大きすぎるプレゼント
前回はプロローグ的な感じ。ようやく1話目に入っていきます。
2024年7月3日、勝負服の描写にミスが見つかったので修正しました。
2024年9月28日、設定微修正に伴い、グループ名を芝園から美駒屋に変更しました。
2025年1月13日、読みやすさ改善のため、ローマ数字と漢数字を併用する表記に修正しました。
大きすぎるプレゼント
今日は記念すべき初ダービーでまさか初制覇するとは思わなかったので、勝った私の馬に私が初めて現地観戦出来た時のことを振り返ってみる。
「さぁ、最後の直線、札幌の直線は短いが果たして後ろはどうか」
夏の札幌開催。そこで初めて彼の走りを直で見ることになった私たちは信じられないものを目撃することになる。父譲りの芦毛で馬格のある馬体、青柄緑地鋸歯型の胴に青地緑袖鋸歯型の袖が特徴の勝負服。紛れもなく、私たちの愛馬なのだが、どんどん彼は小回りを意に介さないでスピードを上げて馬群の外から追い込んでくる。
「大外からステージマスター突っ込んでくる。粘るドリーミーデイ! しかしステージマスター交わして今1着でゴールイン。2着ドリーミーデイ。3着に4番エゾノカチドキ。札幌2歳ステークスの勝ち馬はステージマスター! これで連勝。3コーナーから大外まくって見事に差し切りを決めました!」
私が配合を指示し、厩舎決めから何からきちんと決めて送り出した文字通りのうちの子があっさりと逃げ馬を交わして1着でゴールした後、しばらく呆然としていた。
ゴールの瞬間、拍手が湧いた馬主席。父に似てか新馬戦に続いてまたしても出遅れ、離された最後方から競馬を進めた我が愛馬ステージマスターが鞍上である叔母のしごきに応えてまくり差しを決めたことに対して起きたそれにやっと我に帰る。
札幌の短い直線に間に合わせるように小回りなカーブを器用に回りながら上がりの3ハロン(約600メートル)を32秒台でまとめてきた。洋芝でスピードが出にくいコースなのにやってのけた彼に驚きが隠せない。
中学に上がるのに合わせて馬と関わるようになってから二十年。こんな馬は初めて見た。
「芝園さんのところは相変わらずとんでもない馬が出るねえ。佐恵子ちゃんも馬主兼生産者として幸先よくてよかったじゃないか」
「あ、ありがとうございます。吉畑さん」
先々代の時に北海道へ拠点を移してからお世話になっている社大ファームの今の代表である吉畑輝也さんがいの一番に褒めてくれた。
「……ほんと羨ましいよ。あれの父は確かゴールドシップだったかな。あんな風にロングスパートを決められちゃ、敵わないよ。さすが世界の芝園さんだ。後継者もさっそくやってくれますねえ」
「……親蔵さんもありがとうございます」
ディープインパクトをはじめ、数々の名馬のオーナーとして知られる親蔵誠人さんも褒めてくれる。もっとも二人とも目が笑ってないが。
二人の目力に胃が痛くなったが、ともかく良き才能を持つ馬が出たことは素直に喜びたい。これでやっと私も憧れの祖父から受け継いだ美駒屋グループの後継者としてスタートラインに立てた証なのだから。
ただ、一つ誤算だったのは今日のレースをご覧になった方はお分かりだと思うが、まさかこの後、彼が無傷の連勝劇で父ゴールドシップの取りこぼしたダービーをロングスパートした上で史上最大着差で勝ってニ冠馬になるとは想定していなかった。
2着と3着の鞍上はともに父に乗った経験もあり、勝ちっぷりのエグさに引きつった顔をしていたのも忘れられない。さらにたまたま観戦に来た海外のファンたちによってトロイかシャーガーを思い出させるような走りだったとSNSで拡散されてすっかりお祭り状態なおかげで私のアカウントは今、開けない状態だ。
こんなところまで父譲りじゃなくていいのだけどと思うのはぜいたくな話かもしれない。ゆくゆくは外にも行かせるが、まずは三冠。ここまで来たら達成して欲しいと願うばかりだ。