表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第2話 ヤマト橿原の決戦

イッセ、イワレビコ兄弟の目指す地、ヤマト国は強大な力を持つナガスネヒコとうい名の王が納めていた。

「大王様 ナガスネヒコ大王様! いよいよ南のものどもが近づいてきました。」

「一体何者たちじゃ」

「はい、イズモ国よりの使者によりますと、太陽の神“アマテラス“よりこの地全てを司るようにと地上に下ろされた一族だそうです」

「何を言う! 我こそ 天よりこの地を与えられた一族ぞ! ニギハヤヒの神よ これはどう言う事じゃ!」 

怒りで黒緑色になった恐ろしい顔でニギハヤヒ神が鎮座する宮を睨んだ。 

ヤマト国の神ニギハヤヒ。 ナガスネヒコの妹を妻として、3人の子供をもうけている。この神様、アマテラスの名前が出てきてからと言うもの、どうも顔色が悪い。

「うーん・・・まさか、アマテラスの送ったニニギの子孫が今更この地に出てくるとは思わなんだわ」 

はるか昔にアマテラスの神より、この地で我が子孫を向かい入れよ!と言われていたのにナガスネヒコの妹に目が眩み、嫁にもらい、その代わりにナガスネヒコをヤマト国の王にしてしまった。更に始末の悪いことにナガスネヒコの武勇と兵の強さは、この地では抜きん出ている。神々の手助けがなければ打ち勝つことは無理だろう。

「仕方ない・・様子見とするか」と独り勝手に納得し、静観と決め込んだ。


 ヤマトの国に軍鐘いくさかねが鳴り響く。

ナガスネヒコの兵は装備も最新鋭である。高価で高いつげ材で作られた防具。

弓矢の矢じりは当時最新鋭の鉄が使われていた。

ヤマトの各地より集まったおとこたちに、その最新鋭の武具が渡された。

「皆の者! 遥か南の地よりわが地を脅かすやからがこの地に攻めてくる。その輩どもは、恐れ多くも神アマテラスの血統と吠えている。だまされるな!この地を授かりしは我ナガスネヒコなり! 皆よ! 胆駒山いこまやまに陣取り、矢を射かける!

おー! おー! ガシャン! ガシャン! 甲冑に鉾を打ち付ける音が鳴り響き兵たちは出立した。


 河内の白肩津しらかたのつの岸辺にたどり着いたイッセとイワレビコの軍隊。

「イッセ大王様! 先に上陸しましたイワレビコ様より伝令です。岸辺には敵はなし 遥かに見える山々までは進めそうだとの報告です」

「よし、上陸!」

沢山の鐘を鳴り響かせながら、イッセの兵たちが先を争うように上陸していく。

「大王様! すべての兵が上陸しました」

そこに先発していたイワレビコが戻ってきた。

「兄上! まったく敵はいません。これは我らがアマテラスの子孫と知って怖気ずいたのでしょうか? あははははは・・・・・」

「これ、調子に乗るな。まだ始まったばかりじゃぞ」

と言いつつも、イッセ(大王)もこのまま新天地へと大きな戦いもなく進めるような気がしてしまっていた。

「皆よ! あの山々を超えれば大きな平らな地へと出る。その地こそ天の神々が我らに与えた地。出立!」

おおよそ3万の軍勢が山のすそ野に向かって進んでいく。

イッセの兵がほぼすべてが山の裾野にたどり着いたとき、突風が吹いた。風は山に沿うように登っていき空を覆ていた雲が二つに分かれ、眩しいほどの太陽が顔を出した。

「おお! 太陽はわがアマテラスの象徴。我らを照らしてくれているぞ」

イッセ(大王)はこの先に始まる悪夢のような戦いの場に突き進んだ。



 イッセ(大王)の兵が山裾から続く道に向かって進軍を始めた。その時山がグオッと膨らんだ様に見えた。しかし太陽の光があまりに眩しくイッセやその兵たちには何が起きたのかよくわからない。

「一体何事だ!」とイッセが叫ぶと同時に周りの兵がバタバタと倒れ出した。

凄まじい数の矢が襲ってきた。 

「伏せろー 伏せろー!」イッセもイワレビコも叫ぶのだが、山裾に広がっている兵たちには隠れる木々も岩も少ない。 

「大王ー!」と叫びながら兵たちが大王の前に飛び出して矢から大王を守った。

「退却ー 退却ー」 

兵たちがイッセ(大王)とイワレビコを囲むように守り、矢が届かぬ場所まで移動した。

やっとイッセも兵達も一息ついたかと思えた瞬間、海岸横に広がる雑木林よりまたもや大量の矢が飛んできた。 

「船へー 船に乗れ!」パニック状態に陥った兵達は、我先にと船へと逃げ出していく。

「大王様ー 早くこちらへ」守りの兵に促され船に乗り込もうとした時、左腕に激痛が走った。


 パニックになりながらもどうにか矢が届かぬところまで逃げることができたイワレビコは、周りの船の数を数えた。おおよそ半数に減っていた。 傷を追いながらもどうにか船に逃げることができた兵達も矢に毒でも塗ってあったのか(もがきながら息絶えていった。兄(大王)は大丈夫だろうかと船上から見回すと一つの船から大王の旗印が上がった。

「あーご無事でよかった。大王の船に近づけよ」と指示を出した。 


「兄上!」 

そこには瀕死の状態で大王が船底に横たわっている。矢の毒で顔がどす黒くなっている。

「イワレビコよ。我らは太陽神の子孫であるのに太陽に向かって戦をしてしまった。良いか

太陽を背に戦うのだ」

「兄上! 私には無理です」イワレビコは泣きながら首を振るのだが、

「イワレビコ アマテラスの大神は我らの元にあ・・・・・る」

「兄上ー!」 

イッセ(大王)が死んだ。 兵達が皆泣き叫んでいる。


イワレビコと残った兵達は、しばらく船上で揺られた。

「イワレビコ様! イワレビコ様がこうも弱気では兵達が逃げてしまいます。行くのか・・・それとも帰るのか・・ご決断を!」

イワレビコはその声に促されるように周りの兵達を見回した。誰もが傷つき大王の死を悲しんでいる。

どうする・・・どうする・・・・

その時、イワレビコの耳に確かに聞こえた。天の声。

“イワレビコよ! そなたの一族は3代にわたり私との約束を違いてきた。しかしイッセの死で全てを流そう。 イワレビコよ 勃て! 今立ち上がれば天の力を授けようぞ“

イワレビコはその声にうながされるように立ち上がった。すると曇天より一筋の光がイワレビコを照らした。それを見た兵達は一斉に声をあげた「新しい大王の誕生だ!」と

「イワレビコ大王 お下知を!」

「お下知を!  お下知を!」 

イワレビコは兵達の心の力を強く感じた。

「皆よ! アマテラスの大神より声が届いた。天の力は我らに授けられた。今こそ天命を果たそうぞ」

イッセの死から立ち直ったイワレビコとその兵達は帆先を半島の先に向け突き進んだ。


「ニギハヤヒの神よ!アマテラスの子孫と戯言を言う偽りの軍を追い散らしましたぞ。これでどちらが天神の子孫かわかりましたな・・・・ニギハヤヒの神、なぜ出てきてくださらぬ、返事をもいただけぬのか・・・・・」


“なぜアマテラスの神はニニギの軍を助けなかったのじゃ・・・・・・これはもしやすると神の気持ちが変わったのかもしれんの・・・・いやいや・・・もう少し様子を見よう・・・・天の神たちは気まぐれじゃからの・・・“


 「ふん! お言葉をいただけぬか」

ナガスネヒコはおやしろに礼もせずに立ち去った。

「大王様ー!」

「なんじゃ、慌てふためいて」

「はい、逃げていったニニギの兵達ですが、遠く岬まで迂回して上陸した模様です」

「何! ニニギは毒矢で打ったはず。もうすでに生きてはいまい!」

「はい、どうも弟のイワレビコが引き継いだようです」

「ふん、途中に我らの仲間が沢山いる。熊野の“大熊族“、宇陀の兄宇迦斯えうかし弟宇迦斯おとうかしの兄弟、土雲の八十建やそたけるそして、兄師木えしき弟師木おとしき兄弟が待ち構えているわ!この地までは万が一にも来れまい、全くもってしつこい奴らじゃ」


「大王様ー!」

「なんじゃ、また何かあったか」

「そ! そ! そこまで・・ すでに山向こうまで進軍してきてます!」

「何を!そのようなことはありえん!」

「肩には三本足の八咫烏やたがらす右腕には布都御魂ふつのみたまつるぎを携え向かってきます!」

「ウヲー! ニギハヤヒの神よ! これはどう言うことじゃ!」

しかし、喚けど、叫べど、ニギハヤヒは現れない。

「こうなったら、兄ニニギと同じく毒矢の餌食にしてくれるわ! 兵を集めろ!」

いよいよ古代の天下分け目の合戦が始まろうとしていた。



 まだ夜明け前、瞑色めいしょくの空の下、ナガスネヒコはヤマト橿原かしはらの地にて明日香の地を蓋で覆うように兵を配置、イワレビコの兵が細い道を出てくるのを待ち構えた。

「我が兵たちよ! 神のお加護は我にあり! 河内の戦に懲りずのまた出てきた島の輩を、この地にて全て滅ぼそうぞ!」

「おう! おう!」ガシャン! ガシャン!と兵たちが鎧に盾を打ちつけ気持ちを昂らせている。


 空がだんだんと明るくなり、山の間から太陽の光が一直線にナガスネヒコの兵達を照らした。と、その時朝日を背にして怒涛の如くにイワレビコの兵が橿原の地に傾れ込んできた。その兵の多さにナガスネヒコの兵たちは一瞬足が竦んだ。が歴戦の勇士ナガスネヒコ、悠々と大弓を構えると一本の矢が凄まじい勢いで放たれ、飛び出してきたイワレビコの先頭集団10人を一斉に貫き通したのだ。その凄まじい様子をみたナガスネヒコの兵達は勇気を取り戻し一斉に攻撃を始めた。イワレビコの兵達も前の戦で死んだ前王イッセの仇討ち、引かずに突き進む。押しつ押されつと太陽が真上に来るまで激戦が続いた。段々とイワレビコの兵が押され気味になり後退し出した。

「今が押しどきぞ! 進め! 進め!」

ナガスネヒコの大声が響き渡る。

その時、三本足の八咫烏やたがらす)が大声で叫んだ!

「イワレビコよ! 矢を引け!」

イワレビコは何が何だかわからぬまま弓を力一杯引き絞った。そして矢を放とうとした時、

「そのまま動くな!」と八咫烏が叫ぶ!

「え?  え?   え〜  腕が・・・・」

イワレビコの我慢が限界に近づきかけた時、空高くより一羽の怪鳥が降りてきて、構えている矢の先に止まった。

「よし! 放て!」

その声にイワレビコは矢を放った。矢が弓形ゆみなりに飛び出し、ナガスネヒコ兵の頭上にきた時それは起きた。その矢を中心に半円状の光の塊が降り注いだ。

うわー!うわー! ナガスネヒコの兵が皆目を抑え苦しみ出したのである。 

「今だ! 突き進め!」と八咫烏が叫ぶ! 

イワレビコも一体何が起きたのか分からなかったが、叫んだ!

「アマテラス大王おおきみのご加護! 皆 突き進め!」


 勝敗は一瞬で決まった。敵兵は全てが降参した。ただナガスネヒコは目を抑えながらひたすら逃げた。

「ニギハヤヒの神よ! 助けたまい! ヤマトが滅びる! 助けたまい!」

ナガスネヒコはニギハヤヒ神を祀る社前で叫んだ。 

その時、社殿の奥から1人の武人が出てきた。

「おう、ウマシマジではないか」

“ウマシマジ“ とは、ナガスネヒコの妹“ミカシキヤヒメ“とニギハヤヒ神との間にできた息子である。

「ナガスネヒコ様、父神より助けよと仰せつかりました。さあ、参りましょう」

「おお〜 神の力が宿った其方そなたがいれば勝利は我が方に傾く、神よ ありがたい」

と喜ぶと、戦場に向かって戻ろうとした。

がその時・・・・・・背を向けたナガスネヒコに向けてウマシマジが一本の矢を放った。その矢がイワレビコの後ろ首に突き刺さるとともに白蛇に代わり首に絡みついたのだ。 

「うーむ・・ニギハヤヒの神よ! 我を見捨てるか! この恨み、この恨み 晴らさずにおかぬぞ!」  

苦悶の表情で白蛇を握ると首から引き抜きニギハヤヒの社に投げつけた、と同時に事切れ、頭ほどの黒い石に変わった。

「ウマシマジよ、可哀想なことをしてしまった。がこの受けた恨みは封印をしなくてはなるまい。どこか遠地に神として祀るのじゃ。できれば海を渡った地が良い。」

「はい、父神 海向うの阿波という地に祀りまする」

ウマシマジはその黒い石を編み縄でぐるぐる巻きに封印すると木箱に詰め込んでその場を去った。


・・この恨み・・晴らさずにはおかぬ・・・この恨み・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ