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第1幕 出会い

  ――ここはどこ?

 


 未桜はゆっくりと体を起こした。



 ここは時月市のどこかじゃない……。

そうだ。あのイベントのときに空が割れて……。

あっ。みんな大丈夫だったかな!? 


大河、空音…歩葉、悠都……結衣、武瑠……みんな、みんな無事かな。



 未桜は辺りを見回した。どこかの森の中。やっぱり、ここは、『エル・アルプル界』?

 空音がずっと来たいと願っていた世界。もしかしたら……本当にきてしまった……?



 

「こっちっ。こっちだよ。早く、早くしてっ」

誰かの慌てた声が聞こえた。誰か来る?



「見つけたっ。未桜、探したよっ!!」

あ……この子はたしか。雫だ。私の自動人形(プッペ)

それともう一人……誰?



「君はミオというのか……」




 どこかの王子様?すごくかっこいい人。歩葉の喜ぶようなイケメン。

銀色の髪で……空を写し取ったような、すてきな青い色。


 



 未桜が呆然と見上げると、その青年は、魅入られてしまう笑顔で言った。

「どうやら無事のようでよかった。私の名はアーセル。ようこそ、この『メルヒ』の搭へ。

私の『種子(セーメ)』……」



「……えぇ。わたしの名前は未桜……ですぅ……」



 かっこいいのに、変なことを言う人だった。

未桜はそんな感想を抱いたまま、再度、意識を失った。





☆彡 ☆彡 ☆彡





 あれから半年が過ぎた。



 未桜は、この異世界にやってきたときに別れた双子の兄、大河と姉妹のように育った幼馴染の空音。親友の歩葉。大河の親友で、同じ部活の部員だった悠都。同級生でなにかと助けてくれた結衣。

そして武瑠。再会できずにいた。



 みんなどこかで元気にしているんだろうか……。



 現在、未桜がいる場所は、アーセルに保護されて、砂漠の中にそそり立つとんでもなく高い樹の中。

 この世界の人々は、『搭』と呼んでいるところ。確かに『搭』ではあるが。外見は枯れている樹のようにも見える。

未桜の感想としては、『東京タ○ー』と同じぐらいの高さ――のように見えるぐらい高い、と、考えている。

ここには、『搭の主(ソヴァール)』と呼ばれている、神様が住んでいる神聖な場所…なのらしい。






 コンコンコン。未桜の部屋の扉がノックされる。

「ミオ。アーセルだよ。開けていいかい?」

「はい、アーセル様」

 


 未桜が返事をすると、扉が開いた。

そこには……あの時、未桜を助けてくれた銀髪のイケメン王子、アーセルがいた。

半年間。アーセルは誠心誠意、未桜に接してくれている。

本来なら、兄や友たちを探しに行動したいところだが、未桜はこのアーセルと交わしたとある――約束を果たすためにここに、いた。



「今は一人かい?シズクは?」

常に未桜のそばにいて、ずっと守ってくれる自動人形(プッペ)の雫は、この時は用事があると、めずらしく外出をしていた。

異世界転移の際、アーセルを倒れている未桜のもとに連れてきたのは、この自動人形(プッペ)の雫だった。



 未桜が雫の不在を伝えると、アーセルはあわてた様子となった。

雫は主人の未桜を守るための戦闘機能を持っていた。普段はこの雫が未桜の身の回りの世話と、身辺警護をになっている。アーセルは、一人だった現在の未桜のことを慌てたのである。



「それはいけない。グリシナを呼んでこよう。

今の君は、この『メルヒの搭』の『搭の主(ソヴァール)』候補者だ。

何者かに襲われては大変だ。それに、君との約束は守らないといけない。



 元気な状態で、君が大事な人たちと無事に会えるようにする。

それが、君がこの『搭の主(ソヴァール)』候補生の役目を引き受ける条件なんだ。

今すぐにでも探しに行きたいところを、こんなことで我慢をしてもらっている。

これぐらいは当然のことだよ」

過剰なくらいに未桜を心配するアーセル。そこまで気にしていたら、アーセルが疲れてしまうだろうに。

しかし、この搭の中でのアーセルの人気はとても高い。

こんなアーセルだからこそ、人から好意を持たれるのだろう。



 「アーセル様は本当にお優しいですね。こんな私にもお気を使ってくださっているのだもの。

きっと誰からも人気があるんでしょうね。そう思います……って、すみませんっ。

またよく考えもしないで言っちゃって。雫に怒られるっ」

未桜は思ったことを素直に口にしてしまう。友人である空音や歩葉には、気をつけるようにと注意されていたし、今は雫が代わって注意をしている。

しかし、アーセルは優しく聞いてくれるので、ついつい口にしてしまう。



 「君は本当におもしろい。私はね……いや。私は本当につまらないやつなんだよ」

アーセルにしては、めずらしく口ごもる。

未桜はそんな変化が気になりながらも、アーセルの訪問の目的が何だったのかを疑問に思った。



「そういえば、なにか御用があるのでは?」

未桜が首は少しかしげると、アーセルの表情はみるみる笑みに満ちた。

「本当に君には助けられている」

アーセルのほほ笑みに、未桜は不思議そうに「なにもしていませんけど」と答えた。





 「用事というのはね……。

明日、『搭の主(ソヴァール)』であるエカテリーナ様への謁見が決まったんだ。

いやなら断ってくれていい。あの方は、異世界人には厳しいからね」

 


 そう。この『メルヒの搭』は、異世界人排除の姿勢をみせている。

そこへアーセルは異世界人である未桜をエカテリーナの後継者として指名したのだ。

しかしアーセル自身も未桜の後見人と名乗っていることで、搭の主であるエカテリーナの反対派としてその関係性に深い溝を作っていた。



 なぜこんな茨の道のような、反抗的なことをしたのか。

敢えて未桜は理由を何度か聞いてみたが、はぐらかされてきていた。

だがはじめはそんな根深い状態だと考えていなかったので、そこまで気にもしなかったのだが、アーセル以外の人間と接し、また雫からの情報などで、実は未桜だけでなくアーセル自身も身の危険も考えなければいけないほど厳しいものだということを知った。

アーセルはこの『メルヒの搭』の中では……孤立していた。






 『塔の主(ソヴァール)』の候補者は、他に数人存在し、それぞれに後見人がいる。

アーセルはその中でも、最大勢力のトップらしい。

立場的には未桜はその候補者の中で、もっともエカテリーナに近い存在といえるのだが。

 アーセルが自身を追い込んでまで、未桜を候補者に選んだ一番の理由は――。





「未桜。魔導術の修練はどうだい?君は『水属性』で、この『メルヒの搭』には最も理想な能力だ。

ずいぶん無理をさせてしまっているが……」

アーセルが未桜を選んだ最たる理由。そして一番の悩みなのだろうが……。候補者としての証とも言えることだろうから。



 「あのぉ……それが」

未桜の表情が暗くなる。

「やはり……難しいかい?」

「難しいというか」



 未桜は仕方ないとばかりに、両手を床にむけた。

両手からほのかな青白い光が放たれた。



 ――ぽよーん。


 「……これは」

アーセルが呆然としている。

「はい。私、どう頑張ってもこの子たちが……」



 ――ぽよーーん。ぷよーん。

一匹、二匹……三、四、五。

 未桜の両手から生まれてくるのは、水色に輝いた愛くるしい…スライムだった。


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