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加速する現想譚  作者: 無碍
4章 留速
30/38

30th 『闘群狼』・瘴気・単独戦闘?

 コキコキ、と首を鳴らす。

 右手に携えた槍には既に魔力を通している。

 圧縮された魔力はこの『槍』そのものに刻んだ術式を駆け巡り、在り得る筈の無い現想の発言を宣告した。


「――ああくそ、俺ってなんかそんな役割じゃないかコレ?」


「……そんなこといったって。籤引きで負けたのはクレインさんじゃないですかぁッ!? っていうかどーするんですかこの『闘群狼ウェアウルフ』!? 目測でも30は居ますよこの子達!?」


「いやぁ……どーしよう?」


「暢気に首を傾げないでください――!!?」


 いやーはっはっは。

 森の最深部に程近いであろう、薄暗い開けたこの場所は、いまは俺とウルドと目の前に広がり此方にうなり声を上げ続ける狼君たち。そして――


「ひぅぅぅ……」


 気の弱そーな神官の女の子が一人。しかも身長がウルドと同じく、


「低い……!」


「ちょっと、何でアタシの方見たんですか今一瞬!? ねえっ!!」


 まあまあ、と手のひらを彼女の方へ向けて制する。


「にしてもまあ、俺は結構運はいいほうだと思ったんだけどなぁ……」


「どこがですか……思いっきり初めに『ダウトォッ!!!(死亡フラグ)』って書かれた籤を引いたくせに……」


「う……」


「あ、あははは……」


 苦笑するミーシャは、しかしこれでも高位の神官なのだという。つまりは天才児。

 だが流石に、一度にこの数を退けるほどの高位神術を習得してはいないだろう。というか出来るのは神教の総本山、南のアハトブルグの幹部クラスぐらいだ。


「てゆーか何で籤引きで探索場所を決めたんでしたっけ……?」


「いや、たしかそれはケルム君がこっちの方が楽だって行ったからだろ」


「……ひぅ」


 俺たち三人は、キャンプから直進。他二つの組は東と西に分かれて探索。

 確実に直進が悪いと言うわけではないが、それにしたって自分たちの役割はひどいと思う。

 とまれ、現状がどうにかなるわけでもない。


 今、此方は三人。内一人が後衛。一人が前衛援護。最後の俺が前衛。

 バランスは取れている、が。敵は『闘群狼ウェアウルフ』。高い知性と集団行動力によって、下手をするとAクラスの傭兵でさえ返り討ちにあうという奴らだ。

 しかも、だ。そんな強敵連中が、ここら一帯に撒き散らされている瘴気によって強化されているわけだ。正直言って、

 ……守りながら・・・・・闘うのは辛い、かな。

 故に、


「まあ大丈夫だろ。これくらいなら・・・・・・・俺一人でどうとでもなる」


「誰が全く背が無いなんて――……え?」


 呼吸と共に体内を循環させていた魔力を丹田を介して練り上げていく。

 魔力を通した槍からは風が漏れ始め、体からは金に近い緑の魔力が溢れ始めた。


「た、たつや、さん……? なんだか、以前より魔力総量が増えてませんか……?」


「あー、何か勝手に増えた」


 は?と言う感じに顔の力が抜けたミーシャ。しかしそれを無視して『紋章』の起動準備に入る。

 ……ただ、速く。

 異質な気配を俺から感じ取ったのか、狼たちが更に低く構えて唸り声を高くする。


「まあ、俺一人でどうにかなる。それよか、たしかミーシャは瘴気の浄化が出来るはずだったよな?」


 こくん、と小さく頷くミーシャ。よし。

 神を信仰する神官には、人間の負の感情などの発露である瘴気を浄化できる技術がある。見たことは無いけど。


「先に行って瘴気の原因を調べてくれ。多分それで何とかなると思う」


 右手に小さな『弾丸』の術式を構成。追加トレイラで破砕+爆発。


「多分、この先に何かあるだろ。てかこんだけ明らかに魔物が居たら在るのが常識だ」


「常識って……!」


 まあ、どちらかというと小説的な常識ですが。

 軽く苦笑し、ウルドの頭をくしゃりと一度撫でた後に身を回して腰を落とす。

 意識は紋章と手に携える槍へ。思うのは速さと、螺旋と、爆圧。


「昨日の戦闘で『紋章』の使い方のコツを覚えた。何とかなるさ。だから――」


 ――先に行け。


「……ッ!! ミーシャさん、行きますよ!!」


「え? え!? そ、そんなことしたらクレインさん、が……!?」


「アタシらが居たって効率が悪いだけなんですよ……!!」


 ウルド特有の冴え渡るような青い魔力が立ち上るのを見る。同時に、白い魔力はミーシャのものだ。

 ウルドが足をたわめ、跳躍の姿勢を形作ったのを見たのと同時。


「――突っ込めぇッ!!」


「くぅ……!!」


 投擲した槍が『闘群狼』手前の地面に突き刺さり、地面を破壊・爆発し、その爆圧で『闘群狼』を吹き飛ばした直後にウルドがミーシャを抱えて突破する。

 吹き飛ばされない範囲ギリギリに居た一匹が彼女たちを襲おうとするが、


 ――術式構築・展開・構成・完全。

 ――現想の把握。


「行かせねえって」


 片足での震脚。打ち込んだ足から更に術式を打ち込んだ。

 一瞬で展開されたのは樹木の檻。それは硬く、太い幹であり、


「ギャウッ!?」


 狼の突進程度でどうにかなるものではなかった。

 悲鳴を上げた狼は無様に地面に転がり、しかしその周囲を新たな狼がフォローする。


「さてまあ、今さっき素晴らしい死亡フラグを立てた訳だが。どうにも俺ってこういうのが好きなのかな……。いや、Mじゃないんだけど」


 ともあれ。


「殲滅戦と行きますか……」


 一斉に飛び掛ってくる『闘群狼』に対して、俺は突っ込んだ。

 ……つくづくそんな役回りである。まる。


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