10th 行く先
紋章。
世界とは異なる、外れたチカラ。
一騎当千のチカラを宿すモノ。
英雄が振るい、魔王が扱い、聖者が掲げ、闇者が携えた。
ソレは、人の物にしては大きすぎるチカラ、らしい。
実際、俺がそんな能力を使えたことはないし、どんなものなのかもわからない。
まあ、試そうと思うほど力が欲しいわけでもない。
とは言え、持っていることは、四六時中隣にいるようなもんの、相方にはばれてしまうもので。
「……怨めしい」
「ちょっ!?」
いきなりナイフで抉ろうとすんなッ!!
夜。
行く当ての無い旅の途中、宿泊、と言うか此処数日の間根城にしている宿で、風呂から上がってきた時に偶然、右手の甲を見られた。勿論レイシアに。
「……何で貴方が持ってるの」
「いや、何でって聞かれても……」
説明の仕様が無いですね、ハイ。
大体、其処を言うと俺が異世界から連れてこられたと言う事を言わなきゃいけないし、そうなったらそうなったで面倒だしなぁ……。
「……怨めしい、から、ナイフが、滑る、かも」
「ハイ分かりました言います言います言いますからその鋭いメスを手の甲に突きつけるのは止めてェッ!?」
弱いとか言うな!! 手が痛いんだよ!!
で、十数分後。
「……ご愁傷様」
「……」
思わず膝をついていた自分がいたのでした。
だってさ? 誰だって脱力するだろ?
「……まさか、救世主の一人だったとは」
「本当に大袈裟すぎるだろソレ……」
救世主。つまりは世界を救う者。
そんなものは俺の肩には重過ぎる。
俺は俺の思うとおりに生きてるだけだ。
「……それで、どうするの?」
「……何が?」
「……世界。……救うの?」
いきなり何を言い出しますか!?
世界!? 救う!? はい!?
「いやいやいや!? どうやったって無理でしょ!? そんな責任は背負えないって!!」
「……救世主、じゃ、ないの?」
そんなたいそうなものになった覚えはこれっぽっちもございません!!!
大体、行き成り人を呼び出しておいて世界の命運を他人に預けるのも頭おかしいと思うんだけどどうでしょう。
まあでも、
「俺は只の人間で、そんなたいそうな奴じゃない」
目の前にもしも悪い奴が居るのならば、殴り倒す。
それだけ。
だから、これは自分のためで、世界を救うとかそんなのじゃない。
「……素直じゃない」
「うるさいっ」
何でにやけ顔なんだよ!!
まあ、そうだとしてもこれからどうするか。
それを話し合わなきゃいけないわけで。
「……今現在の私達の拠点が、此処」
「まあ、そうだよな」
「……魔王が居たと言われているのは、現在ムグルス帝国。……あそこは、魔物の質が高い。……装備とかをそろえるのに最適」
「ああ、そうだな。色々と最適だよな?」
無言でこくりと頷くレイシア。
よし、これで行く先が決まった。
取り敢えずは適当な依頼でも見つけて、北西へと向かうことになるのだった。