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私の、何が。

こんなことがあった。


あれは付き合い始めてどれくらいたった頃のことだろう。

彼女と、初めてセックスした時のことだ。


僕の体が彼女の体に近づき、覆いかぶさろうとした刹那、彼女は不思議なものを見るような眼で、僕の顔を見つめていた。女の人が、こういうとき男の顔を見つめることはあることだと思うけれど、僕には何だか、その時の彼女の、新しい発見にでも出くわしたような表情が気になった。


一通りのことが終わった後、僕はそのことを思い出した。隣の彼女に、あの時、一体何を考えていたのか聞いてみた。


「『会話』だなって、思った」彼女は言った。

「会話?」彼女の口から意外な答えが返ってきたので、僕は驚いた。

「そう。セックスってね、たとえば男の人がちょっかいを出し始めるでしょ?」


彼女は暗闇の中で、僕の目をまっすぐ見て話し始めた。薄暗がりの部屋の中で、残光のようなグローランプの光を反射して、彼女の瞳はほのかに、火を灯したような輝きを宿している。


「すると女の人が反応するよね。今日の私は、なんだか恥ずかしがってしまったけど。….でね、それを見ると、男の人はまた次の対応をとる。...あなたは、私の背中をくすぐったっけ」

自分の欲求に突き動かされた、あまり意識的ではない行動を、詳しく彼女に再現されて、僕はずいぶん恥ずかしい思いをした。女の人が意外と冷静なのに驚いた。


「こうやって、二人の間のやり取りがあって、セックスってキャッチボールみたいに進んで行くんだなって、ふと思った。….まるで、お互いの身体で会話しているみたいに。」


それは僕に、彼女と一緒に見た動物番組に出ていた、南国の鳥に住む鳥の果敢で複雑な求愛ダンスを思い出させた。オス鳥の真剣な表情とその最中の自分の表情とを重ね合わせ、僕は思わず苦笑せずにはいられなかった。


「でも、」彼女は続けた。

「...今、あなたに話しながら思ったんだけど、じゃあ、もし、女の人の反応を、完全に再現できるロボットがあったら...、男の人はそれだけで、やっぱり十分なのかな」

「それは...。」


僕は答えに詰まった。それはつまり、セックスに愛情は必要かってことなのだなと僕は理解した。


「それは、そうかもしれないな...。」

僕は自分の行動を思い返してみて、否定する自信がなかった。

「そうだよね」彼女は意外にあっさり僕の答えを受け入れた。

「いくら話しても、届かない言葉はあるものね。会話は成立しているように見えても」彼女は微笑んでいた。


「回りくどい言い方だな」僕は言ってやった。

「...確かに」

ふふ、と声に出して笑った。


「ねえ、」彼女は身体を僕に向けて、急に真面目になって尋ねた。

「あなたは、私の身体のどこが好き?」

「身体の?」

「そう、私の、身体の」


僕らの体にかかっていた毛布を手で持ち上げるようにして、彼女は自分の身体が僕によく見えるようにした。そうして、自分自身でも、自分の身体を覗き込んだ。

「教えてくれない?私にはよく、わからない。この身体の何が、あなたを興奮させるのか。…言い換えれば、ロボットには、何が必要?」

僕は再び、答えに詰まった。


「胸とか、おしりとか、そんなところが男の人にとっては魅力的なんだろうなって、思ってはいるけど、男の人と、女の人の感覚って、違うみたいでしょう?…自分の感覚とは、違うのかなって。」

「全体が、必要なんじゃないかな…」

「全体?」


「…でも、人によって違うみたいだよ。胸だけとか、足だけとか、そういう部分だけで、興奮する人もいるみたい」

「…祐介は?」

彼女はまっすぐに、僕の目を見ていた。

「祐介は、どうなの?」

僕は答えに困ってしまった。

「祐介は、私に何があるから、私を女として、興奮してくれるの?」

彼女の目は真剣だった。


「何がなくなったら、私はあなたにとっての女性ではなくなってしまうの?」


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