謎にあふれた謎なホテル
発狂寸前の私が訪れた,あるホテルの話.
私はホテルの入り口の前に立っていた。見た事も聞いた事もないホテルだったし、思えば周りに他の建物が全く見えなかったかもしれないが、そんな事は一向気にならなかった。とにかく休みたかったのだ。その頃私は精神の面がとても疲れていたから。
私はホテルに入った。ドアーを通る時ちらと見えたドアマンの顔は、見覚えのある顔だった筈だがしかし定かではない。内装は重厚な感のある造りで、薄暗いロビーには受付がある。
チェックインを済ませて鍵を受け取る。ボーイに荷物を預ける。鍵になんと書かれていたかは全く分からなかったが、私にはどこの部屋に泊まるのかが感じられた。廊下を歩いていると、突き当たりの絵が気にかかる。洋館の絵なのだが何かが変だ。変なのだがその奇妙な違和感はボーイの声でまるきり何処かへ消え去ってしまった。
「こちらです。」
ボーイがドアーを開ける。何とも落ち着く部屋だった。足を踏み入れてチップを渡そうと振り向くと、そこには私の荷物があるばかりだった。
ラウンジへ行く事にした。一人でいてもする事が無い。何より喉が乾いた。ラウンジへの行き方を調べようとしたが困った。案内図が無い。歩き回って探す事に私が決め足を踏み出すと、そこにはさっきのボーイが立っていた。私はなぜか驚かなかった。
「ラウンジへ行きたいのだが。」
かしこまりました。と一言口にして、ボーイが歩き出す。そういえば彼の顔もまた、見覚えのある顔だと思ったが、もはや私には彼の顔がよく見えない。
そのラウンジは広々としていた。カウンターにつくと、目の前に紅茶が一杯置かれた。私がそれを手に取る。カップに口を付けると隣で動く者があった。それは男であった。隣に座ったのだ、何か会話でもするのが良かろうと思ったのか、彼は声を掛けた。
「もし。お名前をお聞きしても?」
私は名前を答えた。彼も名前を述べ、私たちは互いの身の上話をしたのだった。