第七話 主人公なんてやるもんじゃない
昨日、部屋決めの後、そのまま疲れて寝てしまった。
そして、今日は学校のオリエンテーションの日だ。
前世の時も、ゲームで学園が開始されるときは興奮したものだ。
主人公がいきなり狂ったことに巻き込まれるような話もあれば、自然にヒロインと出会って惹かれていくような話もあり、エロゲと言っても話は千差万別なのである。
「エル、早く準備しないと遅れますよ。」
「おねがい、あとすこしだけねかせてー。」
俺は前世の時から、早起きは苦手なほうだった。
大学生になってからは、午前中の授業は絶対にとらないようにようにしていたくらいだ。
そういいながら寝続けていると、ナツメが俺の体にやわらかいものを当てながら揺さぶってくる。
「早く起きないと、おいていきますよ。」
俺は渋々、眠い目をこすりながら起きるのだった。
学校に到着すると、多くの入学生でごったがえしていた。
一応、この学校について軽く説明しておこう。
この世界の住人は成人式を迎えた後、自分の人生を歩んでいくことが許される。
その時に、やりたいことに向かって進み、いったんは親元を離れて修行する必要があるのだ。
俺たちが通うことになる冒険者学校もそのうちの一つで、冒険者になる為の基礎的な知識を学ぶために、主人公たちは一年間通うこととなる。
なお、お約束で成人年齢は伏せられているので、この学園に何歳から通うことになるのかは知る由もない。
学校に入ると、学校内の大聖堂に案内させられた。
この場所はゲームでも大きいことは予想していたが、実際に入ってみると500人ほどの生徒が余裕で入れるほど大きかった。
「まずは入学おめでとうございます。本日の予定は、オリエンテーションとして、学校の説明を行います。先ほど渡した紙に書いてあるところに行ってきて、お話を聞いて先生に判を貰ってください。それと、冒険者になる為にはパーティーを組む仲間が必要です。この機会に、知らない人にも話しかけてみてください。」
俺は配布された紙を覗き込んだ。
どうやら、学び場である教室、本を置いてある図書館、モンスターがいる飼育場、外にある訓練所、ご飯を食べるための食堂、そして止まるための寮に行き、説明を聞いてくればいいらしい。
「エル、どこから回りますか?」
「そうですね、まずは外にある訓練場からかな。涼しい午前中に行っておきたいし。」
「じゃあ、訓練場から回りましょうか。」
実は訓練場を選んだのは理由がある。
このゲームで主人公がオリエンテーションを上手く回ることで、二人のヒロインと出会うことになっている。
そこで最初に主人公が訓練場を選んでしまうと、絡まれているヒロインに遭遇し、かませ役をフルボッコにするイベントが発生し、主人公がヒロインであるリベアを見つけてしまう。
ちなみに、初手で見つけられないと、リベアが女だと正体バレして、自ら命を絶ってしまう。
つまりどちらにしろ、リベアを見つけ出して救い出す必要があるわけだ。
というわけで、俺たちは足早に訓練場を向かった。
訓練場を見回すと、華奢な体つきの生徒が、五人の大男に絡まれていた。
「おい、お前、聞いてるのか。このゴールドである俺がボッチでいるお前のことを舎弟にしてやるいうとんや。まさか、断るわけあらへんな。」
「とりあえず、食堂で美味しいもんを買ってこい。そしたら、お礼にこれやるから。」
「兄貴、それはまずいですよ。気持ち良すぎで、何人かそのまま壊れてしまいやしたし。ここでは、いらなくなったおもちゃを捨てるのはたいへんでっせ。」
駆け寄ってみると、かなり柄の悪そうな奴らだった。
絡まれていたリベアは、今にも泣きだしそうになっていた。
俺はゲーム内の回想を思い出して、たまらず止めに入っていた。
「なんだ、お前。チビで、ブロンズのゴミがなんか用か?」
チンピラどもは俺の胸元を見て、笑い出した。
この学校の制服にはランクごとに胸元に星が埋められていることになるので、すぐに相手のランクがわかるのだ。
ちなみに、ブロンズは一つ星、ゴールドは三つ星である。
俺の変わらない態度が癪に障ったのか、チンピラの一人が右手でアッパーパンチを突き出してくる。
前世でも喧嘩などしたことがない俺は、完全に油断しきっていて、軽くなった俺の体を吹き飛ばすには十分だった。
「関係ない人まで巻き込むのはやめてください。私が犠牲になりますから。」
俺は、痛さで気を失い、夢を見ていた。
そう、俺が高校時代に理不尽に暴力を振るわれていた時の話だ。
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読んでくださってありがとうございます。
ちょっと、新しいヒロインの性格が確定できてないので、中途半端になってしまい申し訳ございません。
次は主人公の過去の回想と、エルとナツメがリベアを助けるところまで話を書く予定です。
最後になりますが、面白いと思っていただければ、評価して頂けると私のモチベーションが上がって、睡眠時間を削って執筆して倒れますので、ぜひ評価して頂けると嬉しいです。