3rd 淡々とした思い返し
「つまらねぇ……」
溜息とともに吐き出した言葉は、俺に宛がわれた豪奢な部屋に散った。
下らない。この世界、というか、この国はおかしい。いや、ある意味では当然というべきか。
俺という『救世主』の名の看板を己の派閥に組み込もう。そんな意志がまざまざと感じられる。というか見て取れる。ていうか視れる。
権力者が更なる力を求めて壊れていくなんてのは元の世界でも良くあった。
というか、さっさと此処を出て自立しないと政治道具に使われて挙句に魔王との戦いなんかに叩き込まれて死亡、なんてのが眼に見えている。
というか、だ。
魔王というのが本当にいるのかよく分からない。
実際問題、魔王を見た、という人物がいないし、そもそも最近魔物、つまりはモンスターによる被害が多いために魔王が出現したのでは、という。
なんという安楽な考え。
だが実際、民を安心させるのにそれ以上の効果の有るものは無いだろう。
魔王と言う憎しみの対象。そして救世主という信仰の対象。
自分で言ってなんだが、本当に道具みたいだな。
「まあ、逃げるって言っても当分先かな」
なんせ力も無ければ金も無い。
魔術というのは宮廷魔術師だとか使用人の人などに少しづつ教えてもらっているが、武術はどうやら此方では魔術とか魔力で肉体を強化しなければ戦えないレベル。
幸い、救世主の特権みたいなもので魔力だけは異常に馬鹿でかいのでそれを使えば何とかまともに戦えるらしい。
というか、技術だけは大丈夫なんだそうだ。足りないのは身体能力。
……いや、結構自身あったんですけどね?
流石にさ、いきなり王国騎士団長相手に一本取れって言うのは反則でしょ?
しかもいきなり剣を渡してくるし。
結局は2−1で負けたのだが、恐ろしく強かった。
しかもアレで魔術を使ってなかったと言うのだからマジで怖い。
というか、武術は家の爺に教えてもらっていたわけだが。
代々続く由緒正しい名門の武家だそうで。
糞古くて現代では使えなさそうなものは省いたけど、それでもそこら辺のチンピラとかよりは棒や剣などの扱いは上手いつもりだ。
今頃はあっちでは大騒ぎに……なってないか。
基本放任主義、というか放置主義だし、そもそも両親死んでるし。夏休みだから爺は気にせず……いかん、腹立ってきた。
また一つ溜息をついて、ベッドに潜り込みながら灯を消すのだった。