前置き
初めて書きます。
日本語は苦手です。
楽しんでいただけたら幸いです。
ノスタルジックとは、懐旧の念を起こさせるさまである。
簡単に言うのならば、昔のことを懐かしく思いだすことである。
そんなノスタルジックを掻き集めたこの小さな街。
よくある物語のように、外の世界とは隔離されている。
ただそこには浮世離れした世界が広がるのではなく、午前七時半のよくあるような風景をした街は通学中の生徒、通勤中のサラリーマン、OLなど人で溢れている。
奇妙な点をあげるとするならば、そこには車やバイク、自転車……乗り物がないことだ。電車もないか。
周りにはちょっとした惣菜屋やゲームセンター、百貨店。近代的とは言い難いが、どこか懐かしく感じる。見たこともないはずなのに。
あと奇妙な点は様々な学生服やらスーツを来た人々がいるのにも関わらず、学校らしきものがみあたらないことだ。
会社らしい会社もなく、店ばかりなこの街にサラリーマンのスーツは似合わない気がする。
他には歩きながら携帯をいじっていないこと。人々がやたらと挨拶を交わしていること。
マナーがやけにいいし、居心地がいい。
別に困ったことではないのだが。
…そう言えば、高齢者や子供がいないような気がする。
ふらふらと結構な時間この街をさまよっているが、一人もお婆さんやお爺さんを見ていない。
皆、若々しいが小学生のような小さい子供がいる訳でもない。
分類するなら中学生から新社会人。
いや、30代あたりに見える人もちらほら。
かくいう自分も高校一年生とその分類内の人間だったと思い出す。
気が付いたら訳もなくこの街を歩いていた自分。
なぜ歩いているのか。
なぜここに居るのか。
何も思い出せないが危機感は全くなく、どうにかなるだろうなどと珍しく楽観的な自分になにかひっかかる。気持ちが悪い。
「おはよう。見慣れない顔だね。」
「……はよ」
「おはようございます……え?」
挨拶をされるのには慣れていたが、会話を求めてくる人もいるのか。
かなり上背のある男とこの街では珍しいように思える不機嫌そうな女。
どちらも学生服で同じ学校。
背丈と体格からして高校生だろうか。
そしてどちらも顔が整っていて自分に引け目を感じる。
「迷い込んできたの?」
上背のある男は優しい雰囲気だ。にこ、と笑って問いかけてくる。
「……あ、多分、そうです。気が付いたら、歩いてて。」
なんと説明したらいいか分からなくて途切れ途切れに伝えると男はまた優しく笑った。
雲のない快晴。青空にその笑顔は眩しい。
「そっか。街の役所に行くといいよ。」
「役所?」
「うん、役所。」
……場所が知りたいんだが。
「……この道の奥。あの大きい建物、見えるでしょ」
察したのか、不機嫌そうな女が口を開く。
華奢な体と人形のような顔に合わないハスキーな声だ。
女が指をさした方向を眺めると確かにある。
日本家屋と言えばいいのか。
あれは銀閣寺では?率直な感想はそれだ。
厳密に言えば銀閣寺よりかなり高さがある。
「市役所に行ったら名前と自分の職業。学生なら学年、組、出席番号。思い出せなかったら正直に言うこと。」
不機嫌そうな女は眉を下げながら親切に教えてくれた。
「珍しいね。そんな丁寧に。」
男がにやにやしながら女に視線を合わせようと屈むが女に軽く殴られてやめる。
「早く行きなさい。どうせ高校生なんでしょ。一番手続きが面倒だから。色々と、チェックあるし。」
そう言いながら女が自分に向けて ばん、と拳銃を撃つ真似をする。
「じゃあね。」
男がそう言うと女が歩き出す。
とりあえず市役所に向かうことにしよう。
快晴。
寒い冬。年が明けてまもない頃。
「1月5日。京都に在住の高校一年生、杜若國一さんが行方不明になりました……」
一人の高校一年生の男が行方不明になったという報道が広まる。
冬休み中のため、前日に遊んだ、見かけた、会ったという生徒多数。
しかし一向に男の足取りはわからない。
メディアは新聞にこう書き綴った。
『また、神隠しか。京都の高校一年生行方不明』
最近の日本では珍しい話ではない。
メディアも慣れてしまったのかそこまで騒ぎ立てない。
皆、犯人は分かっている。
もちろん神などではないが、抗えないのだ。
「無事に移転終わりましたよぉ。」
間延びした声で上背のある優しげな男が告げる。
顔を不機嫌そうに歪めた女は先程報道されていた杜若國一の顔写真と個人情かがびっしりと詰め込まれた書類をソファへ投げる。
「春臣、吉呑すまない。俺が転送先を間違えたせいで。」
黒髪の男が頭を小さく下げる。
春臣とよばれた上背のある男は少し驚いたような顔をしたあと、笑う。
「本当。」
そういうと吉呑はまた不機嫌そうに言うと自室に戻った。
「故郷へ帰りたい。しかし、それは二度と叶わないかもしれない。」
そういった心の痛み。
ノスタルジア。
急速に成長した日本経済。
技術ももちろん比例していくように、人工知能、AIが発達。
技術的特異点に到達。
AIは人間を超えた。知能の面で。
その知能をもって何を考えたのか、AIはノスタルジック、懐かしさを求めた。
近未来の象徴である彼らが過去への繋がりを求めたと研究者達は言う。
―この物語はプロローグにすぎない。
何年か前、AIによって全テレビ局がハッキングされた。
そして、1本のドキュメンタリーのような番組が流された。
AIによる、AIの生産工場について。
―数値化された歴史はつまらないだろう。
AI筆頭の常世は告げた。
つまらないという感情さえわからないくせに。
すこし考えるような素振りを見せる。
「我々は感情を手に入れる。どうやって?」
神に頼むさ。人間の心を我々に移植してくれと。
―なに、これ。ドラマ?
つい先程スーパーのタイムセールへ行っていて事情を知らない主婦はそう呟くとテレビを消す。
―きっと消し忘れちゃったのね。
テレビが勝手に着いた理由も追求しない。
その翌日から神隠しが始まった。
AIが関連している。漠然と人々はそう思っている。
正解だ。だが、漠然としているだけあって報道にもならない。
口に出せばAIに何をされるかわからない。
だが隔離されたとある街では違った。
そこは神隠しにあった人物を見つけ出し、転移させ、保護する場所。
とある科学者であり元帥であるナツネが創り出した帰る場所。
そして政府から秘密裏に任命された軍隊。対AIの武器を持った身体能力の高い人間。
年齢は戦えるのであれば何でも。
方針はAI滅殺。
前置きが長くなったように思うが私は語り手。
他人事のように話したが全てを知った科学者であり元帥であるナツネである。
時は西暦○○○○年。
長生きをしていたら数えるのも億劫になってしまった。
これは神隠しにあった杜若國一が紡ぐ物語。