第1話 踊り場の怪人
4月16日の放課後、僕土屋莉汰は息を切らしながらある所へ向かっていた。それはミステリー研究部の部室だった。
僕は運動不足を痛感させられた、というのも中学の3年間を引きこもって過ごしたのでろくに運動はせずに大好きなミステリー小説を読みふけっていた。そして地元から遠く離れたここ七星高校に入学したのだ。3年間で伸びきった髪は切り短髪にし、人生で初めて髪を茶色に染めた。
さて僕の話はもういいだろう。今度は七星高校略して、星高について話そうか。周りを市街地に囲まれ、すぐ近くにはショッピングモールがありなかなか栄えている所だとは思う。そんな星高は敷地の6割を新校舎、他を体育館と旧校舎が占める。今僕が向かってるのは旧校舎で放課後になると人が少しずつ増えてきたようだ。
「ここかな……」
旧校舎の1階部分、さらに奥の部屋だ。
「あれ!?」
しかしドアには[探偵部]と張り紙がしてあった。おかしいな部活動一覧のパンフレットにはここなのに…。僕はとりあえずドアをノックしてみた。
「どうぞ」
女の人の声だ。仕方ない入ってみるか…
「やあいらっしゃい、探偵部に依頼かな?それとも入部希望?」
どうやら中央の机に声の主が座っているようだ。しかし逆光で顔がよく見えない。
「あの…ここってミステリー研究部じゃないんですか?」
「はは!ミス研は去年の秋に廃部になった。そして代わりに私が探偵部を設立したんだ」
なんてこった、じゃあこのパンフレットは直されてないのか。
「かなりガックリしてるみたいだが大丈夫かい?」
「ええ…ミステリー研究部に入ろうと思っていたので」
女の人はニコッと笑った。
「私は神宮司華凛、2年4組だ。これでも星高きっての名探偵でね」
自分も自己紹介する。
「1年1組の土屋莉汰です。他の部員の方は…」
「残念ながら私1人でね。そうだ、リタ君!探偵部に入らないかい?」
僕には夢がある。ミステリー小説作家になることだ。この出会いが夢につながるなら…
「見学からでもいいですか?」
「もちろんだ!」
先輩はパンと手を叩くと立ち上がった。
「今受け付けている依頼があるんだが手伝ってくれるかい?」
「ええ!?見学だけじゃ…」
「まあまあ」
そういって先輩は机から[捜査ファイル]と書かれているバインダーを出した。
「リタ君は踊り場の怪人の噂を聞いたことがないかね?」
「はい、クラスの女子が話していました。旧校舎の1階と2階の踊り場に現れる怪人…それも決まって夕方4時に出るそうですね」
「流石だね。君なら優秀な助手になれるよ。君は怪人が具体的に何をするか分かるかかい?」
「いえ、それは分からないですね」
先輩はバインダーを見ながら喋る。
「奇声をあげる、廊下から部活動をしている教室の中をのぞく等だ。ちなみに怪人をみた者がいうには白塗りの仮面で背は高く、痩せている。」
「それは・・・トラウマになりますね」
「だからこそ、その怪人を捕まえないといけないのだよ」
それから僕たちは怪人の侵入経路、逃走経路を推測し対怪人の準備をした。
「決行日は明日だよ、リタ君」
翌日の放課後、僕と先輩で計画を練り終わったところで、夕方4時のチャイムが鳴る。
「じゃあリタ君囮役よろしく♪」
先輩は微笑みながら僕を送り出す。
僕は2階の空き教室に入り作業をする振りをし、怪人を待った。怪人が出没すれば先輩が犯人を捕まえてくれるはずだ。
「ん・・・?待てよ、先輩ひとりにしていいのかな」
そして4時24分。視線を感じる・・・気がする。勇気を出して振り返るとそこには、白塗りの仮面をつけた男が立っていた。悲鳴をだすのを押しこらえて先輩にスマホで連絡する。怪人はそれを察知すると外階段に逃走しようとしたのだがそれは失敗に終わった。見ると外階段のすぐ横の空き教室から体格のいい男子生徒が怪人の首根っこをつかんでいた。そしてその脇から先輩が顔をだした。
「リタ君よく頑張ったね」
「先輩・・その人は・・・?」
「ああ3年柔道部の倉石くんだよ。密かに助っ人を頼んだんだ」
すると山のような巨体が僕たちのほうを向いた。
「2人とも話はいいがこの男はどうする?」
「もちろん警察に通報しますよ。」
そういうと神宮司先輩はスマホを取り出し通報した。
「さて警察が来る前に君にいろいろ聞きたいことがある。リタ君私が渡したメモ帳を」
「は、はい!」
先輩は空き教室の椅子に怪人を座らせ、倉石先輩が怪人の後ろにいる。その間も怪人はおとなしく倉石先輩に捕まえられている。
「さて、怪人。君の名前は?」
「・・・・・・」
怪人は答えない。
「犯行動機は?」
「この学校に恨みがあんだよ。センコーの野郎、俺を退学させやがって」
「何があったんだい?」
「俺の服装がどーたら、態度がこーたら。ウザいんだよ!」
「なるほど、君みたいな一般的不良生徒は窓を割ると思ってたが案外スケールが小さいな」
「それドラマの中の話じゃないんですか」
僕があきれて突っ込む。
「その仮面は?」
「フン、そこらへんの雑貨屋で買ったやつだ」
先輩のスマホが鳴り、電話に出る。
「はい、今正面入り口に向かいます。」
電話を切り僕たちの方に向く。
「迎えがきたようだよ」
僕たちは新校舎の正面入り口に向かう。怪人は倉石先輩がすぐ後ろにつき見張っている。
「神宮司さんこれは一体何事ですか!」
旧校舎を出て正面入り口へ歩いていると教頭先生が近づいてきた。
「最近噂になっている怪人ですよ。私達で捕まえました」
「はぁ、またですか」
教頭先生がため息をつく。またって事は前にもあったのかな。
「三人ともケガはありませんか。」
僕たちは首を振る。するとダスターコートを着た大柄な刑事さんがやってきた。
「押切刑事」
「お嬢、署長からムリはしないようにと注意されていたじゃないですか」
署長?神宮司先輩と何か関係あるのかな。気になったので先輩に聞いてみる。
「先輩、警察の署長と何か関係あるんですか?刑事さんにもお嬢って呼ばれてましたし」
「ああ、署長は私の父だよ」
僕が驚いていると、それを尻目に神宮司先輩は刑事さんに事のあらましを伝えていた。倉石先輩は驚きながら犯人を警察に引き渡す。
「今回の件は署長にも報告させてもらいますからね。でもお嬢は止まらないんでしょうけど」
「よく分かってるじゃないですか」
その後倉石先輩に2人でお礼を言い、僕たちは部室に戻ってきた。
「たった数時間だけど懐かしい感じがするね」
「そうですね」
僕は相槌をうちながら[捜査ファイル]に今回の事件を収める。その際にファイルをひとつ落としてしまった。拾おうとすると
「生徒が行方不明・・・神隠し?クラブ中にいなくなる?」
右上には未解決のスタンプがあった。気になるがもうすぐ校門が閉まる。神宮司先輩はすでに準備を済ませていた。
「さ、早くいこうリタ君」
「は、はい!」
帰り際に先輩が話しかけてきた。
「リタ君、今日はどうだった?」
「怖かったけど探偵みたいで楽しかったです」
「みたいじゃなくて探偵だよ私は」
先輩がほおを膨らませる。僕はその様子がおかしくて笑ってしまった。
「正式入部するかい?」
僕は少し迷ったが肯定した。何より神宮司先輩みたいな名探偵の助手として活動できるが嬉しくおもった。
「はい!お願いします!」
より一層濃くなった夕陽が僕たちを照らしていく
END
読み返すとかなり稚拙な文です。恥ずかしい・・・