16th ゆったり
狼、といっても、リヴォルグは草食だ。
市販のものも野草も関係なく食べるので、凄い経費が助かるなぁ。
そんなことを思いつつ、御者用の席でリヴォルグの手綱を握りつつ、俺達は帝国へと向かっていた。
「ヴぉふ」
「ん、何でもない。ありがとな」
「ヴォフ」
凄く人間っぽいが、彼は男だ。
苦笑しつつ、ポンポンと背を撫でると気持ちよさそうにぐるると鳴いた。
今は、国境で金や装備を整えて、帝都へと向かってる途中。
ぶっちゃけウルドの練習に少し手間取ったが、そこはそれ。
思いっきりしごいたので大丈夫。GOODJOB!!!!!
「ぐっじょぶってなんなんですかぁっ!? てか、大丈夫じゃなかったんですけどっ!!?」
「うぉわぁっ!!??」
いきなりばがんっ!?と後ろから窓が開いた。か、角当たったら俺死ぬぞ!?
「何驚いてるんですかっ!!」
「君のせいだろうがっ!?」
なに不思議そうな感じで怒ってるんだ!?
それやるのは俺の役だろうが!?
「というか、アタシ今全身筋肉痛なんですけど!?」
「そりゃそうだろう」
今までつかってなかった筋肉、それ以上に全身使っての移動やらなんやらかんやら。教えても良いものは殆ど叩き込んだ。
うん、速く覚えてくれたようで何より。はっはっは。
「た、確かに強くなったって言う自覚は在りますけど……」
「なら良かっただろ?」
「その所為でアタシ今殆ど下半身動けないんですよ!?」
まあそりゃあ、ねぇ?
自分のバトルスタイル変えたんだから仕方ないだろ?
以前のような手斧とかを地面に足をつけたままぶんぶん投げまくるんじゃなく、短剣を用いて奇襲して即離脱、遠距離からの弓による援護射撃、という。
ちっこいからこれがまた良いんだよなぁ。
「ちっこいって言わないで下さいっ!?」
「いいじゃん。可愛いんだし」
……あれ?
何で頭抱えてブンブン振ってるんですか?
しかも顔赤いぞ? 風邪かー?
「……だから。……誑かすなって」
「うにゅあ!?」
「ぬわぁっ!?」
ウルドの顔が引っ込んだと思ったらレイシアさんが出てきましたよっ!?
「な、なんですかいっ!?」
「……一度、貴方は、自分を見直すべきだと思う」
「何故に!?」
白い眼で見るなっ! 見るなよぉっ!?
「……ういしょ、っと」
「あ、危なっ!?」
窓から出てくるな!?
「……あ」
あ、足が窓の桟に引っかかって、
「……落ちる」
「ぐぇっ!?」
し、尻が俺の腹にっ!?
お、重た――
「……何か?」
「イエナンデモアリマセンッ」
「……よろしい」
し、死ぬ、俺今死亡フラグが確実に立ったぞ!?
「……言わないの?」
「……相変わらずですねレイシアさん」
「……?」
ことりと首を傾げる彼女。
口数を増やしましょうね!!?
「でっ? 何を言わないのかって?」
「……君が、救世主だってこと」
「あー……それかぁ……」
いや、実際どうしようか。
言ってしまえば俺は王国からの逃亡者。
その上なんかとんでもない力が在るらしい。
でもなぁ。
面倒くさいし、そういうの。
俺は俺のために生きてるんだし。
「……私は、言わなくても良いと思う」
「……まあ、どっちでもいいんだけど」
何とはなしに空を見上げる。
どうだっていいのだ。
これから魔王のことを知るために帝都に行くのも、俺をこの世界へと呼んだ世界に対するあてつけのようなもんだし。
「……素直じゃない」
「うっさい」
なにニヤニヤしてんだっ!
「……別に?」
「うあああああ」
腹立つー!!
くそう!?
むにゅりとレイシアの頬を引っ張る
うわ、柔い!?
「…………ひゃにひゅりゅにょ」
「お仕置」
「……」
「うぬ!?」
頬を引っ張られた。痛い。
「ぬうううう!!?」
「……うにゅううううううぅぅぅぅっ」
何でレイシアのほうが力はいってんだ!?
「「……ううううううううう!!!」」
「……あのー、お二方ー……? アタシは無視ですかー……?」
「……ヴォフ」
「ああ、アリガト、リヴォルグ……」
のどかな一日であった。