1 入れ替り 仁サイド その1
「なんで、こうなった。」
俺、音無仁は、鏡に写った己の姿を見て呟く。
鏡に写ってるのは、俺本来の姿ではなく、幼なじみであり、はとこの服部ひなの姿だ。
肩甲骨まで伸ばした髪。猫のようにややつりあがった目。紺のセーラーカラーに赤いリボンのセーラー服。
何度確認しても、見慣れた服部ひなの姿だ。
夢じゃないかと頬をつねり、ついでに胸にも触れる。――痛いし柔らかい。夢じゃない。
「 まさか、あの時入れ替わったのか?」
そう呟き俺は数時間前の出来事を思い出していた。
「 仁~。ちょっと来て~。」
昼休み。友人の橋田渉と駄弁っていたら、ひなが媚びるような声で手招きしてる。
いつもは、無言で手招きするのに、ああ呼ぶという事は何か裏がある。俺はそう感じ無視をしようかとも思うが、機嫌を損ねたら多分魔法による嫌がらせがまっている。
「 渉。俺、行ってくる。」
「 おう。」
俺は、半ばやけくそな気分で席を立ち、ひなの元へ向かう。
ひなは、周りから見れば極上の俺からすれば、悪魔の笑顔で俺を迎えた。
俺は、助け舟を出してくれないかと、期待をこめて渉の方を見れば、渉は、ニヤニヤと笑ってる。どうやら、俺達のやり取りを傍観するつもりらしい。
――チクショー、他人の事だと思って、面白がってやがるし。俺は、内心憤りながらも、それを臆面に出す事なくひなに問うた。
「 ひな、なんね? 」
「 別に、いつものあれ頼もうかと思うて。」
「 なんじゃい。なら、普通に呼べや。あんな声出すなや。」
全くビビりながら、来た意味ないし。俺はそう思う。
「 別にいいじゃろ。ねっそれより、いつもの所いこ?」
「 あーハイハイ。」
俺は、ひなの手を取り教室を出る。クラスの人間の視線が集まるが、そんな事は気にせず俺達は教室から出た。
俺達は所属するクラス1年3組の教室から少し行った先にある非常階段へ向かった。
非常階段は、教師がたまに通るくらいで、基本誰も通らない。だから、今からする事を行うには絶好の場所だったりする。
「 ねっ早く。」
「 わかっとる。ちょっと待て。」
仁は、学ランを脱いでワイシャツのボタンを外すと、ひなが脱がしてくる。
「 お前。ちょっと待てって!」
「 もう、待てん。」
ひなは、俺の肩を掴むと、首に噛みついた。そのままズズっと俺の血をすする。
「 ごちそうさま。」
ひなは、満足気に口を拭った。ひなは、何を隠そう吸血鬼だ。俺とひなの祖先は、異世界からやって来た吸血鬼。今では、ほとんど普通の人間と変わらない。たまに、魔法が使える人間が生まれるくらいだ。ちなみに、俺も魔法が少し使える。
だが、ひなは違う。先祖がえりした吸血鬼。だから、時々こうやって、俺の血を吸っている。この事は、ひなの両親と兄。それと俺の両親に双子の妹と現在同居中の従兄弟、渉と渉の彼女もある事情から知ってる。
「 ねぇ、仁。頭がボーッとせん?」
「 うん。まあ、って、お前何か」
したんかと言う前に、仁の意識は途切れた。
そして今、保健室のベッドで目が覚め、先生に服部さんと呼ばれて、俺は、あわててトイレで己の姿を確認したところだ。
「 服部さん。大丈夫?」
「 ふぇい。大丈夫です。」
振り返ると、養護教諭である山本先生がいた。なかなか戻って来ないから様子を見に来たのかも知れない。
「 先生。ひな大丈夫でした?」
「 ええ、大丈夫よ。音無くん。」
トイレの外から、俺の声がする。完璧に俺に成り済ましているが、恐らく俺と入れ替わったひなだろう。
トイレから出ると、俺が見慣れた自身の体。身長175センチ。がっしりとした体型。短めの髪に眼鏡をかけた少年が、ニヤリと笑う。
俺、お前何をしたんじゃーと罵声をあげようとしたが声が出ず口がパクパクと動くだけ。ひなに声を封じられてる。
ひなは、山本先生と一言二言交わすと、しれっと仁に鞄を手渡した。
「 ひな、帰ろうで。」
声を封じられてる為、こくりとうなずいて、山本先生に頭を下げてから、ひなと家路についた。
俺は、これからどうなるのか、ちゃんと戻してくれるのかそんな事を考えながら、ひなの後をついていった。
以前連載してた物を改稿しました。
内容は、それほど変わってません。