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ひみつのお兄ちゃん

翌週の土曜日は、先週の週末ほどの快晴ではなかったが、それでも良く晴れていた。白い雲が、黒みがかった腹を見せて、僕らの上を通り過ぎる。山手線から見える都市の緑は、先日降った雨に洗われて、生まれ変わったように輝いていた。緑色が都市計画の端数を埋めていく5月。


秋葉原の駅で降り、先週、日比野と行った店に僕一人で向かった。先週同様、彼も誘ったのだけれど、彼は、色々と理由を付けてそれを断った。そもそも、遠慮や、雰囲気を察するという感覚に乏しい人間なのだ。僕と朱音さんが紹介してくれる女性との現場に自分がいたら、きっとお邪魔だろうという配慮が働いたとは、とても思えなかった。むしろ普段の彼ならば、女の子に興味など無いような顔をして、ひょうひょうと付いてきたに違いなかった。彼は単純に、妹とあの店で再び会うのが、嫌だったに違いない。


あの後、僕は朱音さんと何通かメールをやりとりしていた。彼女が紹介すると言っていた女性は、彼女の大学の先輩で、去年までテニス部の主将をやっていたそうだ。朱音さんも、高校からテニスをしていたから、この先輩には大学に入学してからずっとお世話になっていたのだという。


“じゃあ、祐介さんと同い年ですね

☆先輩ももう四年生になるので今年

で卒業です。私はそうなる前に、先

輩に少しでも恩返ししたいのです”


彼女はメールでそう書いていた。僕なんかが、恩返しになるのかな。

正直にそう書くと、


“なれます!私の見込んだ男なんで

すから!”


と返事が返ってきた。それなら僕は君が....、とでも、せっかくだから書いてみようかとも思ったが、真剣そのものの彼女の姿勢に対して、ちょっとふざけ過ぎのような気もしたので、やめておいた。あんなにかわいい子なのだから、大切な人は、きっともういるに違いないとも思った。


それにしても、僕にはどうして、彼女があの時、その女性を他ならぬ彼の兄にも紹介しようとしなかったのか、ずっと気になっていた。僕の前では仲たがいしているように見せていたが、兄妹なんて、人前ではああしていても、実際には意外に仲がよかったりすることがよくあるものだ。言い古された表現だが、喧嘩をするということは、お互いを心配していることの裏返しであったりする。もしかすると、彼女はあらかじめ、兄にその女性についての話をしていたのかもしれないと思った。物のついでに、僕はそのことも訊ねてみた。時間が少し空いて、彼女から返事が返ってきた。



“兄には彼女がいますよ。知らな

かったのですか?”


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