6th ゴブリン騒ぎ
この世界で言う魔術というのは、個人の属性によるものと、世界が内包する属性を扱う二つの種類が在るらしい。
個人の属性を持っている人はあまり居ないらしく、属性を持っている人は身体のどこかに紋章が現れるらしい。
で、今まで俺が教えてもらってたのは世界の属性を扱うものらしく、何か物理法則の域を出ないらしい。いや、当たり前だけど。
で、その紋章とやらが現れた人はなんか、物理法則を超えたことが出来る、らしい。
瞬間的に互いの位置を越えたり、無時間で遠距離から打撃したり。
果ては一気に破壊できるものも在るらしく、恐ろしい。
ともかく、何でこんなことを言ってるのか、というと。
「あー。これが紋章か……?」
朝起きてみると手の甲に狼の紋章があった。
といっても何か変わった感じは無いけど。
で、問題なのはこれからのこと。
多分これを気にやれ魔物退治だ何だと押し付けられかねない。
つまりは、この城を出る時が来たって事で。
大して思いいれもないので、誰にも告げずに抜ける。
時刻は深夜。窓から飛び降りる。
といっても此処は六階で、普通に降りたら先ず間違いなく死ぬ。幾ら俺でも。
なので自身に魔術による強化、及び重力軽減魔術。
音も無く降りる。
即座に術式を構築。式題は探索。
俺にしか判らない波を放つと、巡回の兵士が此方へとやってくる途中だった。
「やべ」
気配を殺して森へと入る。
そのまま音を立てないように移動する。
さらば、窮屈な城の生活。
夜が明ける頃には城下町へと到達した。
下級の兵士は此処には来ないため、ばれる心配は無い。
服は適当に貰った。侍女さんから。
そのまま歩いてギルドへ行く。
出来れば今日中にも此処を立ちたい。
と、そんな願望を抱きながらギルドの門を叩くのだった。
実際、隣の国――この国がアリグスト王国、隣がレイングル商国で、そこへ行く護衛、というDランクの依頼が見つかった。
ただまあ、ソレが何か面倒で。
いや、一応の装備は整えたんですけどね?
各種最低限の生活用品。皮鎧、各種装備、剣。
大抵の事なら一人で出来るようにされたため、何を買えばいいのかは直ぐに判った。
でも、これで納得しない人は居るわけで。
「おい小僧!! テメェDランク成り立てなんだろ? そんなのでまともに使えんのか? ひゃはは!!」
これにかける10ぐらいしたらいい感じ。
面倒なので放置放置。でもウザイ。
しかも服装が在りがちな山賊風味って。何だこれ。どこのゲームだオイ。
結局は依頼者の女の子(貴族)が黙らせてくれたんだけどね。しかも可愛かったよ。
馬車に揺られて約三時間。
慣れない旅だからかケツ痛い。
――とか思っていると。
「ぎゃあああああああ!!!?」
「ひいいいい!!」
見事に魔物の群れに遭遇。
あの山賊風の馬鹿どもはさっさと殺されるか逃走した。
実質、いまこの馬車を守っているのは俺と魔術師の子と戦士のあんちゃんと錬金術師の姉さんと神官の子だけ。
つっても、ねえ?
「シィッ!」
人たちで小型の魔物を切り捨て、左手で術式を構築して纏めて頭を消し飛ばす。
というか、こいつら所謂ゴブリンですね奥さん!
「くそったれ!! 何でこんなにゴブリンが多いんだ!!!」
「アタシが知るわけないだろ? ほい、燃え上がりな」
「翔る風よ、集い足りてその身を研ぎ澄ませ……」
「偉大なる主よ! 我らに御身のご加護を!!」
うん、本当に多い。
今でも何匹殺したか判らない。
既に殺す覚悟はきっちりとしているが、それと肉体的な疲労は別問題。
大規模破壊魔術は流石にゼロコンマ数秒で構築は出来ないし、かといって此処を離れたら一気に押し込まれそうだし。
ああもうメンドイ。
試しに使ってみる。
剣に魔力の道を通し、剣そのものを変えていく。
魔力を通しやすいように、良く切れるように、頑丈になるように。
構築は一瞬ですむ。大規模でなくとも十分に創り替えた。
ただ判るのは。
「あ、これはマジでヤバイわ」
試しに魔力を通して振るってみれば遠くまで一気に切れた。おお。
もしもこれに出来うる限りのものを入れれば?
背中が震えた。恐怖で。
でもやるしかないよなぁ。
「皆さーん! ちょい俺の前に敵を集めてくださーい!!」
全員が頭狂ってるのかという視線を向けてきたが、真顔なので大丈夫だったらしい。
十数秒後、俺の前にゴブリンが集められた。
よしOK。いっちょやりますか。
剣は腰。左手は沿え、右手は適正な力へ。
無用な力を抜き、一気に――
……切る!!
「おおおおおおおおあああああああああああああ!!!!!!」
構築のままに、術式を追加。
式題は衝撃。
真横に振り抜いた剣から放つ。
意志で切れば後には何も残りはしない。
一瞬の静寂。
完全な停止から動へ。
動いたのは――ゴブリンだった。
全ての胴体が落ち、鮮血を撒き散らす。
ドサリ、という音が連続して、全てが。
終わった。
「やった……」
安堵、緊張が抜ける。
「あ」
意識が落ちた。
気付けば馬車の中だった。
外傷は殆どなく、魔力も安定している。
特に異常はなく、身体を動かそうとすると、
「あ、れ?」
一気に力が抜け、また寝転ぶことに。
しかも頭が打ち付けられ、痛い。盛大な音がしたよ。
しかしソレで気付いたのか、神官の小さな女の子が此方へと顔を出した。
「あ! 気が付いたんですね!」
「ん……」
わずかに首肯する。
今気付いたけど、体が凄い揺れてる感じがする。船酔いみたいな。
「あの、俺、起き上がれないんですけど」
「あ、多分それは初めて大きな魔力を消費したことによる酔いだと思いますよ。直ぐに直ります」
そうなんですか。
てか、あれってでかい魔力だったのね。
魔力に関しては全く減った感覚がないんですが。
「まあ、今は寝といたほうが良いです。疲れてるでしょうし」
「ん、じゃお言葉に甘えて」
眼を閉じれば、直ぐ其処に眠りはあった。
次に起きる時には直ってますように。