6入れ替り ひなサイド その1
「 ん、成功した。」
一瞬視界が暗くなるような感覚の後、目を開けたら、ばったりと倒れてる私の体。
試しに使ってみた『入れ替りの魔法。』正直成功するって思ってなかった。でも成功した。やっぱり私って天才かも。
私は、ずれかけた眼鏡を直して、非常階段の踊り場の鏡に写った少年を観察する。
今私が入ってるのは、幼なじみでありはとこの音無仁の体だ。
短めの黒い髪に眼鏡をかけてて分かりづらいけど、ややつり上がった目、知らない人が見れば冷たい印象に写るだろう。身長は175センチ。子どもの頃からバスケをやってるから筋肉質でがっしりとした体型。―――脱いで色々観察したいとこだけど、今は側で転がってる私を保健室に連れていかなくちゃ。多分放課後まで、目を覚まさないだろう。
「 よいしょと。」
私の体を起こすと、首の下に手を添えて膝の下に腕を入れ抱える。いわゆる姫だっこだ。若干ふらつきながらもどうにか立上がる。仁自身怪力なはずなんだけど、気を失っなてるからか、私の体を運ぶのは案外大変かも。――むぅ、男の子になったら、絶対にやってみたい事だったんだけど。
まあここから、保健室まではそんなに距離ないし大丈夫だろ。
非常階段から廊下に出ると、廊下にいた同じ一年女子が羨望と嫉妬の眼差しで姫だっこされてるひな(仁)を見ていた。
――そりゃ大半の娘からすれば、憧れのシチュかもね。イケメンに姫だっこされてるなんてさ。ましてや学年中の女子の憧れ音無仁に姫だっこされてるなんて。
私とは付き合ってないと、きっぱりと宣言してるのは、公然の事実だ。
しばらく、クラスの女子共にイチャモンつけられそう。対応すんのめんどくせぇ。
ああ、こんな事なら、魔法を使う場所えるべきだった。
私は、そんな事を考えながら、保健室に向かった。
「 失礼します。」
新館 通称一年生校舎から本館二階へ繋がる渡り廊下を抜けて、すぐにある保健室に入ると、髪を二つに結び黒縁眼鏡をかけた女性が迎えてくれた。
彼女は、昔流行った学園ドラマの主人公である女性教師を大変リスペクトしてるとかで、養護教諭なのに、体育教師みたいにジャージを着用してるんだ。一応白衣をまとってるけど違和感バリバリ。おまけに、生徒に「 ヤマミサ」と呼べと強要してくるちょっと困った人だ。
ヤマミサこと山本美咲先生は、眼鏡を直しながらこう言った。
「1―3の音無くん。どうしたの?」
「この娘が気絶したんで、ベッドに寝かせてもエエですか?」
「 もちろん。この娘同じクラスの服部さんね。」
「 はあ、そうですけど、先生。まさか全生徒の名前覚えとってんですか?」
「 そうよ。」
マジか。保健室なんて、よっぽどの事ない限り利用しないだろ。それなのに、この先生全校生徒の名前を覚えとるって、どういう事よ。
私が気絶してるひな(仁)を寝かせると先生は、脈や呼吸なんかを観察した。
「 貧血かしら。何かあったら、担任の先生やご家族には、私が連絡するから。」
「 わかりました。また放課後来ます。」
私は、保健室を後にして教室に戻った。