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加速する現想譚  作者: 無碍
4章 留速
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37th 武闘祭・開始

 選手控え室、というのは、予選通過をしないとどうやら劣悪な環境らしい。

 らしい、というか、今実際に体験しているわけで、現実逃避を行いたかったのですがまあ無理だ。

 四方を石によって固められたそこは、無骨であり、冷えた印象を受ける寂しい場所だ。


その場所では、三十二名の冒険者、傭兵などがこれから行われる予選に向けて準備をしていた。

 傷有りの体を自慢気に見せ付ける輩がほとんどで、またそのほとんどがむさ苦しい男であった。

 正直、苦しい。いや、何がとは言わないが。


「……」


 本来、魔力や魔法、マナ、気、異能や超能力と言った、物理法則外の『何か』の恩恵を受けられない格闘戦クロスレンジにおける、打撃に乗せられる威力と言うのは、筋力+体重ウェイト+身体制御術ということになる。

 そして、その威力というのは単純に獲物を持った場合の威力にも直結するため、筋力を鍛えるのは戦闘技術を持つものには必須の作業だ。

 そして、そこに高所からの振り下ろしによる重力などの利用も必要なため、背の高いもの、そして筋力があるもの、体重が重いもの、となる。

 故にこそ闘いを生業とするものにはガタイが良い者が多い訳だが、


「ムッサ苦しい……」


 聞こえないように、小さく、非常に小さく舌打ちも交えての不満がこぼれる。


 身長では一般的にはそこそこ高いほうだと自負しているものの、こういった戦士の中では小さいなのだ。

 だからか、こう、おっさんどもから送られてくる「ハッ、餓鬼は家でお寝んねしてな?」的な視線がウザったいことこの上ない。

 中には比較的・・・小柄な人も居るのだが、大抵そう言った人は著名人であり、今回の俺の様にギルド推薦を蹴って出場した訳ではなく、推薦の恩恵を受けて本戦からの出場のため、ナめられることもない。


 無論、本戦参加からの方が楽ではあるし、ナめられることもないのだが、諸事情、又、個人的な事情にもより予選からの参加となった訳で。

 一々ソコへ不満を挟むほど子供ではない物の、こうもナめられていると腹も立つ。


「おや? 誰だここに餓鬼呼んだのは?」


 おいおい、と声がかかり、ゲラゲラと粗野な笑い声に包まれる。

 自分の額の筋肉のみで圧力が皮膚をぶち壊しそうだ。


 とは言え、今回予選からの参加にはとある勢力・・・・・からの依頼の条件も含まれる。

 だからこそ、目立つ訳にはいかない、が、


「御大層な槍まで背負いやがって、使えんのか? あぁ?」


 爆笑。

 何か嫌な音が額からするが、俯いて顔を晒さないことで耐える。

 それを怖気づいたと取ったのか、更に笑いの度があがる。


「怖くなったのかなぁ~? 家に帰ってもいいんだぜぇ~?」


 ドっ、と嘲笑が広がる。


 ……ああくそ、早く試合始まんねえかなぁ……!


 心の中でひたすらにムサい野郎共をボコる想像をしつつ、俺は静かに試合のゴングを待っていた。


           ●


「――はぁ?」


 俺の口から出たのは若干語尾が上向きのイントネーションとなる疑問形だった。


 ファニーさんの鍛冶場から帰ってきてから十分ほど、俺の部屋の前にギルドからの使者が突っ立っていた。

 黒のローブを着こみ、頭から足まですっぽりと姿を覆ったその姿は密使というのが適任だ。

 何とも影が薄いのは何か特技か魔術か、良くは分からないが非常に気配がつかみにくい。


「アンタ、誰?」


 続いて出る言葉も疑問系で、おまけに言うならば俺の首の傾げもついていた。

 ちょっと酒と肴でも買って軽く月見でもしようかと扉を開けたらこの人物がたっていたのである。

 疑問詞が出てもまったく問題はない。疑問しかでないけど。


「……コレを」


「……は、はあ」


 男か女かよく分からない声で渡された茶封筒を受け取る。

 繁々と手に持ったコレとローブ姿を交互に見て、


「で、ええと、誰だアンタ?」


「……では」


 俺の言葉は華麗に無視され、ローブ姿は一つ会釈をこちらに送り、


「は? いやちょっと待っ」


 言い終える前に扉が閉められ、急いで扉を開いた時には人影は無かった。

 何だったんだ一体。廊下を走る音も魔術が使われた発光現象もなかったぞ。


「まあ、考えてもしゃあないか……」


 はぁ、とため息をひとつつき、扉を閉めてベッドへと戻る。月見という気分ではなくなった。今日の夜の楽しみはナシだなぁ。はぁ。

 にしても、手に持った茶封筒は何の変哲も無い代物のようで、特にコレといった仕掛けもないようだ。重さからして何か変なものが入っているとも思いにくい。

 部屋の明かりにさらして見たり、軽く魔力を当てて探ってみたりもするが何の反応も無い。


「さて、中身は、と……」


 上口を裂いて中身を取り出す。

 出てきたのは何やら妙に上質な一枚の紙だった。

 そして出てきたのは――


「……はぁあああああああ!?」


          ●


『――これより、第三予選を開始します。第三グループの方は、ステージへと登場してください――』


「お? 行くか行くかぁ。腕がなるぜぇ」


 ――気付けば、既にそこそこの時間が経っていたようだった。


 あれから十数分ほど考えに没頭していたのか、既にこちらへと意識を向けてくる輩は無く、 がっはっはっは、見たいな感じでぞろぞろと出て行く戦士一同。

 やっと出て行ってくれた。いい加減額から自然出血するぞ畜生。


 と、そんな感じ怒り心頭ながらも俺もステージへと登る。

 ステージは石畳で出来た円形のステージで、周囲とは五十センチほどの高さがある。


「ぬぉ……っ」


 と、出た途端、凄まじい陽の光に一瞬目が眩む。

 現在の時刻は午前十一時。既に第二予選グループまで終了し、残るは俺が所属する第三グループと、最後のグループである第四グループのみだ。


 この武闘祭では、ギルド等の推薦から八名、予選における各グループからサドンデス方式で二名まで絞込み八名、この計十六名で本戦をする。

 今回、俺も本来であればギルドからの推薦を受ける筈だったのだが――


「ったく、面倒だなぁ……」


 一人ごちても何かが変わるわけではない。隣の戦士風な男が怪訝な目を向けてきたが気にしない。

 少々ザワザワと騒がしい間が流れ、アナウンスの声が響く。

 

『それでは、各選手は事前に割り振られた数字に対応する場所へ移動してください』


 これまたぞろぞろと皆が移動する。

 この大会では公平を期す為・・・・・・、大会側がランダムで登録選手の開始時の場所を決める。何かしらの意図は絶対に入ってくるが、それはもう仕方が無い。

 俺は確か二十七だったよなぁ、と思いつつ、二十七、二十七と探して、自身の位置をは太陽を背にした、なかなかのポジションだと認識する。

 そして――


『それでは、準備の程はよろしいですね。――では、試合開始!』


 拡声魔法で広がった声と共に、俺は前へと踏み込んだ。

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