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転生先でゲーム脳をフル回転する話  作者: 外付けうち窓
第一章 チュートリアルでフル回転
7/12

セーブ7回目 更に闘う者達と魔法の盾と魔力の腕

続きました。今回少し長いかもしれません。ボス戦は精神すり減らすこともあるもんです。

 鬼二人のいた場所から離れ、木々に囲まれた道を進む。この依頼が始まってからずっと同じような道を歩いてきたが、この辺りは今までと明らかに違う…生き物の気配がまるでしない。

 途中までは鳥の鳴き声が聞こえたり、草陰を小動物が移動する音なんかが聞こえていたが……


「どうなってんだこれ…」


 依頼が始まってから同じようなことを何回も言っている気がする。しかし、意味合いが微妙に違う。今までのは、”何か起こりそうな場所でなにも起こらないことに対する漠然とした疑問”をもった発言、今回のは”こんな異常な状況を作り出したのはどんな化け物なのか”という少し恐怖を感じながらの発言。


 まぁ、考えていても仕方ない。引き受けたからにはクリアするしかないのだ………セーブしておけばよかったなぁ。


 ………


 異常な空気の中歩き続けると、開けた場所が見えた。そこには小さな祠とこの空気の元凶と思われる黒く大きななにかがあった。


(あれが鬼たちの言ってたトロールもどきか。動かないが…寝ているのか?とりあえずステータスの確認だ)


名前 不明 種族 不明

LV(レベル)

HP(体力)250 MP(魔力)10

AP(攻撃力)45 DP(防御力)50

MAP(魔攻力)15 MDP(魔防力)

SP(素早さ)

メイン 鈍器(樹木)

サブ  なし


「………無理じゃね?これ。」


 無意識のうちに声が出ていた。現状ダメージ計算もわかりきっていないしステータスだけで判断すれば俺の攻撃は通らない。さらに相手の攻撃でほぼワンパンでこちらは死ぬ。俗に言うオワタ式である………だが、魔防は5と貧弱なステータス、突破口があるとすればそこだ。


「スゥー…フゥー…やってみるしかないかぁ」


 深呼吸し、心を落ち着かせる。そして寝ているトロールもどきに近づき、初段三倍ダメージを狙って魔力を纏わせた拳で思い切り殴る。


「経験値を……よこせぇ!!!」


 生き物を殴った音が周囲に響く。しかし、殴った本人が受ける印象は良いものではなかった。


 殴った拳は相手の体に少し沈んで止まったのだ。恐らく脂肪に阻まれたのだろう、さらに少し先には硬い壁のようなものを感じる。多分筋肉だ…これはダメージ通すのは一苦労だな。


 考えていると黒い体が動き始めた。すぐに離れ相手の全体を視界に入れる。


 大体二階建ての家と同じくらいの背丈、短めの足と長い腕、前に突き出た腹と少しとぼけたような顔と下顎から生える二本の牙、そして全身真っ黒のデカブツ。

 トロールもどきと鬼たちが言っていた生き物…もどきというのは面倒だから黒トロールとでも呼ぶか。


 黒トロールは起き上がると周りを見渡し、近くに落ちていた折れた樹木を拾い上げ、大きく咆哮した。


『グォォォォォォォォ!!!』


「さぁ。ボス戦のスタートだ!」











 とは言ったものの、相手のリーチは長い腕+樹木というふざけた範囲だが、こちらは腕の届く距離という勝負にならないものでしかない。今回も相手の隙を狙う戦い方になるだろう。

 幸い、相手の攻撃速度は遅く見切れないものでもないし、攻撃と攻撃の間に隙がある、懐に飛び込んで攻撃するのは簡単だ。

 ただし、攻撃のたびにブゥオン!ブゥオン!と空を切る低い音がする。さながら、死神が鎌を振るような音に聞こえる…というか当たれば死ぬのなら本当に死神の鎌だよな…


「考えててもどうにもならんよな…とにかく殴っていくしかねーか!」


 地面すれすれを横に薙ぎ払う樹木を飛び越え、黒トロールの足元に入り込む。


「くらえ!デカブツがぁ!!」


 叫びながら拳や足で数撃叩き込む。しかしどれも致命的なダメージを与えられない。それどころか、殴られている最中に黒トロールが足を動かし反撃してきた。

 足元から抜け出し距離を取る。もう一度攻撃の隙を伺うしかない。


 そんな攻防を続けていると、頭に嫌な予感が過ぎる。


(こいつ…スーパーアーマー持ちか?)


補足 スーパーアーマーとは、格闘ゲームなどでキャラクターが攻撃されても怯まない状態のことを言います。


 だとしたら厄介極まりない。攻撃しても怯まないということは相手の攻撃を止められないということだ。

 足に攻撃したように腕や腹にも殴ってみたが、反応は同じようなものだった。拳は脂肪に阻まれダメージにはならず、攻撃の途中に相手の攻撃が割って入ってくる。腹に至っては厚い脂肪が空気の入った柔らかいボールのようになっていて、拳がはじき返されてしまった。


「くっそ!銃弾は通るか…?」


 この戦況をどうにかしてくれと願いながら1発、2発と引き金を引く。

 発砲音とともに弾丸が相手に飛んでいく。1発目は足に着弾し、2発目は肩に着弾した。が、2発ともはじき返されあらぬ方向に飛んで行った。肉に食い込むことはなく、黒トロールはまるで小石でも投げつけられたかのような反応をしている。


「ちっくしょう…火力が足りないってのかよ!」


 なかば自棄になりながら3発目を撃つ。弾丸は黒トロールの顔面目掛けて飛んでいくが、結局先の2発同様にはじかれてしまった…


 だが、顔面に弾丸が当たった瞬間、黒トロールの動きが一瞬、ほんの一瞬止まった。

 その光景を見た時、霧がかかったような頭の中が一気に晴れ、黒トロールが倒れているビジョンが鮮明に見えたーーー勝ちへの道筋だ。


「なるほど…勝ちが見えた…」


 もう攻撃してこないのかと黒トロールが樹木を叩きつけてくる。

 その攻撃を避け、相手の顔の目の前まで飛び上がり、


「後隙狙って顔面ぶん殴れってことか!!!!!」


 バキィ!!という音と共にこの戦い始まって初めて、まともにダメージを通したという感触が拳に伝わってくる。

 殴られた黒トロールは低いうめき声をあげながら後ろに倒れる。しかし、


『グォオォオアァァ!』


 すぐに立ち上がり樹木を振り回してくる。


「大振りな攻撃は威力がでかい分…隙もでかいんだぜ!」


 2回3回と振り回された樹木を潜り抜け、黒トロールの腕を足場に飛び上がる。そして顔面目掛けて右ストレート、左アッパー、回し蹴りを素早く、力を込めて叩き込む。最後の回し蹴りがうまく入ったのか、黒トロールの牙を一本へし折った。


 さすがに効いたのか、黒トロールは少し後ずさりした。が、後ずさりながら左腕を伸ばし、こちらの足を掴んできた。


「げ?!掴まれ…うぅお?!」


 掴まれたと認識した数秒後には、背中に鈍く広い痛みが走った。


「ごふッ!…ぐぇぇ……これ痛ってぇで済む話じゃねーぞ…」


 おそらく投げつけられたのだろう。心なしか意識が朦朧とし視界も少し霞んでいる…よくあんなのに投げられて生きていたもんだ…


(まずい、ダメージで体がうまく動かない…焦点も微妙に合ってない………気のせいか、あいつなんか怒ってねぇ?)


 ぼんやりと見えるそれは、荒い息使いで樹木を振り回し、何かを探しているようだった。が、探すより先に辺りを樹木でむやみに叩きつけている。我を忘れて怒り狂っているといった感じだ。

 ついでに攻撃スピードもさっきより早く、懐に飛び込むのは困難な状態だ。


(なによりこんな状態で見つかったら攻撃避けられなくて死ぬよなぁ…)


 嫌なことを考えてしまった。ダメージを受けて気弱になっているのか…そこに追い打ちとかばかりに最悪の状況になる。


 暴れ狂う化け物に見つかってしまった。こちらを見据えると興奮した闘牛のように突進してきた。


(やばい、とんでもなくやばい。体がうまく動かないから避けるのは無理だ。かといって防ぐのも無理。何かこの状況を打破する方法はないのか…なにか…なにか…)


 朦朧とした意識の中、脳だけはこの状況を打破するために猛スピードで回転している。


(…そういえば、魔法強化のスキルに付随してたやつに魔法でダメージ軽減とかあったな、でもダメージ受けた時それらしいものが発動した感じしなかたんだけど………もしかして常時発動タイプじゃなくて宣言して発動するタイプなのか?)


 朦朧とした意識で考えていると、視界の端に化け物の攻撃が迫っていた。


(あぁ、なんか攻撃きてんなぁ。とりあえず…シールドで防いどくかぁ)


ガキィィン!!!!!!


 その音を聞いた時、朦朧とした意識がパっと一つになった。


「なんだ?なにが起こった?!」


 状況を理解できず辺りを見渡していると、自分の左腕が上のほうを向いてるのに気づき、それに続いて視界の上のほうにある”それ”に気付いた。


 ”それ”は半透明の円に幾何学模様が刻まれていて、ぼんやり青白く発光し目の前の樹木から自分の体を防いでいた。


「なんだこれ?!いや、とにかく今はここから離れるのが先決だ!!」


 円の外にでると、”それ”は消えてなくなり、樹木は地面に叩きつけられた。その衝撃で土煙が舞い、こちらの姿を隠した。


(よし!今なら回復できそうだ!…つっても音出して気付かれたりしたくないなぁ…たしか基本スキルの付随効果に体力回復があったな!)


 先の戦いのあと、回復薬を飲んだ時を思い出す。体から痛みが抜けていく感覚を、強く意識する。

 …意識しているだけなのに本当に痛みが引いていく。体の動きももう阻害されない。やっぱり転生者の使えるスキルは基本チートじみてるものなんだな。


 数秒すると砂煙が晴れ、黒トロールの姿を発見する。どうやらまだ怒っているようだ。だが、こちらも体の痛みは消え、万全の体制が整っている。


「よし、デカブツ…最終ラウンドと行こうか」


『ゴガァァァッァァアア!!!!』


 黒トロールは叫び声をあげながらこちらに突っ込んでくる。さっきも見たが、あのスピードの連撃を潜り抜けるのは厳しい。なら、一発目で怯ませ、次の攻撃で息の根を止める。牽制で使う攻撃はすでに考えている。格ゲーで牽制と言えば小足やこれがまっさきに思い浮かぶというもの。


 頭の中で動きのイメージをする。そのイメージと同じ動きを体でする。そして技の名前を言う…


「波〇拳!」


 バシュッ!という音と共に両拳と同じくらいの大きさの青白い塊が敵の顔面目掛け飛んでいき、バシィ!という音と共に弾けた。黒トロールの動きが止まった。今だ。


 全力でデカブツに走っていく。走りながら右拳に魔力を貯める。MPの消費量はケチったりしない、残りのMP全部突っ込む。

 少しづつ魔力が拳からはみ出してくる。はみ出した魔力は拳ではなく腕や肘に溜まっていく。それでも魔力を貯めていく。

 さらに魔力を貯めていくと、突然貯めていた魔力が腕から離れた、と同時に肩に魔力が集まる感覚がある。右側を確認すると、魔力を纏った右拳のすぐ横に、青白く光り、炎のように揺らめく腕が右肩から伸びている。その腕は右腕の動きを追随してくる。


「なるほど、これで殴れってことか!!」


 叫びながらデカブツの目の前に飛び出す。相手も攻撃の体勢に入っている。しかしこちらが殴るのが早い。


「くたばれデカブツがぁぁぁぁ!!!!!」


 渾身の力で殴りぬく。右拳は相手の鼻を捉えへし折った。その動きに追随し魔力で形作られた腕が動く。捉えたのは額、魔力の腕はその額を砕いた。


『グゥォァァァ!!!』


 断末魔の叫びをあげながら黒トロールは後ろに倒れ、ズズーン…という地響きの音のあとはピクリとも動かなくなった…


 ………


 勝った………貯まった疲れのせいで足がもつれ地面に大の字で倒れる。達成感や疲労感を感じていると心の底から言いたいことが浮かんできた。


「やっぱ…難易度高くねぇ?」




続くといいな

多分続くと思います。強敵に勝利したときは右腕を掲げるもんです。

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