表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

幕間その四 ボイスメッセージの作成に向けて

 第三の身代金受け取りのための指示を西島に設置してもらいに行っている間、美鈴はボイスメッセージの作成にとりかかっていた。

 内容は聞いた人間が憐れだと思うようなものにする。浩一や玲子への言葉としては、育ててくれてありがとうとか、身代わりの役目を果たしました、とか言っておくと、とても健気な感じがすると思う。

 問題は、恵理依への言葉だった。おそらく、彼女に会うことは今後二度とないだろう。それだけに、偽物の遺言という以上の、美鈴の心からの言葉にすべきかどうか迷っていた。とはいえ、仮に本当のことを言ってしまうと、あなたのことが大嫌いでした、みたいになってしまって、身代わりに殺されてしまう憐れな女の子の最期の言葉らしくなくなってしまう。悩ましいところだった。

 一時間以上散々考え抜いた末、結局、無難なところで手を打つことにした。「あなたのことが苦手でした」くらいなら、何となくかわいい感じがする、と思う。

 さて次は、と美鈴は、辺りを見回し、前回拘束するのに使ったロープをたぐり寄せた。一番難しいのは、最後に収録する絞殺音だ。当然、自分が絞め殺されたこともないし、誰かが絞め殺されているのを見たこともない。人間が絞殺されるときは、いったいどんな音になるものなのか。

 試しに自分で自分の首にロープを巻いて絞めてみるが、当然、最後まで力を込めることもできず、ただ苦しいだけだった。ごほっと咳が出たところで、ふと顔を上げて、扉の隙間から顔を覗かせている本田に気付く。明らかに本田は呆気にとられていた。

「……あの、何やってんすか」

 見られた、と思うと、恥ずかしさでかっと顔が熱くなる。それを押し隠して、できるだけ何でもない風を装った。

「次の録音の練習よ」

「録音、って何でしたっけ?」

 本田がきょとんとした、タヌキのような顔で首を傾げる。そういえば、まだ説明してなかったな、と思い出し、本田に神崎を呼びに行かせた。

 二人揃って美鈴の前に座ったところで、美鈴はこれから作成するボイスメッセージについて説明した。言うまでもなく、二人はげんなりした顔をした。

「……あの、まさか、また本当にやるとか言いませんよね……?」

 本田は戦々恐々といった口調で訊ねてくる。前回の脅迫映像がどうだったかを考えれば彼の憂慮はもっともだが、さすがに美鈴とてそこまでは考えていない。

「私、別に死ぬつもりないし。今回は音声だけだから、それらしい音が録れれば十分よ」

「それはよかったっす」

 まるで世界大戦が回避されたと知らされたかのように、本田は大げさな安堵を見せた。一方の神崎は、難しい顔で黙っている。

「神崎さん? 何か文句ある?」

「……いや、文句というか。あのさ、」

 しかし、何か言いかけたところで、本田が神崎の口を塞ぎ、部屋の隅へ引っ張っていった。こそこそと、内緒話をしているつもりのようだが、相変わらず丸聞こえである。

――おい、やめとけって。文句言うと後で大変だぞ。

――いや文句というかだな。

――だって考えてみろ、お前。あの人のことだ、文句でも言おうもんなら。

――何だよ、言おうもんなら何だって。

――絶対俺たちに言うぜ。ちょっと首絞めさせてくれって。

――た、たしかに。それはありそうだ。すげぇリアルにありそうだ。

――別に私の首じゃなくてもいいでしょとか言って、俺たちの首絞めて録音だぜ。

――そ、それも、確かにありそうだな。相変わらずこえぇ。

――なぁ。自分の家族に自分が絞め殺される音聞かせるとか、もう意味分からん。

――あれだろ、本物じゃないから、いろいろ鬱憤がたまってたんだろ。

 余計な邪推まで色々と含まれていたが、美鈴は許すことにした。実際のところ、少しくらいなら彼らの首を借りるのもありかなと思っていたからだ。だが、やはりそれでは本当の音がわからない。

「ねぇ、本田さん。神崎さん」

 そっと近くまで歩み寄って呼びかけると、本田がひゃっと、神崎がうわっと悲鳴をあげて飛び退った。

「すすすすみません、悪気があったわけではなく――」

 青ざめる本田に、美鈴はにこっと笑って見せた。ますます本田が青ざめる。

「別にいいのよ。ただね――」

「そ、それだけは勘弁してください!」

 ついに土下座してしまった本田、それを見て慌てて地面にひれ伏す神崎に、美鈴は優しく声を掛けた。

「あなたたちの首を貸して欲しい――ってわけじゃなくてね」

 美鈴は、レンタルビデオ屋に言って、ホラー映画か何かでそういう場面が入っているものがないか探してきて欲しいと二人に頼んだ。二人とも、まるで死刑を免れたといわんばかりの嬉しそうな顔で出かけていった。

 次第に自分のキャラクターが何か変なものになってきているような気がする。それとも、これが元々の自分だったのだろうか。長いこと自分というものを押し隠してきたせいで、美鈴にはすでに自分の輪郭がはっきりとは見えなくなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ