同窓会に気を付けろ!
「男を寝とるなら事前調査をすべし!」の続きです。
視点が途中変わります。
最近の彼女の流行はコンビニにあるスイーツ制覇。就職を機に一人暮らしを始めた彼女にとって、一日の仕事の疲れを癒す大事な糖分補給。
食べる直前「お疲れ様」と自分に言う。
食べ終わった時全てがリセットされる。明日の私はこれで大丈夫。
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私の住んでいるマンションの南にはシングルマート、東にはエイトイレブン、西にはハイソン、北にはヤマナラシ等他にも数店舗ある。
さて今日はここにしよう。スイーツを購入し店を後にした。
私は確かにコンビニを出てマンションに向かった。
でも、今は車の中。ロールスロイスの車の中。
某ドラマに出てきた車だ。大財閥令嬢が執事の運転で殺人現場に向かうあの車の中。
「なっちゃん。何のんびりコンビニでスイーツを買っているの。事件だよ。」
今日も私の親友は健在だ。
「私にとって、住宅街でロールスロイスから出てきた黒服黒眼鏡にラチられるように車の中に連れ込まれる。こっちの方が事件だと思うよ。」
仕事を終え、途中の蕎麦屋で晩御飯。予定通り。
食後のスイーツを買って家で食べよう。予定と違う。
「何言ってるの。同窓会だよ。同窓会。」
親友が言うには、今日は親友の弟の高校のクラスの同窓会。
余談だが、親友は5人兄妹で、4番目に生まれた次女、弟は5番目に生まれた三男。
そして、その親友の弟の高校時代と言えば、弟の親友であり自称『乗り鉄』が一緒に文芸部なるものに所属していた時代。また親友の弟が付き合っていた彼女がテニス部だったという時代。
それがどうしたんだと思い親友に問い質す。
「あの女狐ちゃん。弟を落とすって言ったのよ。」
なんでも、同窓会に行くって弟から聞いた親友は、実家の執事に命じて女狐ちゃん=三男の元カノを追跡調査したとのこと。
そして執事から、ある昼下がりのカフェで元カノと友人達が談笑している内容を訊いたのだ。
元カノは言う『彼氏と別れた』。理由は『最近のデートはラーメンに秋葉原。お洒落なカフェに連れて行ってくれない。ラインも返事が遅い。この前のプレゼントはティファニーの紛い物。』
そして『今度同窓会があるの。元彼がいるから声かけようかなぁ。彼、お金持ちらしいのよ。』などを言っていたとのこと。
執事の報告を聞いた親友は、あわてて弟に連絡をとり「同窓会に行ってもいいが気を付けろ」と忠告をし、今日の為計画を練り、今、私をラチったのである。
なんで私をラチったかというのは、私「高橋夏希」は親友「藤原優」の弟「藤原聡」と付き合っているからである。
お互い彼氏彼女に失恋したとき、次の彼氏彼女が出来るまでの仮恋人として冗談で付き合って、はや何年。今や両親公認、親友の大財閥家族の公認を得てしまった。
世界の違いを感じる親友の兄という名の長男、まったく理解できない姉という名の長女、趣味に生きる2番目という名の次男からも認められてしまった。
何故だろう。
「なっちゃん。敵は同窓会にいるのよ。お洒落してお迎えにいくわよ。」
だから何故そうなる。私は不思議に思って聞いてみた。
「同窓会のことはそうちゃんから聞いた。大丈夫だよ。
その元カノちゃん、大学時代に大学の先輩のこと好きになって、そうちゃんと別れた子でしょう?」
ちなみにそうちゃんは親友の弟であり私の彼氏でもある藤原聡のニックネーム。
「そうそう。あの頃は可愛かった。真面目で、礼儀正しくて。でも今は違うの。彼氏と同じ会社で働いているの。」
なんでも、親友の彼氏が働いている会社の総務部に元カノちゃんがいるのだ。世界の狭さを感じる。そして、また総務部?
そして、親友が言うには営業部にひとり、管理部にひとり、あとどっかにひとり、彼氏がいる。
高校の頃は、本当に真面目で図書館デートが定番。ランチも学生なのでマクデイジー。二股通り越して三股するような子ではなかったらしい。
きっと大学で弾けたのだろう。
親友は、同窓会で弟に近づき、あわよくば弟にお持ち帰りされるのを狙っている。だから、お洒落をして、同窓会をしているお店の前で待つ。そして、お持ち帰りを防ぎつつ、牽制する。
「完璧なプランよ。」
なるほどね。でも、今日のこの服装では牽制できない。
グレーのパーカーにインディコブルーのデニムパンツ。しかも破れている。お洒落ではない。本気で破れたのである。
「確認だけど、お洒落とはどういうことだい?」
「私の服と姉の服とどっちがいい?」
車の中でワンピースが二枚出てきた。オフホワイトと紺のワンピース。どちらか選べと言うことらしい。
私は悩んだ。そして、親友に打ち明けることにした。
「優ちゃん。隠していたわけではないの。いや、隠していたの。恥ずかしかったから。実は三日前のことなんだけど・・・。」
私は言いたくなかった。でもこのままでは親友を説得することは出来ない。
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三日前のデートはお互い見たかった映画を鑑賞し、本屋に行き、そしてランチをした。
私はアボガドパスタ、三男はボロネーゼを注文してから、映画の内容のことでお互いの感想を話していた。
すると、三男の後ろの席に女の子が四人座ったのである。
友達らしく仲良くお喋りをしはじめたのだが、急に三男が黙りこくった。そして表情もなくなった。
私は「大丈夫?調子悪い?」と聞いたあと「気分悪いなら帰る?」と確認をした。まだ社会人一年生の三男が無理をして体調が悪くなるのは嫌だと思ったからである。
しかし三男は、少しして予想外のことを小さい声で言ったのだ。
「高校の時に付き合っていた元カノの声。」
そこで私は後ろの席に座った四人組をみた。見た。視た。
昔、まだ付き合っていないときに写真を見せてもらったことが有ったが、・・わからない。女は化粧をすると化けるから。
私は三男が失恋したとき、傷ついて泣いていたのを知っている。
「気になるなら、店出る?」
三男は「ううん」と小さく首を横に振る。
「この前ラインした高校のクラスの同窓会。今度三日後にあるやつ。
数日前に彼女が参加したいって連絡が入ったって、今日幹事が教えてくれた。
不参加の連絡はなかったらしいけど、締め切り過ぎているから参加しないと思っていたからびっくりしたって言っていた。」
同じクラスで付き合っていたから、みんな二人が別れたことを知っている。
他に好きな人が出来たから別れることは別に変なことではない。
でも気を使った幹事が元カノの参加を連絡してくれたらしい。
とりあえず、カフェの隣の席に元カノという状況になってしまった。別れてから一度も会ったことがないらしく、振り返るのは恐いと言っている。
私に遠慮してか同窓会も行きたくないとまで言い出した。
本人は言わないが別れたとき何かあったのだろう。三男の親友である自称乗り鉄なら詳しいだろうが、いかんせん、私はあくまでも当時は姉の親友。詳細は知らない。
お店の店員がパスタを持って来た。
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「彼氏と別れた。」
「どの彼氏?」
「公務員。
聞いてよ。
デートなのに秋葉原で家電製品見て回るの。
そして昼にラーメン。そのラーメンが行列が出来るラーメン屋ならわかるけど、ただの汚いラーメン屋。
お洒落なお店に連れていってくれたの最初の1回だけ。
ラインしても返事は翌日。腹立つ。」
「あのダサオ?でも公務員で給料いいから、高価なプレゼント貰ったって言ってなかった?」
「質に持っていったらティファニーの紛い物だって。」
「嘘、マジで?あり得ない。別れて正解。」
「で、今度高校の同窓会があるの。元カレも参加するんだ。」
「元カレ?そいつもダサオ?」
「ダサくない。でも高校の時は知らなかったんだけど、お金持ちらしいのよね。親が。
だから、声かけて、お持ち帰りを狙おっかなぁ。」
「あれ、他の彼氏は?」
「上手くいったら別れるわよ。営業マンは美味しいお店たくさん知っているから好きだけどそれだけ。管理マンは話が面白いから好きだけどそれだけ。やっぱお金よね。」
そうだ。やっぱ男は金よ。顔は程々でいい。格好いいと自己主張が強くなる。そういえば元カレの親友だった男も公務員になったって聞いた。もしものために声をかけておこう。ちょっと笑顔を見せればあのジミオも喜ぶ。
うん。早くいい男見つけて仕事辞めたい。働きたくない。
「早く結婚したい。仕事したくない。
元カレに声かけて、お持ち帰りしてもらって、既成事実作って、結婚して、仕事辞めて、遊びた~い。」
「わかるわかる。私も。」
「仕事面倒くさいよね。」
とりとめもない話を気の合う友人とするのは好きだけど、満足できない。いい男を横に侍らしたい。自慢したい。
そういえば、奥の席の男、後ろ姿だけど雰囲気が好み。顔見たいな。トイレに行くふりしてちょっとよろめいて見ようかな。一緒にいる女も私ほど可愛くないし。
うん。トイレに行こう。
「ちょっとトイレ。」
私は席を立ち、奥に向かって歩く。そして、わざとよろめいた。
席に座っている男に凭れる。
よし上手くいった。
「ごめんなさい。」
可愛い私。この声完璧。
上目遣いは体制的に無理だから、胸を少し押し付けつつ立ち上がって、
「足が滑っちゃった。ごめんなさい。大丈夫 で す か・・・・・・?」
あれ、この顔好みだけど知っている顔。
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「ちょっと待って。それ、私が執事にストーカーさせた日の事?」
「ストーカー?追跡調査じゃなくて?」
こら、なっちゃん聞いてないよ。どういう事。教えなさい。
「多分そうだと思うけど。執事さんから報告なかった?」
なかった。なかった。続きは?
「だから、元カノとご対面。」
なっちゃんもびっくりの明け透けな会話だったんだが、弟は凄くビックリして精神的ショックも受け固まっていたらしい。
確かに三股事実に、彼氏をダサオと言い、お金持ち大好き発言、更にお持ち帰り希望と聞いて、傷付かないわけがない。
女は打算的だ。私もだが。
でも、弟にとって女狐は初恋の相手。そして初めての彼女。最後は色々あったが、初恋はいつの間にか美しく残るもの。
女狐は弟に気付いて、可愛い声で「そうちゃん」って呼んだそうだ。
弟は更に固まった。
当然だ。さっきまでの女子会トークと今の声、声のトーンが違いすぎる。なっちゃんは私と同じ女子ばっかりの小学校からエスカレーター式で高校まで進んだから馴れているけど。
「で、弟はどうした。」
「ヒキツッテイタ。表情が。」
なっちゃんいわく、肉食動物に狙われた、さながら草食動物の様だった。本気で女狐を怖がったそうだ。そして、情けないことになっちゃんに助けを求めたそうだ。
優しい私の親友は弟を守るため汚れ役を引き受けた。
「だって、可愛い可愛い柴犬が私を見ているんだよ。助けて。助けてって。」
女狐に堂々と挨拶をしたなっちゃんは「それよりさっき凄い大きな声で聞こえてしまったんだけどお持ち帰り希望だったかしら。同窓会、楽しみね」って言ったそうだ。
女狐は血相を変えてトイレに向かったそうだ。
「それだけ?」
「いや、トイレから戻った時に止めを刺したよ。『三股って本当。もてるのね。羨ましい。ねぇ、そうちゃん、同窓会の時に男を落とす必殺技を伝授して貰おう。こういう女に気を付けろ。騙されるなって。同窓会に参加する男子全員今後の勉強のためにも、どうかしら。』って言った。」
それだけ?
なっちゃん甘い。優しすぎる。すぐラインでクラス全員にこの事を伝えないと駄目じゃない。
しかもそのあとは開き直った元カノちゃんが『五月蝿いなぁ。こんな可愛い私が遊んでやるんだから感謝するのが当たり前でしょう。』って言ったとのこと。可愛い?誰が?何処に?いるの?って言いかえし、その後もバトルは続いたらしい。
女狐はなっちゃんを見て可愛くない、オバサン、目が悪いのね、ついでに性格も悪そうって言い出した。
聞いている私の腹が立つ。
でも、なっちゃんはその通りって答えたのだ。可愛くないのは事実。年も一歳上だからオバサンも間違っていない。目は両目1.0で弟の2.0よりは悪い。性格は自分では普通だと思っているが、人から見たら悪いかもしれないねぇと答えた。
なっちゃん、どうしてそう自分を卑下するの。
女狐はなっちゃんの答えが気に入らなかったのか、段々ヒートアップして大きな声で色々言い出した。そして、最後は『私は可愛い。男が私に惚れるのは当然だ。貢ぐのも当然だ。』などなど叫んだのだ。
お店の中で。
結果、店員に『他のお客様にご迷惑になるので静かにして下さい。』と注意を受けたとのこと。お店にいた殆どの客は女狐を見ていたそうだ。女狐は何も食べず友人を置いて一人で帰ってしまったそうだ。
「もしかして今日の同窓会来ないかもねぇ」
なっちゃんは笑っていた。
女狐との口喧嘩を私に知られたくなかったと小さい声で言った。大人なのに子ども見たいな喧嘩をしたことが恥ずかしかったらしい。
なっちゃん可愛い。
結果女狐は同窓会に来なかった。
嫌がるなっちゃんに紺のワンピースを着せて、同窓会が終わる頃に店の前で二人で待つ。
なっちゃんを見た弟は嬉しそうになっちゃんをお持ち帰りしていった。
当然だ。弟の好みぐらい把握している。
本当は姉に相談し3日も悩んだんだ。
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あれから2週間経った。喫茶店にいるのは私と三男。まさかとは思ったが一応確認をしたかった。
「元カノちゃんは総務部から商品管理倉庫へ異動になったんだ。」
「だって、優ちゃんが三股情報握った時点で噂話を広めるように動いたからね。」
そして、恥ずかしそうに爆弾発言。
「あのね、あの日二人の会話をこのボールペン型ボイスレコーダーに録音しちゃったんだ。」
そして、それを一番上のお兄さまに託したそうだ。
再び裏で動いた。裏で権力を圧力を使った。
「あとね、優ちゃんに言われた通り、同窓会、気を付けたよ。お酒飲みすぎないようにした。」
褒めて褒めてという柴犬が尻尾を振って目の前にいる。
優ちゃんに褒めて貰えよ。私はなっちゃんだ。
でも、とりあえず同窓会で何もなくて良かった。
執事は現場に二人がいたことを報告しようとしましたが、報告前に次女が慌てて弟と連絡をとったので報告ができませんでした。執事は仕事をさぼった訳でもなく、面白がって報告しなかった訳でもないです。でも一番上の長男には全部報告しています。