第三話 ツンデレ騎士、ナツメ
俺は転んでしまい、あろうことかナツメの胸元をどさくさに紛れて触っていた。
ナツメは今にも泣きだしそうな目をしている。
「すまない、どいてくれないか。」
一瞬の沈黙の後、俺はナツメの上に乗っかっているいるということに気づいて、すぐに立ち上がる。
ナツメは、ゆっくりと立ち上がると、顔を赤らめたまま小声でつぶやいた。
「……そ、そのっ、柔らかかったか?」
「ごめん、もう一度行って貰えませんか?」
「っ……、柔らかかったか!」
「ああ、柔らかかったよ。」
俺は、気迫のあるナツメの声に動揺してしまい、馬鹿正直に答えてしまっていた。
それを聞いたナツメは、必死にこらえるような顔をしながら、ぶつぶつ言っていた。
よく聞こえないな。
「おい、なんて言ってるんだ?」
「……ね。」
「もう一回いってく……。」
「死ね。この汚らわしい男め!」
そう言い放つや否や、ナツメは鞘から抜刀し、俺に容赦なく切りかかってきた。
銃弾のように飛んでくるナツメに対し、俺は必死に紙一重で避けていた。
「貴様ぁ、とっとと死ね!」
ナツメは声を荒げながら、先ほどより速度を上げ。斬りにかかってくる。
大地を響かせるほどの爆発的な力で飛び、的確に飛んでくる細剣は確実に俺の心臓を狙っていた。
俺は、それをかわすために紙一重で避け続けていたが、ついによけきれず何かが切り裂かれた音がした。
すると、その瞬間ナツメが動きを止めた。
明らかに動揺している。
とりあえず、彼女の視線を辿ってみると、俺の胸元に視線が向いていることが分かった。
俺はゆっくりと下を見下ろすと、上着は切り捨てられ、今まで隠していた豊満な果実が堂々と姿をさらしていた。
反射的に俺の手は胸元を覆っていた。
「本当に、すまない。てっきり、男だと思い込んでいてだな……。」
ナツメは颯爽と駆けつけると、そばに置いていたナップサックから上着を取り出し、俺に被せた。
俺はこの世界に来て初めて他人に裸を見られたこと、ナツメの態度の変わりように、二度動揺していた。
「ごめんなさい。とりあえず、この服を着て。」
俺は落ち着いたところ、彼女の話を聞いた。
自分は騎士の家の出身で有ること。
すでに魔族によって、女の子が生まれない呪いをかけられていたにも関わらず、私は女として生まれたこと。
自分の身を守るために、家族に頼み込み、騎士になったこと。
その後、騎士になる為に学校を目指すが、上半身をさらすことが出来ないため、なくなく諦めることになったことなどである。
ある程度、彼女の境遇については、ゲームを通じて知っているつもりだったが、実際に話を聞いて、このシリアスな話について改めて気づかされる。
この世界は、現実なんだと。
「迷惑もかけたし、ご飯おごらせて。迷惑もかけたし。べ、別に、あなたとお友達になりたいなんて、これっぽっちも思ってないんだからね。」
「仕方ないなあ。おっぱい揉んでしまったし、付き合うよ。」
「おっぱい、言うな!」
そんなこんなで、俺はナツメに連れられ、酒屋に来ていた。
酒屋には、狩りを終えた冒険者が多く集まっていた。
冒険者は男しかおらず、皆泥まみれになっているので、混沌としたにおいが漂っていた。
ナツメは慣れた様子で、ドア近くのカウンターにエスコートしてくれる。
周りのメンツに圧倒されながらも、おれはきょとんと空いている席に座り込む。
「へいいらっしゃい。今日は、珍しく連れがいるんだな。まあ、かわいらしいじゃない。」
声のするほうに振り向いてみると、ナツメの隣に腰の曲がったおばあさんがいた。
ナツメは愛想笑いしながら、適当に料理を頼み込んでいた。
おばあさんは注文をメモに書き終わると、俺の背後にゆっくり近づいてきた。
「あなた、可愛らしいわね。ところで、あんたもナツメと同じものでいいかい?」
俺は不意をつかれ、勢いよく席から立ちあがっていた。
彼女らは大笑いしている。
「あきらめなさい。私も初めてこの店に入ったときに見破られましたから。この、おばさん、妙に鼻がききますから。」
「あら、失礼ね。おばさんはないんじゃない?そんな悪い子には、ご飯だしませんからね。いや、冗談、冗談。こんなことを言われると昔のことを思い出してしまいますね……。」
そう言った、おばさんは少し悲しそうに見えた。
何とも言えないような沈黙が続いた後、それを破ったのはナツメだった。
「あのおばさんだけど、可愛らしい孫娘がいたみたい。しかしね、この世界で若い女性は宝くじの一等くらい価値のあるもんだから、攫われて貴族のおもちゃにされたらしいわ。だから、あなたにはそうなって欲しくないの。」
ナツメは、俺の顔を力強く見つめながら、落ち着いた声で話した。
彼女、いやこの世界に転移した俺にも、この先ありうる話だから、笑い事ではないだろう。
「ところで、明日の予定は何するの?」
「そうだな。冒険者学校を受けに行こうと思うんだが。」
「奇遇ね。私も受けに行く予定よ!」
そんな、他愛ない話をしていると、料理が来た。
料理が来ると、ナツメは一心不乱に食べ始めたので、俺も無言で平らげた。
「ごちそうさまでした。」
食事を終え、俺たちは酒場を出ていた。
そそくさと立ち去ろうとする俺に、ナツメは強く手を握り占める。
振り向くと、彼女はほほを赤らめていた。
「えっと、もしよかったらだけど、迷惑でなかったらだけど、今夜一緒の宿に泊まらない?」
俺は突然の告白に戸惑いを隠せなかった。
俺が、女の子と一つ屋根の下で、あんなことや、こんなことをする日がこようとは。
そういや、今の姿って女の子なんだっけ。
女の子同士って、平気で友達を自分の部屋にあげたりするもんなのかな。
「どう?迷惑かしら?」
「そうだな、どうしてもっていうならいいよ。」
俺は、ツンデレが一番好きである。
彼女と泊まることに不満はないが、俺はナツメに恥ずかしがりながら、お願いしてほしいのである。
どうだ、俺の作戦は完璧ではないか。
この勝負、一本ありだな。
「本当に、私、友達とお泊りするの初めてで、楽しみで仕方ないです!」
ナツメはそのまま俺の手を強くにぎったまま、宿のほうに走り出した。
まるで、遠足前の子供のように。
そうして、満点の星模様が広がる街を駆け抜け、宿にたどり着いていた。
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読んでいただきありがとうございます。
次回は、お泊りの話と、入学試験の話を書かせていただきます。
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