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加速する現想譚  作者: 無碍
4章 留速
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31st 少女たちの談義

 私は走っている。

 全身から魔力を練り、身体強化に当て、その力を持って地面を割り砕く勢いで疾走する。


「あっ、アリ、シアさっ……!! は、速い……ッ!?」


「我慢してくださいッ! 今は奥へ行かなきゃマズイんですから!」


 腕の中のミーシャさんが何かを言うが、それよりも先ずはこの先へある『何か』へと少しでも近づき、そして――


「離れなきゃ……!!」


 微かに凹んでいる窪地の先端に足を引っ掛け、跳躍。そのまま樹上へと至り木の枝を始点として宙を駆けていく。

 身を屈め、枝の部分へ当らないよう先方の面積を最小限にするために縮ませ、そして跳ぶ。


 ……タツヤさんは大丈夫、大丈夫だけど……!!


 心配であるというか、彼についていけない自分が情けないというか、頼りっぱなしでどうにも悲しいというのが現在の心境だ。

 そんな胸中の思いを払拭させるかのように、強く跳躍しようとして枝に対して震脚紛いの踏み込みを行い――


 バキリ。


「……え?」


「……ふぇ?」


 何故か跳躍の始点がない。足元に踏むものがない。何故?

 不思議に思って下を見れば、それなりに太い枝が見事に折れているのが目に入って。


 ……ああ、強く踏みすぎちゃったのか。


 何て酷く落ち着いた思考に、どこか赤いアラームが鳴り響く。

 はて? と首を傾げ、何故かと考え。


「ああ、このままじゃ落ちちゃいますねぇ」


「あ、はい。そうですね」


「あはははは」


「あ、あはは……」


 …………………………………。

 落下?


「いやああああああああああああああああああああ!!!?!?!」


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!?!?!」


 それなりに高い所を跳んでいたので落下時間も長く、また吹き上げの風も強いのでとても落下感が強いというか怖い怖い怖い怖い怖いッ!?

 腕に抱えたミーシャさんが必死でしがみ付いて来るのが何となく子供っぽくて可愛いとか思いつつしかしそれが微妙に動きを阻害していて非常にまずいと気づき、


「ちょ、ちょっ、ミーシャさん、離して、離してッ!?!?! このままじゃ落ちる落ちる落ちるッ!?」


「もう落ちてますぅぅぅうううううう!!!!!」


 ああそう言えばそうだなぁなんて納得してしまう自分の頭に嫌悪を抱きつつ、せめてと思い全力で魔力を精製する。

 そして――


          ●


「あっ、ちょ、そ、そそそそこはだめ、だめですよッ!? 染みるんで痛いんでって痛たたたたたあっつぁああ!?」


「我慢してくださいよぅ……無理やりに傷口ふさぐと破傷風になりますよ?」


 それでも傷口周りの害となる『概念』を無くす為の魔術は非常に痛いというか染みる。具体的には身を捻って痛みを誤魔化そうとしてさらに痛くなるくらいには。

 しかし、


「それにしたってミーシャさんは凄いですね。普通はそんな年で快癒の魔術を習得するのさえ稀なんてことじゃないのに、司祭さまでも覚えてない殺穣を使えるなんて」


「いえあの、そのぅ……」


「あ、照れてる、可愛いー!」


 思わず手を伸ばして幾分か背の低い彼女の頭をぐりぐりと撫で回してしまう。え?別にアタシはちっちゃくないですよ?


「んと、とりあえずはコレで治療は終わりました。後は包帯を巻いて、ええと、少し安静にしてれば」


「あ、ありがとっ!」


 ともあれ先程樹上から落ちた私たちであるんですが、取りあえずあの後は治療を受けてます。主に私が。ええ。

 たいした負傷ではないのですが、下手をすると破傷風になってしまうので念のため、と、ミーシャさんが行ってくれたのです。


「さてと……ここってどれくらいなのかな?」


「え、ええと、多分、先程よりかは中心部に近いと思います」


「へ?」


「あ、その、瘴気がだんだん強くなってきてるから……」


「ふむ……」


 瘴気は微量ならたいした被害はないのですが、それが集まると非常にまずいのです。

 たとえば傷口の腐敗、たとえば魔物の増加、たとえば負の感情の暴走。

 いいことは余りありませんが――


「とりあえず、先に進みましょう」


「へ!?」


 怪我をしたのは足。そこに魔力を注ぎ込んで傷みを軽減し、筋力を増加。

 二、三度動かしてからいけると判断。そのまま身を起こす。


「このまま真っ直ぐ行けば何とかなりますかねー……」


「え、あはい。取り合えすはこのまま行けば瘴気に中心には……? っ正気ですか!?」


 蒼白な顔で叫んだミーシャさんになぜか親近感を覚える。ああ。アタシっていつもこんな感じなのか。


「ええ。というかそれしか道はないですし」


 どうせ元に戻っても足手まといで、そのうえ外界に出られるほどあまい場所ではないのですよこの森。

 ということで前進あるのみ。


「わ、わたしたち二人で進むのは危険です! 戻ってクレインさんへの援助をするほうが――」


「必要ないです」


 気がついたときには既に言葉が放たれていた後だった。

 あ、とか思う間もなく、ミーシャさんの顔が赤くなったり青くなったりするのをみた。


「な、何でですか!? クレインさんは二つ名持ちだからってそんな……」


「あの人は」


 あまり言うことではないが、言ってしまおう。いやたいしたことじゃないかもしれないけど。

 それは始めてあの人と会ったとき。命を救われた最初。


「――既に彼は、飛竜を単身で殺せます。多分、必要とあらば中位竜でさえも」


「っ!?」


「クレインさんはすでに『竜殺しヴィーヴルスレイヤー』なんですよ」


 『竜殺し』、それは『龍殺しドラゴンスレイヤー』と似て非なる称号。

 彼らは低位竜を殺せる実力を持つものだ。しかしてその実態は、ある意味では上位戦闘能力保持者を指す言葉である。

 何故ならば、『龍殺し』は団体に与えられる称号であり、『竜殺し』は個人に与えられる称号だからだ。

 それを思えば、彼らは単体で群を相手取ることなど造作もない実力者とも言える。

 また個人で『龍殺し』を保有するものもいるが、そんなものは例外中の例外中で、もはや人間と呼べるような連中ではない。


「だから、アタシたちが行っても無意味です。ていうか、アタシにはあの人が負けるところが想像できませんもん」


 何があっても負けない気がする。単身でミノタウロス撃破してるし。


「そ、そんな……じゃあ、本当ならAクラスの傭兵じゃあ……」


「本来なら、てことじゃないですかね。表向きは団体行動で討ち取ったことになってるので、称号もらってませんでしたけど」


 彼いわく、


『は? いや面倒くさそうだし、疲れそうだし、面倒くさそうだし、何か得よりも損が多そうだし、面倒くさそうだし、ていうか面倒だし』


 要するに面倒なんですね、とは言っても意味がない気がしたので言わなかったのですが多分正解でしょうねアタシの行動。というかその後レイシアさんに何かされてましたけど。


 ……。

 忘れましょう。それが一番だ。


 うんうんと頷いていると不思議そうな目で見られたので慌てて首と手を横に振って弁解する。


「いやいやなんでもないですよ?」


 ともあれ、


「取り敢えずは先に進みましょう?」


「……クレインさんを置いて、ですか」


 悔しそうに唇をかむミーシャさん。だけど、


「アタシたちは任せられたんですよ、クレインさんに」


「……?」


 それは、


「いいですか? クレインさんは強いですよ。そりゃもうすさまじく。ですけど――」


 一息。


「彼はミーシャさんのように瘴気の浄化が出来ません」


「あ……!」


 ミーシャさんの瞳から少し険が取れたのを確認して、


「つまりは適材適所です。クレインさんもアタシたちも万能じゃありません。ですけど、クレインさんに出来ないことが私たちには出来る。だからこそ、クレインさんはアタシたちを信用して先に行けと言ってくれたんです」


 と胸を張る。大して背丈変わりませんけど。あと哀れみの視線がするのは気のせいと断じます。

 だから、とつなげて、ミーシャさんに手を差し出し、


「アタシ達に出来ることを、しに行きましょう?」


「――……はい」


 笑ったような苦笑したような表情で、ミーシャさんはアタシのてを取ってくれた。


          ●


「ところで、その」


「――はい?」


「えと、身長って私の方が高いんですから、負ぶってくれなくても……」


「うるしゃいっ!?」

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