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神様の副産物  作者: オビ
1/1

転生と出会い 編

神隠し



 2135年現在、日本国

 世界共通認識:魔法   和名:神通力

        魔力   和名:妖力


 日本国登録属性

 五大元素:地、火、水、風、空

 

 魔法については国家資格とする、検査を受け筆記、実技試験に合格した者のみ特待措置あり。

 参加資格:身元保証書、または紹介状、身分証明出来るものを持参すること。


 うっかりしていた。アメリカとドイツで国家資格はとったし大学も卒業できたけど日本に帰ってきたら、まるで意味のない資格だ。なんてこった。



Side:Taku



 戸澗先拓は五歳で孤児になった。

 それはもう残忍な殺され方で家族を失ったからだ。

 

 犯人は捕まっていない。


 そして僕には前世の記憶が蘇った。


 家族が殺された現場は戸澗先家で第一発見者は僕だった。公園で、くんちゃんと遊んだ後帰宅したら血溜まりが出来たフローリングに横たわって動かない父と母だった齧られたような痕のある肉の塊が落ちているのを見て僕は慟哭したのだ。喉が潰れて泣きすぎて目が溶けてしまうのではないかと思うくらい泣いて脳が擦り切れるくらい熱くなって気を失った。

 悲しい、なんで、僕の家族が、どうして、悲しい、帰ってきて、お帰りって頭をなでて、声を聞かせて、触って、おとうさん、おかあさん、どうして、なんで


 そんな声が聞こえた気がしたと思ったら俺の手は小さくなっていた。普通に三十九歳まで生きて彼女にプロポーズをあっさりフラれて、翌日に後輩と飲みに行ったら信号無視の軽自動車に撥ねられたはずの己の手は小さく、知らない子になっていた。おまけに孤児だ。

 

 犯人も捕まらず、家族は無残にも殺され僕を引き取ってくれるような親族もいなかったので後日、僕は警察のお兄さんから施設でお世話になるように手続きされた。警察のお兄さんは僕にとても優しく良くしてくれたので感謝している。きっと僕の引き取り手が居ないことも心を痛めて警察の領分じゃないことまで協力してくれたのだ。



 施設の職員だという身なりの良いお兄さんに手を引かれ僕は施設へ向かった。

 施設までの道中お兄さんと少しお話した。彼は藤原真さんと言って本当はもう一人来るはずだったが急な用事で来れなくなってしまったそうだ。別に僕としては誰が来ても初対面だしどうでもいいことだった。

 

 ついたよ、と手を引かれ車を降りると施設の横には大きなビルが建っていて大人のスーツを着た人が出入りしていた。施設の建物に入るとエントランスで受付をして入っていく。ずいぶんとセキュリティのしっかりした場所だなと感心しているとエレベーターであがった先にある食堂のような場所で子供たちが着席していた。


 「今日から、ここで一緒に生活する『とまさき たく』くんです。」

 職員の迎えにきてくれたお姉さんではなく恰幅のいいおばさん中川さんが僕の紹介をホームに住む子にしてくれた。


 「戸澗先拓です。よろしくお願いします。」

 無難な挨拶を済ませるとちょうど昼食の時間だったので僕も一緒に食事をとることになった。

 朝夕、学校がなければ昼などは食堂でご飯を食べるようだ。小学校高学年から中学生になると食堂や調理室が使えるらしい。高校生になると共有スペースにキッチンがあり、そこで食べることもあるらしい。

 昼食の後に職員が施設内を案内しながら、説明してくれた。


 僕は自分にあてがわれた部屋へ案内される。


 ここの施設は、元は大きな製薬会社の社員が子供を預けられる託児所だったそうだが次第に規模が大きくなり会社の隣に別棟を建設し出来たところだそうだ。だから僕みたいに不幸な事故で家族を失った子もいれば日帰りで帰っていく社員の子もいる。

 施設の中は建築されたばかりとういうこともあり清潔で、家がない子はここで生活しなければいけないのだが、快適な空間に文句を言う子は少ないそうだ。

 後ろ盾がなくとも大人になって自立できるようにがコンセプトらしい。


 「ここが戸澗先くんの部屋になります。本来は小学生から二人で一部屋なんだけど、一人部屋で申請されてたけど本当に大丈夫?奇数になってしまうけど三人部屋のほうが良ければ調整するけど、どうします?」


 僕はまだ小学生ではない。次の春から小学校に上がるのだが、この機を逃すと小学生と三人部屋か幼児達と大部屋で一緒になってしまうのでそれは避けたかった。


 「いえ、一人で大丈夫です。ありがとうございます。」


 僕のはっきりした物言いや自分で決断して決められることに関して職員は最初物珍し気だったが、一応愛想よく受け答えしていれば手がかからないと思ってくれたようで最低限しか干渉してこなくなった。



 施設に行く前までは僕は、事件現場で気を失ってしまい救急車で運ばれ入院していた。そこで誕生日を迎えたが素直に喜べる状況じゃなかったし祝ってくれる家族はもういないのだ。仕方のないことだ。


 部屋にはロフトにベッド、その下にもソファベッドとローテーブルに備え付けのユニットバスとトイレ、クローゼットに冷蔵庫があった。これでキッチンがあったら前世で借りていたワンルームマンションとそっくりだなと独り言ちながら、シャワーを浴びてパジャマに着替えた。やっと人心地ついて頭の中、現状の整理ができると思ったが、子供の体では体力が限界だったようで、そっと瞼は降りた。


 これはおそらく夢だ。


 真っ白な空間で目の前に「神様だよ!」って名乗り上げる人?がいてわけが分からない。人間ってのは想定の範囲を超えた事象が起こるとパニックするのだ、つまり目の前のことから目をそらす。現実逃避。


 「君の身に起こったことを説明しなければいけないから手っ取り早く夢に出てみた。」


 そうやって説明が始まったが、まず世界の仕組みとか言われても分からない。

 そりゃ人間の自我ってどこから生まれるんだろうとか、宇宙の際限とか果てしないことを考えたことは、ちょっとはある。


 「美しかったのに。」

 過去形、しかも無表情なのに残念そうに言われた。


 どうも神様的に都合が悪そうなことが起きたらしい。


 神様は藍色の着流しで、顔立ちは整っている。華奢な体躯に見えるがきちんと男性らしい腕や首がチラリと覗いて艶っぽい。 


 当事者でなければ分からないことなんていくらでもある。

 そう、例えば世界の起源とか。

 そんな途方もないこと考えったって仕方がない。でも俺は知らなければいけないのだ。俺が今こうして前世の記憶を保持して転生しここに何故居るのか。そもそも本当の戸澗先拓という人間はどこに行ったのか。


 「あー、彼の所謂、魂ってやつは家族の元に送ったよ」

 神様の返答に少しホッとした。俺が彼の体を乗っ取ったわけではないようだ。

 そして素朴な疑問。

 「俺の体は?」

 「燃やされて灰と骨になっているね」

 そっか、火葬されちゃったのか、本当に死んだのか。

 「あれ?そもそも此処は俺の死んだ直後の時代で良いんだよな?という事は彼女に会えるのか?」

 彼女がどうしているか知りたい。一目見るだけでも、会いたい。

 「会えることには会えるけど、おすすめはしないかな」

 「なんで?」

 「分岐増えちゃうから」

 「分岐?そんなゲームのルートみたいな」


 「元々、戸澗先拓という人間が、君のプロポーズ蹴った彼女とは生涯で関りがあったわけじゃないから未来に影響が出ると思う。僕は過去には戻れるけど未来に行くにはちょっと大変だからやらない。」


 神様曰く、点と点を結んで面を作って空間を形成した後、時間軸を追加した人間が住んでいる並行世界に神々はお住まいらしい。並行世界はいくつもあって、それぞれに繋がる神域を管理するものが必要なのだそうだ。

 我々の世界は横に四分割、縦に三分割される。

 神様は色を創った、貴色とされ淡い暖色、濃い寒色、濃い暖色、淡い寒色の四種類を四季とし春夏秋冬と区分され、それぞれに神域とした。そこから更に陸海空と分割され、それぞれに統治者が顕現するとされる。ここは神様が最も多いとされる国。いわば神様たちの箱庭。箱庭から神様たちは時に選ばれた管理者を選出する。


 「要するに、戸澗拓は管理者ってことか?」

 「違う、正確には管理者同士が円滑に能力を発揮できるように力を貸すもの」


 ほほう?さっぱりわからん。

 

 



Side:Haru



 生まれたばかりの事を覚えてる大人は滅多にいないだろう。

 かくいう私も本当に小さかった頃の事は大体覚えてはいない。けれど、たまに小さかった頃の記憶のような夢を何度も見ることがある。

それが何かは分からない。でも、あーこれは、あれだ、なんか小さい時にこんな感じのことがあったわ。くらいの気持ちで夢を見る。今も見る。


 大体私が見る夢は体調、心理状況によって決まってくる。

 それは脚が長い真っ黒く細長い男が自分を追いかけてくる夢だったり、得体の知れないスライム状の物体が家を物色してきたり、お祖母さまの家の天井まで体がふわふわ浮いてしまうもの、大体決まって三種類。不思議なことに同じ内容の夢を見るのだ。


 しかし、記憶の夢は特別な夢である。

 春の麗らかな気候で、草原が広がり青い空が澄んだ桜の見える場所で私は一人でいるのだ。風が気持ちよくて陽射しもポカポカしていて、とても居心地がいい。一人だけど寂しいとは思わなかった。

 何故ならそこは私だから。

 でも、物足りないなとは感じた。感じた瞬間、待っていたとばかりに自然に賑やかになりだした。何か、何者か、楽しそうに、お酒のようなものを掲げているのがいたかと思えば、おいしそうに何かを頬張るものもいて、踊りだしそうなのもいた。一瞬にして桜が並木に連なり花見の宴会模様だ。そして誇らしい気持ちになった。

 私の世界は私の自信と自慢になった。

 兄が七つになる前、兄の秋に出かけた。秋は私の春とはまた違う色がとても綺麗で好きだった。父は夏だったが暑く、時々気持ちがどんよりと落ち込む雰囲気になるので得意ではなかった。冬は知らない。

 でも、どの季節も素敵に違いない。こんなに気持ちがいい上に楽しく誇らしい場所なのだから。

 そんな思い出の混ざった分からない夢を見るのだ。


 そんな夢を見たからか幼き時分にふと口をついてでた問いがあった。

 「おかあさま、おかあさまのキセツは?どこですか?」


 私は春の世界を創る。兄は美しい彩りの秋を創った。父は大人らしい深みのある世界を創ったのだと思う。はて、母は?


 母は嬉しそうに「お父様の季節ですよ」と教えてくれた。

 今、思えば母は名前の話だと思ったかもしれない。


 父の名前は立夏。母は葉月。兄は立秋。私は春。


 さて

 

 脱線し過ぎてしまった。目の前の神様とやらの話を聞こうではないか。

 自称神様は藍色の着流しで、顔立ちは綺麗だ。頼りなさげな体に見えるがきちんと男性らしい筋肉がチラリと覗いて艶っぽい。

 「お嬢ちゃんが見る夢は、夢だけど夢じゃないよ」


 なに?ト●ロ?夢だけど夢じゃなかった~って?

 

 神様曰く、人間は肉体と魂と脳みそが揃って機能する。だが神様と通じる道は魂と脳みそがつなげる。だから夢で神様側の世界を一面的に夢として捉えるんだそうだ。難しい。

 

 「つまり思想が道になる。夢は世界を覗く窓に過ぎない。肉体がそこにないから干渉は出来ない。」


 なんとなく理解に近い結論をだす。

 すると神様は満足そうに頷いた。

 「春、君は管理者だ。しっかり努めてくれたまえ」


 私は平和・平凡・普通が好きだ。


 争いごとや痛いこと苦しいこと、怖いことなんて大嫌いだし、興味がないことは関わりたくないし視界にすらいれたくない。

 だけど生きているんだもの、時々のトラブルは仕方ない。イレギュラーは時としてあるものだ。


 でも思いとは裏腹に私は生まれた時分から稀にみる不思議なモノを持ったらしい。

 最近は更に拍車がかかったようだ。せめて外から見て人害と思われないようにせねばと思うほどに自分がオカシイ自覚はあるのだ。ナニカは分からないが。


 私たちの住む世界は昔は妖や物の怪なんかも人間と共存していたなんてこともあったらしい。

 百鬼夜行とか、陰陽師とか、小説や漫画でよく見かけるネタとしては定番の分類だ。しかし火の無いところに煙は立たないのと同じで、そういった話はそうなるべくして今もあるのだ。人々が口伝ではなく後世に残しておくべきと判断した、もしくは世論を欺くために利用しようと残したものになる。それは木片だったり石碑だったり、紙だったり様々な形だが記録としてあり資料にもなっている。さて実際はどうなのか、もちろん奴らは現代でも形を変え存在している。変化をして、祀られて、時には人間と交わって、子孫を残し、先祖返りをして、そうやって、ゐる。


 私の血縁は複雑だ。時々先祖返りが混じる。

 ここ百年前あたりから超能力が使える人間が世界各地で出現した。外国では魔法と呼ばれたりするが、現在では五大元素「地・水・火・風・空」の属性にジャンル分けして性質判定し個々に使える能力が可視化されるようになった。

 今では国家資格とされ、便利すぎる能力故に悪用されたり術者の身を守るために国で登録としての意味合いでも行われる。もともと富裕層というか、経済的に影響力のある血筋だったり神主や巫女として代々受け継ぐような由緒正しい旧家だったりが魔法、日本では神通力というが使えるらしいので主に後者を守るためにできた仕組みとも言える。 


 先祖返りだってそう何度も起こるわけではない。百年に一度とか、どこかの美少女のように千年に一度の頻度だって過言ではない。

 しかし近年は先祖返りが顕著だ。毎年台風が来る季節の天気予報士がこれは歴史的観測の!とそれほどでもない気持ちにさせられる並みに周りが鬱陶しくなる。正直、出現し過ぎで誰を有難がれば良いか分からない。


 そして私の理想な平和・平凡・普通が凄い勢いで走り去っていく。悲しい。


 

「ミズキだ。面倒見てやれ」



 お祖父さまの住む千葉県のとある屋敷に私を呼んだかと思えば、開口一番これである。お祖父さまのいる和室に通されて顔を見せれば小さな少年がお祖父さまの横でお行儀よく正座して、俯いていた。


 私の家系図は遡るとなかなか複雑だ。何故なら親戚が多すぎる。ややこしい。


 まず目の前に座すお祖父さまは先祖返りが一人だ。しかし、先祖返りとして彼はある条件下でしか力は発揮されない。彼は式神、式鬼神とも書く。鬼人だが呼ばれないと出てこない。もしかしたら、お祖父さまが死ぬときに出てくるんじゃないないかなぁ、と私は思っているが。

 お祖父さまの名前は四季様という。


 そしてお祖父さまの拾って来た隣の彼は先日亡くなった叔従父の御子息だ。要は私の再従弟殿だ。


 たしか父である立夏さんが葬儀に参列したはずだし、叔従父だけでなく、その奥様やご息女も交通事故で一緒に亡くなったと聞いた。一人残された御子息を煙たがる叔従母夫妻から施設にいれるという話が上がって気分が悪かったと珍しく露骨に嫌そうに言っていたのを思い出した。


 その渦中と言ってもいい再従弟殿は先日、行方不明になったと小耳に挟んだけどなぁ。目の前で行儀よく正座していますね。


 お祖父さまが何やら人のような者を拾ってきた。

 と言うより、それは神隠しに近いと思います、お祖父さま。


 言いたいことが山ほどあるがお祖父さまはどうせ面倒がって教えてくれないだろう。顔にもそう書いてある。


 私は人の顔や言動や雰囲気を見て察することが得意だ。その察しはとても良く、当タル。幼少時は加減が出来ずかなり気味悪がられたが今は顔にも出さないし、口にもしないし、己の脳内にとどめる事が可能だ。大人になったのだ。


 面倒、見れるかなぁ。

 しかし、お祖父さまの言は絶対だ。可能な限り逆らわない。

 今日だって本当は京都府警の友人の所へ、とある子供に会いに行く予定だったのにお祖父さまの急な呼び出しに京都から東京駅で乗り換えて千葉まで新幹線と電車とタクシーに乗ってきたのだ。


 ここで昔々、私が生まれる前のちょっとばかし昔の話をしよう。


 神様に気に入られ攫われてしまった方がいたそうだ。父方の親族を遡って二番目さまと呼ばれた方が神隠しにあったらしい。




 二番目さまを壱成様という。




 お祖父さまは三人兄弟の中でも末子で、傍若無人、唯我独尊なところがある。たまに人の話を聞かない。


 お祖父さまにはかつて三人のご兄弟がいらっしゃった。うちすぐ上の二番目のお兄さまは大層可愛らしく次期の後継にと声が上がるほどご聡明であられたが七つになる頃にお隠れになられたそうだ。それからは末子のお祖父さまは二番目さまの代わりのように厳しく後継として不足の無いように育てられたと聞いた。


 お祖父さまは話してくださらないけど、お祖父さまの一番上のお兄さまであらせられる義美さまのご長男、壱季さまが時々家に伝わる逸話をお話ししてくださる。壱季さまは父の従兄に当たる方で後継としてとても期待されていて少し可哀想だ。先日、交通事故で亡くしてしまったので惜しい人をなくしたと嘆かれていた。


 お祖父さまの一番上のお兄さまである義美様は幼少期から何を見ているのか、もはや何か普通には見えないものが見えているのか、何を考えているのか全く分からないちょっと怖い人だ。その為、ご両親には疎まれていたという。権力や財力、富や名声の類に全く興味がないようでいて、当たるとすごいのだ。義美様は興味の赴くままに何か始めるとそれが財となり権力に繋がっているようでそれを支えてきた奥様も素晴らしい手腕だったという。


 そんなわけで、お祖父さまは結果として生家は継がず他家へ婿養子となりお祖母さまの伴侶と相成ったそうな。


 なかなか意味の分からない昔ばなしだが、口伝であれば尾ひれつくものである。話半分に聞いていたがなるほど、もしかしたら二番目さまは本当に攫われてしまったのかもしれないと思うほどに驚いた。それは神様ではなく生きた人間に、だ。




 だってお祖父さまが人間を拾って来たから。




 二番目さまは見目も整った上に優秀な方だったそうなので生きた人間に誘拐、もしくは金で買われたなんてこともあったのかもしれない。物騒だ。


 お祖父さまも一体この少年をどうやって攫って来たのか。手段を知りたいが聞きたくない。なぜならお祖父さまは少年を紹介する時に私に「神様から匿うために連れてきた」と言ったからだ。


 少年は六歳で名前は瑞季という。


 お祖父さまが養子として戸籍に加えたそうなので養父となるが、お祖父ちゃんと呼ばせることにしたらしい。かなりお祖父さまは気に入っているらしく孫の私が見たことがないくらい好好爺となっている。



 「そういえばお祖父さま、神様で思い出しましたけど夢で逢いましたよ」


 一気に眉間にしわを寄せたお祖父さまが睨みつけるようにこちらを見た。

 「神様はなんて?」

 「春、君は管理者だ。って」


 「管理者…それは想定内だから問題ない。」

 「管理者ってなんですか」

 「聞かなかったのか?」

 「はい。」こっくりと頷くとお祖父さまは、「まぁ時期に分かるだろう」と教えてもらえなかった。


 「ところでお祖父さま、随分可愛がっているようですけど何故私に名指しで?」

 なんで自分で面倒みないのですか、と遠回しに聞いてみる。

 「儂は学校の手続きや子供に必要なものが分からん、金ならあるから心配するな」

 なるほど、事務的なことをやれって事かな?


 「お祖父さま、彼、ミズキはこの家に住むのですか?」それとも私が引き取るのかな

 「いずれこの家は瑞季に譲るつもりだが、春はここで一緒に住むのと今拠点にしているところと、どちらのほうが都合がいいんだ」

 驚いた、この家を譲るのか。


 「そうですね、あと一年は今の拠点のほうがいいです。関西なのでここから通うのはちょっと面倒ですね。その代わり、一年後なら拠点は関東に移しても構いません。」

 そうして一年後、私は千葉県に移り住むことになった。 


 それにしても瑞季、ね。


 お祖父さまの名前は四季様。父の兄の名前は瑞祥様。偶然かな、出来過ぎだね、先祖返りかなぁ。

 でも先祖返りの兆候は七歳までに出るはずだ。どうやら兆候はないようだし、彼は一体どうして神様から逃げるようなことをするのかな。お祖父さまは何を知っているのかな。


 気になるなぁ。でも余計な首を突っ込んで噛まれたくないなぁ。ふふふ。


 さて明日は瑞季くんと仲良くなるために何しようかな。

 


難産。

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