1-4
「……なぁ、あのお嬢ちゃん、何かおかしくなかったか?」
ハンナさんの友人宅に行っていくつか話を聞いた後に、彼女の住んでいる下宿先へと向かう途中で車の運転をしていたクレイがそんなことを言い始めた。
「お嬢さんというと、さっきの子か?」
「あぁ、なんというかこう、なんだ。言葉にできんのだが。おまえはそうは思わなかったか?」
クレイがマヤにそう言うと、マヤは髪の毛を指先でいじり、考えるそぶりを少し見せたがすぐにそれをやめ、少し投げやりな様子で
「まぁ、そう言われるとそのような気がしますけど、そう言われなければそう思わないというか。それくらいの些細な違いでしょう?気にすることはないんじゃないかしら?」
と言った。
クレイは、すりや盗みといった犯罪を犯そうとしている人間を見分けたり、体調がいいか悪いかを即座に判断できるなど、人間観察力は確かだ。そのクレイが言うのだから何かはあるのだろうが、いまいち俺にはよくわからなかった。
「あの子、両手にひどい傷があったけど、そういうこと?」
「そうだったのか?」
「うん。ちょっと長袖で見えにくかったかもしれないけど、そこそこひどい傷だった」
「んん……」
クレイは自分の中に感じた違和感にまだ何か納得がいっていない様子で時折うんうん唸ったりした。
彼の運転する車は比較的ゆっくりと進み、全身黒い服装をした集団や謎のお面をかぶった人、外に出ているのにもかかわらず帽子をかぶっていない人、明らかに酔っ払っている警官、魚のような顔の大男など、さまざまな人々を追い抜いてゆく。車内に煙草の煙が充満しないように開け放たれウインドウからは突き刺すような風が入ってきて、少し首回りや耳がひりひりした。
しばらくするとブレイバルを通り越し、目的地の周辺であるアーカムに入った。基本的には俺たちが現在住んでいるアクセルの町とたいした違いはない。赤や茶色のレンガでできた建物や歩道、やたらと黒々としていて、時折大きくでこぼこしている道路。退屈そうにしている新聞屋の店主に、我が物顔で街を闊歩するガラの悪い連中。ゴミ箱の上からこちらを眺めているカラス。違いというと、メガネをかけた真面目そうな少年少女が比較的多いことだろうか。
「確かこの辺だったよな?」
キッ、という音を立てて車がパン屋の前で停まる。
「ベーカリーパッソ……うん、ここで合ってる」
車から降り、後部座席のドアを開けてステラに手を貸すと、
「ありがとう。チップは必要?」
そう言って彼女は少し意地悪そうな笑顔を作って見せ、手をとって車から降りた。
「いや、お気持ちで十分」
マヤの方を見て手を貸そうか?と視線でそう促してみるとマヤは、さっきまでのさびしそうな表情を曇らせ、少し困ったような顔をして首を横に振り、反対側のドアから降りてしまった。
しまった、と思っているとバターン!!という豪快な音がして、
「いや、すまんすまん。ちょっと力が入りすぎた。ここのオーナーに話は付いてるらしいし、妹ちゃんの家に乗り込むか」
とクレイが笑いながら言った。
なかなか話が進まなくてすみません!
感想、レビューなど、お待ちしております!!