なのに、なぜか今日だけ“異質”感がする。
それは――昨日の朝、姉の身体を借りた“魔王”からの宣言が、俺の中でリピート再生されていたからだ。
「お主と同じクラスになっておる。運命かな……ふふっ」
(同じクラスって、ちょ、無理!!)
トーストを食べながら心のツッコミが止まらなかった。
「おーい、照人ー! おはよう〜!って、おい!顔色暗いぞ? 腹でも痛いのか?」
背後から、親友の 高見沢ユウト が手を振って駆けてきた。
「いや…腹じゃない。なんか胃じゃなくて“心”が冷えてる」
「心が冷えるって何だよ! 昨日の夕飯が腐ってたんじゃねぇか?」
「いや、そうじゃないんだけど。まあ、がんばろ。」
そんな会話を片手に、俺は校庭を進む。
桜吹雪が足元に散り、春らしい景色だというのに、俺の心はさざ波立っていた。
高等部の掲示板で新しいクラスを確認した。
俺たちは2人とも同じクラスで、1年C組だった。
もう一度掲示板で名簿を確認した時、俺の視線は固まった。
「1年C組 東雲いの」
(姉ちゃん…姉ちゃんの名前だ……)
やっぱり、同じクラスだ。
その事実が、胸の奥で重く揺れる。
ドアを押すと、教室には“幼稚舎から知っている顔”でいっぱいだった。
だけど、俺の心はロックモードだった。
「姉ちゃん、どこにいるんだろ?」
ざわめきの中で、俺だけが内心冷や汗をかいていた。
「失礼するぞ、民たちよ!」
声が響いた瞬間、教室の時間が一瞬止まった。
姿を現したのは――黒髪ロング、赤いリボン、短めスカートで脚を強調している美少女。
制服を完璧に着こなした“東雲いの”――だけどその中身は、魔王ヴェルネス。
「え、誰この美少女…?」
「制服似合いすぎじゃね?」
「あのバズってる動画の子に似てる気がする?」
そんな囁きが波のように広がる。
彼女は静かに歩き、俺の隣の席へ座った。
「照人よ、席はこちらじゃな。運命かな……ふふっ」
その囁きに、胸が真っ赤になった。
「うるせぇ! 運命とか言うな!」
俺の出遅れツッコミは、小さくて響かなかった。
担任――宇佐美先生がマイクを構えた。
「では、次に幼稚舎からのメンバーも多いけど、一応、自己紹介を行います。皆さん気になってると思うから、東雲いのさんからどうぞ」
彼女は立ち上がり、クラスを見渡して軽くニコリと笑った。
赤リボンが揺れ、スカート裾が脚をなぞるように揺れた。
「はい、東雲いのです♪
去年、高等部に上がった直後、ちょっと休んでしまいました。
なので、今年からまた1年生として“出直し”です。
照人は実は弟です♡ どうぞよろしくね♡」
と、自己紹介した後に――片目を閉じて“ウィンク”した。
その瞬間、教室中が“わっ”と息を飲んだ。
「照人の姉ちゃん!?」「ウィンクドキドキした!?」「綺麗~」「美人すぎ!反則でしょ!」
次々と声が飛び、教室がざわついた。
「照人、お前の姉ちゃん、レベチだな。芸能人みたいだな」
ユウトが小声で囁いた。
「うん…ははは…そうかも?」
俺は椅子をぎゅっと掴んで、息を整えた。
自己紹介が終わると、彼女は席に座ってスマホを取り出した。
画面が浮かび上がる。
「再生回数:12,345,678,900回」
“歌って踊る黒髪美少女”動画。
(すごい再生回数だな、すげぇ…)
俺は内心で呻いた。
その後、先生が次の生徒を指名し、教室は再び日常の雰囲気を取り戻し始めた。
でも――俺だけが、心の中で“非日常”を抱えていた。
「魔王と1年同じクラス…どうすりゃいいんだ?」
隣の“いの”は制服を整えながら、にこりと笑った。
「大丈夫じゃ、照人。何も心配いらないのじゃ♡」
その一言が、まるで新しい世界の開演ベルのように鳴った。




